• 更新日 : 2024年8月29日

諭旨解雇とは?意味や懲戒解雇との違い、手続きや退職金について解説

懲戒処分には、減給、出勤停止、降格などいくつかの種類がありますが、懲戒解雇の次に重い処分が諭旨解雇や諭旨退職です。諭旨の読み方は「ゆし」であり、諭旨解雇や諭旨退職は、いずれも諭(さと)して退職させる処分になります。

諭旨解雇の意味や何をしたら該当するのか、手続きの流れ、退職金や雇用保険(失業保険)との関係について解説します。

諭旨解雇とは?

諭旨解雇とは、懲戒処分の中でも2番目に重い処分で、懲戒解雇と同等の事由があるものの、その情状を酌量し、処分を若干軽減して解雇することです。諭旨解雇の「諭旨」は「ゆし」と読み、その趣旨や理由を諭(さと)して告げることを意味します。懲戒解雇は使用者が一方的に処分を下しますが、諭旨解雇は労働者と話し合って、使用者と労働者がお互いに納得した上で解雇する処分になります。

諭旨解雇と同じような処分に諭旨退職がありますが、諭旨退職は退職届を提出するように勧告をした上で、直ちに従わない場合は懲戒解雇をすることをいいます。諭旨退職や諭旨解雇の処分の方法について法律に定義があるわけではなく、その事由についても企業ごとに任意で定めることができます。退職とするか解雇とするかの違いはあるものの、両者の位置付けは同じであり、就業規則にはいずれか一方の処分しか設けないのが一般的です。

諭旨解雇と懲戒解雇との違い

懲戒解雇は、企業の秩序を維持するための制裁罰である懲戒処分の中でも最も重い処分です。したがって、使用者は一方的に処分を下し、退職金が支払われないこともあります。一方諭旨解雇は、懲戒解雇を若干軽減した処分となりますので、退職金の一部が減額になることがあるものの、退職金が支払われるのが一般的です。

諭旨解雇は懲戒処分で2番目に重い

諭旨解雇は、懲戒解雇の中で2番目に重い処分です。懲戒処分の種類は企業で任意に定めることができますが、処分の重い順に「懲戒解雇」「諭旨解雇・諭旨退職」「降格」「出勤停止」「減給」「けん責・戒告」があります。

解雇処分イメージ図

諭旨解雇に該当する具体例

諭旨解雇に該当する具体例を見てみましょう。

諭旨解雇に該当する具体例

諭旨解雇に該当する事由は、ほとんど懲戒解雇と同じです。代表的なものとして以下の事由があげられます。

  • 社内で横領・窃盗・業務違反行為を行った場合
  • 暴行・脅迫・企業の名誉棄損・信用棄損などの行為を行った場合
  • 酒酔い運転・酒気帯び運転ほか、交通法の違反行為を行った場合
  • 職務上の地位の不正利用・不当な利益供与を受けた場合
  • ハラスメント行為(セクハラ、パワハラ、マタハラなどのハラスメント行為)を行った場合
  • 複数回の無断欠勤や遅刻行為を行い改善しない場合
  • 企業機密情報・顧客や従業員などの個人情報の漏えいをした場合
  • 社外での悪質性が高い犯罪行為(窃盗、詐欺、恐喝、痴漢、不同意わいせつなど)を行った場合

諭旨解雇に該当する例は、上記事由に限定されるものではありません。就業規則で企業が任意で定めることができます。いずれも企業の秩序を乱し、信用を損なうような行為や業務に悪影響を及ぼすような行為、損害を与える行為の中でも重大なものが該当すると考えればよいでしょう。

近年ではハラスメント行為を厳しく処分する企業が増えています。また企業の業種や取り扱う商品やサービスによっても、処分の重さは異なります。例えば金融機関などではわずかな金額でも横領すれば厳しい処分が下されるでしょう。また、システム会社やIT企業のように顧客情報や個人情報を多く取り扱う企業では、情報漏えい事件は報道で取り上げられるほどの大問題となります。

