• 更新日 : 2023年4月7日

2022年1月の電子帳簿保存法の改正で人事労務分野が対応すべきことを解説

税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とする法律「電子帳簿保存法」が2021年に改正されました。法改正によって、人事労務分野はどのようなことに対応しなければならないのでしょうか。
この記事では、電子帳簿保存法の概要や改正内容や人事が対応すべきこと、対象となる書類、雇用契約の電子化について解説します。

電子帳簿保存法とは

そもそも電子帳簿保存法とは、法人税法所得税法の帳簿や書類を電子データで保存することを認める法律です。法令上、国税関係の書類は紙で保存することが原則とされています。しかし、紙での保存は保管作業や保管スペースが必要となるので、人事労務担当者の業務負担や会社のコスト負担が課題とされていました。

この状況を受け、保存処理にかかわる負担やコストを低減するために、1998年に電子帳簿保存法が施行されたのです。当初は適用要件が厳しく導入のハードルが高かったものの、要件緩和が繰り返され、現在は導入する企業が増えつつあります。

電子帳簿保存法は以下の3つに区分されます。

  • 電子帳簿保存
    会計ソフトなどパソコンを使用して電子的に作成した帳簿書類を電子データのまま保存できるものです。対象となる帳簿は、仕訳帳総勘定元帳、経費帳、売上帳、仕入帳などとなっています。対象となる書類は、損益計算書貸借対照表などの決算関係書類および見積書請求書納品書領収書 などの写しです。いずれも「自身でパソコンを使用して作成したもの」でなければなりません。
  • スキャナ保存
    一定の要件を満たせば紙で受領した国税関係帳簿書類をスキャナで電子データにして保存できるものです。対象となる書類は、取引先相手から受け取った書類や自身で作成して取引相手に交付する書類の写しです。後者は契約書や見積書、注文書、納品書、検収書、請求書、領収書などが挙げられます。電子データ化するスキャナは解像度と色調の要件を満たせばスマホやカメラでも問題ありません。
  • 電子取引
    請求書や領収書、契約書、見積書など紙の場合に保存が必要な情報が含まれる電子データををメールやインターネットを介してやりとりしたものを指します。電子取引では、受け取った場合だけでなく、送った場合も請求書や領収書などの必要な情報が含まれている電子データを保存する義務があります。

電子帳簿保存法について、詳しくはこちらの記事を参照ください。

参考:電子帳簿保存制度特設サイト|国税庁

電子帳簿保存法の2022年1月改正

令和4年(2022年)1月に電子帳簿保存法が改正されました。改正法では、以下が変更されています。

  • 事前承認が不要に
    電子帳簿保存・スキャナ保存において、国税関係帳簿書類を電子データで保存する場合は事前に税務署長の承認が必要とされていましたが、不要になりました。
  • タイムスタンプ要件が緩和
    電子取引とスキャナ保存において、タイムスタンプの付与期間が最長約2か月と概ね7営業日以内に緩和されました。スキャナ保存については、入力期間内に電子データの訂正・削除を行いその事実をクラウド上で確認できる場合はタイムスタンプの付与が不要になりました。
  • 検索要件の緩和
    スキャンしたデータや電子データの保存は、検索機能を付けることが義務付けられていて、改正前は多くの検索項目が設けられていました。改正後は検索項目は「取引年月日」「金額」「取引先」のみに緩和されました。
  • 適正事務処理要件が廃止
    改正前は不正防止のために電子帳簿保存に関する社内規程の整備や2名以上での対応などが義務付けられていましたが、会社や担当者の負担を軽減するために廃止されました。
  • 電子取引の書面への出力保存が認められなくなり、電子保存が義務化
    改正前は、国税関係書類に関する電子取引によるデータの保存は、紙に印刷して保存することも認められていました。改正後は紙による保存は不可で、電子データでの保存が義務化されました。なお、急な対応が難しい事業者への措置として、令和5年(2023年)12月31日までに行う電子取引については書面への出力保存が認められています。

電子帳簿保存法の改正について、詳しくはこちらの記事を参照ください。

参考:電子帳簿保存法が改正されました|厚生労働省

電子帳簿保存法の改正を受けて人事が対応すべきこと

法改正に伴い、人事は次のような対応をする必要があります。

書類の分類

まずは自社でどのような電子取引があるのかを把握し、リストアップしましょう。取引書類を把握したら以下の項目を確認してください。

  • PDFやFAX複合機など取引先ごとにどのような方法で受け取っているか
  • 受け取ったものはどこでどうやって保存しているか
  • 月間および年間でどのくらいの件数があるのか

