• 更新日 : 2024年3月29日

長時間労働とは?原因はなに?基準や対策方法を解説

長時間労働は大きな社会問題ですが、2019年の働き方改革関連法施行を契機に是正の動きが進んでいます。

この記事では、長時間労働の定義や基準、労働災害との関係、長時間労働の原因と発生する問題、解消方法について解説します。自社の問題点を把握して、長時間労働の解消に向けた取り組みを進める上での一助となれば幸いです。

長時間労働とは?

2019年の働き方改革関連法の施行に伴い、長時間労働を是正する動きが進んでいます。一方、慢性的な人材不足が発生している業界では、依然として長時間労働が解消されていないのが実情です。

このように長時間労働についてはよく話題にされますが、その定義や基準についてはあまり知られていないのではないでしょうか。以下では長時間労働の定義や基準について解説します。

長時間労働の定義・基準

長時間労働の定義について、実際に何時間働けば長時間労働に該当するのか等の明確な基準はありません。

労働時間に関する基準を定める労働基準法においては、労働時間(法定労働時間)は、1日8時間、1週40時間です。これを超えて働いた時間は時間外労働と定義されています。

時間外労働を行わせる場合には、労働基準法36条に基づき、労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署長に届け出る必要があります。さらに就業規則において時間外労働を行わせる旨を定めなければなりません。

この36協定を締結した場合でも、次項で解説する通り、時間外労働の上限は労働基準法により規制されています。

36協定を元にした考え方

働き方改革関連法の施行に伴い、2019年4月に労働基準法が改正され、時間外労働の上限が規制されることになりました。(中小企業は2020年4月より、建設業や自動車運転業務、医師など一部の業種、業務は2024年4月より適用)

36協定を締結して時間外労働を行わせることができる場合でも、原則として45時間/月、360時間/年が上限となり、これを限度時間と呼びます。(1年単位の変形労働時間制の対象期間が3か月超の場合は、42時間/月、320時間/年が上限)

特別条項付き36協定を締結する場合、限度時間を超えて働かせることができますが、その限度は以下の通りです。

①時間外労働:720時間以下/年

②時間外労働+休日労働:100時間未満/月

③時間外労働+休日労働の直近2~6か月平均:80時間以下/月

④限度時間(時間外労働45時間/月)を超えられる月数:6か月以内/年

※②③の要件は特別条項付き36協定でない場合も適用されます。

なお、特別条項付き36協定を締結できるのは、通常の業務では予見できない緊急的な対応や臨時的な対応により業務量が大幅に増加し、限度時間を超えて働かせる必要がある場合です。従って毎年一定の時期に見込まれる繁忙期はこれに含まれません。

36協定を締結する場合の限度時間は長時間労働かどうかを判断する一つの目安になると言えるでしょう。

長時間労働に関わる労災

長時間労働と過労死や労働災害(以下「過労死等」)の発生には因果関係があると考えられ、労働災害の認定基準に時間外・休日労働の時間数が定められています。

過労死等防止対策推進法第2条では「過労死等」の定義を以下の通り定めています。

  • 業務において過重な負荷がかかり、脳血管疾患・心臓疾患により死亡すること
  • 業務において強い心理的負荷がかかり、精神障害となり自殺により死亡すること
  • 死亡には至らないものの、脳血管疾患、心臓疾患、精神障害を発症すること

参考:過労死等防止対策推進法|e-Gov法令検索

以下では「過労死ライン」と呼ばれる脳血管疾患・心臓疾患の労働災害認定基準と、精神疾患の労働災害認定基準について解説します。

過労死の基準(脳血管疾患・心臓疾患の労災認定基準)

厚生労働省によると、40時間/週を超える時間外・休日労働が以下の基準を超える場合に業務と発症の関連性が強いため、脳血管疾患・心臓疾患による労災認定の基準としています。いわゆる「過労死ライン」です。

  • 発症前1か月間に概ね100時間を超える時間外・休日労働
  • 発症前2~6か月間に概ね80時間/月を超える時間外・休日労働

参考:過労死防止対策パンフレット|厚生労働省

上記の基準に至らない場合でも、不規則勤務や出張等の多い勤務、心理的負荷を伴う勤務などの要因がある場合に総合的に判断して労災認定を行う場合があります。発症直前の過度の長時間労働や、異常な出来事(重大な人身事故等)も認定要件に含まれています。

