• 更新日 : 2024年12月9日

標準報酬月額に賞与は含まない?含まれる場合や計算方法を解説

給与からは、毎月健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料が天引きされています。この保険料額の計算において重要となるのが、標準報酬月額です。

当記事では、標準報酬月額と賞与の関係、計算方法や標準報酬月額に含まれるものと含まれないものなどを解説しますので参考にしてください。

標準報酬月額に賞与は含まない?

賞与は原則として標準報酬月額には含まれません。賞与は、標準報酬月額ではなく「標準賞与額」に含まれています。標準賞与額も、標準報酬月額と同様に、保険料の計算基礎として用いられることに違いはありません。しかし、両者は別個のものとして扱われます。賞与がいくら支払われても、標準報酬月額に含まれないため、それを基にした保険料には影響しません。ただし、一定以上の回数支給される賞与は、例外的に基本給などと同様に、標準報酬月額に含まれることになります。

年4回以上の賞与は含まれる

賞与は原則として標準報酬月額を計算する際に考慮されませんが、それは年に3回以内に支給される賞与の場合です。年4回以上支給される賞与は、その合計額を12分割し、月々の報酬額に加えなければなりません。賞与という名称は同じであっても、年3回までの支給される場合とは異なり、標準報酬月額に含まれることになります。

そもそも標準報酬月額とは?

現実に支給される給与は、残業の有無などによって毎月変動します。これをそのまま社会保険料の算定基礎としては、計算が煩雑になってしまうため、計算をしやすくするための等級を定めた枠組みが作られています。この仕組みが「標準報酬月額」です。

標準報酬月額は、健康保険と厚生年金保険で等級の数が異なります。健康保険では、第1級から第50級、厚生年金保険では第1級から第32級までに分かれています。この等級に報酬の月額を当てはめ、それを基に保険料が算出されます。等級を問わず適用される保険料は一律であるため、等級が上がれば上がるほど保険料も上がる仕組みです。

標準報酬月額の等級区分は、定期的な見直しが行われます。毎年3月31日において、標準報酬月額等級の最高となる等級に該当する被保険者の数が総被保険者の1.5%を超え、その状態が継続する場合には改定を行います。健康保険では50等級、厚生年金保険では32等級に該当する被保険者が一定数存在する場合に改定されるわけです。直近では、2020年9月から厚生年金保険に32等級が追加されています。

参考:令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)|全国健康保険協会

標準報酬月額に含まれるもの、含まれないもの一覧

標準報酬月額には、含まれる報酬と含まれない報酬が存在します。これらの区分は、標準報酬月額を計算するうえで非常に大切となるため、しっかりと把握することが必要です。

標準報酬月額に含まれるもの

標準報酬月額の対象となる報酬は、経常的かつ実質的に労働の対償として受けるものであり、通常の生計に充てられる全てのものを含むとされています。また、その対象は金銭に限られず、通勤定期券や食事、住宅等の現物支給される場合も報酬に含まれる扱いです。具体的には、以下のような報酬が標準報酬月額に含まれます。

標準報酬月額に含まれる報酬
基本給月給や週給、日給などを問わず対象となる。賃金や給与、俸給等の名称も問わない。
各種手当残業手当

休日出勤手当

深夜手当

通勤手当

住宅手当

扶養手当

配偶者手当

資格手当

役職手当

休業手当 など

現物支給食事や住宅、通勤定期券等の金銭以外で支給される報酬も原則として対象となる。
賞与(年4回以上支給)年3回までの支給であれば対象とはならない。

年4回以上支給される場合には、賞与も含むことに注意が必要ですが、通勤手当などにも注意が必要です。通勤手当は、給与所得に含まれず非課税になるからといって、報酬の範囲から除外してはなりません。

参考:算定基礎届の記入・提出ガイドブック(令和6年度)|日本年金機構

標準報酬月額に含まれないもの

継続的に発生せず臨時に受けるインセンティブや、年3回以下の支給となる賞与などは、標準報酬月額を計算する際の報酬には含まれません。具体的には、以下のような報酬が標準報酬月額に含まれません。

標準報酬月額に含まれない報酬
恩恵的支給結婚祝金、病気見舞金などの恩恵的性質を有するもの。
公的給付労災保険の休業補償給付や、健康保険の傷病手当金など、公的保険からの給付。
臨時的、一時的に支給されるもの退職金や大入袋、寸志、解雇予告手当など、臨時的で一時的に支給されるもの。
実費弁償的な性質を有するもの出張旅費や交際費など、従業員が負担した金銭の実費弁償を行うもの。
現物支給(業務に必要なもの)業務に必要な制服や作業着。ただし、業務に関係のない被服は対象となる。
年3回まで支給される賞与年3回までの賞与。

見舞金であっても、継続的に支給する場合には報酬に含まれます。また、現物給付の食事は原則として報酬に含まれますが、従業員が3分の2以上の額を負担する場合には、報酬とはなりません。

参考:算定基礎届の記入・提出ガイドブック(令和6年度)|日本年金機構

標準報酬月額の計算方法

標準報酬月額は、原則として3か月間の報酬の平均から計算します。標準報酬月額の対象となる3か月間の報酬を合計し、その額を3で除し、保険料額表の該当欄に当てはめることで計算可能です。

たとえば、3か月間で次のように報酬が支払われた場合を考えてみましょう。

4月5月6月
基本給20万円20万円20万円
残業代2万円3万円
休日出勤手当2万円
出張旅費3万円
結婚祝金3万円
総支給額25万円25万円23万円

4月に支給された出張旅費は報酬の範囲に入らず、報酬額は22万円となります。5月は全てが報酬の範囲に含まれるため、報酬額は25万円です。6月に支給された結婚祝金は報酬に含まれないため、除外され報酬額は20万円となります。3か月間の平均は以下の通りです。

