- 更新日 : 2024年11月1日
週30時間未満の従業員、パートの社会保険加入とは?適用範囲の拡大の変更点を解説
労働時間が週30時間未満のパート・アルバイトについて、2022年10月より社会保険の適用範囲が広がりました。さらに、2024年10月からは常時雇用される従業員数が51人以上の企業まで適用が拡大しています。
ここでは、社会保険の適用範囲の拡大について解説するとともに、企業がするべき手続きについて紹介します。
目次
社会保険の適用範囲の拡大とは?
2022年(令和4年)10月から、社会保険の適用範囲の段階的な拡大が始まりました。2024年10月からは、特定適用事業所の範囲について変更があります。
事業主は、従来は社会保険の加入対象外であった従業員を、新たに加入させる必要が出てきます。具体的には、正社員と比較して週の所定労働時間が4分の3以下であるアルバイトやパートの従業員についてです。
以下で、社会保険の適用範囲の拡大について解説します。
※この記事では、「週の所定労働時間が30時間未満である短時間労働者」とは、正社員などの通常の従業員の所定労働時間が週40時間となる一般的なケースで解説しています。1日の所定労働時間が8時間未満の企業の場合、「週の所定労働時間が20時間以上、かつ、週の所定労働時間が通常の従業員の4分の3未満である短時間労働者」と置き換えてお読みください。
【2024年10月から】社会保険の範囲拡大による加入要件の変更点
2024年10月1日からの短時間労働者についての社会保険の適用範囲の拡大では、企業の従業員数要件が「常時101人以上」から「常時51人以上」に変わっています。
従業員数とは、フルタイムで勤務する労働者に、週労働時間がフルタイム勤務の労働者の4分の3以上のパート・アルバイトを加えた社会保険加入者の人数です。企業が雇用するすべての従業員の数ではありません。
また、適用範囲の拡大によって新たに社会保険の加入対象となる、週の所定労働時間が20時間以上の従業員は含まれない点に注意しましょう。
パートやアルバイトの社会保険の加入要件は?
パート・アルバイトの社会保険の加入要件の変遷は次の表をご参照ください。
適用拡大前 | 2022年10月~ | 2024年10月~ | |
---|---|---|---|
事業所の規模(従業員数) | 常時501人以上 | 常時101人以上 | 常時51人以上 |
要件1:週の所定労働時間 | 20時間以上 | 変更なし | 変更なし |
要件2:賃金 | 月額8万8,000円以上 | 変更なし | 変更なし |
要件3:雇用期間 | 継続して1年以上 雇用される見込み | 継続して2ヶ月以上 雇用される見込み | 変更なし |
要件4:適用除外 | 学生 | 変更なし | 変更なし |
「週の所定労働時間」「賃金」「継続雇用が見込まれる期間」などの要件をクリアすれば、常時雇用される従業員数が51人以上の企業に雇用されている短時間労働者も、社会保険の加入対象となる点がポイントです。これまでは常時101人以上を雇用している企業が対象でしたが、対象範囲が拡大しました。
従業員の所定労働時間や賃金、雇用期間などに関する変更はありません。これまでどおり、週の所定労働時間が20時間以上であることに加え、月額の賃金が8万8000円以上であること、継続して2ヶ月以上雇用されることが見込まれる場合が該当します。ただし、一般的な学生は対象となりません。
所定労働時間とは、雇用契約時の所定労働時間を指し、残業などでたまたま20時間以上となったケースを除きます。また、月額の賃金には、通勤手当や残業手当などは含まれません。
社会保険の加入は週20時間、週30時間どっち?
