- 更新日 : 2024年7月12日
認知的不協和理論とは?具体例をもとに内容と活用方法を解説
認知的不協和理論とは認知と行動に矛盾が生じると、不快になることを指します。アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーが、実験により導き出した考え方として提唱しました。具体例にはダイエット中の高カロリーな食事、喫煙などがあります。営業やマーケティングなど、ビジネスにも幅広く活用可能です。
目次
認知的不協和理論とは?
認知的不協和理論とは認知と行動に矛盾が生じた場合に生じる、心理学的な概念の1つです。認知と相反する行動をしてしまった際に、認知をゆがませたり代替行動をとったりして、矛盾を解消させようとすることを指します。
レオン・フェスティンガーによる提唱
認知的不協和理論は、1957年にアメリカの心理学者であるレオン・フェスティンガーによって提唱されました。自分自身の信念などと行動が一致しない状態では、人間は不快を感じるとし、この不快感を「不協和」と呼んでいます。
バランス理論との違い
バランス理論とは、人間が自分の意見と他人の意見や、物事との関係性を調節するための心理的な働きのことです。
認知的不協和理論もバランス理論と同じように不調和や不快な状態を脱するための心理的働きを指していますが、バランス理論が他人や物事に焦点を当てているのに対し、認知的不協和理論は自分自身の内面に焦点を当てている点が異なっています。
認知的不協和の具体例
認知的不協和の具体例には、以下のようなものが挙げられます。
ダイエット中に高カロリーな食事をしてしまった場合
- ダイエットは明日から始めることにする
- 今日は特別だと言い訳する
- カロリー消費のために運動する
ダイエット開始日を明日にしたり今日だけ食べてもよいとしたりすることは、認知をゆがませる調整方法です。「食べてはいけない」を「食べてもOK」と変えることで認知と行動の不一致をなくし、不快でない状態にします。運動をする選択は、代替行動による調整方法です。食べてしまっても運動によるカロリー消費により、認知と行動が一致して不快な状態から脱せます。
タバコがやめられない場合
- タバコを吸うことでストレス解消ができる
- 喫煙していても健康な人がいるから大丈夫だと思おうとする
- 代わりに健康によい習慣を身につける
「ストレスを減らして健康になる」や「タバコを吸っているから必ず病気になるわけではない」と思い込もうとすることは、認知をゆがませる調整方法です。よい健康習慣の習得は代替行動による調整方法となります。
ビジネスシーンで起こる認知的不協和のデメリット
認知的不協和はビジネスシーンにも存在し、問題につながることが少なくありません。ビジネスシーンでよく見られる認知的不協和とデメリットを解説します。
職場に問題があっても指摘できない
まず職場に問題があっても指摘できない点です。問題があることを認識しても、その問題を指摘すると自分の立場が危うくなる場合が少なからずあるでしょう。そうすると「問題を指摘するべきだ」という自分の信念と、「危険にさらされる」という行動に矛盾が生じます。この認知的不協和を解消するために「問題に気づかない」や「問題を感じるのは間違いだ」というように認知をゆがませるため、職場に問題があっても指摘できない状態が生まれます。
他人の出世に対して不満を持つ従業員が増える
ビジネスにおける認知的不協和理論のデメリットとして、他人の出世に対して不満を持つ社員が増えるということです。特に、自分が一生懸命働いていると思っている人に多く見られる現象で、自分の努力と結果が一致しないと感じると、その矛盾を解消するために他人の出世に対する不満や嫉妬という感情が生み出されます。
認知的不協和の解決方法
認知的不協和にはいくつかの解決方法があります。会社での人事に関係するものも多いため、しっかりと理解しておきましょう。
甘いレモンの思考法(価値の付与)
認知的不協和の解決方法には、「甘いレモンの思考法」が挙げられます。これは甘い果物が欲しいけれど、手に入られたのはレモンのみという場合に、「レモンだけれども甘いに違いない」と思い込んで不協和の解消を試みる考え方です。レモンに「甘い」という価値を加えることから、価値の付与と呼ばれます。
ビジネスシーンでは、希望するプロジェクトに参加できずに望んでいない仕事を与えられた場合に、「結果的にこっちでよかった」と思い込もうとすることが、甘いレモンの思考法に該当します。
酸っぱいブドウの思考法(脱価値化)
酸っぱいブドウの思考法は、ブドウが食べたかったのだけれども入手が叶わなかった場合に、「手に入らなかったブドウは酸っぱかったに違いない」と思い込んで不協和を解消する方法です。手に入らなかったものの価値を低めることから、「脱価値化」と呼ばれます。
ビジネスシーンでは、希望の役職に就けなかった場合に、「それほど就きたかったわけではない」などと思おうとすることが、酸っぱいブドウの思考法にあたります。
ホラクラシー型の組織に変更
ホラクラシー型では組織は、上下関係ではなくフラットな関係で構築されます。対等な立場であるため、部下と上司による軋轢はなく、ピラミッド型の組織で起こるような不協和は起こりにくくなります。
人事評価の改善・評価制度の公平性を担保
人事評価を改善したり評価制度の公平性を担保したりすることで、不協和が解消できます。日本特有の年功序列は年齢や在籍年数で昇給や昇格が決定されるため、不公平が生まれやすい傾向にあります。公平公正な人事となるような評価の仕組みを改善したり、信頼・納得が得られる評価制度を導入したりすることで、不協和を起こりにくくできます。
ピアボーナス制度などの構築
ピアボーナス制度とは、従業員同士が感謝を伝え合ったり、何かをしてもらったお返しにプレゼントを贈り合ったりする制度のことです。コミュニケーションが活性化し、よりよい人間関係の構築が図れます。これにより、雰囲気や風通しのよい職場づくりができ、コミュニケーション不足による不協和が起こりにくくなります。
認知的不協和理論をビジネスにおいて生かすには?
