• 更新日 : 2025年1月20日

変形労働時間制における週平均労働時間の計算方法は?

日ごとや週ごとの業務に繁閑の差がある場合には、変形労働時間制を活用することで、時間外労働時間や残業代の削減が可能になることがあります。当記事では、変形労働時間制の運用において重要となる週平均労働時間について解説します。正しく変形労働時間制を運用するヒントなども紹介するため、ぜひ参考にしてください。

そもそも変形労働時間制とは

変形労働時間制とは、週や月、年など一定期間ごとに設定された総枠のなかで、業務の繁閑に応じ、労働時間を調整する制度です。総労働時間を総枠のなかに納めることで、特定の週や日に法定労働時間を超過することも可能となります。業務の繁閑の差に対応するための制度で、労働時間の弾力的運用によって労働時間を短縮することを目的としています。

変形労働時間制は、採用する期間によって「1週間単位」「1カ月単位」「1年単位」に分けられます。それぞれの制度ごとに対象業種や採用要件が異なるため、制度ごとに解説します。

1週間単位の非定型的変形労働時間制

「1週間単位の非定型的変形労働時間制」は、日ごとに著しく繁閑の差が生じる業種において採用される変形労働時間制です。常時使用する労働者数が30人未満の小売や旅館、料理店、飲食店の事業において採用できます。

このような業種では、日ごとの業務に繁閑の差が生じやすく、あらかじめ予測したうえで、各日の労働時間を特定することが困難です。そのため、労使協定を締結することで、週40時間の枠内において、法定労働時間を超過する1日10時間までの労働が認められています。

なお、1週間単位の非定型的変形労働時間制には、後述する特例事業における労働時間の特例の適用がありません。そのため、必ず週の労働時間は40時間以内とする必要があります。

1カ月単位の変形労働時間制

「1カ月単位の変形労働時間制」は、1カ月以内の一定の期間を対象として運用される変形労働時間制です。対象となる期間において、週平均労働時間が40時間を超えない限り、特定の週や日に法定労働時間を超えた労働が可能となります。

1カ月以内の期間において、業務に繁閑の差が生じる業種に向いているのが変形労働時間制です。月次処理の時期が決まっている事務職や、月末セールなどを行う販売業などに向いている変形労働時間制といえるでしょう。

また、通常の週平均労働時間は40時間までですが、以下の業種に該当し、常時10人未満の労働者を使用する事業では週44時間までとなります。このような事業は「特例事業」と呼ばれ、週の法定労働時間が特例として44時間となるためです。

  • 商業
  • 映画・演劇(映画製作の事業除く)
  • 保健衛生
  • 接客娯楽

1カ月単位の変形労働時間制を採用するためには、労使協定を締結するか就業規則で定める必要があります。また、1カ月単位の変形労働時間制で派遣労働者を労働させるためには、派遣元において労使協定を締結するか就業規則に定めることが必要です。

1年単位の変形労働時間制

「1年単位の変形労働時間制」は、1年以内の一定の期間を対象として運用される制度です。対象期間を平均して、週平均労働時間が40時間を超えなければ、特定の週や日において法定労働時間を超えた労働が可能となります。年間を通して、繁閑の差が生じるスキー場やプール、旅館業などに向いている変形労働時間制です。

なお、1年単位の変形労働時間制においては、特例事業の労働時間の特例は適用されません。保健衛生や商業の事業で、常時10人未満の労働者を使用する場合であっても、1年単位の変形労働時間制を採用する場合には、週平均労働時間を40時間以内にしましょう。

1年単位の変形労働時間制を採用するためには、1週間単位の変形労働時間制と同様に、労使協定を締結する必要があります。1カ月単位の変形労働時間制のように、就業規則の定めによる採用は認められません。また、派遣労働者に1年単位の変形労働時間制を適用するためには、派遣元において労使協定を締結する必要があります。

週平均労働時間の計算方法

変形労働時間制を採用する場合には、週平均労働時間を40時間(44時間)以内に収める必要があります。週平均労働時間が40時間を超過していないかを判断するためには、対象となる期間における法定労働時間の総枠(上限)を計算しなければなりません。法定労働時間の総枠の計算式は、以下の通りです。

40時間×対象期間の暦日数÷7=対象期間における法定労働時間の総枠

たとえば、1カ月単位の変形労働時間制を採用し、対象期間の暦日数が28日であった場合には、以下のようになります。

40時間×28日÷7=160時間

28日間における労働時間の合計が160時間を超えていなければ、週平均労働時間が40時間を超過していないと判断可能です。この160時間の枠内において、日ごとや週ごとの労働時間を弾力的に調整することになります。次のような労働時間を設定したケースで考えてみましょう。

  • 第1週労働時間:35時間
  • 第2週労働時間:35時間
  • 第3週労働時間:50時間
  • 第4週労働時間:40時間

上記のケースでは、第3週において週の法定労働時間である40時間を超過しています。そのため、本来であれば許されない労働時間の設定です。しかし、1カ月単位の変形労働時間制を採用したことで、弾力的な労働時間の運用が可能となりました。

上記ケースにおける週平均労働時間は、以下のように計算できます。

160時間(期間における合計労働時間)÷4(週数)=40時間

週平均労働時間が40時間を超過していないため、特定の週において法定労働時間を超過する労働時間の設定が認められるわけです。なお、週数は採用する変形労働時間制ごとの暦日数によって異なります。計算式は、次のようになります。