社会保険の加入要件について、「週20時間以上」という基準もあれば「週30時間以上」という基準もあるため、混乱してしまう方もいるでしょう。
前提として、所定労働時間がその企業の一般的な従業員の労働時間の「4分の3」以上の場合、社会保険の加入が義務付けられています。このルールは企業の従業員数に関係なく適用されるため、たとえば、常時雇用される従業員数が50人未満の企業であっても、この「4分の3基準」を満たす従業員は社会保険に加入させなければなりません。
たとえば、「週休2日制×1日の所定労働時間が8時間」の企業の場合、週の労働時間は40時間になることから、その4分の3以上は「週30時間以上」となります。つまり、社会保険の加入要件の前提が、多くの企業で「週30時間以上」となることを押さえておきましょう。
これに対して、段階的に行われている社会保険の適用範囲の拡大によって、企業が常時雇用する従業員数によっては、「週20時間以上」であっても社会保険の加入が義務付けられます。
「週20時間以上」と「週30時間以上」の基準が混同しないように、気をつけましょう。
週30時間未満なら社会保険に加入しなくても良い?
いわゆる短時間正社員は、アルバイト・パートとは異なり、時間当たりの賃金などが一般的な正社員と同等であれば、所定労働時間の長さにかかわらず社会保険が適用されます。ただし、週の所定労働時間が20時間未満の者は雇用保険に加入できません。
アルバイト・パートの場合、週30時間未満の労働時間でも以下の要件を満たし、勤め先の企業が常時51人以上の従業員を雇用している場合は、社会保険の加入が義務付けられます。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 月額賃金が8万8,000円以上であること
- 雇用期間が2ヶ月を超える見込みがあること
- 学生でないこと(定時制や通信制、休学中の学生は社会保険の加入対象となる)
週30時間以上の場合、いつから社会保険加入が必要か
入社時点から週30時間以上働くことが決まっている従業員については、入社初月から社会保険への加入が必要です。
また、途中で労働時間が変更され週30時間以上勤務することになり、雇用契約書の内容も変更になった場合は、その時点で社会保険に加入させる義務が生じます。
しかし、残業が発生してたまたま週の労働時間が30時間ぴったりになったり超えたりすることもあるでしょう。その場合、雇用契約書に変更がなければ、その時点ですぐに社会保険加入の手続きが必要になるわけではありません。
週30時間未満のパート:社会保険料の計算方法
ここからは、社会保険加入が義務付けられるパート・アルバイトなど短時間労働者の社会保険料の計算方法をご紹介します。
標準報酬月額
標準報酬月額とは、厚生年金の保険料や健康保険料を算出する際に基準として用いるもので、1ヶ月分の給与などの報酬を一定の範囲ごとに区分した金額のことです。各区分を「等級」と呼び、厚生年金は32、健康保険は50の等級にそれぞれ分かれています。
標準報酬月額は、被保険者としての資格を取得した際の「資格取得時決定」や、7月1日より前の3ヶ月間の平均で算出する「定時決定」などにより決定します。
標準報酬月額や保険料は、全国健康保険協会(協会けんぽ)が毎年発表している「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」で確認するとよいでしょう。都道府県ごとに作成されており、等級ごとの厚生年金保険料や全国健康保険協会の健康保険料(その他の保険料は組合健保ごとに異なる)を把握できます。
参考:Q.標準報酬月額は、いつどのように決まるのですか。|日本年金機構
令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)|全国健康保険協会
厚生年金保険料の計算方法
厚生年金保険料は、以下のように計算します。
厚生年金保険の保険料率は、年金制度改正にもとづき2004年から段階的に引き上げられていましたが、2017年9月を最後に引上げが終了し18.3%で固定されています。