諭旨解雇の要件

諭旨解雇の処分を下すためには、以下の要件を満たす必要があります。それぞれの要件について解説します。

就業規則に定められていること

企業が懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒処分の規定を設け、懲戒処分の種類や懲戒事由を定めておく必要があります。企業が従業員に処分を下すことができるのは、就業規則が有効に定められていることが前提です。就業規則に合理的な理由を定め、従業員に周知することで労働契約の内容とすることができます。つまり、諭旨解雇について就業規則の定めがなければ、企業は処分を下すことができないことになります。

懲戒事由に該当すること

懲戒事由に該当しなければ、当然ながら諭旨解雇をすることはできません。そのため、就業規則の懲戒規定では、できるだけ具体的に懲戒事由を定めておく必要があります。

懲戒権・解雇権の濫用に当たらないこと

従業員から解雇無効で訴えられて、諭旨解雇が懲戒権の濫用や解雇権の濫用に該当すると判断された場合、就業規則に基づき諭旨解雇を行ったとしても、裁判などで無効とされることがあります。労働契約法15条では、懲戒について以下のように定めています。

(懲戒)

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

引用:労働契約法 | e-Gov法令検索

つまり、就業規則に懲戒規定が定められていて懲戒事由に該当するため諭旨解雇ができるとしても、正当な手続きを経て妥当な処分の重さとしなければ、無効となるのです。諭旨解雇が認められるかどうかは、裁判になれば司法の判断に委ねられることになります。

諭旨解雇の手続きの流れ

諭旨解雇が有効となるためには、就業規則に懲戒規定に該当し、懲戒権の濫用に当たらないことが必要です。実際に従業員を処分をしなければならない事案が発生した際の諭旨解雇の手続きの流れについて見ていきましょう。

諭旨解雇の手続きの手順

諭旨解雇の手続きの流れは以下のようになります。

  1. 違反行為の事実確認をする
    諭旨解雇の事由に該当する違反行為が事実であるかを調査し、実際にあったことを証明しなければなりません。証拠となる物証があれば事実確認は容易かもしれませんが、何も事実を証明するものがないと従業員本人が否定する可能性があります。従業員本人から事情を聴取するとともに、被害者や関係者などにも事情を聴取します。また、過去に繰り返し処分をして改善が見られないケースでは、その都度始末書を取るなど、書面で記録を残しておくのが有効です。
  2. 就業規則の懲戒規定で懲戒事由に該当するかを確認する
    違反の事実が確認できたら、違反行為が諭旨解雇の事由に該当するかを確認します。懲戒事由と照らし合わせて、処分の重さを判断します。
  3. 弁明の機会を設ける
    企業によっては、懲戒委員会などを設けて懲戒処分を決定するケースが多くあります。諭旨解雇では従業員から不当解雇を主張されることがあるため、弁明の機会を設け、公正に処分の重さを決定する必要があります。裁判などで争うことになった場合には、公平性の点で弁明の機会を与えていなかったことが不利になることもあります。
  4. 諭旨解雇の処分を下す
    違反行為の証拠や証言などから、最終的な決定を下します。事実と異なることがないか再確認し、慎重に判断しましょう。
  5. 懲戒処分通知書の交付する
    諭旨解雇も解雇の一種であり、労働基準法第20条の規定に沿って30日以上前に諭旨解雇の通知を本人に交付します。諭旨解雇は使用者と労働者がお互いに納得した上で解雇の処分を下す処分であり、本人の意思を確認するためにも合意書などを提出してもらうのがよいでしょう。

諭旨解雇を行う際の注意点

違反行為をした従業員を諭旨解雇にする場合の注意点について解説します。

処分が重過ぎることがないかを慎重に判断する

労働契約法15条では、懲戒について「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当性」であることを求めています。諭旨解雇は懲戒処分の中でも2番目に重い処分であり、従業員は退職させられることになります。

