- 更新日 : 2025年1月17日
なぜ公務員には労働基準法が適用されないのか?残業や解雇のルールを解説
国家公務員や地方公務員には、労働基準法が適用されない場合があります。
労働基準法とは、労働条件の決まりに関する最低基準を定めた法律のことで、会社員やアルバイト、パートなど雇用形態にかかわらず適用されます。
しかし国家公務員や地方公務員は、それぞれ国家公務員法や地方公務員法など別の法律により労働に関する決まりが定められているため、労働基準法が全体または一部が適用されません。
もし、公務員に対しても労働基準法をすべて適用させた場合、社会にとって支障をきたすおそれがあります。
目次
なぜ公務員には労働基準法が適用されないのか?
公務員に労働基準法が適用されない理由は、主に公務員の仕事の特性にあります。
公務員は「全体の奉仕者」として国や地方自治体の運営に大きくかかわっているため、一般の労働者とは異なる立場とされています。
とくに市役所での手続きや、発生した事故や事件の収束など、国民にとって人生や人命に直接かかわる仕事である場合は、労働基準法を適用させることで必要時に必要なサービスが受けられなくなるおそれがあるでしょう。
人生や人命にかかわるサービスを必要時に受けられるよう、公務員には労働基準法とは異なる法律で、労働に関する決まりの最低基準が定められているのです。
公務員に労働基準法が適用されない具体例
公務員に労働基準法が適用されないおもな具体例には下記などがあります。
労働基準法が適用されない具体例 | 詳細 |
---|---|
勤務時間に制限がない | 労働基準法のような、具体的な労働時間における規制がありません。 |
職場と賃金の交渉が自由にできない | 労働者が職場と賃金について交渉するための「団体交渉権」がありません。 |
労働組合が結成できない | 労働組合を作る「団結権」が適用されないため、公務員は労働組合を結成できません。 |
ストライキが禁止されている | 公務員には「団体行動権」が適用されないため、ストライキができません。 |
しかし、国家公務員や地方公務員の中でも、団結権や団体交渉権が認められている場合もあるため、すべての公務員が上記に当てはまるわけではありません。
公務員に労働基準法が適用されるとどんな支障があるか
公務員の中には、救急車による人命救助や消防署での勤務など、国民の人命に直接かかわる仕事もあります。
そのため、公務員全体に労働基準法が適用された場合、国民の生活に対して大きく支障をきたす場合があるでしょう。
公務員に労働基準法を適用させた場合の、主な支障や弊害について具体例を紹介します。
救急車がなかなか来ない
公務員に労働基準法が適用されると、必要時に救急車が来ないおそれがあります。
理由は、労働基準法を適用させることで下記のような労働時間や休暇の決まりを厳格に守る必要があるためです。
- 使用者は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません。
- 使用者は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければいけません。
- 使用者は、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
出典:厚生労働省ホームページ
上記を遵守すれば救急隊員の勤務時間が制限され、必要な人員が確保できない場合、救急車の出動が遅れる可能性があります。
災害や緊急時の対応ができない
労働基準法の適用により労働時間の柔軟性がなくなった場合、災害発生時や緊急時に、人命救助や物資の配達などの対応ができなくなるおそれがあります。
とくに労働基準法では休憩時間、休日について厳格な決まりがあります。遵守することで、公務員が災害や緊急事態に直面した際に通常の労働時間内に対応できない場合が多く、迅速な対応を妨げる場合があるでしょう。
災害時には通常の勤務時間を超えて働く必要がある場合が多く、労働基準法に従うと、残業や休日出勤に関する手続きが必要なため迅速に行動できなくなる場合があります。
市役所で必要な手続きが行えない
公務員に労働基準法が適用される場合、とくに地方公務員の場合は、市役所で必要なときに必要な手続きができなくなる可能性があります。