(22万円+25万円+20万円)÷3=22.3万円

上記の額を保険料額表に当てはめると、21万円以上23万円未満の行に該当し、標準報酬月額は22万円となります。これは、健康保険では第18等級、厚生年金保険では第15等級に該当します。

年4回以上の賞与を含む標準報酬月額の計算方法

年4回以上の賞与が支払われる場合であっても、3か月の合計額を3で除すという基本的な考え方は変わりません。しかし、年4回以上賞与が支払われる場合には、その合計額を12等分した額を月々の報酬に加えなければなりません。たとえば、30万円の賞与を年4回支給する場合は、以下のようになります。

30万円×4回÷12=10万円

上記式から算出された10万円を各月の報酬に加えることになります。では、先ほどあげた例にそって総額120万円(30万円×年4回)の賞与が支払われた場合を考えてみましょう。

(32万円+35万円+30万円)÷3=32.3万円

この額を保険料額表に当てはめると、31万円以上33万円未満の行に該当します。この場合の標準報酬月額は32万円となり、健康保険では第23等級、厚生年金保険では第20級に該当します。年4回以上の賞与が支払われたことで、5等級の変動が生じたわけです。

標準報酬月額の決定・改定のタイミング

標準報酬月額は、一定の規則に従って決定や改定が行われます。標準報酬月額の決定および改定の時期について解説します。

資格取得時決定

「資格取得時決定」は、社会保険に加入し、被保険者資格を取得した際の決定方法です。月や週など、一定の期間によって報酬が決定される場合には、資格取得時の報酬額をその期間の総日数で除した額の30倍を報酬の月額として標準報酬月額を決定します。日や時間、出来高または請負によって働く場合には、同様の業務に従事し、同様の報酬を受ける者の1月間の報酬額の平均額を報酬の月額として、標準報酬月額を決定します。

資格取得時決定による標準報酬月額の有効期間は、以下の通りです。

  • 1月1日から5月31日までの資格取得:その年の8月まで
  • 6月1日から12月31日までの資格取得:翌年の8月まで

定時決定

標準報酬月額が現実に支払われる報酬額とかけ離れないように、年に1回定期的に見直しを行います。この手続きが「定時決定」です。7月1日現在において、事業所に雇用される従業員の4月から6月の報酬月額の平均額から、標準報酬月額を決定します。この際には、報酬支払いの基礎となった日数(報酬支払基礎日数)が、17日未満である月を除いて計算することが必要です。

定時決定の有効期間は、その年の9月から翌年の8月までです。この間に後述する随時改定等がなければ、そのまま次の定時決定まで決定された標準報酬月額が利用されることになります。

随時改定

年の途中において大幅な報酬額の変動があった場合には、「随時改定」の手続きが必要です。継続した3か月間に受けた報酬の平均額と、その者の標準報酬月額の基礎となった報酬の月額との間で、2等級以上の差が発生した場合に行われます。

ただし、定時決定と異なり、1か月でも報酬支払基礎日数が17日未満の月があれば実施されません。また、2等級以上の変動が基本給の昇給など、固定的賃金の変動によって生じたことも必要です。残業代などの非固定的賃金による変動では、随時改定の要件を満たしません。

随時改定による標準報酬月額の改定は、昇給等により変動が生じた月から数えて4月目から実施されます。10月、11月、12月を対象に随時改定が行われた場合であれば、翌年1月が変動月です。

随時改定の有効期間は、以下の通りです。

  • 1月から6月までに随時改定:その年の8月まで
  • 7月から12月に随時改定:翌年8月まで

育児休業等終了時改定

3歳未満の子を養育する社会保険の被保険者が、育児休業を終了して職場復帰した際には「育児休業等終了時改定」が行われる場合があります。復帰後に短時間勤務等を行い、報酬額が低下した場合に実施することが可能であり、保険料負担の軽減が目的です。随時改定と異なり、2等級以上の差が生じている必要はありません。

育児休業等終了時改定の有効期間は、以下の通りです。

  • 1月から6月までに改定:その年の8月まで
  • 7月から12月に改定:翌年8月まで

産前産後休業終了時改定

産休を取得した被保険者が職場復帰した際には、短時間勤務等によって報酬が低下する場合があります。このような場合に行われるのが、「産前産後休業終了時改定」です。育児休業等終了時改定と同様に、随時改定の要件に該当しない場合であっても、標準報酬月額を見直し、保険料負担を軽減することが目的です。

育児休業等終了時改定の有効期間は、以下の通りです。

  • 1月から6月までに改定:その年の8月まで
  • 7月から12月に改定:翌年8月まで

標準報酬月額の調べ方

標準報酬月額は、自分で調べることが可能です。給与明細に標準報酬月額が記載されている場合であれば、その額が自分の標準報酬月額となります。

標準報酬月額そのものが記載されていなくても、厚生年金保険料から逆算することが可能です。まず、健康保険・厚生年金保険料保険料額表の保険料の欄から自分が該当する部分を見つけます。そのまま該当する行の標準報酬の欄を見れば、自分の等級と標準報酬月額が記載されています。健康保険料から逆算することも可能ですが、都道府県ごとに保険料率が異なっているため注意してください。

参考:令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)|全国健康保険協会

標準報酬月額は保険料計算の基礎

標準報酬月額は、保険料の基礎となるものです。正しい標準報酬月額を計算できなければ、正しい保険料の納付もできません。そのためには、報酬に含まれる範囲の理解が重要です。賞与は、支給回数によって報酬に含まれるか否かが変わってきます。当記事の解説を参考に、標準報酬月額と賞与の関係を正しく理解してください。


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