- 更新日 : 2025年1月17日
雇用保険の会社負担はいくら?計算方法や具体例、軽減する方法を解説
雇用保険は、雇用した従業員が一人でも加入条件を満たした場合、加入が必須とされている制度です。
加入後は、事業主と従業員それぞれにおいて保険料が毎月発生するため、どれくらいの負担が発生するか気になる人もいらっしゃるでしょう。
当記事では、事業主が負担する雇用保険料率や計算方法、軽減する方法などについて解説します。これから雇用保険へ加入される事業主の方は、参考にしてください。
目次
雇用保険の会社負担はいくら?
令和1年から令和5年までの、一般の事業における労働者と事業主の雇用保険料率は下記のとおりです。
令和2年 | 令和3年 | 令和4年 (前期) | 令和4年 (後期) | 令和5年 | |
---|---|---|---|---|---|
一般の事業事業主負担 | 0.6% | 0.6% | 0.65% | 0.85% | 0.95% |
労働者負担 | 0.3% | 0.3% | 0.3% | 0.5% | 0.6% |
一般事業の事業主と労働者共に、保険料は毎年少しずつ値上がりしており、今後も値上がりが予想されます。
令和6年度の雇用保険料の負担割合
令和6年4月1日から令和7年3月31日までの雇用保険料率は、下記のとおりです。
(1) 労働者負担 | (2)事業主負担 | (1)+(2) | |||
---|---|---|---|---|---|
(ア)失業等給付・育児休業給付の保険料率 | (イ)雇用保険二事業の保険料率 | (ア)+(イ) | |||
一般の事業 | 0.6% | 0.6% | 0.35% | 0.95% | 1.55% |
農林水産・清酒製造の事業 | 0.7% | 0.7% | 0.35% | 1.05% | 1.75% |
建設の事業 | 0.7% | 0.7% | 0.45% | 1.15% | 1.85% |
事業主負担の場合は、一般の事業と建設業など、業界により保険料率が異なる点に注意が必要です。
雇用保険の会社負担の内訳
雇用保険は、事業主・従業員・国でお金を出し合って、従業員の雇用と生活の安定を確保するための制度です。
しかし、保険料の用途が分からなければ、積極的に支払いたいとは思わないでしょう。
そこで毎月負担が発生する雇用保険において、支払った保険料が具体的にどのような用途に使用されているか、概要と割合について解説します。
失業時や育児休業時の給付金
失業時の給付金は主に「基本手当」と呼ばれ、雇用保険に加入していた期間や、離職前の賃金に基づいて計算されます。基本手当は、離職理由によって支給日数や金額が異なり、一般的には離職前の6か月間に支払われた賃金の合計を180で割った額の約45%から80%が支給対象です。
また、育児休業時には「育児休業給付金」が支給されます。育児休業を取得した場合に、休業開始から通算180日までは賃金の67%(手取りで約80%相当)が支給され、180日経過後は50%に減少する点に注意が必要です。
具体的な割合は年度ごとに異なりますが、失業等給付や育児休業給付にあてられる保険料は、全体の保険料収入の中で大きな部分を占めています。
たとえば2024年度の雇用保険料率は、一般事業の事業主負担において、0.6%が失業等給付・育児休業給付にあてられます。
雇用保険の二事業(失業の予防、労働者の能力開発など)
失業の予防または労働者の能力開発には、下記があります。
失業の予防 | 雇用調整助成金 |
|
---|---|---|
求職者支援制度 |
| |
労働者の能力開発 | 教育訓練給付制度 |
|
能力開発事業 |
|
2024年度の雇用保険料率では、一般事業の事業主負担において、0.35%が失業の予防、労働者の能力開発などにあてられます。
会社負担となる雇用保険料の計算方法
事業主が負担する雇用保険料があらかじめ具体化されていれば、毎月の収支がより正確に割り出せるでしょう。
事業主が負担する雇用保険料は、次の式で計算されます。
しかし、保険料率は一般の事業・建設業・農林水産の場合とで異なるため、それぞれに割り当てられた保険料率で計算する必要があります。