たとえば、標準報酬月額が8万8,000円の場合、厚生年金保険料は「8万8,000円×18.3%=16,104円」です。企業と従業員とで折半して負担するため、16,104円の半額である8,052円を従業員から預かったうえで、同額を企業が負担して納めます。
健康保険料の計算方法
健康保険料は、以下のように計算できます。
全国健康保険協会の場合、健康保険料率は都道府県ごとにそれぞれの医療費などの事情を勘案し毎年設定されているため、厚生年金保険料率と異なり全国一律ではありません。
たとえば、東京都にある企業に勤めている標準報酬月額が8万8,000円の従業員(40歳未満の場合)の2024年の健康保険料は、「8万8,000円×9.98%=8,782.4円」です。健康保険料は企業と従業員で折半するため、それぞれ4,391円(1円以下の端数は四捨五入)負担します。
参考:令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)|全国健康保険協会
介護保険料の計算方法
介護保険料とは、介護保険制度を運用するために40歳以上の国民が納める保険料のことです。介護保険の被保険者は、以下のように年齢に応じて「第1号被保険者」と「第2号被保険者」に区分されます。
- 第1号被保険者:65歳以上の者
- 第2号被保険者:40歳から64歳までの医療保険加入者
介護保険料は、以下のように算出します。
介護保険料率は毎年見直しが行われ、2024年3月から全国一律1.60%(全国健康保険協会)であることから、標準報酬月額が8万8,000円の場合の保険料は「8万8,000円×1.60%=1,408円」です。労使で2分の1ずつ負担をするため、企業と従業員で1,408円の半額の704円ずつ納めます。
雇用保険料の計算方法
広義の社会保険には、雇用保険などの労働保険も含まれます。雇用保険を算出する計算式は、以下のとおりです。
厚生年金保険料や健康保険料と違い、標準報酬月額ではなく給与額または賞与額 に保険料率を掛ける点がポイントです。雇用保険料率は事業の種類によって異なります。
たとえば、事業分類が「一般」の事業に在籍する場合、2024年度の雇用保険料率は「1,000分の15.5」です。そのため、給与が8万8,000円の従業員については、「8万8,000円×0.0155(1,000分の15.5)=1,364円」となります。
「1,000分の15.5」のうち、従業員の負担は「1,000分の6」、企業の負担は「1,000分の9.5」であることから、従業員負担分は528円、企業負担分は836円です。
週30時間未満の場合、社会保険料はいくら引かれるか
ここでは、週30時間未満の従業員の給料から社会保険料として差し引かれる金額と、企業が負担する社会保険料のイメージを掴みましょう。
【前提条件】
従業員の年齢:30歳
所定労働時間:1日6時間(うち30分休憩、実働5.5時間)、週5日勤務
月収:13万2,000円(時給1,200円)
標準報酬月額:13万4,000円
上記のケースの場合、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料は以下のようになります。
- 健康保険料:13万4,000円×9.98%=1万3,373円
※「1万3,373円÷2」により、従業員負担分は6,687円
- 厚生年金保険料:13万4,000円×18.3%=2万4,522円
※「2万4,522円÷2」により、従業員と企業で1万2,261円ずつ負担
- 雇用保険料:13万2,000円×0.0155(1,000分の15.5)=2,046円
※従業員負担分は13万2,000円×0.006(1,000分の6)で792円、企業負担分は13万 2,000円×0.0095(1,000分の9.5)で1,254円
したがって、13万2,000円の月収に対して差し引かれる社会保険料は1万9,740円です。企業が負担する社会保険料のうち、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料の合計は2万201円です。広義の社会保険には労災保険も含まれるため、実際には企業はこの金額に加えて労災保険料も全額負担します。
社会保険の適用範囲の拡大に向けて何をすれば良い?
