• 更新日 : 2024年11月15日

年末調整で税金がいくら返ってくる?年末調整しないとどうなる?

年末調整は、組織全体をまきこむ年末に向けた一大イベントです。ここでは「年末調整で税金が返ってくるのか」「確定申告と何が違うのか」「年末調整をしないと罰則はあるのか」といった疑問や、年末調整を効率よく行う方法、個人が忘れていた場合の対処法、所得金額調整控除について説明しています。

目次

年末調整で税金が還付になる理由

給与や賞与から天引きされる所得税は、概算の金額です。年末調整では、給与や賞与以外で支払った生命保険料等の各種保険料や確定拠出年金、家族の扶養状況に関する控除などを加味して、所得税の年税額を算出します。この年税額は、給与から源泉徴収した金額より少ないケースが多く、その場合は過納分の還付が行われます。

所得税額の計算方法

毎月の給与や賞与から源泉徴収される所得税等は、その年の最後に支払う際に年末調整によって精算します。

所得税額は、1月1日から12月31日までの1年間に得た給与総収入から給与所得控除や所得控除を差し引いた課税所得に税率を掛け算して求めます。

所得税額の計算方法

所得税にかかる税率は、所得の額が多くなるに従って段階的に高くなります。納税者の支払能力に応じて所得税を公平に負担する仕組みになっているのです。

国税庁のHPでは、段階的に複雑な計算を行わなくてもよいように所得税の速算表を公開しています。

◆所得税の速算表

課税所得金額(A)税率(B)控除額(C)税額=(A)×(B)-(C)
195万円以下5%(A)×5%
195万円超330万円以下10%9万7500円(A)×10%-9万7500円
330万円超695万円以下20%42万7500円(A)×20%-42万7500円
695万円超900万円以下23%63万6000円(A)×23%-63万6000円
900万円超1,800万円以下33%153万6000円(A)×33%-153万6000円
1,800万円超1,805万円以下40%279万6000円(A)×40%-279万6000円

※課税所得金額が1,805万円を超える場合は、年末調整の対象となりません。

参考:令和6年分 年末調整のしかた|国税庁、「令和6年分の年末調整のための算出所得税額の速算表

所得税額はこのような流れで求めます。

年末調整と確定申告の違いは何?

年末調整とは、源泉徴収で納付した年間の累計金額と、本来納めるべき年税額の過不足を、年末の給与で清算し、その年の所得税の納税を完了することをいいます。

一方の確定申告は、所得者自身が1年間の所得から税額を算出し、税務署に申告して納税する方法です。給与所得者の場合、原則として個人で確定申告する必要はありません。

ただし、給与収入が2000万円を超える場合や、給与以外の所得が20万円を超える場合など、給与所得者であっても確定申告が必要となる場合があります。

年末調整で税金が戻る所得控除の種類

年末調整を行う際には、以下のような控除を受けることにより税金が戻る場合があります。

控除の種類内容控除額
基礎控除納税者本人の合計所得金額により変動0円~48万円
配偶者控除控除対象配偶者の有無や年齢により変動16万円~48万円
配偶者特別控除納税者本人と配偶者の合計所得金額により変動1万円~38万円
扶養控除扶養親族の年齢、同居の有無により変動38万円~63万円
生命保険料控除生命保険料、介護保険料、個人年金保険料の支払金額により変動最高12万円
地震保険料控除地震保険料の支払金額により変動最大5万円
小規模企業共済等掛金控除小規模企業共済法に規定の共済契約の掛金等の支払金額により変動掛金の全額
社会保険料控除同一生計配偶者やその他の親族の社会保険料の支払金額により変動支払った金額の全額
障害者控除納税者本人、同一生計配偶者や扶養親族の障害の程度や同居の有無により変動27万円~75万円
ひとり親控除納税者がひとり親であるときに受けられる35万円
寡婦控除納税者が寡婦であるときに受けられる27万円
勤労学生控除納税者本人が勤労学生であるときに受けられる27万円

