• 更新日 : 2025年1月20日

派遣先でのパワハラは、派遣元が対応すべき?それぞれの対応手順や事例を解説

派遣先でのパワハラ問題が発生した場合、派遣元と派遣先のどちらが対応すべきか迷うことは少なくありません。派遣社員を守るためには、派遣元と派遣先がそれぞれの責任範囲を理解し、適切な対応をすることが重要です。本記事では、パワハラへの具体的な対応手順や実際の事例を交えながら、双方が取るべき対策について詳しく解説します。

目次

パワハラ防止の責務を負う事業主は「派遣元」「派遣先」のどちら?

パワハラ防止法に基づき、派遣社員に対するパワハラの防止責任は派遣元と派遣先の双方です。どちらも事業主としての義務を負い、適切な措置を講じる必要があります。ここでは双方の対応について見ていきましょう。

派遣元・派遣先の双方がパワハラ防止法で事業主とみなされる

派遣社員に対するパワハラの防止責任が、派遣元と派遣先の双方にあるのは、それぞれに課された義務や責任があるためです。

  • 法的責任の明確化
    → 派遣元:派遣社員を雇用している企業のこと、労働者に対するパワハラ防止措置を講じる責任がある
    → 派遣先:実際に指揮命令を行う立場にあるため、同様にパワハラ防止の義務が課せられている
  • 共同責任の重要性
    → 派遣社員が職場でパワハラを受けた場合、派遣元と派遣先が連携して、問題解決に向けて対応しなければならない
  • 具体的な対策の実施
    → 両者はそれぞれに適したパワハラ防止策を実施し、職場環境の改善に努める必要がある
    → 教育や研修の実施、相談窓口の設置などもこれに含まれる

派遣元が果たすべきパワハラ防止措置の内容

派遣社員がパワハラを受けた場合、派遣元には果たすべきパワハラ防止措置があります。下記のような措置を講じることで、派遣元は労働者が安心して働けるようになるでしょう。

  • 教育・研修の実施
    → 派遣元は自社で雇用している従業員に対して、パワハラ防止に関する教育や研修を定期的に行う必要がある
    → 従業員がパワハラについて正しい理解を持ち、適切な行動を取れるよう指導しなくてはならない
  • 相談窓口の設置
    → 派遣社員が安心して相談できる窓口を設け、その存在を抜け漏れなく周知することが重要
    → 相談内容は秘密保持されることが保証されている必要がある
  • 迅速な対応体制
    → パワハラの報告があった場合には、迅速かつ適切に事実確認を行い、その結果に基づいて必要な措置(加害者への処分や被害者への配慮)を講じる体制を整える
  • 再発防止策の検討
    → パワハラ事案が発生した場合、その原因分析を行い、再発防止策を検討・実施する
    → 職場環境の見直しやルールの改定も含まれる

派遣先が負う責務と具体的な防止策

派遣社員がパワハラを受けた場合、派遣先が負う責務について解説します。また、具体的な再発防止策についても確認しておきましょう。

  • 職場環境の改善
    → 派遣先は、自社内で働く派遣社員に対しても安全で快適な職場環境を提供する責任がある、これには、職場内でのコミュニケーション促進やチームビルディング活動も含まれる
  • 指揮命令権の行使
    → 派遣社員への指揮命令権を持つ派遣先は、その権限を適切に行使し、不当な言動や圧力がかからないよう配慮する必要がある
    → 業務指導時には、冷静かつ具体的なフィードバックを心がけるなどの心がけが必要
  • 定期的な評価と改善
    → 派遣先は、自社内で発生する問題について定期的に評価し、必要な改善策を講じることが重要
    → 従業員からのフィードバックも積極的に取り入れる
  • 情報共有と連携
    → 派遣元との情報共有や連携は怠らない
    → 問題発生時には迅速に連絡し、一緒になって解決策を考えることが求められる

