- 更新日 : 2024年12月24日
退職金制度なしの会社は違法?メリット・デメリットや老後の資金対策を解説
退職時に受け取る「退職金」は、多くの人にとって将来の安心につながる大切な資金です。しかし、退職金制度を設けていない企業も一定数存在します。
退職金制度の有無は企業が自由に選べるため、法律上の問題はありません。
本記事では、退職金制度がない場合のメリット・デメリットと、老後に向けた具体的な資金づくりの方法を解説します。
目次
退職金制度なしの会社は違法?
退職金制度のない会社は、一見すると従業員に不利な印象を受けるかもしれませんが、実際には違法ではありません。労働基準法では、企業が従業員に退職金を支払う義務は明記されていないためです。
ただし、就業規則や雇用契約書に退職金の支給条件が明記されている場合は状況が異なります。この場合、退職金は賃金として扱われ、条件を満たす従業員への支払いが法的義務となります。
退職金を支払わないと労働基準法違反となり、従業員は法的手続きを通じて支払いの要求が可能です。
退職金制度の有無は、企業の労働環境や魅力に大きく影響します。とくに長期的なキャリアプランを考える従業員にとっては重要な要素となります。
入社時には退職金制度の有無や、制度がなければ給与や福利厚生の充実度などを確認することが必要です。
退職金制度がない企業の割合
厚生労働省によると、退職金制度なしの会社の割合は24.8%です。企業規模別に見ると、従業員数が増えるほど退職金制度を導入している割合が高くなる傾向が明らかです。
従業員人数 | 退職制度なし | 退職制度あり |
---|---|---|
30~99人 | 29.5% | 70.1% |
100~299人 | 15.1% | 84.7% |
300~900人 | 11.1% | 88.8% |
1,000人以上 | 8.8% | 90.1% |
小規模企業では、コスト削減のために退職金制度を設けず、給与や福利厚生にその分を振り分けているケースが多く見られます。一方、従業員数1,000人以上の大企業では、9割以上が退職金制度を導入しており、終身雇用文化が根強い傾向が伺えます。
また、退職金制度の導入率が低い上位5業種を下表にまとめました。
従業員人数 | 退職制度なし | 退職制度あり |
---|---|---|
宿泊業、飲食サービス業 | 57.8% | 42.2% |
サービス業 (ほかに分類されないもの) | 45.6% | 54.4% |
生活関連サービス業、娯楽業 | 30.7% | 68.5% |
運輸業、郵便業 | 30.0% | 69.9% |
情報通信業 | 24.9% | 74.6% |
宿泊業・飲食サービス業では退職金制度の導入率が50%を下回り、サービス業全般でも平均を下回る結果でした。一方、製造業や金融・保険業では8割以上の企業が退職金制度を導入しています。
この調査結果から、企業規模が小さくなるほど、またサービス業を中心とした特定の業種で、退職金制度を持たない企業が多いことがわかります。
企業が退職金制度をなしにするメリット・デメリット
企業にとって、退職金制度の有無は経営戦略上の重要な判断となります。以下では、制度廃止のメリットとデメリットを解説します。
メリット
企業側が退職金制度をなしにすることで、会社は退職金を準備するためのお金を取っておく必要がなくなるため、コスト削減につながります。その分、日常の業務運営や事業を大きくする資金として活用しやすくなるでしょう。
また、社員が働いた年数に応じて退職金を計算する手間がなくなり、人事管理の手間が減るのも魅力です。さらに退職金制度がないことで、社員の入れ替わりがしやすくなり、必要な人材を採用しやすい環境が整います。
給料の仕組みもシンプルになるため、人事制度を運営する費用も少なくて済みます。このように、会社にとって管理がしやすく、お金の使い方の自由度が高まる点が魅力です。
デメリット
企業が退職金制度をなくした場合のデメリットは、優秀な人材を集めにくくなることです。とくに経験豊富な中堅やベテラン社員の採用時に不利になる可能性があります。
また、退職金は長く働くための励みとなるため、制度がないと社員の定着率が下がりやすくなります。とくに中高年層の社員にとって、退職金は老後の大切な資金となるので、制度がないと不満が大きくなるでしょう。
これらのデメリットを解決するには、キャリアアップ支援や福利厚生の充実など、別の形で社員の満足度を高める取り組みが大切です。退職金以外の形で、社員が将来に希望を持って働ける環境づくりを進めることが重要となります。
従業員が退職金制度なしの会社で働くメリット・デメリット
退職金制度は、働き方や生活設計に大きな影響を与えるため、それぞれの特徴を理解することが大切です。退職金制度がない会社で働く従業員側のメリットとデメリットを解説します。
メリット
退職金がない企業では、その分を月々の給与やボーナスに上乗せして支給する場合があります。これにより、退職金を待たずにすぐに資金を得られるため、短期的な生活設計がしやすくなるでしょう。勤続年数に縛られることなく、転職やキャリアチェンジをしやすい点も魅力です。
また、退職金は企業の業績に左右される場合があり、想定額を下回ることもあります。厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、定年退職後に支給される退職金の額は減少傾向にあります。
年度 | 大卒 (管理・事務・技術職) | 高卒 (管理・事務・技術職) | 高卒 (現業職) |
---|---|---|---|
令和5年 (2023年) | 1,896万円 (36.0ヶ月) | 1,682万円 (38.6ヶ月) | 1,183万円 (34.3ヶ月) |
平成30年 (2018年) | 1,983万円 (38.6ヶ月分) | 1,618万円 (40.6ヶ月分) | 1,159万円 (36.3ヶ月分) |
平成25年 (2013年) | 1,941万円 (37.6ヶ月分) | 1,673万円 (39.7ヶ月分) | 1,128万円 (35.0ヶ月分) |