過去の従業員の功績から見て処分が重いということも考えられます。職場の人間関係の悪化や長時間労働によるストレス、病気を抱えていたなど、違反行為を起こした理由によっては、情状酌量の余地がないか、処分が重たすぎないかなど、事情があればその内容をよく検討し、慎重に判断する必要があります。

処分した理由を明確にして説明する

論旨解雇が懲戒解職を軽減した処分であるとはいっても、従業員にとっては不利益となる処分です。そのため、従業員が納得できなければ反論をされ、裁判などで無効を主張される可能性があります。

就業規則に明記されている懲戒事由に該当することを伝え、 諭旨解雇は懲戒解雇に該当する処分を軽くする処分であることをよく説明しましょう。当然ながら、懲戒解雇に相当する理由がなければ、諭旨解雇は行えません。

諭旨解雇の要件を確認し手続は確実に行う

諭旨解雇は懲戒解雇と同様、従業員に不利益が大きい処分であり、安易に処分を下せば訴訟リスクを抱えることになります。裁判で無効と判断されれば、多額の賠償を支払うことになるばかりか、企業の評判を落とし社外・社内の信用を失うことになりかねません。

諭旨解雇の要件は確実に押さえ、手続きに不備がないように慎重にことを運ぶ必要があります。自社のみで判断するのが難しいようであれば弁護士などの専門家に相談するのがよいでしょう。

諭旨解雇された場合、退職金や失業保険はどうなる?

従業員が諭旨解雇された場合、退職金や失業保険にどのような影響があるのかを見てみましょう。

退職金への影響

退職金がある企業の場合は、就業規則の懲戒規定に退職金の取り扱いについても明記する必要があります。懲戒解雇の場合は「退職金の全部または一部を支給しない」、諭旨解雇の場合は「退職金の一部を支給しないことがある」などと不支給や一部減額の規定を設けるのが一般的です。ただし、就業規則に退職金の不支給が一部減額の規定があるからといって退職金の不支給や減額ができるかは、別の問題です。退職金を不支給にしても、裁判などで支払いを命じられるケースがありますので注意しましょう。

失業保険への影響

懲戒処分は従業員の非違行為に対する秩序罰であり、その中でも2番目に処分が重いのが諭旨解雇です。そのため、雇用保険の基本手当は受け取れますが、離職理由はハローワークで判断することとなるため、諭旨解雇された理由によっては「労働者の責に帰すべき重大な理由による退職」と判断される可能性があります。

この場合、自己都合退職の取扱いと同様に給付日数は最大150日となり、1年間以上の加入期間が必要になります。また、給付制限期間も3ヶ月間となります。離職票作成の際には、諭旨解雇であることをありのまま説明し、ハローワークに相談するのがよいでしょう。

諭旨解雇に対して労働者が退職を拒否した場合の対処法

諭旨解雇の処分を受けた従業員が退職を拒否した場合は、懲戒解雇にするのが一般的です。しかし、諭旨解雇や懲戒解雇の処分を無効と主張し、損害賠償を請求するケースが考えられますので、諭旨解雇の要件を確認し、手続きの方法に間違いがないようにすることが重要です。訴訟となった場合には、弁護士に相談して対応してもらうのがよいでしょう。

訴訟リスクに備えた就業規則の整備と法律への理解が重要

諭旨解雇は、懲戒処分の中でも重い処分に該当します。懲戒解雇に相当する事由があるものの、その情状を酌量し、処分を若干軽減して解雇する懲戒処分の1つです。諭旨解雇の要件を確実に押さえ、手続きに不備がないように慎重にことを運ぶ必要があります。

従業員にとって重い処分なだけに、後日解雇無効を訴え訴訟になることも珍しくありません。企業としては、訴訟リスクに備えて事前に就業規則を整備し、法律をよく理解し、諭旨解雇をするまでの手続きのルールを明確に決めておくことが重要です。


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