派遣社員がパワハラにあうケース

派遣社員が職場でパワハラを受けるケースは多く、特に正社員との関係性や職場環境によってさまざまな形で発生します。以下では、具体的な事例を紹介しましょう。

正社員が派遣社員を見下す、または仲間外れにする事例

正社員が派遣社員を見下す、仲間外れにする行為は、以下の通りです。

  • 侮辱的な発言
    → 正社員が「派遣だから」といった見下した発言をしたことで、派遣社員の自尊心を傷つける
  • 情報の共有不足
    → 正社員が業務に必要な情報を意図的に教えず、派遣社員を孤立させる
  • チーム活動からの排除
    → 正社員が派遣社員を会議やイベントから外すことで、職場内での関係性が悪化する
    → 悪質な仲間外しはパワハラとして認定されることがある
  • 不当な評価
    → 正社員が派遣社員の成果を過小評価し、「どうせ派遣だから」といった理由で評価を下げることがある

これらの行為は、派遣社員に対して心理的なストレスや孤立感を与え、パワハラと認定される可能性があります。

契約継続を条件に不当な要求や契約打ち切りを示唆するケース

契約継続や更新に関連して不当な要求や脅迫的な言動がある場合、以下のようなケースが考えられます。

  • 不当な要求
    → 派遣先の上司が「契約更新のためにはこの仕事をやってほしい」など、契約更新を盾に不当な要求をする
  • 契約打ち切りの示唆
    → 派遣社員が業務上の問題を指摘した際に、正社員が「このままだと契約を打ち切る」と脅迫的な言動を発する
  • 待遇差による圧力
    → 契約更新時に報酬や待遇を不当に引き下げることで、対象の派遣社員は経済的にも精神的にも追い込まれる
  • 業務内容の変更
    → 契約更新時に業務内容が大幅に変更され、それが不利になる場合がある
    (例:「今後はこの仕事だけやってもらう」と一方的に決められた など)

上記のようなケースは、派遣社員は不安定な立場に置かれ、パワハラ問題に発展する可能性があるでしょう。

職場での役割分担や待遇差が原因で起こるパワハラ

職場内での役割分担や待遇差によって生じるパワハラには、以下のような具体例があります。

  • 役割分担の不公平
    → 正社員と派遣社員で役割分担が不公平になると、派遣社員は過剰な負担を強いられることがある
    → 過剰な負担を強いられた派遣社員はストレスが増し、パワハラと認定されることがある
  • 待遇差による対立
    → 派遣社員の給与や福利厚生などの待遇の差が明らかに悪くなった場合
  • 業務内容の格差
    → 正社員には重要なプロジェクトが与えられる一方で、派遣社員には単純作業ばかり任せられる場合
  • コミュニケーション不足
    → 役割分担や待遇差によってコミュニケーションが減少すると、お互いの理解不足から誤解や対立が生じる

