• 作成日 : 2022年11月30日

社会保険の休業補償とは?金額や手続きについて解説

社会保険の休業補償とは?金額や手続きについて解説

休業補償給付とは、業務災害にあった従業員の生活の保護を目的とする社会保険(労働保険)の1つ、労災保険の制度です。企業として労働災害は軽視できない問題であり、労災事故を発生させない仕組みづくりのほか、被災した従業員への適切なサポートも求められます。ここでは、労災保険の休業補償給付の概要と必要な手続きについて解説します。

休業補償とは

休業補償と休業補償給付は目的は同じですが、支払われる根拠となる法律に違いがあります。休業補償と休業補償給付の関係から、その違いを見ていきましょう。

休業補償とは、業務上の怪我や病気によって従業員が療養のために働くことができず、賃金が支払われない場合に、企業が従業員に支払う災害補償のことです。労働基準法76条に定められており、企業には、過失がなくても平均賃金の60%を支払う義務があります。

一方、休業補償給付は、社会保険(労働保険)の1つである労災保険から支給される給付制度の1つです。業務上の怪我や病気によって療養のために働くことができず、賃金が支払われない場合に、休業4日目から働けない期間、従業員の生活の安定を図る目的で支給されます。給付金額は、労災保険法で定められた平均賃金に相当する給付基礎日額の60%です。別途、社会復帰促進等事業に基づく特別支給金として、給付基礎日額の20%が上乗せされます。

本来労働基準法では、業務が原因となって被災した労働者に対して災害補償を行うことを使用者に義務付けています。一方、労働者を1人でも使用する事業所には労災保険の加入が義務付けられており、被災した労働者は労災保険の給付を受けることも可能です。したがって、労働基準法の休業補償と労災保険の休業補償給付には密接な関係があるといえます。

労災保険の休業補償給付は休業4日目以降から支払われ、この保険給付が支払われる場合、企業は労働基準法に定める休業補償の補償責任が免除されます。しかし、休業3日目までは企業に労働基準法上の休業補償を行う義務があるため、平均賃金の60%の支払いが必要です。休業補償を支払わない場合、労働基準法違反として処罰の対象となることがあるので注意しましょう。

なお、労災保険の制度では、業務災害の場合は「休業補償給付」、通勤災害の場合は「休業給付」と呼び方を区別しています。業務災害と通勤災害の両者を対象とする場合には「休業(補償)給付」などと表記されることも覚えておくとよいでしょう。

休業手当との違い

休業手当は、企業の都合によって従業員を休ませた場合に、企業が従業員に支払う手当をいいます。休業手当は労働基準法第26条に定められており、企業は平均賃金の6割以上を支給しなければなりません。業績悪化による操業停止など、従業員を休業させることが企業の責任である場合に適用されます。

また、休業手当は賃金であり、給与と同じく所得税の対象です。企業の都合で休業させたにも関わらず休業手当を支給しない場合には、労働基準法違反として処罰の対象となることもあるので注意しましょう。

休業手当の詳しい計算方法についてはこちらもご覧ください。

傷病手当金との違い

傷病手当金とは、業務外の理由で病気や怪我のため休業した場合に支給される手当であり、健康保険の制度の1つです。傷病手当金の支給には医師の診断が必要であり、働くことができるにもかかわらず従業員の都合で休んでいる場合には、受け取ることができません。待機期間3日を経て、休業4日目以降が傷病手当金の支給対象となります。

雇用保険の給付にも傷病手当と呼ばれる似た名前の給付があるので注意しましょう。雇用保険の傷病手当は、企業を退職してハローワークで求職の申込をした後に、病気や怪我によって15日以上継続して職業に就けない場合に支給されます。

傷病手当について、詳しくはこちらの記事をご確認ください。


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休業補償給付の要件

休業(補償)給付を受け取るには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。

  • 業務上の事由、または通勤途中の傷病による療養であること
  • 労働することができない
  • 賃金の支払いを受けていない
  • 業務災害が発生してから3日間の待機期間を経過していること

休業(補償)給付は、療養中の休業期間の生活を保障するための給付です。怪我や病気が治ったあと、外科後処置のために休む期間や、軽易な作業が可能である場合には、給付の対象にはなりません。

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休業補償の支給額

支給される金額の計算方法は、休業1日目〜3日目を対象とする休業補償と、休業4日目以降を対象とする休業(補償)給付とで分けられます。

休業1日目~3日目

休業を開始してから3日間の期間は、待機期間と呼ばれます。この期間、労災保険からの給付はありません。ただし、仕事中に発生した業務災害に対しては、企業は労働基準法に基づき、休業補償として1日につき平均賃金の60%を支払わなければなりません。この場待期期間は、企業の公休や休日があっても関係なく、休業初日から3日目までの休業補償を行う必要があります。

通勤災害の場合は業務災害に該当しないため、待機期間の3日間は事業主に補償義務はありません。ただし、交通事故による災害などでは、原則として自動車損害賠償責任保険からの休業補償が受けられます。

休業4日目以降

休業(補償)給付と休業特別支給金をあわせた、1日の平均賃金の80%が支給されます。詳しい計算方法は下記の通りです。

休業(補償)給付 = 給与基礎日額の60% × 休業日数

休業特別支給金 = 給与基礎日額の20% × 休業日数

休業補償の受給可能期間

休業(補償)給付は、原則として傷病が治ゆして仕事ができるようになるまで受給可能です。この場合の「治ゆ」とは、これ以上治療をしても医療の効果が期待できず症状の改善が見られない「症状が固定した状態」をいいます。