なぜなら、労働基準法の適用によって業務の運営や職員の勤務条件に影響をおよぼすためです。
労働基準法は、労働時間・休暇・賃金などにおける基準を定めた法律です。公務員の業務に適用されると、たとえば業務の繁忙期における残業の取り扱いや、休日出勤の管理が厳格化されるおそれがあるでしょう。
オンラインや電子システムを用いた手続きやサービスの場合も、メンテナンスやエラー時の対応も困難になります。
また繁忙期や休日における規制が設けられた場合、特定の業務が迅速に処理できない場合があります。
残業手当が増大する場合も
公務員に労働基準法が適用される場合、残業手当が増大する可能性があるでしょう。
労働基準法では、法定労働時間を超えた場合に残業手当を支払うことが義務付けられています。具体的には下記のような決まりがあります。
支払う条件 | 賃金の割増率 |
---|---|
法定労働時間を超えたとき | 25%以上 |
時間外労働が限度時間を超えたとき | 25%以上 |
時間外労働が1か月60時間を超えたとき | 50%以上 |
法定休日に勤務させたとき | 35%以上 |
22時から5時までの間に勤務させたとき | 25%以上 |
出典:東京労働局ホームページ
労働基準法が適用されれば、残業時間に応じた手当を支払う必要性が生じます。
公務員は特定の条件下では労働基準法の決まりが適用されないことがほとんどですが、一般職の地方公務員には原則として労働基準法が適用される場合もあります。
労働基準法以外に公務員に適用されない法律
公務員は、仕事の特性上ほかの労働者とは決まりや法律の適用範囲が大きく異なる場合がほとんどです。
なぜなら公務員は民間の事業やサービスとは異なり、国民にとって人生や人命に大きくかかわることが多いため、差別化する必要があるためです。
そのため、労働基準法以外にも公務員には適用されない法律が複数あります。
労働組合法
労働組合法は、労働者が労働組合を結成し、使用者と対等な立場で交渉する権利を保障するための法律です。労働組合法では、主に下記3つの権利を保障しています。
団結権 | 労働者が自由に労働組合を結成し、加入する権利。 |
---|---|
団体交渉権 | 労働組合が使用者と労働条件について交渉する権利。 |
団体行動権 | 労働者がストライキやその他の団体行動を行う権利。 |
国家公務員は労働基準法の適用を受けないとされています。また地方公務員についても、一般職には労働基準法が適用される原則がありますが、一部の決まりは適用外となることがあります。
公務員が労働組合法の適用外である理由は、職務が公共の利益に直結しているため、労働組合によって一律に規定されることが適切でないとされているためです。
最低賃金法
最低賃金法は、労働者の賃金の最低基準を定める法律です。
公務員の最低賃金はおもに人事院勧告にもとづいて決められ、最低賃金法の適用外です。
さらに公務員の給与や勤務条件は国家公務員法や地方公務員法にもとづいており、一般の労働者と異なります。
地方自治体では、一部の職員の賃金が各都道府県内において定められた最低賃金を下回ることがあります。最低賃金を下回る理由は、最低賃金法の未適用ではなく、各自治体の財政状況や人事政策に起因する場合がほとんどです。そのため、実際には地域や職種によって賃金の格差が生じることがあります。
船員法
船員法は、船員の労働条件や権利を定める法律であり、船舶に従事する労働者の安全や健康を守ることが目的です。
船員法は、航海士や機関士など特定の職業に従事する人々に適用されますが、国家公務員や地方公務員には適用されない場合があります。
船員法における「職員」とは、航海士・機関長・機関士・通信長・通信士など、国土交通省令で定めた海員などです。船舶の運航や管理に直接関与しており、特有の労働環境や条件があります。船員法は、労働者が安全に業務を遂行できるよう、労働時間・休暇・賃金などの基準を設けています。
公務員は、国家公務員法や地方公務員法においてそれぞれの労働条件を定めているため、公務員には基本的には適用されません。
じん肺法
じん肺法は、労働者がじん肺や合併症にかかるリスクを軽減するために制定された法律であり、適正な予防および健康管理を通じて労働者の健康保持が目的です。