各々の詳細については、国税庁HP「年末調整」で確認してください。

参考:年末調整|国税庁

年末調整で税金がいくら戻るか

それでは、具体的に給与収入の事例をいくつかあげて、いくら税金が戻るのか、また控除されるのか計算してみましょう。

計算事例1:収入なしの配偶者と17歳の子どもがいる場合

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■Xさん(男性)の場合

 ◆家族構成
  ・既婚者、配偶者は専業主婦(収入なし)
  ・17歳の子どもを扶養

 ◆給与・控除関係
  ・給与総収入額 630万円
  ・源泉徴収税額 10万6385円
  ・各種保険料控除額
   -社会保険料控除 88万2673円
   -生命保険料控除 4万円
  ・定額減税額 9万円(3万円×対象者3名)
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  1. 給与総収入額から給与所得額を求めます。給与総収入額630万円を「令和6年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」にあてはめると、給与所得控除後の給与等の金額は460万円になります。
  2. 次に、所得控除額の合計額を求めます。Xさんは、自身の基礎控除38万円と配偶者の配偶者控除38万円、17歳の子ども1名の扶養控除38万円を受けることができます。その他に、社会保険料控除88万2673円と生命保険料控除4万円を受けられますので、それらを合計すると、206万2673円になります。
  3. 給与所得控除後の給与等の金額から所得控除額の合計額を差し引くと課税所得額になります。

    460万円-206万2673円=253万7327円≒253万7000円(1000円未満切り捨て)

  4. 求めた課税所得税額から算出所得税額を求めます。

    253万7000円×10%-9万7500円=15万6200円

    参考:令和6年分 年末調整のしかた|国税庁「令和6年分の年末調整のための算出所得税額の速算表」

  5. 令和6年度に限り、算出所得税額からXさんの定額減税額9万円を差し引きします。

    15万6200円-9万円=6万6200円

  6. 上で求めた算出所得税額6万6200円に復興特別所得税の税率102.1%を掛け算して、年調年税額を求めます。

    6万6200円×102.1%=6万7590円≒6万7500円(100円未満切り捨て)

よって、Xさんが本来納付すべき所得税ならびに復興特別所得税の合計額(年調年税額)は6万7500円になります。すでに源泉徴収されている所得税額10万6385円と比較すると3万8885円多く納付していることになりますので、12月または1月にXさんに還付することになります。

計算事例2:独身で住宅借入金特別控除がある場合

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■Yさんの場合

 ◆家族構成
  ・独身

 ◆給与・控除関係
  ・給与総収入額 560万円
  ・源泉徴収税額 15万5338円
  ・各種保険料控除額
   -なし
  ・住宅借入金控除額 14万9000円
  ・定額減税額 3万円
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  1. 給与総収入額から給与所得額を求めます。給与総収入額560万円を「令和6年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」にあてはめると、給与所得控除後の給与等の金額は404万円になります。
  2. 次に、所得控除額の合計額を求めます。Xさんは、自身の基礎控除38万円を受けることができます。
  3. 給与所得控除後の給与等の金額から所得控除額の合計額を差し引くと課税所得額になります。

    404万円-38万円=366万円

    求めた課税所得税額から算出所得税額を求めます。

    366万円×20%-42万7500円=30万4500円

    参考:令和6年分 年末調整のしかた|国税庁「令和6年分の年末調整のための算出所得税額の速算表」

  4. 算出所得税額から(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額14万9000円を差し引きします。

    30万4500円-14万9000円=15万5500円

  5. 令和6年度に限り、算出所得税額からYさんの定額減税額3万円を差し引きします。

    15万5500円-3万円=12万5500円

  6. 上で求めた算出所得税額12万5500円に復興特別所得税の税率102.1%を掛け算して、年調年税額を求めます。

    12万5500円×102.1%=12万8135.5円≒12万8100円(100円未満切り捨て)

よって、Yさんが本来納付すべき所得税ならびに復興特別所得税の合計額(年調年税額)は12万8100円になります。すでに源泉徴収されている所得税額14万9000円と比較すると2万900円多く納付していることになりますので、12月または1月にYさんに還付することになります。

