• 更新日 : 2023年11月30日

ディーセントワークとは?定義や取り組み内容についてわかりやすく解説

ディーセントワークとは?定義や取り組み内容についてわかりやすく解説

ディーセントワークを目指す職場が増えています。働き方や職場環境を改善する動きが広がっているのです。そこでこの記事ではディーセントワークという言葉の意味や、ディーセントワークの実現に向けた取り組みのメリットなどについてわかりやすく解説します。

ディーセントワークとは?

ディーセントワークとは権利が保障されているだけでなく、十分な収入と適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事を指す言葉です。ディーセント(decent)は「適正」や「良識にかなった」と訳せるので、働きがいのある人間らしい仕事をディーセントワークと呼びます。

ILO活動の主目標

ディーセントワークという言葉が初めて用いられたのは、スイス・ジュネーブに本部を置く国際労働機関であるILOの1999年に開かれた総会でのことでした。ディーセントワークの実現はILO活動の主目標として掲げられており、世界中のすべての人の労働環境の改善に向けて積極的な活動が行われています。

参考:ディーセントワーク|国際労働機関(ILO) 

ILOの5つの計画

ILOではディーセントワーク実現のために、以下の5つの計画を掲げています。

  • 児童労働・強制労働撤廃国際計画
  • すべての人のための労働安全衛生計画
  • 平和と強靭性のための雇用促進計画
  • 社会的保護の土台計画
  • ベターワーク(より良い仕事)計画

参考:5つの旗艦プログラム|国際労働機関(ILO) 

ディーセントワークが唱えられた歴史的背景

ディーセントワークが生まれた背景には、失業者数や貧困率の問題が挙げられます。ILOによると、2017年の時点で世界人口の5.6%は失業中です。また、1日1.90ドルという貧困

ライン未満で暮らす人々は、22億人近くに達しています。こうした現状を解決するためILOによって提唱されたのがディーセントワークなのです。

参考:ディーセントワークと経済成長の両立|国際労働機関(ILO) 

SDGsとディーセントワークの関係

SDGsとは持続可能な開発目標の略称で、2015年9月の国連サミットで採択されました。2030年までに持続可能でより良い世界を目指すための国際目標で、17のゴールと169のターゲットから構成されています。8番目の目標のテーマは労働であり、ディーセントワークと密接な関係があるのです。

SDGsの8つの目標

SDGsの8番目の目標には「働きがいも経済成長も」が掲げられています。具体的には、包摂的かつ持続可能な経済成長および、すべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進すことが目標です。つまり、ディーセントワークの普及が目指すべき目標として定められているのです。

参考:SDGグローバル指標|外務省

ディーセントワークの具体的な方針 4つのポイント

続いて、ディーセントワークの具体的な方針である、4つのポイントについて解説します。

雇用の促進

必要な技能を身につけて働いて生計が立てられるように、国や企業が仕事を作り出すことを支援します。雇用政策の策定やスキル開発、起業支援といった活動を通じて、雇用を促進します。

社会的保護の方策の展開及び強化

安全で健康的に働ける職場を確保して、生産性も向上するような環境を整備していかなくてはなりません。社会保障制度の充実や労働安全衛生の徹底などによって、労働者の社会的保護を拡充します。

社会対話の促進

労働者・雇用主・政府が協力して、職場での問題や争いごとを平和的に解決できるようにする取り組みを指します。労使協議や労働組合活動などが具体的な活動事例です。

労働における基本的原則及び権利の尊重、促進及び実現の4つの戦略的目標を通して実現

仕事における労働者の権利が尊重され、不利な立場に置かれる方が発生しない職場を目指します。雇用主が法令を遵守するだけでなく、差別の撲滅や労働基準の整備といった取り組みが必要です。

日本はディーセントワーク後進国?現状の課題

働き方改革などが推進される日本ですが、ディーセントワークについては後進国なのでしょうか。日本が抱える主な現状の課題についてお伝えします。

労働人口の減少

日本では少子高齢化が進展し、労働人口が減少しています。15歳以上65歳未満の年齢層の人口である生産年齢人口を見てみると、2023年5月1日の時点で約7400万人でした。1995年の生産年齢人口は約8,700万人であったことを考えると、30年も経たない間に約1,300万人近くも減少していることがわかります。今後もますます労働人口の減少は進行していくことが予測されるため、対策が求められているのです。