上記のように、職場での役割分担や待遇差は、派遣社員に対するパワハラの原因につながります。そのため、適切なコミュニケーションと公平な扱いをすることが必要です。

派遣社員が派遣先で受けたパワハラが認定された事例

派遣社員が派遣先で受けたパワハラが認定された事例は、労働環境の改善に向けた重要な教訓を提供します。以下では、具体的な判例を挙げて解説します。

派遣社員への暴言や人格否定が認定された事例

以下は、大阪高裁で2013(平成25)年10月9日に判決が出た事例です。

  • 事例の概要:派遣社員が製造業の派遣先で、上司から「お前は何もできない」といった暴言を受けたケース

  → 派遣社員の自尊心を傷つけ、業務に対する意欲を低下させた

  • 裁判所の判断:裁判所は、この発言が「精神的な攻撃」に該当すると判断

  → 特に発言者と派遣社員との関係性において、優越的な立場を利用したものであると認定された

  • 結果:このケースでは、派遣先企業に対して損害賠償が命じられた

  → 裁判所は、パワハラ行為が従業員の精神的健康に悪影響を及ぼすことを重視した

契約終了を盾に不当な圧力をかけた事例の判例

以下は、高知地裁で2018(平成30)年3月6日に判決が出た事例です。

  • 事例の概要:派遣社員が契約更新を控えた際に、上司から「このままだと契約は更新しない」と脅迫的な発言を受けたケース

  → 同発言は、契約の継続を条件に不当な要求をするものであった

  • 裁判所の判断:裁判所は、この行為がパワハラに該当すると認定

  → 特に、契約終了を盾にした圧力は不当であり、労働者に対する明確な脅威とみなされた

  • 結果:派遣先企業には損害賠償が命じられた

  → 裁判所は、労働者の権利を守るためには、このような行為が許されないことを強調

パワハラが認定された場合に派遣元・派遣先に課される責任

パワハラが認定されると、派遣元と派遣先のそれぞれに、適切な責任が課されます。

  • 派遣元の責任:派遣元は、自社で雇用している従業員(派遣社員)への教育やサポート体制を整える責任があります。パワハラが発生した場合、派遣元はその原因を分析し、再発防止策を講じなければなりません。
  • 派遣先の責任:派遣先も派遣社員に対して安全で快適な職場環境を提供する義務があります。パワハラ行為があった場合には、その行為者に対する適切な処分や教育が求められます。
  • 共同責任:パワハラが認定された場合、派遣元と派遣先の両者には、共同の責任が課せられます。問題解決に向けて協力し合い、労働環境の改善に努めることが求められます。

上記のように派遣元と派遣先双方には重要な責任があります。労働者の権利保護と職場環境の改善は、お互いの協力によって実現されます。

派遣社員からパワハラを相談された場合の派遣元の対応

派遣社員からパワハラの相談を受けた際、派遣元には適切な対応が求められます。迅速かつ正確な対応は、労働者の保護と企業の信頼を守るうえで重要です。

パワハラ相談を受けたら即座に事実確認を行うべき理由

派遣社員からパワハラの相談を受けた場合、派遣元は速やかに事実確認を行いましょう。これは労働施策総合推進法に基づき、事業主に課せられたパワハラ防止義務に該当します。

事実確認を怠ると、被害が拡大し、労働者の精神的健康に悪影響を与えるだけでなく、法的責任を問われる可能性が高いでしょう。また、事実確認を通じて、パワハラの有無や程度を把握することで、被害者の救済や加害者への適切な対応を迅速に進めることが可能になります。具体的には、当事者へのヒアリングや関係者からの聞き取り、メールやメモなどの証拠収集を行い、客観的な視点から状況を把握することが重要です。

被害者の意見を丁寧に聞き、適切なサポートを提供する重要性

パワハラの相談を受けた際、被害者に対して丁寧に意見を聞き、適切なサポートを提供することは派遣元の重要な責務となっています。被害者が安全に意見を述べられる環境を整えることで、信頼関係が構築され、正確な事実確認が可能です。

労働施策総合推進法では、相談者のプライバシー保護が義務付けられており、被害者の精神的負担を軽減する配慮が求められます。具体的には、専門相談窓口の設置やカウンセリングの手配、被害者が安心して働ける環境の提供などが考えられます。

さらに、被害者の希望に応じて、派遣先での配置転換や一時的な休職制度の活用など、柔軟な対応も必要です。これにより被害者の早期回復と就労継続が可能となるでしょう。

派遣先との連携を図りながら問題解決に取り組む手順

パワハラ問題の解決には、派遣元は派遣先に対して事実関係の共有を行い、迅速な対応を要請します。次に、派遣先と共同で再発防止策や加害者への処分方法を協議します。この際、被害者の意見や希望を考慮しながら進めることが重要です。

具体的には、加害者に対する教育や処分、職場環境の改善策(例:チーム配置の見直し、指揮命令系統の明確化)を実施します。また、対応が適切に進まない場合には、厚生労働省や労働基準監督署に相談することも検討しましょう。派遣元と派遣先が連携し、一体となって対応することが、派遣社員の信頼を得る鍵となります。

パワハラ防止に向けて必要な再発防止措置

パワハラが発生した場合、派遣元には再発防止措置を講じる義務があります。労働施策総合推進法(第30条の2)では、事業主に対して職場環境改善の義務が課せられており、具体的な取り組みが求められます。

まず、派遣社員および派遣先社員を対象にしたパワハラ防止研修を実施します。研修内容には、パワハラの具体例や防止策、適切なコミュニケーションの方法などを含めます。定期的な職場アンケートやヒアリングを通じて、職場環境を把握し、問題点を早期に発見する仕組みを構築します。

