- 更新日 : 2023年11月2日
リカレント教育とは?社会人の学び直しはいつから?
リカレント教育とは、社会人が再勉強し学習と就労のサイクルを繰り返すことです。生涯学習は人生を豊かにする学習を指すのに対し、リカレント学習は仕事で必要な能力を磨くことを目的としています。文部科学省は大人の学び直しを推進しており、各種支援制度の利用も可能です。当記事では、近年注目を集めるリカレント教育について解説します。
目次
リカレント教育とは?
リカレント教育とは、義務教育や高校・大学での学校教育を修了した社会人が生涯にわたって学習を続け、必要に応じて学習と就労のサイクルを繰り返すことです。リカレント教育はスウェーデン人経済学者のゴスタ・レーンが提唱し、政治家のオロフ・パルメが1969年に欧州教育大臣会議で紹介したことによって注目を集めます。翌年1970年には経済協力開発機構(Organisation for Economic Cooperation and Development:OECD)によって採択され、世界的に推進されてきました。ここでは、リカレント教育の概要と、生涯学習との違いについて解説します。
生涯学習との違い
冒頭でも述べた通り、リカレント教育は社会人が学校教育を修了した後に再学習することで、生涯にわたって学習と就労のサイクルを繰り返すことです。一方、生涯学習は人が生涯にわたって学習や自己啓発の活動を続けていくことを指します。人生を豊かにするための継続的な学習を意味する生涯学習に対し、リカレント教育は仕事で必要となる知識や能力を磨いて自己実現すること、と区別することが可能です。なお、リカレント(Recurrent)は「繰り返す・循環する」を意味する英単語で、リカレント教育は学習と就労のサイクルを繰り返す行為を意味しています。
リカレント教育が注目される背景
リカレント教育が注目を集める背景には、ライフスタイルや雇用の変化、急速な技術革新などの影響が挙げられます。従来は学校教育を修了したら就職し、定年まで働く「単線型」のライフスタイルが一般的でした。しかし、平均寿命の延伸や終身雇用・年功序列などの崩壊に伴いライフスタイルが多様化したことで、いわゆる「複線型」のキャリアも一般的となります。いつでも学び直し、新たにチャレンジできる社会の実現が求められている背景から、再学習の機会でもあるリカレント教育が注目を集めているのです。
また、IoTやAIを始めとした急速な技術革新の影響も無視できません。あらゆるコト・モノがDX化される第4次産業革命では、従来人間が行っていた労働がロボットやAIによって代替されるといわれています。人間にはロボットやAIでは真似できない、より高度で知的な労働が求められるため、知識や能力を磨くためのリカレント教育が注目されているのです。
日本におけるリカレント教育の現状
OECDが各国の成人教育政策のパフォーマンスを7つの観点から0~1のスコアで評価した「Dashboard on priorities for adult learning」をもとに、我が国日本におけるリカレント教育の現状を確認してみましょう。
- 緊急性の低さ(Urgency)
国際化や構造変化、高齢化など、教育の改善に取り組む緊急性に関する指標で、日本は34ヶ国中21位でした。
- 学習への参画(Coverage)
個人や企業の訓練実施率など、どの程度教育に参画しているかに関する指標で、日本は32ヶ国中26位でした。 - 包括性(Inclusiveness)
参加者の性別や年齢、雇用形態の多様性など、教育の機会がどの程度包括的かに関する指標で、日本は29ヶ国中21位でした。 - 柔軟性(Flexibility&Guidance)
時間や距離の制約、遠隔教育の整備など、教育の機会を柔軟に得ることができるかに関する指標で、日本は34ヶ国中33位でした。 - ニーズ(Alignment)
訓練の有用性や、将来のニーズに合った訓練の実施など、教育が労働市場のニーズに合致しているかに関する指標で、日本は31ヶ国中31位でした。 - 効果(Perceived impact)
賃金リターンなど、教育の効果がどの程度あるかに関する指標で、日本は34ヶ国中33位でした。
上記の調査では、緊急性の低さ・学習への参画・包括性はOECD諸国の平均を僅かに下回るスコアでしたが、柔軟性・ニーズ・効果については平均を大きく下回る結果となりました。このことから、日本のリカレント教育は現状、OECD諸国と比べると柔軟性が低く、労働市場のニーズに合致していない傾向にあると考えられます。
リカレント教育はいつから行う?年齢や学歴は関係ある?
