- 更新日 : 2023年10月20日
EAP(Employee Assistance Program)とは?意味や目的をわかりやすく解説
EAP(Employee Assistance Program)とは、メンタルヘルスが不調の従業員をサポートするプログラムのことです。厚生労働省では従業員のメンタルヘルス対策の一つとして、企業にEAPの導入をすすめています。EAPの必要性やサービスの選び方をまとめました。また、EAPを導入する際の注意点も紹介します。
目次
EAP(Employee Assistance Program)とは?
EAP(Employee Assistance Program)とは、メンタルが不調の従業員をサポートするプログラムのことです。厚生労働省が定める「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、従業員のメンタルヘルスをサポートするために、社内外のサービスの活用をすすめています。EAPは事業場外資源によるケアの一つで、従業員はEAPを通して社外の専門家によるサポートを受けられます。
日本語は「従業員支援プログラム」
EAPは日本語では「従業員支援プログラム」と訳されます。メンタルヘルスに不調を抱える従業員は、EAPを通して、社内の人に知られることなく社外の専門家に悩みを相談できます。
EAPの歴史的背景
EAPは1960年代にアメリカで発展したプログラムです。元々EAPは、アルコールや薬物への依存により業務に支障を来たした従業員に対応するためにつくられました。
その後、アルコール依存や薬物依存だけでなく、より幅広い問題に対応するプログラムとして活用されるようになり、日本でも1980年代の後半から浸透していきました。現在では、企業はEAPを社会的責任の一つとして捉え、導入するようになっています。
EAPの必要性・目的
EAPは以下の目的のために導入されます。
- 労働者のストレス把握・改善
- 日頃からのメンタルヘルスケア
これらの目的を果たすことは、企業が社会的責任を果たすことにもつながります。それぞれの目的とEAPの必要性について見ていきましょう。
労働者のストレス把握・改善
EAPでは、労働者のストレスチェックやカウンセリングを提供するだけでなく、必要に応じて医療機関の受診を勧めることもあります。労働者のストレス状態を把握し、問題があるときは早期発見が可能になり、早期改善につなげられます。
日頃からのメンタルヘルスケア
定期的にストレスチェックを受けることで、労働者のメンタルヘルスに対する意識も向上します。悩みがあるときや精神的なつらさを感じるとき、落ち込んだ気分が続くときなどは、早めにカウンセラーなどの専門家に相談することが習慣になり、精神的に好ましくない状態が継続化・深刻化するのを回避します。
EAPに関連する4つのケア
労働者のメンタルヘルスケアは、次の4つの種類があります。
- セルフケア
- ラインによるケア
- 事業場内産業保健スタッフなどによるケア
- 事業場外資源によるケア(EAP)
それぞれのケアについて見ていきましょう。
セルフケア
セルフケアとは、労働者個人が取り組むケアのことです。すべての人は自分自身のメンタルヘルスに注目し、良好な状態に保つことが必要です。
メンタルヘルスを良好に保つことで、やりがいを感じつつ働けるだけでなく、仕事のパフォーマンスも向上します。企業には、従業員がセルフケアできるように、ストレスチェックや労働環境を適切に整えることが求められます。
ラインによるケア
ラインケアとは、管理職が部下に対して提供するケアのことです。管理職は部下の仕事だけでなく、心の変化にも注目し、適切なケアを受けられるようにサポートしなくてはいけません。
たとえば、「遅刻や欠勤が増えた」「作業スピードが著しく低下した」「集中できていない」などがうかがえるときは、個人的に部下と話し合う機会を設けます。部下の様子によっては、メンタルヘルスケアを受けられるようにサポートしたり、職場環境を改善したりすることも必要です。
事業場内産業保健スタッフなどによるケア
事業場内産業保健スタッフとは、社内で勤務する産業医や保健師のことです。人事労務課の従業員が、産業保健スタッフを兼任することもあります。
事業場内産業保健スタッフは、従業員の悩み相談に乗るだけでなく、ストレスケアプランの立案や研修・教育などの実施も担当します。また、次に紹介する事業場外資源にサポートを依頼することも事業場内産業保健スタッフの役割です。
事業場外資源によるケア(EAP)
事業場外資源によるケアとは、社外の専門家や専門機関によるメンタルヘルスケアのことです。社外資源を活用するEAPや、外部の医療機関、保健所などによりケアを受けます。
社内のスタッフには話しづらい内容も、事業場外であれば本音で話せるかもしれません。また、深刻な状況のときであれば、専門の医師による治療もスムーズに受けられる点もメリットです。
EAPを導入するメリット
EAPを導入することで、次のメリットを得られます。
- 離職率の改善
- 人間関係の円滑化
- 経営の安定
- 社外の人からアドバイスを貰える
- 従業員は相談したことを社内に知られない
それぞれのメリットについて見ていきましょう。
1. 離職率の改善
EAPの導入により従業員のメンタル不調を早期発見・早期介入すれば、不調が深刻化するのを回避できることがあります。
メンタルの不調が深刻化すると、医療機関での治療が必要になるだけでなく、休職・離職を余儀なくされることも少なくありません。定期的にストレスチェックをおこない、いつでも悩みや不調を訴えられる環境を構築するためにも、EAPは有用といえます。
2. 人間関係の円滑化
社内の人間関係についての悩みは、社内スタッフには相談しにくいものです。秘密厳守が原則ですが、「噂が広まらないだろうか?」「査定に響くのでは?」「相談したことを知られたくない」と考え、相談しにくさを感じるかもしれません。
