- 作成日 : 2022年12月27日
厚生年金の受給前に対象者が死亡した場合 – 手続きや金額
厚生年金に加入している方が亡くなった場合、本人の受給資格はなくなります。遺族は、亡くなった方が受給前だった場合には遺族年金を、受給中だった場合には遺族年金や未支給年金を受け取れる場合があります。ただし、そのためには請求手続きが必要です。本記事では、受給者死亡の際の手続きや受け取れる金額などについて説明します。
目次
厚生年金の受給者対象者が死亡したらどうなる
厚生年金の受給前で保険料を支払っている方(被保険者)または既に受給している方(受給権者)が亡くなった場合、本人の年金受給の権利はなくなります。では、本人の給与や年金により生計をたてていた遺族はどうなるのでしょうか。
ここでは、遺族が受け取ることができる遺族年金について説明しましょう。
遺族年金を受け取ることができる遺族は、死亡当時、亡くなった方の収入によって生計を維持していた方が対象で、最も優先順位の高い方が受け取ることができます。優先順位は以下の通りです。
- 子のある配偶者
- 子
- 子のない配偶者
- 父母
- 孫
- 祖父母
※子とは、18歳になった年度の3月31日まで、1級・2級の障害がある場合には20歳未満をいいます。
では、被保険者と受給権者では、どのような違いがあるのでしょうか?
厚生年金の受給前に死亡した場合
厚生年金の被保険者が亡くなった場合、遺族厚生年金の支給には条件があります。亡くなった日を含む前々月までの被保険者の期間に、「国民年金の納付と免除期間」「厚生年金保険の被保険者期間」「共済組合員の期間」の合計が3分の2以上あることです。
なお、特例として、令和8年(2026年)3月末日より前に65歳未満で亡くなった場合、亡くなった日を含む前々月の前、直近1年間に未納がなければ良いこととなっています。
遺族厚生年金の手続きは勤務先の事業主が行うため、遺族が行うことは特にありません。ただし、条件に該当する方が受け取れる国民年金独自の給付(遺族基礎年金や寡婦年金、死亡一時金)については別途手続きが必要です。
加入状況や家族関係など、一人ひとり条件が異なりますので、まずは管轄の年金事務所または年金相談センターに相談しましょう。
参考:遺族に支払われる年金|日本年金機構
参考:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構
厚生年金の受給中に死亡した場合
厚生年金の受給権者が亡くなった場合、遺族は「年金受給権者死亡届(報告書)」を提出しなければなりません。年金証書や死亡診断書などの添付書類とともに、管轄の年金事務所か年金相談センターに提出します。提出が遅くなり年金を受け取り続けてしまうと、後日多く受け取った分を請求されることになるため、速やかに届け出ましょう。
なお、亡くなった方が生前、マイナンバーを年金事務所に届出していた場合には、原則として年金受給権者死亡届の提出は省略できます。
また、厚生年金を受給中に亡くなった場合、亡くなった月までに受け取っていない年金や、死亡後に振り込まれた年金の亡くなった月分は未支給年金として遺族が受け取ることができます。
参考:遺族年金の請求手続きのご案内|日本年金機構
参考:年金を受けている方が亡くなったとき|日本年金機構
厚生年金の受給対象者が死亡した場合の手続き
厚生年金の被保険者または受給権者が亡くなった場合、速やかに死亡の届出をしなければなりません。
被保険者が亡くなった場合には、その従業員の健康保険・厚生年金保険の資格喪失手続きが必要です。以下の書類を、5日以内に事業所管轄の年金事務所に提出します。
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届/厚生年金保険70歳以上被用者不該当届
- 添付書類
- 健康保険被保険者証(本人、被扶養者の分)
- 高齢受給者証、健康保険特定疾病療養受給者証、健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証(該当する方のみ)
受給権者が亡くなった場合には、上記のとおり「年金受給権者死亡届(報告書)」を10日以内に、年金事務所または年金相談センターに提出しなければなりません。添付書類も含めると、必要な書類は以下のとおりです。
【死亡届】年金受給権者死亡届(報告書)
- 亡くなった方の年金証書
- 死亡の事実を証明できる書類(戸籍抄本、死亡診断書(死体検案書等)のコピー、死亡届の記載事項証明書など)
【未支給年金の請求】未支給年金・未支払給付金請求書
- 亡くなった方と請求する方の続柄が確認できる書類(戸籍謄本、法定相続情報一覧図の写しなど)
- 亡くなった方と請求する方が生計を同じくしていたことがわかる書類(亡くなった方の住民票の除票および請求する方の世帯全員の住民票の写し)
- 受け取りを希望する金融機関の通帳
- 亡くなった方と請求する方が別の世帯である場合は「生計同一関係に関する申立書」
※戸籍謄本や住民票の写しは、亡くなった日よりも後のものが必要です。
参考:年金を受けている方が亡くなったとき|日本年金機構
参考:従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き|日本年金機構
受給者に遺族がいた場合、厚生年金や遺族年金は支払われる?