各業界で、実際にかかる事業主の保険料の計算方法と具体例を紹介します。
一般の事業の場合
令和6年度の一般事業における事業主負担の雇用保険料率は0.95%です。具体的に計算してみましょう。
たとえば、ある企業が従業員に対して月額250,000円の賃金を支払っている場合、事業主負担の雇用保険料は次のように計算されます。
- 賃金総額:250,000円
- 事業主負担の雇用保険料率:0.95%
- 事業主負担の雇用保険料 = 250,000円 × 9.5/1,000 = 2,375円
したがって、上記の事業主が負担する雇用保険料は2,375円となります。
なお従業員が負担する雇用保険料は、保険料率が0.6%なので、250,000円× 6/1,000 = 1,500円となります。
建設業の場合
令和6年度の建設業における事業主負担の雇用保険料率は1.15%です。具体的に計算してみましょう。
たとえば、月給300,000万円の労働者がいる場合、事業主負担の雇用保険料は次のように計算されます。
- 賃金総額:300,000円
- 事業主負担の雇用保険料率:1.15%
- 事業主負担の雇用保険料 = 300,000円 × 11.5/1,000 = 3,450円
よって、事業主は毎月3,450円を雇用保険料として負担することになります。
なお従業員が負担する雇用保険料は、保険料率が0.7%なので、300,000円 × 7/1,000 = 2,100円となります。
農林水産の場合
令和6年度の農林水産業における事業主負担の雇用保険料率は1.05%です。具体的に計算してみましょう。
たとえば、月給250,000円の労働者がいる場合、事業主負担の雇用保険料は次のように計算されます。
- 賃金総額:250,000円
- 事業主負担の雇用保険料率:1.05%
- 事業主負担の雇用保険料 = 250,000円 × 10.5/1,000 = 2,625円
よって、事業主は毎月2,625円を雇用保険料として負担することになります。
なお従業員が負担する雇用保険料は、保険料率が0.7%なので、250,000円 × 7/1,000 = 1,750円となります。
65歳以上の雇用保険の会社負担はいくら?
令和6年度の雇用保険料率において、65歳以上の従業員に対する雇用保険の会社負担は、65歳未満の場合と同じで下記のとおりです。
(1) 労働者負担 | (2)事業主負担 | (1)+(2) | |||
---|---|---|---|---|---|
(ア)失業等給付・育児休業給付の保険料率 | (イ)雇用保険二事業の保険料率 | (ア)+(イ) | |||
一般の事業 | 0.6% | 0.6% | 0.35% | 0.95% | 1.55% |
農林水産・清酒製造の事業 | 0.7% | 0.7% | 0.35% | 1.05% | 1.75% |
建設の事業 | 0.7% | 0.7% | 0.45% | 1.15% | 1.85% |
たとえば、65歳以上で月給が200,000円の一般事業に勤める従業員の場合、雇用保険料は以下のように計算されます。
- 労働者負担:200,000円 × 6/1,000 = 1,200円
- 事業主負担:200,000円 × 9.5/1,000 = 1,900円
- 合計:1,200円 + 1,900円 = 3,100円
65歳以上の従業員に対する雇用保険料も業種により異なるため、会社の負担額も変わる点に注意が必要です。
育休・介護休業中は雇用保険の会社負担はある?
雇用保険料は、従業員が受け取る賃金総額に保険料率を乗じて計算されます。そのため、無給である育児休業や介護休業中は、雇用保険料が発生しません。なお、保険料は発生しませんが、雇用保険の資格自体は維持されます。
一方で、健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料は、育児休業期間中であれば、事業主負担分と従業員負担分双方が免除されます。混同しないように注意しましょう。
雇用保険料の会社負担を軽減する方法はある?