社会保険適用拡大に応じて、これまで特定適用事業所でなかった企業も対象となり、新たに従業員の社会保険加入手続きを行う必要が出てきます。以下で、社会保険の特定適用事業所となった場合に必要な手続きをご紹介します。
特定適用事業所の届出を行う
2024年10月の拡大で特定適用事業所となる企業には、日本年金機構から「特定適用事業所該当通知書」が交付されているはずです。通知書を受け取った企業は、10月1日の施行日から自動的に特定適用事業所とみなされます。
2024年10月以降、従業員規模の拡大により新たに特定適用事業所の要件を満たすようになった企業は、「特定適用事業所該当届」を別途届け出る必要があります。
日本年金機構で直近11カ月のうち5カ月間被保険者数が101人以上いることが確認できた場合、「特定適用事業所に該当する可能性がある旨のお知らせ」が送られてきます。日本年金機構から通知があった場合には、パート・アルバイト従業員の加入手続きに漏れがないように、速やかに届出の準備をしましょう。
【特定適用事業所に該当する条件】
加入対象となる従業員の把握・周知を行う
新たに社会保険の加入対象となる社員がいるかどうか、社内のパート・アルバイト従業員の労働条件の把握を行います。対象者がいる場合には、社会保険の被保険者になる旨を周知します。従業員本人の理解度を深めるため、別途説明会や個人面談を実施するのも、有効な手法です。
社会保険の被保険者の要件を満たす場合、本人の意思に限らず加入することになりますが、なかには給与から控除される額が増えることを理由に、加入へネガティブな反応を示す従業員もいます。加入の経緯や、加入によって得られるメリットを整理し、面談等で説明するといいでしょう。
対象者への周知が済んだのち、「被保険者資格取得届」を提出し、社会保険の加入手続きを行います。当該対象者に被扶養者がいる場合には「被扶養者(異動)届」の提出を忘れないようにしましょう。
社会保険加入状況のテンプレート(無料)
以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。
社会保険の適用範囲拡大に伴う対応を適切に行おう
社会保険の適用範囲の拡大により、常時雇用される従業員数が51人以上の企業であれば、従来は社会保険の加入対象外であった週の所定労働時間が20時間以上の従業員を、社会保険に加入させる義務が生じます。
新たな手続きや保険料の負担が生じる一方で、社会保険の適用範囲の拡大に伴い、手厚い社会保障を望む人材を確保できる機会でもあります。ぜひ前向きに捉え、必要な情報を収集し適切に対応しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
厚生年金と国民年金はいくらもらえる?受給額の計算方法を解説
厚生年金と国民年金がいくらもらえるかは、年金の種類によって異なります。国民年金は納付期間が長ければ長いほど満額の受取額に近づきますが、厚生年金の場合は報酬の額や加入期間に応じて変動します。 ここでは、年金制度の基本や計算方法を解説するととも…
詳しくみる標準報酬月額の2等級以上の差とは?等級の確認方法や随時改定の適用について解説
社会保険料の計算で必要になる標準報酬月額に2等級以上の差が出た場合、ほかの要件を満たしたら随時改定の手続きが必要です。改定した報酬月額は、変動した固定的賃金が支払われた月から4ヶ月後に適用されます。 本記事では、標準報酬月額に2等級以上の差…
詳しくみる産前・産後休業を取る時のポイント – いつから取れる?計算方法を解説
出産は、人生における大変大きなイベントです。そのため、その準備のために休業制度が設けられています。当記事では、産前休業・産後休業について解説します。「いつから取れるのか」「期間はどの程度なのか」など、疑問をお持ちの方はぜひ参考にしてください…
詳しくみる転職における厚生年金・国民年金の手続き – 空白期間があったらどうなる?
公的年金である厚生年金や国民年金は、現役時代に保険料を負担し、老後は負担に応じた年金を受給できる制度です。 保険料の納付期間に空白がなければ相応の年金額になりますが、途中で退職して空白期間があれば年金額が少なくなる可能性があります。 本稿で…
詳しくみる男性が育休に使える助成金「両立支援助成金」とは?
育児・介護休業法が、2022年4月に改正され、いわゆる「産後パパ育休」が新設されました(施行は10月1日)。出生後8週間以内に4週間までの休暇を取得できるというもので、分割して2回取得することもできます。併せて知っておきたいのが、男性が育休…
詳しくみる年金手帳を会社に提出する理由 – 転職や紛失時の対応も解説
年金手帳とは、基礎年金番号が記載されている手帳のことです。基本的には20歳になって国民年金に加入する時点で発行されます。入社時の手続きに必要として会社から提出が求められ、そのまま会社保管されることが一般的です。退職時に返却を受け、転職した場…
詳しくみる