遺族年金には、遺族基礎年金(国民年金)と遺族厚生年金があり、その両方またはどちらかを受け取ることができます。
下記のいずれかの条件に合う場合、遺族は、遺族厚生年金を受け取れます。
- 厚生年金の被保険者期間に亡くなった場合
- 初診日が厚生年金被保険者期間内の病気やけがが原因で、初診日から5年以内に亡くなった場合
- 1級、2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が亡くなった場合
- 老齢厚生年金の受給権者の方(保険料納付済期間、免除期間と合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方)が亡くなった場合
- 保険料納付済期間、免除期間と合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方が亡くなった場合
遺族基礎年金と遺族厚生年金の金額は、次のように計算されます。
- 遺族基礎年金
遺族基礎年金の金額は一律同額で、そこへ子の人数により加算されます。- 子のある配偶者が受け取るとき 777,800円 + (子の加算額)
- 子が受け取るとき {777,800円 +(2人目以降の子の加算額)} / 子の数
※1人目および2人目の子の加算額 各223,800円
※3人目以降の子の加算額 各74,600円
- 遺族厚生年金
亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分×4分の3 = (A+B)×3/4A = 平成15年(2003年)3月まで
平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × 加入月数B = 平成15年(2003年)4月以降の平均標準報酬額
平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数※受給権者の場合、乗率は生年月日によって異なります。
※被保険者の場合、加入期間が300月(25年)に満たない場合は、300月とみなして計算します。
また、条件によって、遺族厚生年金には加算があります。
- 中高齢寡婦加算
亡くなった被保険者の妻が40歳以上65歳の場合、65歳になるまで583,400円加算- 生計を共にする子のない妻
- 子のある妻で遺族厚生年金と遺族基礎年金を受給していたが、子が18歳になった年度の3月31日に達した(障害のある状態の場合は20歳になった)ため、遺族基礎年金がもらえなくなった場合
- 経過的寡婦加算
- 昭和31年(1956年)4月1日以前生まれの方が中高齢寡婦加算を受けていて、65歳になった場合(生年月日により減額)
- 昭和31年(1956年)4月1日以前生まれの妻が65歳以上で遺族厚生年金の受給権者となった場合
なお、65歳以上で遺族厚生年金の受給権者となり、老齢厚生年金と遺族厚生年金両方の受給権者となった場合、老齢厚生年金が全額支給され、老齢厚生年金に相当する額の遺族厚生年金が支給停止となります。
ただし、昭和17年(1942年)4月1日以前生まれの方は、「老齢基礎年金+老齢厚生年金」か、「老齢基礎年金+遺族厚生年金」か、「老齢基礎年金+遺族厚生年金の2/3+老齢厚生年金の1/2」のいずれかを選択することになります。
参考:遺族年金ガイド|日本年金機構
参考:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構
遺族を救う遺族年金
本記事では、厚生年金加入者が亡くなった場合に遺族が受給できる年金について説明しました。年金の受給には、亡くなった方の加入期間や保険料の納付状況に条件があります。自分にもしものことがあったときに家族が困らないよう、年に一度送付されるねんきん定期便などで保険料の納付状況はしっかり把握しておきましょう。
また、遺族年金の手続きには期限があります。遅れれば年金の振込が続き、後に多く受け取った分を請求されることもあります。問題なく受給できるよう、速やかに手続きを行うことが大切です。
よくある質問
厚生年金の受給対象者が死亡したらどうなりますか?
死亡した本人の厚生年金を受給する権利がなくなります。年金受給前の場合は事業主が、受給中の場合は遺族が年金事務所または年金相談センターに死亡を届け出る必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
死亡した受給対象者に遺族がいた場合どうなりますか?
死亡したのが年金の受給前であっても受給中であっても、条件を満たしていれば遺族年金を受け取ることができます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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