精神障害の基準

精神障害の労災認定のためには以下の要件のすべてを満たす必要があります。

①対象となる精神障害であること

②発病前概ね6か月間に、業務による強い心理的負荷があること

③業務以外による心理的負荷によるものでないこと、対象者が既に精神疾患にかかり治療中 等の状況でないこと

上記②の要件に以下の長時間労働に基づく認定基準があります。この基準も40時間/週を超える時間外・休日労働時間に基づきます。

  • 極度の長時間労働:発症直前に概ね160時間/月を超える時間外・休日労働

    ※1か月に満たない場合、例えば3週間の場合でも概ね120時間以上で認定。

  • 長時間労働:発症直前の2か月間連続で概ね120時間以上/月の時間外・休日労働          発症直前の3か月間連続で概ね100時間以上/月の時間外・休日労働

上記以外に転勤後に100時間/月程度の時間外・休日労働を行った場合等も認定されます。

長時間労働が生まれる原因

長時間労働が生まれる原因には様々なものがあります。以下では主な原因を5つ紹介します。

人手不足・業務量が多い

少子高齢化に伴い生産年齢人口の減少が進む一方で、人件費が上昇しているため人材の確保が難しく、従業員一人当たりの業務量が多い状況が続いています。このような状況では適切な業務分担で効率的に業務を進めるのも難しいため、長時間労働につながります。

管理職のマネジメントが上手くいっていない

管理職は所属する組織の業績管理だけでなく、部下の勤怠や業務進捗状況等の管理も行いながら、適切な分担のもとで業務を進める必要があります。

ところが、実際には管理職が現場の業務実態を十分に把握しておらず、一部の優秀な部下に業務を偏らせたり、業務指示に計画性がなかったりするなど、最適なマネジメントができていないことがあります。なかには残業を前提とした業務指示を行うなど、明らかに長時間労働に対する意識の低いケースも見られるでしょう。

また、最近では部下の残業を減らす代わりに、管理職自らが仕事を抱えて残業せざるを得ず、結果としてマネジメントがうまくいかなくなっているケースもあります。このような管理職のマネジメント不足が長時間労働の原因の一つになっているのです。

仕事の繁忙期・閑散期の差が大きい

繁忙期と閑散期の業務量の差が大きい場合も、繁忙期において長時間労働が生まれる原因となります。

従業員の数を機動的に増減させることが簡単ではない上、繁忙期に一人当たりの業務量が適正な状態で乗り切れる人員を配置することも難しいのが現状です。したがって、繁忙期は時間外労働などにより乗り切らざるを得ず、長時間労働が発生してしまいます。

企業の文化・体質として長時間労働が強要されている

日本の企業には長時間労働を是とする風潮が見られることがあります。残業が当たり前で、管理職が残業が多い従業員の頑張りを評価することもあり、自らの出世のために長時間労働をいとわない従業員を生む背景になっています。

また、このような職場環境が形成されていることで、残業をしている従業員がいると他の従業員は帰宅することに抵抗を感じてしまいます。結果としてやむなく残業してしまう形で長時間労働につながることもあるでしょう。

このように企業の文化・体質として長時間労働が強要されていることが、長時間労働が生まれる原因になっています。

働き方が非効率・無駄な行事/業務が多い

先述の管理職のマネジメント不足の問題にも起因して、業務内容やその進め方、分担などが最適化されていない結果、働き方が非効率になっている場合があります。

また、従業員自身の自己管理能力が不足していたり、従来の業務の進め方を変えたくないと考えたりすることに起因して、非効率な業務を行っている状況も見られます。このような場合、自ずと労働時間は長くなり、長時間労働を生み出すことになるのです。

また、本来業務とは無関係な行事が多い企業もあり、その行事の準備などに時間を要する場合は、本来業務に要する時間と合わせると長時間労働につながることでしょう。

長時間労働によって生じる問題

長時間労働は個々の従業員にとってはもちろんですが、労働災害を通じて貴重な労働力を失ったり、生産性を低下させたりするため、企業にとっても大きな問題になります。

以下では長時間労働によって生じる主な問題を6点、解説します。

労働災害の発生

先述の通り長時間労働と労働災害の発生や過労死には因果関係があるとされています。

時間外労働、休日労働の時間数が認定基準に達すると労働災害に認定されます。労働災害に認定された場合、企業は従業員に対して労働基準法に規定する災害補償を行う必要があるのです。通常は労災保険に加入しているため労災保険に基づき給付されますが、労災保険により補償されない部分については労働基準法に基づく災害補償を行う必要があります。

