- 更新日 : 2022年2月14日
社会保険と雇用の延長による在職老齢年金

年金制度は、国民が老後を迎えたとき、病気や怪我、家族が亡くなった場合などの生活保障のためにつくられています。
一般的には働いている間に社会保険に加入し、退職後、年金を受け取るというスタイルになります。
しかし、雇用期間の延長などにより、社会保険に加入しつつも年金を受給できる年齢を迎えるというケースがあります。
年金を受け取れる年齢ではあっても、ある程度の給与等による収入がある場合は、年金制度に頼ることなく生計を維持することが可能だと考えられるため、「しばらくは年金受給を延長してください」という制度があります。
それが在職老齢年金制度です。
目次
改正高年齢雇用安定法
平成25年4月より社会保険に加入している人の厚生年金保険の受給開始年齢が段階的に引き上げられることに対応し、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」が改正されました。この改正により、継続雇用、在職延長への道が大きく開かれました。
これまでは、労使協定を締結すれば継続雇用の対象者を限定することが認められていました。
しかし、厚生年金保険の受給開始年齢引き上げにより、定年退職後の数年間は年金がもらえず定年後の収入保障がない人が発生する可能性があるため、対象者を限定することが禁止されました。
改正後の継続雇用制度は、以下のとおりです。
■定年制度を設ける場合は、必ず60歳以上に定めなければならない
■定年を65歳未満に規定している会社は、以下の3つの措置からひとつを選び、実施しなければならない
1.定年年齢の引き上げ
2.希望者全員を対象とする継続雇用制度の導入
3.定年制の廃止
もちろん、妥当な解雇理由や退職事由がある場合には、雇用延長を行わず60歳で退職扱いにすることも可能です。
在職老齢年金
60歳以降でも社会保険に加入し続けている場合には、老齢厚生年金の全部または一部は支給されません。
在職老齢年金とは、60歳以降で老齢厚生年金を受給している人が、在職期間の延長により給与等の収入がある場合に年金の支給が停止される制度です。
給与等の額と老齢厚生年金額に応じて停止される額は異なり、一部停止の場合もあれば全額停止の場合もあります。なお、在職期間の延長後しばらくして会社を辞め、社会保険から抜けても、それまでの停止分が支給されるということはありません。
65歳未満の在職老齢年金制度(低在老)
在職老齢年金制度は、65歳未満の場合と65歳以上の場合では支給停止方法が異なり、65歳未満の在職老齢年金制度を低在老といいます。
支給停止が行われない場合
在職老齢年金制度による支給停止は、老齢厚生年金の本体である部分(報酬比例部分・定額部分)について行われ、加給年金額は対象外です。
本体部分が一部支給停止されても、加給年金受給額に変更はありません。
ただし、支給停止範囲が本体部分の全額である場合には、残念ながら加給年金も受け取れなくなりますので、注意が必要です。
なお、老齢厚生年金の基本月額(加給年金額を除く)と総報酬月額相当額(標準報酬月額+平均賞与月額)との合計額が28万円を超えない場合は、支給停止にはなりません。
支給停止が行われる場合
基本月額と総報酬月額相当額との合計額が28万円を超える場合は、以下の額が支給停止されます。
(総報酬月額+基本月額-28万円)÷2
2.基本月額が28万円以下 かつ 総報酬月額相当額が46万円超
(46万円+基本月額-28万円)÷2+総報酬月額相当額-46万円
3.基本月額が28万円超 かつ 総報酬月額相当額が46万円以下
総報酬月額相当額÷2
4.基本月額が28万円超 かつ 総報酬月額相当額が46万円超
46万円÷2+(総報酬月額相当額-46万円)
なお、低在老においては、平成30年度は支給停止調整開始額が28万円、支給停止調整変更額が46万円です。賃金等の変動に応じて毎年改定されます。
65歳以上の在職老齢年金制度(高在老)
社会保険(厚生年金保険)の被保険者資格が70歳未満に引き上げられたことに伴い、在職期間を延長した65歳から69歳までの方に適用される新たな在職老齢年金制度が定められました。
これを高在老といいます。
なお、昭和12年4月2日以降に生まれた厚生年金被保険者で、平成19年4月以降に70歳に達し、なお働き続けている場合には、この高在老の要件で年金の支給停止が行われます。
支給停止が行われない場合
延長雇用となった場合でも、基本月額(加給年金額、経過的加算額、繰下げ加算額を除く)と総報酬月額相当額(標準報酬月額+平均賞与月額(70歳以上の場合は月額、賞与額に相当する額)の合計÷12)との合計が47万円を超えない場合には年金支給停止はされません。
支給停止が行われる場合
基本月額と総報酬月額相当額との合計が46万円超の場合は、以下の額が支給停止されます。
(総報酬月額相当額+基本月額-46万円)÷2
ただし、支給停止の場合でも老齢基礎年金は全額支給されます。また、全額支給停止の場合でも経過的加算の額および繰下げ加算額については支給停止されません。
まとめ
改正高年齢雇用安定法の施行により、今後、社会保険の加入と年金の受給が重なる労働者、つまり年金受給年齢を超えた雇用延長の増加が見込まれます。
会社から給与額などについての提示があった場合は、事前に支給停止額を把握しておくことが重要です。
対象年齢と受け取る年金額と給与等の額によりそれぞれ計算方法が異なるため、必ず確認しておきましょう。
また、60歳以降も社会保険に加入し続ける場合には、60歳到達時の社会保険被保険者資格の同時得喪手続が必要となります。
参考:在職老齢年金の支給停止基準額が平成29年4月1日より変更になりました|日本年金機構HP
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