• 作成日 : 2023年2月10日

社会保険から国民健康保険への切り替え手続きについて解説!

会社を退職したら、従業員は「社会保険から国民健康保険に切り替える」「健康保険の任意継続被保険者となる」「配偶者の扶養に入る」という方法のいずれかを選択することになります。

この中から、国民健康保険に切り替える手続きのタイミングや必要書類について解説するとともに、国民健康保険に切り替えをしないケースについても解説します。

社会保険と国民健康保険の違い

社会保険とは、企業に雇用される従業員が、病気やケガ・死亡・出産・失業などの際に利用できる公的制度のことです。会社で働く従業員は、原則として「健康保険」「厚生年金保険」「雇用保険」「労災保険」の4つ制度によって、さまざまなリスクから生活を保障されています。

この中でも「健康保険」は、企業に加入義務がある公的医療保険の代表的なものです。病気やケガ・死亡・出産・死亡に対するリスクをカバーし、医療費の負担軽減、傷病手当金や出産手当金・出産育児一時金、葬祭費など、その給付も手厚いものになっています。

健康保険に加入する従業員は「被保険者」と呼ばれ、被保険者本人とその扶養家族は加入している健康保険の各種制度を利用することができます。サラリーマンのように雇用される被用者が加入する医療保険には、大企業が組織する健康保険組合、政府が管掌する全国健康保険協会(協会けんぽ)、公務員や私立学校の教職員等を対象とした共済組合などがあり、勤務先によって加入する制度が異なります。

一方、国民健康保険は市区町村によって運営されている医療保険制度です。日本の医療保険制度は「国民皆保険」が原則となっており、国内に住所があれば公的医療保険制度のいずれかに加入しなければなりません。したがって、自営業者や無職の方など、サラリーマンのように健康保険に加入していない方は、国民健康保険に加入するのが一般的です。

国民健康保険の特徴としては、出産手当金や傷病手当金の制度は原則としてなく、保険料は加入者本人が負担し、被扶養者という概念がないことなどがあげられます。そのため、扶養する家族がいる場合には、その家族の分の保険料の支払いが必要です。

社会保険から国民健康保険への切り替えのタイミング

会社を退職したら、いつまでに社会保険から国民健康保険へ切り替えをすればよいでしょうか。切り替えのタイミングについて解説します。

基本的には退職した際に切り替えを行う

従業員が退職すると、企業は健康保険の被保険者の資格喪失の手続きを行います。したがって、社会保険から国民健康保険に切り替えるタイミングは「会社退職後」です。無保険の状態では病気や怪我をしたときに困ることになるため、国民健康保険へ切り替える手続きは、退職した際の優先すべき手続きの1つといえるでしょう。そのため、従業員にはすみやかに手続きをするように案内することが大切です。
参考:みんなの国保ガイド(令和4年度版)|中野区 区民部 保険医療課

切り替えの手続き期限は14日

国民健康保険の加入日は会社退職日の翌日、つまり、社会保険の資格喪失日から加入しなければなりません。切り替え手続きの期限は14日以内です。
75歳以上の方や生活保護を受けている方は国民健康保険に加入する必要はありませんが、退職したら無保険の状態が1日も発生しないように、退職日の翌日を資格取得日として国民健康保険の加入手続きをする必要があります。

社会保険から国民健康保険への切り替えるための手続き方法

国民健康保険加入の手続きは、必要書類を準備して従業員の住所地の市区町村の役所窓口で本人が行います。国民健康保険資格取得届は、多くの場合、市区町村のホームページからダウンロードすることが可能です。
以下の書類を準備して市区町村窓口で手続きを行います。

  • 国民健康保険資格取得届(市区町村によって様式は異なります)
  • 健康保険資格喪失証明書(会社や健康保険組合で発行する退職日などを証明する書類 離職票でも手続きができる場合あり)
  • 届出人の本人確認ができる書類
  • マイナンバー確認書類(世帯主や家族など届け出をする方全員分必要)

健康保険資格証明書は会社が任意で作成する書類です。市区町村によってはホームページからサンプル様式がダウンロードできますので、参考にして作成するのがよいでしょう。また、退職者は、年金事務所で「資格取得・資格喪失等確認通知書」の交付を受けることもできます。

参考:国民健康保険等に加入するため、健康保険の資格喪失証明等が必要になったとき|日本年金機構

本人確認書類は写真付きであれば問題ありませんが、写真付きの身分証明書を持っていない場合には、年金手帳・年金証書・母子手帳・学生証・社員証・キャッシュカードなど、氏名・住所・生年月日が記載された証明書の中から2つが必要となります。郵送でも手続きは可能ですので、保険料がいくらになるのかも含め、事前に市区町村の担当窓口へ問い合わせるのがよいでしょう。

社会保険から国民健康保険への切り替えにおける注意点

社会保険から国民健康保険に切り替える際の注意点について見ていきましょう。

14日以内に切り替え手続きを忘れてしまった場合

退職後いつまでも切り替えをしないでおくと保険が使えないため、万が一病気や怪我をしたときには、病院に医療費を十割(100%)で支払わなければならなくなります。国民健康保険に加入していれば、就学前の子供は2割、就学してから70歳未満までは3割、70歳以上は2割(現役並みの所得者は3割)の負担で治療を受けることが可能です。

国民健康保険の保険証は手続きをすれば即日発行されることが多いですが、郵送で保険証を交付する市区町村もあります。病院にかかる際になってから国民健康保険の手続きをしても間に合わないことがありますので、従業員には手続きの重要性をよく説明しましょう。