療養を開始して1年6ヵ月経過し、怪我や病気が治っておらず、かつ傷病等級表に当てはまるほどの障害が残っている場合には、休業(補償)給付は傷病(補償)年金に切り替わります。その場合は、各等級に応じた日数分の年金(給付基礎日数の313日分〜245日分)が支給されます。あわせて、傷病特別支給金(一時金)や傷病特別年金(算定基礎日額の313日分〜245日分)も支給されます。

また、治ゆした後に一定の障害が残った場合には、障害の程度によっては障害(補償)一時金や障害(補償)年金の対象になることも覚えておくとよいでしょう。

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休業補償の手続き

休業(補償)給付は、原則として従業員本人が必要書類を所轄の労働基準監督署に提出します。労働基準監督署が請求書に記載された事業主の証明や医療機関の証明内容をもとに調査をしたのち、労災が認定されると厚生労働省より給付金が振り込まれます。以下、流れに沿って休業(補償)給付支給請求書の手続きを解説します。

従業員が労働基準監督署へ請求書を提出する

提出する請求書は、災害の種類によって異なります。

  • 労働災害:休業補償給付支給請求書(様式第8号)
  • 通勤災害:休業給付支給請求書(様式第16号6)

このとき、原則として請求書は従業員本人が作成することとなっていますが、怪我や病気の状態によって本人が作成するのが困難な場合には、企業が労災申請を手助けすることが法律によって義務付けられています。したがって、従業員本人が申請することができない場合には、企業で手続きを代行するケースが多いのが現状です。

なお、請求書には事業主と医師のそれぞれが記載する欄があります。「事業主証明」の欄は企業側で記入します。事業主が記入し、本人が必要事項を埋めた請求書を、通院先の医療機関に持っていき、医療機関の証明の記載を依頼しましょう。

労働基準監督署の調査と決定通知

事業主と医療機関の証明の内容をもとに、労働基準監督署が調査を行います。調査ののち、労災が認定されれば、休業補償の支払決定通知が従業員本人のもとに送付されます。申請してから決定通知が届くまでには、おおよそ1ヵ月程度かかるのが一般的です。しかし、怪我や病気の種類と程度によって調査にかかる期間は異なりますので、従業員から申請を依頼されたら早目に手続きをしましょう。

厚生労働省からの振込

支払金額が確定すると、給付金が厚生労働省から従業員本人に振り込まれます。なお、休業(補償)給付は非課税所得となります。そのため、休業(補償)給付が振り込まれても確定申告の必要はありません。

参考:No.1905 労働基準法の休業手当等の課税関係|国税庁

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雇用調整助成金とは

雇用調整助成金とは、景気変動や産業構造の変化などの経済上の理由から事業活動を縮小する企業が、休業・教育訓練・出向といった雇用調整を行った場合に、休業手当などの費用の一部を補償する目的で支給される助成金をいいます。

2020年より世界的に流行している新型コロナウイルス感染症によって、多くの企業が影響を受けています。そのため、政府は、新型コロナウイルス感染症によって事業活動などの縮小を余儀なくされた企業に対して、従業員へ支給した休業手当の一部を助成する雇用調整助成金(新型コロナ特例)を実施しています。

雇用調整助成金の金額は大企業・中小企業によって分けられています。助成率は、「解雇を行わず雇用を維持した場合」で、かつ条件に当てはまる場合には、最大で100%の助成率(1人1日あたりの上限は12,000円)となります。令和4年12月からは、中小企業でも最大90%の助成率(1人1日あたりの上限は9,000円)に変更されることが予定されており、その後も変更が予想されることから、申請する場合には最新情報を入手することが大切です。

参考:雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)|厚生労働省

休業補償は労働者を守る労災保険の制度

休業(補償)給付とは、業務上・通勤途中に発生した事故などにより怪我や病気で働けなくなった労働者を保護する社会保険(労働保険)の一つです。

従業員を一人でも雇用している企業は、かならず労災保険に加入しなければなりません。近年では、仕事のストレスからうつ病などメンタルヘルスの不調を訴える事例も増えており、企業は労災が発生しない環境整備を行うと共に、万一の場合に備えたサポート体制をつくることも求められます。

休業補償の要件や手続きを正しく理解し、もしものときには従業員が自らの権利を守ることができるサポート体制を整えるようにしましょう。

よくある質問

休業(補償)給付と休業手当の違いは?

休業(補償)給付は、業務災害・通勤災害などの怪我や病気を理由に休業する従業員に対して給付される労災保険の制度です。休業手当とは、企業の都合で従業員を休ませた場合に支払う手当をいいます。詳しくはこちらをご覧ください。

休業(補償)給付はいくら支給される?

休業補償給付と休業特別支給金をあわせた金額として、1日の平均賃金に相当する給付基礎日額の80%が支給されます。企業の休日と関係なく、最初の3日間の待期期間を除き、休業した合計日数に対して支払われます。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

監修:加治 直樹(経営労務コンサルタント)

銀行に20年以上勤務し、融資融資から資産運用、年金相談まで幅広く相談業務の経験あり。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタント。退職後、かじ社会保険労務士事務所として独立。現在は行政で企業及び労働者の労働相談業務を行いながら、セミナー講師など幅広く活動中。

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