リカレント教育はいつから始めるべきか、年齢の制限はあるのか、学歴は関係あるのかなど、気になる方も多いことでしょう。しかし、リカレント教育には年齢の上限や、学歴の制限などは一切ありません。ライフステージの変化やキャリアアップなど、必要となったタイミングで再び教育を受け直すのがリカレント教育の趣旨です。リカレント教育は、年齢も学歴も不問です。学校教育を離れた後も、それぞれのタイミングで学習し直し、仕事に必要な知識や能力を磨くことがリカレント教育である、ということを覚えておきましょう。
リカレント教育では何を学ぶのが一般的?
リカレント教育では、現在の仕事や将来のキャリアアップに必要な知識や技術を学びます。例えば、英語や中国語などの外国語、MBA・公認会計士・社会保険労務士・宅地建物取引士などの資格取得、経営・法律・コーチングなどのビジネススキル、プログラミング・ネットワーク・機械学習などのITスキル、などを学ぶのが一般的です。リカレント教育を受けるには、大学や大学院、専修学校などの公開講座を受講するほか、民間の資格予備校に通ったり、オンライン講座を受講したりする方法があります。再学習の方法はさまざまですが、リカレント教育の目的は仕事に役立つ知識や技術を学び直すことだということを覚えておきましょう。
リカレント教育を行うメリット
リカレント教育は、労働者にとっても企業にとってもメリットの多い取り組みです。ここでは、リカレント教育に関する労働者個人のメリットと、企業にとってのメリットを解説します。
学び手・個人の場合
学び手である労働者個人のメリットは、リカレント教育によって仕事に役立つ高度な知識や技術を身に付けられるため、より専門性の高い高度な仕事に就けるようになることです。
一度学校教育を修了した社会人が再学習する場合は知識や技術を習得するスピードも早く、難易度の高いポジションへのキャリアアップやキャリアチェンジなども実現できます。例えば、短期間で専門性の高い教育を受けることで、AIや機械学習といった日進月歩で進化のスピードも早い業務への参画も可能です。また、専門性を高めてキャリアアップ・キャリアチェンジすることで、年収の上昇も期待できるでしょう。
企業の場合
企業にとってのメリットとしては、人材不足の解消が挙げられます。少子高齢化によって人材の確保が喫緊の課題となるなか、妊娠・出産・育児・介護などでブランクのある人材や、定年退職などによって一線を退いた人材に対し、リカレント教育によって再学習を促すことで、即戦力に育てることが可能です。
また、リカレント教育で従業員のキャリアアップやスキルアップをサポートすることで、エンゲージメントが高まり貴重な人材の流出防止につながります。さらに、リカレント教育によって従業員のスキルが向上することで、生産性や競争力、企業価値の向上も実現可能です。
リカレント教育について企業が使える助成金や制度
リカレント教育を推進する政府は、厚生労働省や文部科学省などが主体となって、助成金を始めとした支援制度を導入しています。リカレント教育の促進を目指す企業は、助成金や支援制度を活用することで教育訓練費の負担を軽減することが可能です。ここでは、リカレント教育について企業が利用できる助成金や支援制度を紹介します。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は厚生労働省が管轄する助成金で、企業が労働者に対し職務に関連した専門的な知識や技術を習得するための職業訓練等を実施した場合、職業訓練にかかった経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。
例えば、労働者が有給教育訓練等制度を利用した場合、デジタル人材や高度人材を育成する訓練を実施した場合、新規事業の立ち上げなどに必要な知識や技術を習得する訓練を実施した場合、障害者の就労に必要な能力を開発し向上するための教育訓練等を継続的に実施した場合、などに一定の助成を受けられます。
生産性向上支援訓練
生産性向上支援訓練とは、厚生労働省所管の独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が主体となって運営する、あらゆる産業分野の生産性向上に効果的なカリキュラムによって、企業が生産性向上を実現するために必要な知識などを習得する職業訓練です。
幅広い職務階層の方を対象に、生産管理、品質管理、原価管理・コスト削減、流通・物流システム、クラウド活用によるデータ管理・分析、マーケティングなど、企業が抱える課題やニーズに応じたさまざまな生産性向上支援訓練を実施しています。従業員が生産性向上支援訓練を受講した場合、事業主は人材開発支援助成金を利用して訓練にかかった経費や、訓練期間中の賃金の一部等について助成を受けることが可能です。