対象期間の暦日数÷7

上記のように計算できるため、1カ月単位の変形労働時間制の場合における暦日数ごとの週数は、以下のようになります。

  • 28日:4.000週
  • 29日:4.143週
  • 30日:4.286週
  • 31日:4.429週

上記の週数で期間における労働時間の合計を除すことで、週平均労働時間を計算可能です。この数字が40以下でなければ、変形労働時間制は採用できません。なお、1年単位の変形労働時間制では52.14(うるう年では52.29)が週数となります。

1カ月単位の変形労働時間制を採用する場合における暦日数ごとの法定労働時間の総枠は、以下の通りです。なお、括弧内は特例適用事業の場合となります。

  • 暦日数28日:160時間(176時間)
  • 暦日数29日:165.7時間(182.2時間)
  • 暦日数30日:171.4時間(188.5時間)
  • 暦日数31日:177.1時間(194.8時間)

1年単位の変形労働時間制を採用する場合の法定労働時間の総枠は、以下の通りです。

  • 365日:2085.7時間
  • 366日:2091.4時間

1年単位の変形労働時間制を採用する場合には、上記の法定労働時間の総枠のなかで、日ごとや週ごとの労働時間を調整します。ただし、1日の労働時間は10時間を超えてはならず、1週間の労働時間の限度は52時間までです。また、対象期間が3カ月を超える1年単位の変形労働時間制では、以下のような制限を受けます。

  • 1年あたりの労働日数が280日以内
  • 労働時間が48時間を超える週の連続が3以下
  • 対象期間の初日から3カ月ごとに区分した各期間で、労働時間が48時間を超える週の初日の数が3以下

週平均労働時間の計算における端数処理の方法

変形労働時間制における法定労働時間の総枠を計算する際には、小数点以下の数字が発生します。この際に端数処理をどのように行うかに特段の定めはありません。そのため、小数点何位までを有効とするかは企業の自由です。

しかし、労働者の不利となるような端数処理は認められていないため、切り上げる処理はできません。切り上げ処理を行えば、総枠が増えてしまい、時間あたりの給与が下がってしまうからです。一方の切り捨て処理は、時間単位の給与が上がるため、問題ないとされています。そのため、計算において端数が生じた場合には、労働者の不利益とならないように、そのままとするか切り捨てるかを選択しなければなりません。

一方で、週平均労働時間は、実際の計算結果が40時間以内であることが必要です。法定労働時間の総枠のように切り捨て処理を行えば、不正確な数字となってしまうため、そのままとしなければなりません。

週平均労働時間をエクセルで自動計算する方法

法定労働時間の総枠や、週平均労働時間を手計算する場合には、どうしてもミスが生じてしまいます。そのような場合には、エクセルで集計を行うとミスを減らせます。たとえば、1日における勤務時間が、D2からD22までのセルに入力されていたとしましょう。 その場合には、期間内における合計勤務時間を表示すべきセルに「=SUM(D2:D22)」のような数式を入力します。このようにすれば、Enterキーを押すだけで、労働時間の集計が容易にできます。集計結果と法定労働時間の総枠を比較し、超過していないことを確認しましょう。

サム関数を用いれば、対象期間の合計労働時間を自動で計算してくれるため、作業の手間も省け、計算ミスも防止できます。エクセルにはオートサム機能が搭載されているため、不慣れな人であってもミスなく計算できるでしょう。

週平均労働時間が40時間を超えるとどうなる?

変形労働時間制は、対象となる期間を平均して週40時間以内に労働時間を収める制度です。しかし、当初の予定からずれが生じ、週平均労働時間が40時間を超えてしまう場合もあります。そのような場合には、定められた法定労働時間の総枠を超過していることになり、その部分は時間外労働時間として割増賃金の対象となります。

また、変形労働時間制における時間外労働は、法定労働時間の総枠を超過した部分だけではありません。変形労働時間制において、割増賃金の対象となる時間外労働時間は以下のようになります。

  1. 1日において8時間を超える労働時間を設定した場合には、その超える部分、それ以外の日においては8時間を超えた部分
  2. 1週において40時間を超える労働時間を設定した場合には、その超える部分、それ以外の週においては40時間を超えた部分※1で把握した部分除く
  3. 法定労働時間の総枠を超える部分※1、2で把握した部分除く

変形労働時間制における時間外労働時間は、上記のような考え方に基づき計算されます。法定労働時間の総枠に収まっていても、時間外労働が発生する可能性もあるわけです。

週平均労働時間の自動計算ツール

法定労働時間の総枠や週平均労働時間、時間外労働となる時間など、変形労働時間制では多くの計算が必要です。それらを手作業で計算すると、大変な労力が必要なだけでなく、ミスも発生します。下記のようなツールを活用して、計算の労力とミスを減らしましょう。

参考:時間外労働時間計算ツール(原則・1カ月単位変形制)|社労士Tools

上記のほかにも、1年単位の変形労働時間制における時間外労働時間計算ツールや、変形労働時間制カレンダー作成ツールなども公開されています。

変形労働時間制運用時は週平均労働時間に注意

変形労働時間制は、弾力的な運用による労働時間の削減に有効な手段です。しかし、採用する際には、週平均労働時間を40時間以内に収めることに注意しなければなりません。法定労働時間の総枠との関係や、時間外労働時間の扱いなどにも注意が必要となるため、当記事の解説を参考に適切な運用を心掛けてください。


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