• 更新日 : 2024年3月19日

退職金制度とは?中小企業の相場や計算方法、税金について解説

退職金制度とは?中小企業の相場や計算方法、税金について解説

退職金制度は、法律で義務づけられていませんが、一般的に日本ではあって当たり前と認識されているようです。従業員の長期勤続を促し、企業と従業員の双方にメリットをもたらす重要な福利厚生の一つであるといえるでしょう。本記事では、退職金制度の基本から、中小企業における相場、計算方法のほか、税金の扱いについて、人事担当者が知っておくべき情報を解説します。

退職金制度とは?

退職金制度とは、広義には従業員が退職する際に、その勤務年数や業績に応じて支払われる一時金のことを指します。

退職金制度の目的

退職金制度の目的については複数の学説がありますが、退職金制度によって従業員の長期勤続を促進し、企業にとっては人材の定着率向上やモチベーションの維持に貢献することは間違いありません。制度の具体的な支払い条件や計算方法は企業によって異なり、一般的には勤続年数が長いほど、また、職位が高いほど多くの退職金が支払われる傾向にあります。

データで見る退職金の実施状況

厚生労働省の調査によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業割合は 74.9%となっています(「令和5年就労条件総合調査」)。企業規模別に見ると、「1,000 人以上」が 90.1%、「300~999 人」が 88.8%、「100~299 人」が 84.7%、「30~99人」が 70.1%となっており、調査からは、企業の規模によって大きく異なることが統計から読み取れます。

参考:令和5年就労条件総合調査|厚生労働省

中小企業の退職金の相場はどれぐらい?

大企業に比べて退職金制度の導入割合が低い状況にある中小企業ですが、支給されている退職金の相場はどのくらいなのでしょうか。

東京都では、従業員が10人~299人の都内中小企業を対象とした退職金について調査を実施したうえで、モデル退職金を公表しています(「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」)。

これによると、モデル退職金(学校を卒業してすぐ入社した方が普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準)は、定年時の場合、高校卒が 9,940 千円、高専・短大卒が 9,832 千円、大学卒が 10,918 千円であるとしています。

参考:中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)|東京都産業労働局

退職金の種類

一言で退職金といっても、種類は多岐に渡ります。ここでは、退職一時金制度、確定給付企業年金制度、企業型確定拠出年金制度、中小企業退職金共済を解説します。

退職一時金制度

退職一時金制度は、従業員が退職する際に企業から一括で支払われる退職金の形態です。支給額は、勤続年数や役職、企業の業績などに基づき算出されることが一般的です。この制度の特徴は、退職時にまとまった金額が支払われることにあり、従業員にとっては老後の資金確保や再就職までの橋渡し資金としての役割を果たします。企業側にとっても、長期間の勤務に対する報酬として、または従業員のモチベーション維持・向上の手段として活用されています。制度の詳細は企業ごとに異なり、退職金の基準や計算方法は就業規則で定められます。

確定給付企業年金制度

確定給付企業年金制度(DB制度)は、退職後の年金給付額が事前に確定されている企業年金制度です。給付額は、従業員の平均給与額、勤続年数などに基づいて計算され、企業がその支払いを保証します。この制度は、従業員が退職後も安定した収入を得られることを目的としており、受給資格を得るための勤続年数など、一定の条件が設けられています。確定給付企業年金は、従業員にとっては老後の生活の安定に寄与する一方で、企業には長期的な資金計画や運用リスクが発生します。

企業型確定拠出年金制度(企業型DC)

企業型確定拠出年金制度(企業型DC)は、従業員や企業が拠出した資金を元に、従業員自身が年金資産の運用を行う制度です。拠出額は確定していますが、受け取る年金額は投資の成果によって変動します。この制度は、従業員が自らのリスク許容度に応じて運用商品を選択できるため、自己責任に基づく資産形成を促します。また、企業にとっては、将来の給付責任を明確に把握できる利点があります。退職金としての一時払いや、退職後の年金受給としての利用が可能です。

中小企業退職金共済(中退共)

中小企業退職金共済(中退共)は、中小企業の従業員を対象とした退職金制度で、中小企業退職金共済機構が運営しています。加入企業が拠出した共済金に基づき、従業員が退職時に退職金を受け取ることができます。この制度は、中小企業でも従業員に安定した退職金を提供できるように設計されており、企業の負担を軽減しつつ従業員の福利厚生を支援することを目的としています。

中退共は、加入企業に対して退職金の支払いを保証することで、中小企業の経営安定にも役立ちます。また、従業員は比較的低いコストで退職金制度のメリットを享受できるため、企業の人材確保や従業員満足度の向上に効果的です。中退共は、特に退職金制度の設立や運営資金が限られている中小企業にとって、有効な支援策となっています。

退職金の計算方法

では、退職金の金額はどのように算出されるのでしょうか。退職一時金制度と中退共の退職金共済制度の2つについて取り上げます。

退職一時金制度

退職一時金制度における算出方法は、企業によって異なります。

具体的には、

  • 退職金算定基礎額×支給率
  • 退職金算定基礎額×支給率+一定額
  • 勤務年数に応じた一定額
  • ポイント制(退職金ポイント×ポイント単価)

などがあります。

先の「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」によると、「退職金算定基礎額×支給率」と回答した企業が約40%で最も多く、次が「勤務年数に応じた一定額」で25%としています。