ビジネスシーンでは認知的不協和理論を活用できるシーンが少なくありません。どのような活用が可能か理解しましょう。
① 営業における活用
認知的不協和理論は営業における活用が可能です。商品・サービスの購入を迷っている顧客に対して、認知的不協和を解消するような提案を行うことで、決断が促せます。また、自分の価値観や考え、行動と商品の価値の間に顧客が矛盾を感じているような場合には、その矛盾解消に向けた情報提供を行うことで、購入が促せるケースも考えられます。
② キャッチコピーなどのクリエイティブ要素の改善
認知的不協和理論の活用により、キャッチコピーなどのクリエイティブ要素の改善も図れます。商品・サービスの特性を強調し、認知的不協和の解消を図るマーケティング戦略を策定することで、商品価値が明確に伝えられます。さらに、顧客が購入に対して矛盾を感じる可能性がある場合には、情報提供やサポートで矛盾解消を図ることで購入へとつながります。
③ マーケティングにおける活用
認知的不協和理論はビジネスにおいて、マーケティングにも活用できます。顧客の認知的不協和を利用した広告キャンペーンを展開することで、購入促進が図れます。具体的には、顧客自身の生活スタイルや価値観と製品の価値との間に矛盾を感じていることに対して、その解消に向けた製品の特徴や利点を強調することで、購入が促せます。
④ 人間関係の構築
人間関係の構築にも認知的不協和理論は活用できます。人間関係において多少の対立やいざこざ、意見の食い違いは生じるものですが、構成員間の認知の不一致が原因となることも少なくありません。そのため、認知的不協和理論の理解によって問題を起こしにくくし、良好な人間関係の構築につながります。
その他、ビジネスシーンに活用できる心理学
ビジネスシーンにおいては、認知的不協和以外にもさまざまな心理学が活用できます。代表的なものを4つ、紹介します。
① 返報性
返報性とは人から何かをしてもらうとお返しをしたくなるという心理的働きを言います。購入前に無料サンプルを贈呈して購入を決断させるなどでビジネスに活用できます。
② ベン・フランクリン効果
ベン・フランクリン効果とは、人に対して何かをすることで、その人に対する好意が増すという心理的作用のことです。認知と行動を一致させようとする調整に基づくもので、認知的不協和を解消する方法の1つです。顧客やパートナーにサービスや支援を行うことで好意を増し、関係性をよくしてビジネスの発展につながる効果があります。
③ ハロー効果
ハロー効果は、一部への高評価が全体への高評価につながるという作用のことです。ある部門へのよい評判により会社全体がよく思われたり、一部の商品・サービスが多くの人から支持されたことで他のものの売上につながったりします。
④ ホーン効果
ホーン効果はハロー効果の逆で、一部の悪評判・低評価が全体への悪評判・低評価につながる作用を言います。ビジネスでは一部の顧客の満足度低下が全体の顧客満足度低下につながる恐れがあるため、十分に注意しなければなりません。
認知的不協和理論を勉強するうえでのオススメ書籍
認知的不協和理論の勉強には、提唱者であるレオン・フェスティンガーの本を読むことが一番の近道になるでしょう。社会学につながるさまざまな実験や報告と、それらの観察から著者が導き出した考えが掲載されています。1965年9月出版の古い本で言葉も難解ではあるものの、各章のおわりには「要約」が書かれていて、先に読んでおくと理解しやすくなります。
「認知的不協和の理論:社会心理学序説」1965.9.1 レオン・フェスティンガー(著)・末永俊郎(訳)
認知的不協和の解決のため、人事評価制度の公平化を図ろう
人は認知と行動に矛盾があるときに不快を感じ、認知をゆがませたり代替行動をとったりして調整しようとします。ダイエットや喫煙が代表的なもので、言い訳をしたり代わりに運動したり健康的なことをしたりすることです。
ビジネスでの認知的不協和は、職場に問題があっても指摘できない、他人の出世を妬ましく思うといったことがあります。解決方法にはホラクラシー型の組織にする、ピアボーナス制度を導入するといったことが挙げられますが、人事評価制度の改善・公平な評価の担保は特に効果的でしょう。
日本特有の年功序列は公平な人事評価につながりにくく、認知的不協和が起こりやすいとされています。古い人事制度から脱却し、従業員から信頼される人事評価制度を構築しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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