雇用保険の負担は事業主にとって非常に大きく、従業員が増えるほど負担はさらに大きくなるでしょう。
そこで、できるだけ雇用保険料の負担を軽減するための措置を施すことをおすすめします。
合法的に雇用保険料の事業主負担を軽減する方法を3つ紹介します。
短時間勤務の労働者を増やす
雇用保険料の会社負担を軽減するために、短時間勤務の労働者を増やす方法があります。なぜなら、雇用保険へ加入する下記の条件に当てはまらないようにすればよいためです。
- 雇用契約期間が31日以上であること
- 所定労働時間が週20時間以上であること
具体的には、短時間勤務の制度を導入し、労働者に柔軟な働き方を提供することが重要です。働き方が柔軟になれば、育児や介護を行う従業員など、スケジュールの固定が難しい人材を確保しやすくなります。
また短時間勤務の労働者が効果的に働けるように、業務内容やシフトを見直すことも必要です。業務内容を見直すことで、短時間勤務でも生産性を維持できる環境を整えられるでしょう。
さらに、短時間勤務の労働者との雇用契約を工夫し、必要に応じて契約を更新することで、企業の負担を軽減しつつ労働者が希望する働き方にもこたえられます。
人材派遣会社を活用する
自社の従業員を確保するのではなく、人材派遣会社の利用がおすすめです。
なぜなら、派遣社員を雇用する場合、雇用保険料は派遣会社が負担するためです。人材派遣会社を利用したほうが、自社で直接雇用する場合と異なり雇用保険料の支払い義務がなくなります。派遣会社が従業員と雇用契約を結ぶため、自社では雇用保険料分のコストが削減できるのです。
さらに人材派遣を利用することで、雇用保険料の負担が軽減されるだけではなく、そのほか社会保険等の手続きにかかる手間やコストも削減できます。
また短期的に雇用が必要な場合なら、派遣社員を利用することで雇用保険の手続きが不要になるほか、必要な時期のみ人材を確保できます。
役員への変更を検討する
役員は、原則として雇用保険の被保険者にはなりません。なぜなら、役員は経営者としての立場であって雇用契約に基づく労働者とは異なるためです。したがって、従業員を役員にすることで、雇用保険料の負担を回避できる可能性があります。
役員は雇用保険に加入しないため、事業主にとって、役員の数だけ雇用保険の負担は軽減されます。
また、従業員を役員にすることで給与を役員報酬として設定可能です。役員報酬は、一般的に従業員の給与よりも高額になることが多いですが、事業場の経費計上が有利になるでしょう。
ただし役員は経営責任を負うため、従業員を役員へ任命する際は慎重な判断が必要です。
雇用保険の会社負担に関する注意点
従業員が雇用保険へ加入する条件を満たした場合、事業主が雇用保険に加入することは義務です。
そのため、加入や保険料の支払いに遅延が発生した場合、罰則が科される可能性があるため注意が必要です。
そのほか、事業主が雇用保険へ加入するにあたって把握しておきたい注意点について解説します。
支払い遅延や未払いへのリスク
事業主が雇用保険への加入条件を満たしているにもかかわらず、雇用保険への加入義務を怠った場合、雇用保険法第83条に基づき6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
さらに、雇用保険料の支払いが遅延した場合は延滞金が発生することもあるでしょう。具体的には、遅延した期間に応じて追加の金額が課せられることがあり、事業主にとっての経済的な負担が増加します。また、労働局からの是正勧告を無視した場合も、同様の罰則が適用される可能性があります。
雇用した従業員が一人でも雇用保険への加入条件を満たした場合は、早急に対応しましょう。
保険料率の改定への対応
保険料率は、ほぼ毎年改訂されます。そのため、厚生労働省の公式サイトを確認のうえ、改訂されたら下記の手順に沿って対応しましょう。
- 改定内容の確認
- 雇用保険料の計算の見直し
- 従業員への通知
- 経理業務の見直し
- 必要に応じて従業員へ説明と研修を行う
雇用保険料が改訂された場合、従業員にとっては自身の給与に大きく関係するため、必ず説明と理解を得るようにしましょう。
納得がいかず説明を求めてきた従業員に対しては、保険料率が値上がりした理由や、雇用保険へ加入するメリットなどについて説明するとよいでしょう。
会計ソフトの利用が便利
雇用保険料の確認や計算は、会計ソフトを活用しましょう。昨今の会計ソフトには、下記のような機能があります。
- 自動計算機能
- 最新の料率を交えた計算
- 法律の改定への対応
- 計算データ管理とレポート作成
とくにブラウザ型の会計ソフトを使用すれば、法律や料率が改訂されても、インターネットを通じて自動でアップデートされます。つまり、常に最新の状態で雇用保険料やそのほかの会計計算ができます。
初期費用やランニングコストが発生し、操作に慣れるまでの手間がかかる点がデメリットですが、人力で行う会計業務の手間と比較すれば、費用対効果が得られやすいでしょう。
会社が負担する雇用保険料を適切に把握しましょう
雇用保険へ加入した場合、雇用保険の負担は事業主と従業員の双方に発生します。
雇用保険料率はほぼ毎年改定があり、年々上昇傾向にあるため、毎年最新の保険料率を適用するよう注意が必要です。
また、保険料率は一般の事業・農林水産業・建設業にて異なるため、自身の事業に当てはまる保険料率を適用させましょう。
雇用保険料の計算は、人力ではなく会計ソフトの使用が便利です。昨今の会計ソフトは、保険料率の改定時に自動で計算式を更新してくれるため、計算におけるミスや手間が大幅に軽減できます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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