- 更新日 : 2024年10月30日
住宅ローン控除は定額減税に影響がある?税額がすべて控除された場合
住宅ローン控除とは、年末時点の住宅ローン残高の0.7%が所得税等から控除される制度です。定額減税も、年末調整時に年間所得税額との精算を⾏うことは住宅ローン控除と同様です。本記事では、住宅ローン控除により税額がすべて控除された場合、定額減税に影響があるかどうかなどについて解説します。
目次
そもそも定額減税とは?
定額減税とは、令和6年度税制改正大綱(令和5年12月22日閣議決定)に基づき、デフレ脱却に向けた措置として一時的に行われる減税のことです。定額減税の目的は、昨今の物価高に賃金上昇が追いついていない現状を鑑みて、国民負担を軽減することです。なお、定額減税には、所得税の定額減税と住民税の定額減税があります。
定額減税については、下記ページに詳しく記載していますので参考にしてください。
参考:【2024年6月開始】定額減税とは?給与計算の方法と具体例をわかりやすく解説(令和6年6月開始)
定額減税の対象者
令和6年分の所得税について定額減税を受けられる対象者は、令和6年分の所得税の納税者である居住者の中で所得税に係る合計所得金額が1,805万円以下の方です。ただし、給与収入のみの場合は、給与収入が2,000万円以下(子ども、特別障害者を有する者等の所得金額調整控除を受ける場合は2,015万円以下)の方が対象になります。
令和6年度分の個人住民税の定額減税を受けられる対象者は、令和6年度分の住民税の納税者である居住者の中で住民税に係る合計所得金額が1,805万円以下の方です。ただし、給与収入のみの場合は、給与収入2,000万円以下の方が対象になります。令和6年度分の住民税が非課税の方や、均等割および森林環境税のみ課税の方は定額減税の対象にはなりません。
定額減税の金額
令和6年分の所得税については、納税者および配偶者を含めた扶養親族1人につき所得税3万円が控除されます。例えば、配偶者と子ども1人を扶養している納税者は、所得税9万円が控除される計算です。
令和6年度分の個人住民税については、納税者および配偶者を含めた扶養親族1人につき個人住民税1万円が控除されます。例えば、配偶者と子ども1人を扶養している納税者は、個人住民税3万円が控除される計算です。
給与所得者に対する定額減税の実施方法
給与所得者に対する定額減税は、所得税と個人住民税で実施方法が異なります。
- 所得税に対する定額減税の実施方法
給与所得者に対する所得税の定額減税は、「月次減税事務」「年調減税事務」の2種類の事務にて実施されます。
月次減税事務とは、令和6年6月1⽇以後に最初に⽀払う給与や賞与に対する源泉徴収税額から、6月時点の状況に基づいた定額減税額を控除する事務のことです。最初に⽀払う給与や賞与で控除しきれない定額減税額は、以後の令和6年中に⽀払う給与や賞与に対する源泉徴収税額から順次控除します。
年調減税事務とは、年末調整に伴い年末調整時点の所得税に関する定額減税額を定めることにより、年間の所得税額との精算を行う方法です。
- 住民税に対する定額減税の実施方法
給与所得者に対する個人住民税の定額減税の実施方法ですが、まず令和6年6月分の住民税は特別徴収されません。令和6年7月から令和7年5月までの11か月間は、住民税の定額減税による控除分を引いた住民税額が均等に分割して天引きされます。
住宅ローン控除で税額がすべて控除された場合、定額減税はどうなる?