年末調整では事業所側と給与所得側でやるべきことが異なる

ここでは正しく年税額を算出するために、事業所側と給与所得者側でやるべきことを説明します。

年末調整で事業所側がやるべきこと

年末調整に必要な各種控除額を確認するため、次の申告書を従業員に配布し、記入を依頼します。回収した申告書は、控除証明書などの添付資料と照合することが大切です。

  • 扶養控除等(異動)申告書
  • 基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
  • 保険料控除申告書

この他に「住宅借入金等特別控除申告書」や、中途就職者は前の会社での源泉徴収票などが必要となるケースがあります。
年内に支払う給与や賞与が確定したら、申告書の情報を加味して、所得税の年税額を算出します。その結果、源泉徴収した年間の合計額が、過納であった場合は各人に還付し、不足額は徴収して納付します。このように所得税の納税を完了させることが、事業者側でやるべきことです。

年末調整で給与所得側の個人がやるべきこと

申告書に添付が必要な控除証明書などは、10月ごろから送付されます。これらの書類を紛失しないよう管理してください。

11月頃に年末調整に必要な各申告書が、会社から配布されます。「扶養控除申告書」には、その年の12月31日の時点で、自分が扶養している家族について記入しましょう。

申告書に正しく記入し、控除証明書などの資料を添えて、会社の決めた期限内に提出することが、個人がやるべきことです。

適切な年末調整をしないと国税から税金に関する5つの罰則を受ける

ここでは会社が年末調整をしなかった場合の、罰則やデメリットについて説明します。

①年末調整の期限に間に合わないと延滞税が発生する

年末調整で不足額を徴収した場合は、翌年1月10日が納付期限になります。この期限を過ぎた場合、本来の納期限から1ヶ月以内に納付すれば、不納付加算税は徴収されません。1ヶ月を過ぎた場合は、本来の源泉徴収税に加えて不納付加算税が徴収されます。

年末調整は期限内にしていても、誤りにより所得税を少なく納税していた場合は、すぐに正しい源泉所得税を納付してください。

②払い過ぎた税金に対する還付金が受けられない

源泉徴収制度では、年税額よりも多く納付してしまうケースが多数見受けられます。しかし、会社が年末調整を行わず、本来納めるべき年税額を確定しなければ、従業員に対しての還付もできないことになります。

③従業員が自分で確定申告をしなければいけなくなる

会社が年末調整をしなかった場合は、従業員は自身で確定申告をして、1年間の所得税の清算をすることになります。従業員にとって確定申告をするのは、非常に大きな負担になります。会社が年末調整をしなかった場合には、会社への不満から退職を考える人が出てくる可能性があります。

④年末調整を行うことは会社の義務である

年末調整は所得税法で定められた給与支払者の義務です。会社が故意に年末調整をしない場合、法律違反とみなされることもあります。「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」、悪質な場合は「10年以下の懲役または200万円以下の罰金」を科せられることが所得税法で定められています。

参考:所得税法|e-Gov法令検索

⑤指摘後も納税しないと資産の差し押さえをされる

税金を滞納した場合、まず税務署から督促状が届き、それでも納税しない場合は、電話や書面で催促されます。さらに放置すると、会社の資産が差し押さえられるという、最悪の事態につながります。税務署から滞納や脱税の指摘を受けたら、速やかに対応しましょう。

年末調整を手間をかけずに簡単に終わらせる方法

担当者にとって年末調整の時期は、賞与計算も重なり忙しい時期です。ここでは年末調整を簡単に終わらせる方法を説明します。

会計ソフトを利用して計算や申告を電子化する

年末調整の申告を電子化すると、給与システムからデータを取り込めるので、年税額の計算が簡略化できます。従業員にとっても、前年度のデータを利用することで各種保険料控除などの登録ミスが減ることや、控除証明書もシステム上でアップロードできるので手軽です。

年末調整の作業スケジュールを立てておく

年末調整は、余裕もった作業スケジュールを早めに立てましょう。また従業員に、申告書の提出期限について周知を徹底することや、申告書の記入マニュアルを準備しておくと、修正依頼の手間を回避でき、スムーズに作業が進められます。