参考:生産性向上支援訓練|独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
企業内のキャリアコンサルティング
企業内のキャリアコンサルティング、いわゆるセルフ・キャリアドックの導入を検討している企業は、厚生労働省の委託を受けたキャリア形成・学び直し支援センターによる試行的なキャリアコンサルティングや、相談支援を無料で受けられます。
例えば、新入社員の定着率を高めたい、中堅社員のモチベーションを高める施策を打ちたい、育児休業や介護休業を取得した従業員の復職を支援したい、従業員の学び直しやセカンドキャリアを支援したい、などの課題を抱える企業は積極的に利用してみるとよいでしょう。
参考:キャリア形成・学び直し支援センター(キャリガク) 【厚生労働省委託事業】
リカレント教育について個人が使える助成金や制度
リカレント教育に関する助成金や支援制度を利用できるのは企業だけではありません。ここでは、リカレント教育について個人が利用できる助成金や支援制度を紹介します。
教育訓練給付金
教育訓練給付金とは、労働者の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就労の促進を目的に、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に受講費用の一部が支給されるものです。
対象の教育訓練は約15,000講座あり、教育訓練の種類は「一般教育訓練」「特定一般教育訓練」「専門実践教育訓練」の3つに分かれています。一般教育訓練は受講費用の20%(上限10万円)、特定一般教育訓練は受講費用の40%(上限20万円)、専門実践教育訓練は受講費用の最大70%(年間上限56万円)の支給を受けることが可能です。
高等職業訓練促進給付金
高等職業訓練促進給付金とは、母子家庭の母や父子家庭の父などひとり親の方が、看護師や介護福祉士などの国家資格やデジタル分野等の民間資格などを取得するために修学する場合に一定の給付金が支給されるものです。
対象となる資格は、就職の際に有利になるもので、養成機関等において1年以上のカリキュラムが予定されているものについて、都道府県等の長が指定したものが該当します。具体的には、看護師・介護福祉士・保育士・歯科衛生士・理学療法士・保健師・助産師などの国家資格、シスコシステムズ認定資格・LPI認定資格などの民間資格です。
参考:母子家庭自立支援給付金及び父子家庭自立支援給付金事業の実施について |厚生労働省
キャリアコンサルティング
在職中でリカレント学習を検討している方は、厚生労働省の委託を受けたキャリア形成・学び直し支援センターによるキャリアコンサルティングを無料で受けられます。
例えば、新たな知識や能力を身に付けてキャリアの幅を広げたい、スキルアップやキャリアアップにチャレンジしたい、ワークライフバランスについて悩んでいる、今後のキャリアについて漠然とした不安がある、定年後のセカンドキャリアについて相談したい、などと考えている方は積極的に利用してみましょう。
参考:キャリア形成・学び直し支援センター(キャリガク) 【厚生労働省委託事業】
ハロートレーニング
ハロートレーニングとは、希望する職業に就くために必要な知識や能力を習得できる公的職業訓練制度です。ハロートレーニングは公共職業訓練と求職者支援訓練からなり、ハローワークの求職者や求職障害者だけでなく、学卒者や在職労働者も利用できます。雇用保険の受給対象でない方であっても、一定の条件を満たすことで手当の給付を受けながら無料で職業訓練を受けることが可能です。
リカレント教育は社会人が必要に応じて学習と就労を繰り返すこと
今回はリカレント教育について解説しました。リカレント教育とは、学校教育を修了した社会人が再学習し、必要に応じて学習と就労のサイクルを繰り返すことです。ライフスタイルや雇用の変化、急速な技術革新などの影響によって、大人の学び直しが近年注目を集めています。
リカレント教育は、学び手である労働者にとってはキャリアアップやキャリアチェンジにつながり、企業にとっては貴重な人材の確保や企業価値の向上につながる、労使双方にメリットの多い取り組みです。リカレント教育には、年齢の上限や学歴の制限などは一切ありません。ライフステージの変化やキャリアアップなど、それぞれが必要となったタイミングでリカレント教育にチャレンジしてみましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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