しかし、外部サービスのEAPであれば、社内の人間関係についても気兼ねなく相談できます。悩みが大きくなる前に相談することで、問題を早期に解決し、円滑な人間関係を維持しやすくなります。
3. 経営の安定
従業員の離職率が減少することで、新しく従業員を雇用しなくても業務が円滑に進むようになります。採用や新人教育に使う時間を削減できるため、通常業務だけでなく、新規事業や事業拡大にも注力しやすくなり、売上の維持・上昇を期待できます。
また、社内でメンタルヘルスケアを受けられるようにすることも大切ですが、従業員が少ない場合には利用者が少なく、専門スタッフを雇用するコストに見合わない可能性もあるでしょう。EAPのように社外スタッフを利用するメンタルサポートであれば、従業員が利用した分だけのコストで済み、企業の負担も軽減します。
4. 社外の人からアドバイスを貰える
メンタルの状態がよくないことを自覚していても、医療機関やカウンセリングサービスを利用するのはハードルが高いと感じる方も少なくありません。しかし、EAPを導入すれば、企業側が提供しているサービスの一貫として受診できるようになり、より早期に対処できるようになります。
また、社内の問題を社外の人に相談することで、客観的なアドバイスを得られ、トラブルの早期解決を期待できる点もEAPのメリットです。社外の友人や家族に相談する方法もありますが、どうしても自分サイドの見方になってしまいます。客観的なアドバイスを得たいときは、EAPのようにまったくの第三者に相談するほうがよいでしょう。
5. 従業員は相談したことを社内に知られない
EAPは企業経由で利用するサービスですが、相談内容などのプライバシーに関わることは一切企業側に報告されません。社内のトラブルなども安心して話せます。
社内の人間関係や業務負担などについて悩む従業員も多いと考えられます。社内関連の悩みを気軽に話せる場所を設けることは、従業員のメンタルヘルスのためにも必要なことだといえるでしょう。
EAPを選ぶ際のポイント
次のポイントに注目すると、より満足度の高いEAPを選択できます。
- サービス・相談の幅広さ
- 専門性の高さ
- 個人情報の管理体制
- 従業員以外の対応範囲
それぞれのポイントについて解説します。
サービス・相談の幅広さ
EAPによって、対応しているサービスや相談の種類が異なります。たとえば、カウンセリングの方法も、対面だけでなく電話やメールなどでも対応していることもあります。オンラインに対応しているサービスなら、より気軽に利用できるでしょう。
相談の内容も、メンタルだけなのか身体的なトラブルも相談できるのか確認しておきましょう。また、男性・女性の専門家がいれば、同性のほうが話しやすいと感じるデリケートな悩みも相談しやすくなります。
専門性の高さ
相談できるカウンセラーやコンサルタントの専門性の高さについても、導入前にチェックしておきましょう。
一般的な悩みは臨床心理士、職場関連の悩みは産業カウンセラー、働き方についてはキャリアコンサルタントや社会保険労務士など、悩みに対応する専門資格を有するスタッフが揃っているか確認してください。
個人情報の管理体制
従業員が安心して利用するためにも、個人情報が流出しないように適切なセキュリティ対策を実施しているEAPを選びましょう。
従業員が相談した内容を一元管理できるかどうかも重要なポイントです。今までに話した情報が適切に保存されているなら、同じ話を繰り返す必要がなくなり、異なるカウンセラーに相談しやすくなるでしょう。また、気持ちの変化などの経過が理解しやすくなり、治療の必要性などにも早期に気づけるようになります。
従業員以外の対応範囲
従業員のメンタルヘルスの悪化については、本人に自覚がなくても、家族が察知することもあります。従業員だけでなく従業員の家族も利用できるEAPなら、より迅速な対応を取りやすくなるでしょう。
また、従業員の家族の問題が、従業員のメンタルヘルスに大きな影響を及ぼすこともあります。配偶者や子どもの悩みについても相談できるEAPを選ぶと、さらに対応できる悩みの幅が広がります。
EAP導入の際に人事労務担当者が行うこと
EAPを導入するだけでは、従業員のメンタルヘルスは改善されません。人事労務担当者は、EAPの導入時に次の2つを実施してください。
- EAPの相談窓口について従業員に周知する
- まずは管理職や人事部が試しに使用してみる
それぞれのポイントについて解説します。
EAPの相談窓口について従業員に周知する
EAPで相談できることや利用方法などについて、従業員に周知しましょう。EAPを導入しても、使い方がわからず、利用しないまま一人で悩みを抱える従業員もいるかもしれません。気軽に利用できることを説明するのはもちろんのこと、窓口にアクセスする方法などを具体的にまとめ、パンフレットなどを作成しておきましょう。
まずは管理職や人事部が試しに使用してみる
使いやすいサービスかどうかは、実際に使ってみないことにはわかりません。まずは管理職や人事部が試験的に利用し、使いやすさを確認しておきましょう。使いにくいと思われるときは、EAP提供会社と話し合って改善するか、ほかのEAPに切り替えてください。
EAPで従業員の働きやすさを向上しよう
従業員が働きやすい環境を構築することは、どの企業にとっても必要なことです。EAPを導入し、従業員のメンタルヘルスケアをおこないやすい状態にしておきましょう。
また、EAPを導入するだけでなく、利用方法などを従業員に周知することも大切です。サービスを利用するケースなどを具体的に例示し、気軽に従業員がEAPを活用できる環境にしておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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