年末調整代行サービスに外注する

年末調整代行サービスは、従業員から回収した申告書や、控除証明書の内容をチェックして、各人の年税額を確定します。過不足額の算出や、源泉徴収票の作成も可能なので、担当者の負担を軽減でき、確実に年末調整ができる方法です。

年末調整を忘れてしまった場合の対処法

「会社に申告書を出し忘れてしまった!」そんな場合は慌てずに、次のいずれかの方法で対処しましょう。

個人なら会社に対して年末調整のやり直しを相談する

申告書の提出を忘れていたときは、すぐに会社に連絡して年末調整のやり直しを相談しましょう。まだ年末調整の業務が完了していなければ、やり直しの依頼ができることもあります。しかし会社が1月末期限の年末調整の書類を、すでに税務署や市区町村に提出している場合は、やり直しは難しいでしょう。その場合は、自分で確定申告する必要があります。

会社での年末調整までに提出できなかったら自分で確定申告を行う

会社での年末調整に間に合わない場合は、自分で確定申告すると、年末調整ですべき全ての控除が適用できます。この確定申告は翌年2月16日から3月15日までの期間に申請するので、翌年になったら忘れずに準備を始めましょう。

過去5年分なら還付申告を利用する

年末調整を忘れて確定申告することを想定したとき、「所得税が還付される」という内容であれば、還付申告が可能です。この還付申告は、課税年度の翌年1月1日から5年間、通年で行えます。例えば、令和元年分の還付申告については、令和6年12月31日まで申告が可能です。

年収が850万円以上は年末調整で所得金額調整控除を利用しよう

所得金額調整控除とは、税負担の調整のために設けられた控除です。控除を受けられる場合があるので、内容について把握しておきましょう。

参考:所得金額調整控除|国税庁

850万円控除に加えて10%の控除を受けられる人

年間給与収入が850万円を超える居住者で、次のいずれかに該当する方は控除の対象となります。

  • 本人が特別障害者に該当する者
  • 年齢23歳未満の扶養親族を有する者
  • 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族を有する者

これに該当した場合は次の控除が可能です。

{給与等の収入金額(1000万円限度)-850万円}×10%=控除額(15万円限度)

給与所得の合計金額から10万円の控除を受けられる人

当年の「給与所得控除後の給与などの金額」と「公的年金に係る雑所得」の双方がある居住者で、その合計金額が10万円を超える方が対象となります。これに該当した場合は次の控除が可能です。

{給与所得控除後の給与等の金額(10万円限度)+公的年金等に係る雑所得の金額(10万限度)}-10万円=控除額

所得金額調整控除を受けるための手続き方法

所得税額調整控除を受けるためには、年末調整での申告(ただし、子ども・特別障害者を有する人のみの申告)または確定申告を行う必要があります。

年末調整での申告

年末調整で所得金額調整控除を受けるためには、その年の最後の給与を受ける前日までに申告する必要があります。

所得金額調整控除の申告は、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の一番下の記入欄に必要事項を記入してください。

参考:A2-4 給与所得者の基礎控除、配偶者(特別)控除及び所得金額調整控除の申告|国税庁、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」

確定申告での申告

子どもや介護する人がいる世帯や年金を受給しながら働いている世帯も、確定申告で手続きを行うことにより所得金額調整控除を受けることができます。

確定申告時には、確定申告書の「収入金額等」の「給与」の欄に、給与所得控除後の給与等の金額から所得金額調整控除額を差し引いた金額を記入してください。

年末調整を適切に行って払い過ぎた税金を受け取ろう

会社から年末調整の案内があったらなるべく早く手続きを済ませましょう。正しく年末調整を行い、払い過ぎた税金を受取ることは、正しい納税につながります。

よくある質問

年末調整では事業所がやることを教えてください

年末調整に必要な各種控除額を確認するため、各種申告書を従業員に配布し、記入を依頼します。詳しくはこちらをご覧ください。

年末調整で給与所得者がやることを教えてください

配布された申告書について、必要情報を記入します。詳しくは※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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