さらに、相談窓口の充実や外部専門機関との連携体制を強化し、被害者がいつでも相談できる環境を整えることが重要です。これらの対策を継続的に実施することで、パワハラの発生を未然に防ぎ、派遣社員が安心して働ける職場を実現します。

派遣元からパワハラ報告の通知を受けた派遣先の対応

派遣元からパワハラの報告を受けた場合、派遣先は迅速かつ適切に対応する必要があります。以下では、その手順について解説します。

パワハラ報告を受けた際に迅速に調査を行うべき理由

パワハラ報告を受けた際には、以下の理由から、早急な対応が求められます。そのため迅速な調査が重要です。

  • 被害者の心理的負担軽減:迅速に調査を行うことで、パワハラを訴えた従業員の不安感を軽減し、安心感を提供する
  • 正確な事実確認:時間が経過すると記憶が曖昧になるため、早期に調査を行うことで正確な事実関係を把握しやすくなる
  • 再発防止策の迅速な実施:調査結果に基づいて迅速に再発防止策を講じることができれば、同様の問題が再び発生するリスクを低減できる
  • 信頼関係の維持:従業員からの信頼を維持するためには、パワハラ問題に対して真摯に対応する姿勢が重要であり、迅速な対応は企業としての信頼性を高める要素となる

派遣社員のパワハラに関する迅速な調査は、多くの利点があり、派遣先として重要な責務となります。

関係者へのヒアリングを通じて事実確認を徹底する方法

パワハラ報告後には、関係者へのヒアリングを行い、事実確認を徹底することが求められます。

  • ヒアリング対象者の選定
    → 直接的な証人や関係者(上司や同僚など)を特定し、ヒアリング対象とする
    → 必要に応じて他の派遣社員や関連部署のメンバーも含める
  • 中立的な立場での聴取
    → ヒアリングは中立的な立場で行い、感情的にならず冷静に進めることが望ましい
    → 質問内容も事前に準備し、一貫性を持たせる
  • 詳細な記録の作成
    → ヒアリング内容は詳細に記録し、後で確認できるようにし、容易な事実確認を目指す
  • プライバシーへの配慮
    → ヒアリングはプライバシーに配慮した環境で行い、相談者や証人が安心して話せるよう配慮する
  • フィードバックと報告
    → ヒアリング結果については関係者へフィードバックし、必要な情報共有を行う

再発防止策の策定と派遣元との情報共有が求められる理由

パワハラが認定された場合には、再発防止策の策定と派遣元との情報共有が重要です。

  • 組織全体の改善
    → 再発防止策を策定することで職場環境全体の改善につながる
    → 具体的な対策(研修やルール改定など)を講じることで、同様の問題が再発するリスクを軽減
  • 派遣元との連携強化
    → 派遣元と情報共有することで両者が同じ認識を持ち、一貫した対応が可能となる
    → 同時に派遣社員へのサポート体制も強化
  • 従業員への信頼感向上
    → 再発防止策や情報共有によって従業員は自分たちが大切にされていると感じることができ、職場への信頼感やモチベーションの向上が期待できる
  • 法的リスクの軽減
    → 適切な再発防止策と情報共有は法的リスクを軽減する要因ともなる
    → パワハラ問題が再発した場合には企業としての責任を問われることもあるため、再発防止の予防策としても重要

上記でまとめた通り、再発防止策の策定と派遣元との情報共有は、派遣社員にとって安心できるメリットがあります。これらを実践することで、安全で健全な職場環境づくりへとつながることが期待できそうです。

雇用形態を超えて築く、パワハラのない職場環境づくりを目指そう

今回は、派遣先でのパワハラについて解説しました。働き方が多様化している現代では、正社員の他にもアルバイトや契約社員、派遣社員など、多様な雇用形態が存在します。どの雇用形態であっても全ての労働者が職場で尊重されることが本来あるべき姿です。本記事を参考に、雇用形態の垣根を越えてお互いに大切にし合う職場づくりを目指していきましょう。


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