具体的には、粉じん作業に従事する労働者に対して、定期的な健康診断や作業環境の管理を義務付けています。
しかし国家公務員法により、国家公務員はじん肺法の適用外です。
じん肺法では、粉じん作業に従事する労働者に対して事業者が健康診断を実施し、粉じんの発散を防止するための措置を講じることが求められています。公務員の場合、健康診断などの措置は公務員法に基づく健康管理の枠組みの中で行われるため、じん肺法の適用がない場合もあります。
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保するための法律であり、一般的には企業や事業所における労働環境の改善が目的です。
しかし、公務員の場合は労働安全衛生法において一部のみ適用されたり適用されなかったりする場合があります。
とくに地方公務員については、県や地方によって労働安全衛生法の一部または全面が適用される場合もあるでしょう。たとえば、地方公務員は職場の安全衛生管理体制を整備する義務があり、衛生管理者を置くことが求められています。
また地方公務員の労働環境は各自治体の条例や規則にもとづいて管理されるため、労働安全衛生法が適用されなかったとしても、労働者の安全と健康が守られていないわけではありません。
船員災害防止活動の促進に関する法律
船員災害防止活動の促進に関する法律は、船員の安全と健康を守るために制定された法律で、船舶を所有する個人や団体が自主的に行う災害防止活動を促進することを目的としています。具体的には、船員災害防止計画の策定や、船員の安全教育、健康管理の強化などが含まれています。
国家公務員法付則第6条および地方公務員法の第58条にて、船員災害防止活動の促進に関する法律は、職員には適用しないことが明記されているため、基本的に公務員には適用されません。
公務員が船員として勤務する場合、船員法や船員災害防止活動の促進に関する法律の適用を受けない代わりに、国家公務員法および地方公務員法により、災害補償や労働条件について独自の基準が適用されます。
公務員に適用される法律は何か
公務員は職務や仕事内容の特性により、一般の労働者に適用される労働基準法が適用されない場合があります。
とはいえ、公務員の労働環境の整備や権利がまったく守られないわけではありません。
代わりに、国家公務員と地方公務員にはそれぞれ国家公務員法や地方公務員法が適用され、労働者の労働条件や権利を守ります。
国家公務員
国家公務員は、国家公務員法という法律に基づき業務に携わります。
国家公務員法とは日本の国家公務員に関する基本的な法律であり、下記などに関する決まりを定めています。
- 職員の任用
- 服務
- 給与
- 福利厚生
- 人事採用
国家公務員法は、国家公務員が国民全体の奉仕者としての役割を果たすための基準を確立し、民主的な運営を保障することが目的です。
国家公務員として職務に携わる場合、職員は法律や上司の命令に従う義務があり、職務においては公正性や政治的中立性が求められます。また、特定の政党や政治家に対する偏りのない行動が義務付けられており、職員が倫理的に行動することを促進し、公共の利益を最優先に考える姿勢を求めています。
地方公務員
地方公務員は、地方公務員法という法律に則って業務に携わる義務があります。地方公務員法は、日本の地方公務員が職務に従事するために必要な決まりを定めた法律であり、主に下記のような決まりが含まれています。
- 地方公務員の任用
- 給与
- 勤務条件
- 服務
- 懲戒
- 退職管理
地方公務員法は、地方公務員による職務が適正かつ中立性を持って遂行されるよう、地方自治体が健全に運営されることが目的です。
さらに、地方公務員の採用試験や人事評価の基準、給与の支給方法、勤務時間や休暇の取り決めなどが詳細に決められています。また、地方公務員法は、地方公務員が職務を遂行する上での倫理規範や守秘義務についても含まれており、地域住民に対して公正かつ誠実なサービスを提供することが求められています。
公務員が残業するとどうなるか
公務員は、一般の労働者に適用される労働基準法の対象外です。そのため、サービス残業の増加が深刻化しているといった話を聞く人もいるでしょう。
しかし、公務員は残業に対してまったく措置が施されないわけではありません。労働環境の整備や、イメージ向上を目的とした残業手当や特別措置など、公務員が安心して働ける制度が整えられています。