あまりにも取引書類が多い場合は請求書や領収書など件数が多い書類から電子化することがポイントです。

書類が分類できたら、社内サーバーのフォルダや電子帳簿保存法対応のシステムをの活用など保存場所・保存方法を決めます。紙での保管と電子の保管が混在すると業務の煩雑化につながるので、取引時に帳簿書類を紙で送ってくる取引先には電子データのみにしてもらえるよう交渉しましょう。

業務フローの見直し

今後、請求書や見積書を紙に印刷して押印・回覧することはできなくなります。電子的に帳簿書類を承認できるように承認フローや業務フローを見直しておきましょう。紙を見ながらの支払業務も行えなくなることを見据えて、電子請求書の受領時のフローだけでなく、支払業務フローの見直しも検討しておくと良いでしょう。

電子帳簿保存法への対応はもちろん、テレワークや郵政法改正、インボイス制度も考慮し、請求書発行フローの見直しも推奨します。

タイムスタンプの付与

そもそもタイムスタンプとは、ある時刻にそのデータが存在していて、その時刻以降データが改ざんされていないことを証明する技術のことです。法改正によってタイムスタンプの付与は必須要件ではなくなりましたが、入力・訂正・削除の日付が改ざんされていないことを証明できない場合は、タイムスタンプを付与しなければなりません。

タイムスタンプを付与できるようにするためには、電子帳簿保存に適した文書管理システムの導入が必要となります。

タイムスタンプについて、詳しくはこちらの記事を参照ください。

電子帳簿保存法の改正において人事労務分野で対象となる書類

法改正で人事労務で対象となる書類は以下の通りです。

  • 労働条件通知書
  • 社労保険・労働保険に係る書類

社会保険・労働保険に係る書類については、資本金などが1億円を超える法人、相互会社、投資法人、特定目的会社などの会社が対象です。中小企業で対象となる企業は少ないものの、将来対象企業が拡大されることを想定して、電子化を視野に入れておく必要があるでしょう。なお、中小企業などで人事総務が1つの部署になっている場合は、労働通知書に加えて領収書や注文書などの帳簿書類の電子化への対応も行わなければなりません。

雇用契約の電子化

そもそも雇用契約書とは、雇用主と労働者の間で交わされる労働契約の内容を明らかにする書類のことです。前述した労働条件通知書とは、給与・就業場所・勤務時間・業務内容・昇給・退職など、雇用主から労働者に通知義務のある労働条件について記載した書類を指します。

混同されがちですが、雇用契約は法的な作成義務がないのに対し、労働条件通知書は書面(電子データを含む)で労働者へ交付することが法的に義務付けられているという点で異なります。通知義務のある労働条件について記載していれば、雇用契約書と労働条件通知書を1枚の書類にすることも可能です。

労働条件通知書は原則として書面交付ですが、以下の要件を満たせば電子交付が認められています。

  • 労働者がFAXや電子メールでの交付を希望していること
  • 本人のみ閲覧できるように送信すること
  • 紙に印刷できる状態であること

労働条件通知書を電子化することでオンラインでの契約が可能になり、管理コストや事務コストの削減にもつながります。この機会に労働条件通知書の電子化への対応準備をしておきましょう。

労働条件通知書について、詳しくはこちらの記事を参照ください。

改正電子帳簿保存法に対応するために早めの準備を!

電子帳簿保存法の改正によって、一定の条件を満たすことで労働条件通知書の電子化が認められるようになりました。人事労務の担当者は労働条件通知書を電子化できるように、準備しておく必要があります。人事労務で領収書や注文書などを管理している場合は、改正内容を確認し、電子保存に向けて書類の分類や業務フローの見直し、システムの導入などを行いましょう。

よくある質問

電子帳簿保存法の改正で人事が対応すべきことは?

電子化する書類の分類、各種業務フローの見直し、タイムスタンプの対応です。詳しくはこちらをご覧ください。

労働条件通知書の電子化とは?

労働者が電子データでの交付を希望した場合、労働条件通知書をFAXや電子メールで交付することです。詳しくはこちらをご覧ください。


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