離職や休職数の増加

ワークライフバランスを重視する風潮が広がっているため、長時間労働が常態化している企業への従業員のエンゲージメントは低く、離職者の増加に直結します。また、前項で述べた労働災害の発生などにより休職者の増加にもつながります。

離職者や休職者が増加している企業との評判が広がると採用にも不利になるため、人手不足に拍車がかかり、更なる長時間労働を生む負のスパイラルに陥ることも懸念されます。

社会的信用の喪失

先述の通り、長時間労働と過労死には密接な関係があります。長時間労働による過労死、過労自殺が発生した場合にはマスコミ報道などにより世の中に広く知られ、社会的信用の喪失につながります。

また、このような過労死や過労自殺を発生させることは、労働契約法に定める企業による安全配慮義務違反にあたり、訴訟の結果多額の損害賠償の支払が命ぜられています。

生産性の低下

長時間労働により休息が不十分になったり、睡眠不足に陥ったりするため、業務時間中の集中力低下やミスの増加につながり生産性が低下します。場合によっては脳血管疾患・心臓疾患や精神障害を引き起こし、休職を余儀なくされるなど職場全体としても生産性が低下します。

うつ病の発症リスク上昇

長時間労働が続くと、そのストレスや疲労、睡眠不足などによりうつ病などの精神疾患を発症するリスクが上昇します。

うつ病などの精神疾患により業務の能率が落ちたり、休職につながったりするほか、最悪の場合は自殺を引き起こしたりする可能性もあります。

労働基準法違反になるリスク

労働基準法で時間外労働の上限が規定されているため、これを超えて時間外労働や休日労働を行わせた場合には労働基準法違反になります。

時間外労働の上限規定には罰則が設けられており、違反した場合には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられることがあります。この罰則は違法な時間外労働や休日労働を指示した管理職等だけでなく、そのような状況を認識しながら適切な措置を取らなかった場合には事業主にも適用されます。

また、80時間/月を超える時間外・休日労働による長時間労働が疑われる事業場や、長時間労働等による労災請求が行われた事業場に対し、労働基準監督署による監督指導が行われます。その際に違法な時間外労働が発覚した場合には是正勧告が行われます。

長時間労働を解消するための方法

前章で述べた通り、長時間労働は多くの問題をもたらすため、解消に向けた取り組みが急務と言えます。以下では長時間労働を解消する方法を3点紹介します。

テレワークやリモートワークの導入

テレワークやリモートワークにより自宅や近所のカフェなどで業務を行うことができるようにすると、通勤に要する時間や労力を減らすことができます。その結果、業務が効率化されて長時間労働の解消につながるでしょう。

なお、テレワークやリモートワークを導入する場合、管理監督者による労働時間の把握が難しくなる可能性があるため、事前に労働時間の管理方法などを十分に検討し、運用することが求められます。運用方法によっては逆に長時間労働を助長する可能性もあるため、注意が必要です。

フレックスタイム制の活用

フレックスタイム制ではコアタイムと呼ばれる時間帯は出社しますが、その前後の時間帯の出退勤時刻は各従業員の都合により柔軟に設定することができます。それぞれの業務に合わせて自ら労働時間を変えることができるため、限られた時間で成果を挙げられるように働くことを意識するようになり、長時間労働の解消につながることでしょう。

勤怠管理システムの導入・残業時間のアラート管理

勤怠管理システムを導入することで、労働時間の管理をより厳密に行うことができます。勤怠管理システムは出退勤時刻、労働時間の集計や、残業申請が可能なため、残業時間の管理に適しています。また、集計結果も把握しやすいため、職場内や従業員別の残業の状況を分析し、長時間労働削減策の検討にも役立ちます。

また、勤怠管理システムには、残業時間が一定の時間を超えるタイミングでアラートを出す機能が備わっているものがあります。管理監督者と従業員双方でアラートを確認できるため、長時間労働をけん制することができます。

長時間労働を解消し、働きやすい職場づくりを

長時間労働は労働災害や過労死等を通じて、貴重な人材の損失や企業イメージの低下につながりかねないため、解消することが急務です。

長時間労働の解消に向けては、管理職のマネジメント力の向上や業務の効率化の取り組みが重要です。また、フレックスタイム制など柔軟な働き方が可能な制度の導入等により、働きやすい職場を作ることも企業にとって大きなメリットになることでしょう。

この記事を参考に、自社で長時間労働の実態がある場合には実態を十分に把握するとともにその解消に向けて取り組み、働きやすい職場づくりを目指しましょう。


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