切り替え手続きが期限内に間に合わない場合

ときには「健康保険資格喪失証明書の発行が間に合わない」「健康保険や雇用保険の資格喪失の手続きが遅れてしまった」ということもあるかもしれません。国民健康保険の加入手続きが期限内に間に合わなかったとしても、できるだけ早く手続きをする必要があります。

日本の医療保険制度は「国民皆保険」が原則です。仮に切り替えの手続きが間に合わなかったとしても、退職日の翌日から国民健康保険に加入することになり、退職日の翌日にさかのぼって保険料を請求されます。手続きが遅れると延滞金なども発生する可能性があるため、注意が必要です。

切り替えをそもそも行わなかった場合

国民健康保険へ切り替えを行わなかった場合、最長2年間、保険料をさかのぼって請求されます。また、その期間は無保険の状態であり、手続きを行わなかったことにやむを得ない理由でもない限り、医療機関に支払う医療費は原則全額自己負担の十割(100%)となります。

届け出をしないことで10万円以下の過料を科せられたり、保険料未納により財産を差し押さえられたりする可能性もありますので、手続きを行わないということはあってはなりません。

退職時には健康保険証を必ず返してもらう

従業員が退職する際には、健康保険・厚生年金保険の資格喪失に必要な書類を加入する保険組合または管轄の年金事務所(または事務センター)に提出します。その際には、従業員から本人と扶養家族の健康保険証を回収して資格喪失届に添付しなければなりません。協会けんぽの健康保険に加入している場合には、健康保険証を回収できなかった際、資格喪失届のほかに「健康保険被保険者証回収不能届」の提出が必要です。

保険証を回収しないで、退職後従業員が健康保険証を医療機関で使用してしまった場合、退職した従業員は健康保険や病院から医療費の支払いを請求されます。このようなケースでは、医療費の返金や国民健康保険に加入して市区町村から療養費の支給を受けるなど、複雑な手続きで時間と手間がかかります。後日トラブルにならないように、必ず健康保険証は返してもらいましょう。

社会保険から国民健康保険へ切り替えを行わないケース

従業員が退職した際には、国民健康保険に加入せずに、健康保険の任意継続被保険者となる方法や配偶者など家族の被扶養者となることも可能です。

社会保険を任意継続する

健康保険の任意継続とは、2ヵ月以上被保険者期間がある従業員が退職した場合に、退職後2年間まで健康保険に引き続き加入できる制度のことです。任意継続被保険者は、退職後も健康保険に加入し、健康保険の給付を受けることができます。また、扶養する家族も引き続き被扶養者として保険料が発生することなく健康保険に加入することが可能です。ただし、任意継続被保険者には、出産手当金や傷病手当金などが受けられないデメリットがあります。

協会けんぽの任意継続被保険者の場合、退職時の標準報酬月額が30万円を超えていても30万円で保険料を計算します。一方、国民健康保険の場合、前年度の所得に応じて保険料が決定され、扶養家族がいる場合には家族の保険料の支払いも必要です。どちらの保険料が安いかは、その方の収入や家族の状況によって異なります。

任意継続被保険者となった場合と国民健康保険に加入する場合とで保険料を比べ、任意継続被保険者となることを選択した方がよいケースもあるため、任意継続被保険者制度について案内するのを忘れないようにしましょう。
参考:会社を退職するとき | こんな時に健保 | 全国健康保険協会

扶養家族になる

退職した従業員の配偶者や家族が働いていて社会保険に加入している場合には、その家族の扶養家族となって被扶養者として社会保険に加入する方法もあります。

被扶養者の対象となる家族の範囲は3親等内の親族です。被扶養者の収入要件には「年間収入が130万円以内で被保険者の収入の2分の1未満」などと条件がありますが、保険料なしで加入できるため、健康保険の被扶養者となった方がよいケースもあります。

ただし、収入要件には、雇用保険の失業等給付、健康保険の傷病手当金、公的年金などの収入も含まれます。退職後働いていなくても被扶養者となれない場合もあるため、注意が必要です。

参考:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|日本年金機構

健康保険資格喪失証明書の発行はすみやかに

従業員退職後の医療保険の加入には、「社会保険から国民健康保険に切り替える」「健康保険の任意継続被保険者となる」「配偶者の扶養に入る」の3つの選択肢があります。どれが最も適しているかはその従業員の状況によって異なるため、従業員自ら選んでもらうのがよいでよう。

従業員が退職する際には、国民健康保険に切り替えるために必要な「健康保険資格喪失証明書」の発行を依頼されることがあります。退職する従業員が円滑に国民健康保険の加入手続きができるように、「健康保険資格喪失証明書」はすみやかに発行しましょう。また、国民健康保険に加入しないケースもあるため、企業の人事労務担当者としては、医療保険の制度を理解し、適切な説明ができることが大切です。

よくある質問

社会保険から国民健康保険への切り替えのタイミングについて教えてください

社会保険から国民健康保険に切り替えるタイミングは、退職日の翌日から14日以内です。国民健康保険に加入しないでいると病気や怪我をしたときに保険が使えないため、退職後すみやかに手続きをしましょう。詳しくはこちらをご覧ください。

社会保険から国民健康保険へ切り替えを行わない場合もありますか?

従業員が退職した際には、国民健康保険へ切り替えをせずに、健康保険の任意継続被保険者となる方法や配偶者など家族の被扶養者となる方法もあります。どれが最善であるかは、その従業員の状況によって異なります。詳しくはこちらをご覧ください。


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