残業手当が支給される
公務員が残業した際は、時間外勤務手当と呼ばれる残業手当が支給され、国家公務員であれば下記のように勤務1時間あたりの給与額にもとづいて計算されます。
勤務1時間あたりの給与額 × 支給割合 × 残業時間数
支給率は通常の勤務時間を超えた場合に適用される割増賃金率で、一般的には25%から35%の範囲で設定されています。
地方公務員の場合、時間外勤務手当は各自治体の条例にもとづいて行われ、予算の制約により支給額が異なる場合もあるでしょう。
総務省の「令和5年 地方公務員給与実態調査結果等の概要」によれば、都道府県職員の平均的な残業代は月に8万7,000円程度、政令指定都市職員では12万円程度とされています。
災害対応時には特別措置が適用
公務員が災害対応を行う際には、特別措置が適用されることがあります。
とくに災害時は、業務内容の何磯や勤務時間が通常の業務とは異なる特別な状況に置かれるため、法律や規則に基づく特別な対応が求められます。
たとえば、国家公務員災害補償法や地方公務員災害補償法により、災害対応中に発生した事故や病気に対して、特別な補償が提供されることがあります。そのため、公務員は安心して災害対応に専念できるのです。
また、災害時には通常の勤務条件が変更されることもあり、たとえば勤務時間の延長や特別手当の支給などがあります。
特別措置を施すことで、できるだけ公務員自身の負担を軽減し、災害時でも迅速かつ効果的な対応が行えるような環境が整えられています。
公務員の年間休日日数の平均は?
公務員は、労働基準法が適用されない代わりに、国家公務員法および地方公務員法により年間で取得が義務付けられている休日が定められています。
公務員の休日は、一般的には土日祝日・夏季休暇・年末年始にあたり、公務員と公務員以外の一般の労働者における年間休日の平均は、下記のとおりです。
国家公務員 | 地方公務員 | 一般の労働者 |
---|---|---|
約124日 | 約126日 | 約115.3日 |
さらに一般の労働者と同様に、公務員は有給休暇に該当する年次有給休暇が取得できます。年次有給休暇の取得日数の平均は下記のとおりです。
国家公務員 | 地方公務員 | 一般の労働者 |
---|---|---|
約16.2日 | 約14.0日 | 約11.0日 |
出典:総務省ホームページ
国家公務員がもっとも年次有給休暇取得日数が高いことから、比較的取得しやすい環境が整っていることがわかります。
公務員の解雇はどのようになっているか
公務員が不祥事を起こした場合、国家公務員法や地方公務員法に基づき、懲戒処分が行われることがあります。
具体的には懲戒処分には下記の4種類などがあり、不祥事の内容や重大性に応じて適切な処分が決定されます。
- 戒告
- 減給
- 停職
- 免職
たとえば、軽微な不祥事に対しては戒告や減給が適用されることが多く、より重大な違反があった場合には停職や免職が適用されます。
刑事事件を起こした場合、罰金刑の場合は略式起訴が行われることがあり、失職しない場合もありますが、執行猶予や実刑の場合は失職が避けられません。とくに、禁固以上の刑罰が下された場合、免職を適用させるよう公務員法で定められています。
公務員は国や地方全体の奉仕者としての責任を負っているため、社会的信頼を損なう行為に対しては厳正な処分が下されます。
公務員は労働基準法が適用されない代わりに公務員法の遵守が義務付けられている
公務員は、一般の労働者とは労働条件や業務における特性が異なることから、労働基準法が適用されません。
その代わりに国家公務員法および地方公務員法により、公務員一人ひとりの負担を軽減させつつ安心して働くための環境が提供されています。
具体的には、労働基準法と同様に1日における労働時間や労働時間を超えて残業した場合の、特別措置の内容などが含まれています。
公務員は、国や地方全体の奉仕者という責任を負っているため、公務員法の遵守が義務付けられているのです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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