年末調整で算出した所得税額から住宅ローン控除をした場合、控除後の所得税額が定額減税額より小さくなることも考えられます。この場合の定額減税は、どうなるのでしょうか。本項では、住宅ローン控除はどのタイミングで控除されるかや、住宅ローン控除により税額がすべて控除された場合に定額減税はどうなるかについて解説します。
住宅ローン控除が行われるタイミング
年末調整による所得税額の算出は、以下の順で行われます。
- 所得金額の算出
給与等の総額から給与所得控除額を差し引くことにより、給与所得控除後の給与等の金額を算出可能です。この給与所得控除後の給与等の金額から扶養控除等の所得控除額等を差し引くことで、差引課税給与所得金額を算出できます。
- 所得税額の算出
差引課税給与所得金額に所得税率を乗ずることにより、所得税額を算出できます。算出所得税額から住宅ローン控除を行うことで、年調所得税額を算出可能です。このように、従来どおりに年末調整を⾏い、最後に住宅ローン控除後の年調所得税額から年調減税額を控除して定額減税額控除後の所得税額を算出します。
年末調整で住宅ローン控除は、定額減税を控除する前に行われます。そのため、住宅ローン控除によって引かれる所得税額が、従来の住宅ローン控除よりも減ってしまうことはありません。
住宅ローン控除により税額がすべて控除された場合の定額減税
住宅ローン控除が行われることにより、所得税額がすべて控除されて所得税額が0円になる可能性も考えられます。この後に定額減税を控除しようとしても、所得税額が0円のため控除することができません。定額減税で控除することができない所得税額が見込まれる場合は、調整給付金により調整されます。
住宅ローン控除の概要についておさらい
住宅ローン控除は正式名称を「住宅借入金等特別控除」といい、入居時から最長13年間、年末時点の住宅ローン残高の0.7%が所得税等から控除される制度です。本項では、住宅ローン控除の概要、適用要件などについて解説します。
また、住宅ローン控除については以下の記事で詳しく紹介していますので、参考にしてください。
参考:年末調整で住宅ローン控除を受ける際に必要な書類と記入例
住宅ローン控除の概要
住宅ローン控除とは、住宅ローンを利用して住宅の新築や取得、または増改築等をした場合に、年末の住宅ローン残高の0.7%について所得税の控除を受けられる制度です。所得税から控除しきれない場合は、一定の条件のもと翌年の住民税から控除されます。
住宅ローン控除の控除期間は最大13年(既存住宅の増改築は最大10年)で、適用される期間は2025年12月31日までに対象の住宅に入居した場合です。また、住宅ローン控除を受けるには、住居を取得した年に確定申告が必要です。2年目からは、勤務先での年末調整で住宅ローン控除を受けられます。
住宅ローン控除の適用要件
住宅ローン控除は、住宅の種類などによって適用要件が異なります。ただし、以下の要件についてはいずれも満たさなければなりません。
- 自らが居住する家屋であること
- 床面積が50㎡以上あること
- 合計所得金額が2,000万円以下であること
- 2024年末までに建築確認を受けた新築住宅で40㎡以上50㎡未満である場合は、合計所得金額が1,000万円以下であること
- 住宅の引渡しまたは工事完了から6か月以内に入居していること
- 店舗等併用住宅の場合は居住用割合が床面積の1/2以上がであること
- 住宅ローンの償還期間が10年以上であること
- 既存住宅の場合は、1982年1月1日以後に建築されたまたは現行の耐震基準に適合していること
- 買取再販住宅および一定の増改築等工事を実施した場合は、増改築等が「増改築等工事証明書」により証明されたものであること
- 一定の増改築等工事を実施した場合は、増改築等の工事に要した費用の額が100万円超であること
住宅ローン控除によって定額減税で受け取る還付金は減ってしまう?
通常、住宅ローン控除では、年末調整で算出された所得税額から住宅ローン控除を行い年調所得税額を算出します。この算出された年調所得税額に対して、払いすぎた源泉所得税額が還付金として返ってくる仕組みです。
一方、定額減税では源泉所得税額から定額減税額が控除されるため、払いすぎた源泉所得税額が従来の年より少なくなります。そのため、定額減税のない年より還付金が減ってしまう懸念があるでしょう。しかし、実際には住宅ローン控除で定額減税の恩恵を受けきれなかった金額については、「調整給付」が行われます。つまり、住宅ローン控除によって還付金が減ることはありません。
例えば、以下の条件で「定額減税がない年」と「定額減税がある年(2024年)」の還付金について確認してみましょう。
- 定額減税の対象が4人の家族
- 住宅ローン控除が25万円
- 定額減税のない年の源泉所得税額が年間20万円
- 従来ローン控除前の所得税額が10万円
【定額減税がない年の還付金】
25万円の住宅ローン控除を行うことで年調所得税額は0円になり、源泉所得税額の20万円が還付されます。所得税で控除しきれない金額は、一定の条件のもと住民税からの控除が可能です。
【定額減税がある年(2024年)の還付金】
年末調整で定額減税の控除より前に住宅ローン控除を行うので、年調所得税額の算出までは従来と同様です。ただし、6月からの源泉徴収税額から定額減税額を控除しているため、源泉所得税額は定額減税額16万円を引いて年間4万円になります。この場合は、源泉所得税額の4万円が還付されます。
また、2024年は算出された年調所得税額から定額減税額が控除され、定額減税額控除後の所得税額を算出します。定額減税額控除後の所得税額がマイナス16万円のため、16万円が調整給付により還付されます。調整給付の16万円に源泉所得税額の還付の4万円を足せば還付金合計が20万円になるため、従来の年と還付金額は変わりません。
定額減税と住宅ローン減税の両方を控除するケースは複雑なため正しい事務を
2024年の年末調整に住宅ローン控除がある場合、従来の年と異なり定額減税があるため事務が複雑になります。また、この複雑な事務を間違えなく進めていくためには、制度に対する理解が必要です。定額減税と住宅ローン減税の両方の控除がある場合の理解を深めて、正しい事務を心掛けることが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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