• 更新日 : 2023年9月29日

エンパワーメントとは?意味や使い方、導入方法をわかりやすく解説!

エンパワーメントとは?意味や使い方、導入方法をわかりやすく解説!

エンパワーメントは、ビジネスの世界では「権限委譲」の意味で使われる言葉です。「エンパワメント」と表記されることもあり、組織成長を目的に人材育成やマネジメント手法として注目を集めています。

企業でエンパワーメントがなぜ重要視されるのか、その使い方や具体例をあげるとともに、導入時のプロセスや注意点をわかりやすく解説します。

エンパワーメントとは?

エンパワーメントには「力を与えること」という意味があり、ビジネスの世界では、権限を与えることから「権限委譲」という言葉で言い換えられて使われています。

企業の競争力を高め、生産性を向上させるためには、組織を成長させることが不可欠です。エンパワーメントは、部下に権限を委譲することによって従業員一人ひとりの潜在的能力を引き出し、自律性を促します。人材育成やマネジメントの手法として注目されています。

エンパワーメントの歴史・注目された背景

エンパワーメントは、もとは1970年代のアメリカの公民権運動や、1980年代の女性の権利獲得運動の中で使われるようになったといわれ、社会運動の高まりとともに広く提唱されてきた考え方です。一人ひとりが本来持つ権利や人格を保つために力をつけて、能力が発揮できる社会を目指すという考え方から、福祉や介護、教育などの分野では、地位の向上や自立促進を目指す考え方として広く取り入れられ、今や一般的に使われるようになりました。

ビジネスの世界でエンパワーメントが注目されるようになった背景には、目まぐるしく変化する時代の中で、企業の迅速な意思決定と、グローバル化や技術の進化などへの柔軟な対応が求められるようになったことがあげられます。

エンパワーメントの8つの原則

筑波大学の「国際発達ケア:エンパワメント科学研究室」によると、エンパワーメントには以下の8つの原則があるといわれています。企業においても、従業員の能力を引き出す手法として活用できます。

  1. 目標を当事者が選択する。
  2. 主導権と決定権を当事者が持つ。
  3. 問題点と解決策を当事者が考える。
  4. 新たな学びと、より力をつける機会として当事者が失敗や成功を分析する。
  5. 行動変容のために内的な強化因子を当事者と専門職の両者で発見し、それを増強する。
  6. 問題解決の過程に当事者の参加を促し、個人の責任を高める。
  7. 問題解決の過程を支えるネットワークと資源を充実させる。
  8. 当事者のウエルビーイングに対する意欲を高める。

引用:エンパワメント科学について | 研究内容 | 国際発達ケア:エンパワメント研究室

エンパワーメントの使い方・具体例

ビジネスでは、エンパワーメントを「権限委譲」の意味で使います。具体的には以下のような使い方をします。

「エンパワーメント経営を推進していく」

「エンパワーメント教育を実施する」

「エンパワーメントを図る」

「エンパワーメントは、従業員の能力を引き出すことを意味する」

「力を与えること」を意味するので、ときには「エンパワーメントする」などといった使い方をすることもあります。

エンパワーメント理論が使われる主な場面

ビジネスでは「権限委譲」の意味で使われることが多い言葉ですが、エンパワーメント理論は、さまざまな分野で使用され、分野によって意味が異なることがあります。

看護や介護におけるエンパワーメント

看護や介護の分野では、患者や利用者が治療やリハビリに受け身にならず、前向きな気持ちで自分から行動が起こせるように支援することが重要です。そのためは、患者や利用者の環境を整え、自分自身の力で生活をコントロールできるように支援しなければなりません。

自分で行動できる、自分で生活できるという実感が、自分自身に力を与え、前向きな気持ちにさせます。したがって、患者や利用者が「自立できるように支援する」という意味で、エンパワーメントという言葉が使われます。

障害者福祉におけるエンパワーメント

エンパワーメントは、社会福祉の分野で取り入れられた理念でもあり、ハンディキャップを持つ人々が自分自身の長所や能力に気づき、自身が持てるように援助することでもあります。

障害を持つ人が仕事や生活などで自立できるように促し、自己実現ができるようにならなければ、平等な社会とはいえません。エンパワーメントの理念においては、援助者はハンディキャップを持つ人と同等の立場にあるパートナーであると考えられています。

教育におけるエンパワーメント

教育の現場でもエンパワーメントが使われます。教育の現場では、好奇心を否定せず、知識欲を刺激することが大切です。したがって、単なる学力を身につけるという意味ではなく、「子供が自発的に行動する力を伸ばす」という意味で使われます。自ら選んで判断し、失敗を積み重ねながら行動する力を育むために支援するという考え方が、教育現場におけるエンパワーメントの考え方となります。

企業においてなぜエンパワーメントが重要?