なお、上記の各算出方法における退職金算定基礎額の算出方法もさまざまです。

  • 退職時の基本給
  • 退職時の基本給×一定率
  • 退職時の基本給+手当
  • (退職時の基本給+手当)×一定率
  • 別テーブル方式

などの方法があります。

こちらについても、調査によると中小企業においては、「退職時の基本給」が45%を占め、次いで「退職時の基本給×一定率」が約30%であるとしています。

退職金共済制度

中小企業退職金共済(中退共)の計算方法は、加入している共済プランに基づいて定められます。企業が毎月共済機構に拠出する共済金(掛金)の額と勤続年数によって、退職金の総額が計算されます。共済金は、従業員一人あたりの月額給与の一定割合や、固定額で設定されることが一般的です。退職金の具体的な計算式は共済機構によって定められており、通常、「共済金額×勤続年数」で算出されます。中退共は、特に資金調達が難しい中小企業において、従業員に安定した退職金を提供するための有効な手段となっています。

退職金にかかる税金の計算方法

特別所得税の源泉徴収税額の計算方法(令和5年分)の手順と具体例についてみていきましょう。

退職金の税額計算の手順

退職金の税額計算は、次のような流れになります。

① 退職金の額から「退職所得控除額※1」を差し引いた額に2分の1を乗じて「課税退職所得金額」を算出します。

(退職金の額-退職所得控除額)×2分の1=課税退職所得金額

② この「課税退職所得金額」に所得税の税率を乗じて控除額を差し引いた残りの金額が所得税額(基準所得税額)となります。

課税退職所得金額×所得税の税率※2-控除額=所得税額(基準所得税額)

③「所得税額(基準所得税額)」と「所得税額(基準所得税額)」に2.1%を乗じた金額(復興特別所得税額)を合算した金額が所得税及び復興特別所得税となり、退職金から源泉徴収されることになります。

所得税及び復興特別所得税の源泉所得税額=所得税額(基準所得税額)+所得税額(基準所得税額)×2.1%

「退職所得控除額」の2つの区分に注意

退職金の税額計算は、上記の手順を踏むことになりますが、※1の「退職所得控除額」については、次のように退職する従業員の勤続年数によって2つに区分されています。

勤続年数20年以下の場合

退職所得控除額=40万円×勤続年数

勤続年数20年超の場合

退職所得控除額=800万円+70万円×(勤続年数-20年)

なお、勤続年数に1年未満の端数があるときは、たとえ1日でも1年として扱います。また、計算した金額が80万円未満の場合、退職所得控除額は80万円となります。

退職金計算の具体例

例えば、30年間勤務した従業員が退職時に退職金2,500万円を支給されることとなった場合、次のような手順で計算します。

① 退職所得控除額は勤続年数が20年超で、
退職所得控除額は、「800万円+70万円×(勤続年数-20年)であるため、
800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円

② 課税退職所得金額は、「(退職金の額-退職所得控除額)×2分の1」であるため、
(2500万円-1,500万円)×2分の1=500万円(1,000円未満端数は切捨て)

③ 所得税額(基準所得税額)は、「所得税及び復興特別所得税の源泉所得税額」であるため、
課税退職所得金額×所得税の税率※2-控除額※3

※2の所得税の税率と※3の控除額は、課税退職所得金額によって「所得税の税額表」によって決められています。令和5年の場合、所得税の税率は課税退職所得金額が500万円であれば20%、控除額は42万7,500円とされています。

したがって、500万円×20%-42万7,500円=57万2,500円

④ 所得税及び復興特別所得税の源泉所得税額は、「所得税額(基準所得税額)+所得税額(基準所得税額)×2.1%」であるため、
57万2,500円+(57万2,500円×2.1%)=58万4,522円

というわけで、源泉徴収される所得税及び復興特別所得税の源泉所得税額は、58万4,522円になります。

退職金制度を導入するメリット

退職金制度を導入する最大のメリットは、従業員のモチベーション向上と長期勤務の促進です。退職金の見込みがあることで、従業員は安定した将来を期待し、その結果、企業への忠誠心が高まります。また、安定した退職後の生活をサポートすることで、従業員の満足度と幸福感を向上させることができます。これにより、優秀な人材の確保と保持が可能になり、人材流出のリスクを減少させることができます。

さらに、退職金制度は従業員に対する企業の責任と配慮を示すことになり、社内外に良いイメージを与え、企業ブランドの向上にもつながります。結果として、これらの要因は企業の生産性向上に貢献し得る重要な要素です。

退職金制度を導入するデメリット

退職金制度を導入する主なデメリットは、企業にとっての財務負担の増加です。特に中小企業の場合、長期にわたる財務計画に退職金の支払いを組み入れることが経営上の大きな負担となり得ます。また、退職金の額が大きくなるほど、企業が抱える財務リスクも高まります。経済状況の変化や業績の悪化が起こった場合、退職金の支払いが経営を圧迫する可能性があります。

さらに、退職金制度の運用には、制度設計や管理に関するコストがかかり、これらのコストは企業の利益を圧迫する要因となることもあります。退職金制度が従業員の早期退職を促す場合もあり、特に制度が十分に検討されず適切に管理されていない場合、企業の人材流出を加速させる恐れもあります。

適切な退職金制度で従業員満足度と企業成長を実現しよう!

退職金制度の基本から、中小企業における相場、計算方法のほか、税金の扱いについて解説しました。退職金制度の導入は、中小企業にとっても従業員のモチベーション維持や人材流出防止に大きな効果があります。

退職金制度のメリットとデメリットを慎重に検討し、企業文化や財務状況に合わせた最適な制度を設計することが、従業員満足度と企業の成長のために不可欠であるといえるでしょう。


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