平成20年 (2008年) | 2,323万円 (43.2ヶ月分) | 2,062万円 (46.1ヶ月分) | 1,569万円 (46.7ヶ月分) |
平成15年 (2003年) | 2,499万円 (42.8ヶ月分) | 2,161万円 (45.2ヶ月分) | 1,347万円 (38.3ヶ月分) |
【参考】厚生労働省|就労条件総合調査※勤続20年以上かつ45歳以上で定年退職した従業員が対象
大卒の場合は、2003年に約2,500万円だった退職金が、2023年には約1,900万円と、約600万円も減少していました。これは給与水準の低下や、企業の退職金制度の見直しが影響していると考えられます。
退職金がない場合は、最初から自分で計画を立ててお金を貯められます。このため、会社の業績に左右されにくく、安定した準備ができるでしょう。
さらに、退職時の煩雑な手続きや確定申告の必要もないため、手間を省けるメリットもあります。
デメリット
退職金がない場合は、老後の資金をすべて自分で準備する必要があります。退職金という形でまとまったお金を受け取る機会がない分、計画的な貯蓄や資産運用は欠かせないでしょう。
住宅ローンの返済や子どもの教育費など、大きな支出に向けた資金計画を慎重に立てる必要があります。
また、退職金制度がない企業では、死亡退職金の制度もない場合が大半です。従業員が万が一の事態に直面した場合、残された家族の生活が不安定になる可能性があります。そのため、保険や資産運用を通じて、自分に合った方法で将来への準備をはじめましょう。
ただし、退職金制度がないという理由だけで企業を判断するのはおすすめしません。給与水準、福利厚生など総合的な待遇を見て判断することが大切です。
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退職金制度がなくても、退職金共済に加入して準備できる
退職金制度を設けない企業でも、退職金共済に加入すれば従業員の退職金の準備が可能です。
退職金共済は、会社が毎月掛け金を支払い、従業員が退職する際にまとまった金額を受け取れる制度です。内部留保を原資とする必要がないため、企業の財務負担を軽減しながら退職金を提供できます。
代表的な退職金共済は、以下のとおりです。
種類 | 特徴 | 契約対象者 |
---|---|---|
中小企業退職金共済(中退共) |
|
|
特定業種退職金共済 |
|
|
特定退職金共済 |
|
|
これらを利用することで、企業の負担を抑えつつ、従業員に安心感を与えられるでしょう。
退職金制度なしの場合、老後の資金対策はどうする?
退職金制度がない場合、従業員自身が計画的に老後資金を準備することが重要です。以下では、具体的な方法を解説します。
貯蓄
基本の資金対策としておすすめなのは、定期的な貯蓄です。毎月の収入から一定額を貯蓄に回し、長期的に積み立てることで、ムリなく老後資金を準備できます。
目標額を設定し、生活費とは別に管理して計画的に進めることがポイントです。また、預金金利は低いものの、安全性が高く、いつでも引き出せるメリットがあります。
銀行口座の定期預金や個人向け国債など、リスクの低い商品を選ぶのもよいでしょう。
個人年金保険
個人年金保険は、公的年金に上乗せする形で老後の生活資金を準備する保険商品です。一定期間保険料を積み立て、そのあとは積立金を年金として受け取ります。
種類は以下の3つです。
- 終身年金:契約時に定めた年齢から死亡まで受け取れる
- 有期年金:一定期間だけもらえる
- 確定年金:生死に関係なく一定期間受け取れる
支払った保険料に応じた税金控除が受けられるため、節税効果も期待できます。
ただし、途中で解約すると払い込んだ金額より少なくなる場合があるため、長期的な視点での活用が大切です。早めに加入するほど返戻率が高くなる傾向にあります。
iDeCo
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、公的年金に上乗せして老後資金を準備できる私的年金制度です。加入者自身が最低月5,000円からの掛金額や運用商品を選び、積み立てた資金を原則60歳以降に年金または一時金として受け取ります。
iDeCoの大きな特徴は税制優遇です。毎月の掛け金が全額所得控除となり、運用して得た利益にも税金がかかりません。受け取るときも税制優遇があります。
掛け金の上限は加入者の状況によって異なります。自営業者では月68,000円、会社員では23,000円が上限です。運用対象には「元本確保型商品」や「投資信託」があり、運用成果に応じて受取額が変動します。
原則60歳まではお金を引き出せない点に注意しましょう。計画的に活用すれば、効率的に老後資金を準備できます。
NISA
NISAは、長期の資産形成を支援する制度で、18歳以上の人なら誰でも利用できます。これまでは非課税保有期間に制限がありましたが、2024年からの新制度では非課税保有期間が無期限となっています。
非課税保有期間が無期限となり、制度が恒久化されたことで、より長期間にわたって非課税のメリットを享受しながら運用が可能です。対象商品は、金融庁に認められた株式投資信託とETFに限られます。これらは手数料が安く、長期投資に適した商品です。
積立投資が基本となるため、コツコツと資産を増やせます。ただし、その年の投資枠は翌年に繰り越せず、損失が出てもほかの口座との損益通算はできません。仕組みを十分に理解した上で利用することが大切です。
退職金の有無に関係なく、賢く準備して将来に備えよう
退職金制度がない会社は法律違反ではありませんが、従業員にとっては老後資金を自分で準備する必要があります。
大切なのは、退職金制度の有無にかかわらず、早めに将来への備えをはじめることです。個人年金保険やiDeCoなどといった制度を活用すれば、退職金がなくても計画的な資産形成が可能です。
本記事を参考に、自分らしい働き方と将来設計を考えながら、計画的な準備をはじめましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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