企業がエンパワーメントを取り入れることは、多くのメリットをもたらします。企業におけるエンパワーメントの重要性について見ていきましょう。

経営判断における重要性 - 意思決定のスピーディーさ

グローバル化や技術の進化により、現在のビジネスの市場は転換期を迎えているといってよいでしょう。ビジネス市場は変化が速く、顧客のニーズも多様化し、企業には意思決定のスピードが求められます。決断が遅ければ、ビジネスチャンスを逃すことになりかねないのが、今のビジネスの現状です。

激しく変化するビジネス環境に対応し、多様な顧客ニーズに応えるためには、従業員一人ひとりの能力の向上と組織の成長が欠かせません。企業がエンパワーメントを取り入れる目的は、裁量を与えることで従業員一人ひとりの成長と自律性を促し、その結果として、企業の組織力の強化と生産性の向上をもたらすことにあります。

リーダー育成における重要性

権限を委譲することは従業員の能力を引き出す効果があるとともに、従業員に責任感が生まれ、課題解決能力や自立性の向上をもたらします。これらの能力は、従業員のマネジメント能力を高め、リーダーの育成にも役立つでしょう。

組織運営やプロジェクトの成功には、業務プロセスを管理しながら、部下を統率する能力が必要です。エンパワーメントに取り組むことは、リーダー育成においても重要となります。

中途採用の適合における重要性

エンパワーメントを促進することは、人材育成や職場風土の醸成にも役立ちます。若手社員の早期育成はもとより、中途採用者の早期活躍にもつながり、現場になじみやすくなります。自分自身の成長や仕事へのやりがいを感じる職場風土の醸成にも効果が期待できます。

社員のモチベーションアップ

権限委譲により従業員が成長すれば、成功体験が増えて仕事に対する意欲が強まります。仕事を任されることでさらなる責任感が生まれ、仕事へのやりがいにつながり、モチベーションアップも図れるのです。

企業におけるエンパワーメントの方法

企業としてエンパワーメント経営に取り組む3つの方法を紹介します。それぞれについて見ていきましょう。

構造的な方法

管理者や経営層が意図的に現場の従業員や特定の部署に権限を委譲することで、自立性や課題解決力の向上を図る方法です。組織の構造によりアプローチする方法は、組織の活性化に効果があります。

「意思決定の場に従業員を参加させる」「一定の部署に裁量を与える」などといった方法で経験を積ませることができれば、従業員の成長を促すことができます。組織の構造によりアプローチする方法であり、事前に経営戦略やビジョンを説明しておくことが大切です。

心理的な方法

心理的な面に着目して「自己効力感」を高める方法が、心理的アプローチです。自己効力感とは、「自分はやればできる」という自分の気持ちのことであり、成功体験を積ませることによってモチベーションアップを図ることができます。

具体的には、重要なプロジェクトやプレゼンなどを任せ、仕事への興味を湧き立てる方法が考えられます。上司と部下とのコミュニケーションをよく取って、部下に成功をさせることが大切です。

OODA(ウーダ)を活用した方法

OODA(ウーダ)とは、アメリカ空軍のジョン・ボイド大佐が提唱した理論のことをいいます。「観察(observe)」「状況判断(orient)」「意思決心(decide)」「実行(act)」の頭文字から取った造語であり、4つのプロセスをループすることで、精度を高めていく方法です。

この方法には今ある情報から判断して行動に移すという点でスピーディーさがあり、変化が起きても対応できるという柔軟さもあります。変化が激しい現代のビジネスでは、エンパワーメント経営に限らず、広く活用されています。

エンパワーメントの導入事例

星野リゾートは、リゾートホテルを手がけている企業で知っている人は多いでしょう。星野リゾートは、エンパワーメントを企業に浸透させて、成功した先駆者として有名です。

当時は離職率が高く、社員をどのようにして雇用すればよいのか悩んでいましたが、アメリカで理論に触れていたブランチャード氏の著書「1分間エンパワーメント」を見つけ、自社に導入することで、大きな成果を上げています。

参考:星野リゾートの「教科書」の経営学者に聞く 最高のチームの創り方|日経ビジネス電子版 

エンパワーメントを企業に導入するプロセス

エンパワーメント経営を導入するには、どのようなプロセスがあるのでしょうか。導入するプロセスを順に見ていきましょう。

推進の宣言

最初に、経営層がエンパワーメントを推進することを社内に宣言します。経営層が主体となって推進し、エンパワーメントの目的や必要な理由、取り組むことによって得られるメリットを説明します。何よりも従業員がエンパワーメントを推進する目的を理解することが重要です。

目標の設定と周知徹底

次にエンパワーメント導入によって企業が期待する理想像や目標レベルを設定し、情報共有を図り、社内に周知徹底します。全社で取り組むという姿勢が重要であり、従業員の協力が得られなければ成功はありません。他社の導入事例などを説明し、従業員が具体的にイメージできることが大切です。

目標に対する行動原理を決める

目標を決めたら、実際に権限委譲する際の方法や管理体制、フォロー体制を決定します。権限を委譲することは、自由に判断してよいという意味ではありません。裁量の範囲と対象者を決めて、行動原理、ルールを明確にする必要があります。

エンパワーメント推進を公に宣言する

エンパワーメントを推進することを社外に公表することも重要です。社外に公表することによって、従業員は責任を持って取り組もうという意識が生まれます。社外でその取り組みが認められれば、企業の価値はさらに高まるでしょう。

エンパワーメントを導入する上での注意点

エンパワーメントを導入する際には、以下のことにも意識する必要があります。

権限委譲の範囲を明確にする

権限委譲の範囲や対象者を明確にし、ルール化することが重要です。ルールがあいまいだとトラブルが発生する可能性があります。また、従業員が誤った判断をすれば企業に損失が生じることがあるため、管理体制やフォロー体制も明確にする必要があります。

権限委譲することによる不安・心配を解消する

従業員が権限委譲されることに不安や心配を抱えてしまっていては、できることもできなくなってしまいます。上司の管理体制やフォロー体制が不十分だと、かえって従業員はプレッシャーを感じて、ミスをしてしまうことがあります。

判断基準を明確化する

重要な業務やプロジェクトで従業員に任せる場合には、従業員に裁量を与えつつ、判断基準を明確化し、上司と部下で共有する必要があります。上司と部下の判断に違いが生まれれば、信頼関係を壊すことにもなりかねません。

失敗を受容する

最初は失敗や判断ミスはあるでしょう。ある程度の失敗は許容して、部下に意思決定を委ねる度量も必要です。失敗しながら自ら解決し、成功するという体験が部下の能力向上につながります。小さな失敗は許容し、大きな失敗はしないようにフォローすることが重要です。

報告・連絡・相談のフローを確立する

部下に権限を与えると、部下は自分の経験や価値観で判断し、ときには間違いを犯すこともあります。また、部下の判断が組織の考え方に反することもあるでしょう。業務の状況把握の方法や、部署・係の報告・連絡・相談体制のフローを確立し、意思統一を図る必要があります。部下が間違った判断をした際は、上司は方向修正をしなければなりません。

形だけのエンパワーメントにならないよう注意する

エンパワーメントに必要なことは、上司が部下を信用することです。部下の考えを尊重せずに上司の考えを押しつけてしまっては、形だけのものとなってしまいます。部下の考えが上司の考えと異なっていたとしても、部下を信頼し任せることが大切です。

エンパワーメントで従業員も企業も成長する

常に変化し予測できない現代を企業が生き抜くためには、従業員の能力を高め、組織力を強化し、企業とともに成長していかなければなりません。企業に求められる人材は、自ら考えて判断し行動ができる人材です。

エンパワーメントを活用して従業員が成長すれば、生産性の向上にもつながり、企業も発展することでしょう。


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