参考:人口推計|総務省

雇用・賃金の格差

日本では正規雇用と非正規雇用の格差も深刻です。特に、両者の賃金には明確な違いが生まれており、同一業種においても2倍近い差が出るケースもあります。さらに、非正規雇用の方は職業訓練を受ける機会が少ない傾向にあり、人的資本形成において不利になる恐れもあるのです。ディーセントワークを推進するためには、こうした雇用・賃金の格差を解消していかなくてはなりません。

長時間労働・ブラック企業

従業員に長時間労働を強いるブラック企業も問題になりました。長時間労働などが多い環境だと、従業員が健康を損なうリスクが高まります。働き方改革の推進もあり長時間労働の職場やブラック企業は現状傾向にありますが、過酷な環境で働いている方がまだまだ目立つ状況です。

労働生産性の低さ

日本の労働生産性は決して高いとはいえません。OECDデータに基づく2021年の日本の時間当たりの労働生産性は49.9ドルで、OECD加盟38ヶ国中27位という結果でした。アメリカの85ドルと比較すると6割弱程度しかなく、日本の働く環境は決して良いとはいえないのです。

参考:日本の時間当たりの生産性|日本商工会議所

ハラスメントが多い

ハラスメントも多くの企業で問題になっています。ハラスメントとは人を困らせる嫌がらせ行為のことであり、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントが代表例です。多くの職場ではハラスメント行為が発生しており、改善に向けた取り組みが求められています。

参考:職場のハラスメントに関する実態調査|厚生労働省

ディーセントワークの評価指標

ディーセントワークの評価指標についても確認しておきましょう。

働く機会および収入

働く機会があって生計を持続できるだけの収入が得られることが求められます。労働者は仕事を得て給料をもらわなければ、生計を立てられません。労働者ごとに適した仕事を与えられ十分な給与を支払うことは、ディーセントワークの基本として行わなくてはならないのです。

働くうえでの権利保障・発言の機会

労働三権といった権利が確保されているだけでなく、職場で発言が行いやすい環境であることが評価されます。労働三権とは団結権・団体交渉権・団体行動権の3つの権利を指す言葉です。労働者にとっての基本的な権利の保障に加えて、意見を言える職場であることが求められます。

家事と仕事の両立

家庭生活と職業生活を両立させられることが求められます。仕事が与えられたとしても業務量が多いとプライベートを犠牲にしなければなりません。生活と仕事を両立させられる適切なバランスであることが評価されます。

男女平等・ジェンダー問題の解決

男女平等な扱いを受けられることも評価指標の一つです。ジェンダーの不平等な状況は社会全体の発展を阻害します。男女の格差を是正してすべての人が自らの能力を最大限に発揮できる環境を構築しなくてはなりません。

職場におけるディーセントワークの評価方法

職場におけるディーセントワークは以下の7つの基準で評価されます。

WLB

WLBとは仕事と生活の調和を意味する、ワークライフバランスを示す言葉です。労働者が仕事と生活のバランスを適切に保ちながら、長期間にわたって働き続けることができるかどうかが評価されます。

自己鍛錬

労働者が職場において能力を開発し成長する機会が確保され、自己実現を追求できるかどうかが評価されます。継続的な学習機会の創出やキャリア開発支援は、スキルアップとキャリア形成を助けます。

収入

労働者が持続可能な生計を維持するために、十分な収入を得ていることが評価ポイントです。適切な賃金や手当てを得ることは、労働者の生活品質の向上につながります。

公平平等

雇用形態・性別・年齢などに関係なく、すべての労働者が公平な条件で活躍できる職場であることが評価されます。差別や偏見のない職場環境は、労働者の生産性に直結します。

安全衛生

労働者の健康や安全を守れる環境が整備されていることを示す評価軸です。労働災害の発生を防止し、労働者の身体的・精神的な健康を保護する取り組みが求められます。

セーフティーネット

労働者が最低限の社会的保護を受けられる体制が確立されていることが評価されるポイントです。年金制度・医療保険・雇用保険への加入などによって、労働者の社会的リスクを軽減することが必要とされます。

労働者の権利

労働者と企業とが対等な立場で意見を交換しあえる職場であるかを示す評価軸です。労働三権などが尊重され、労働条件や職場環境について適切に発言しやすい環境であることが評価されます。

ディーセントワークを実施するメリット

ディーセントワークを実施する代表的な3つのメリットについて解説します。

SDGs等への社会的貢献意識をアピールできる

ディーセントワークを行えばSDGsなどへの社会的貢献に前向きな企業であるとアピールすることが可能です。ディーセントワークを実施する企業が広がれば、労働者の権利を認めて尊重できる社会を実現できます。長時間労働やジェンダー問題など、社会的な課題解決に貢献できるのです。

労働生産性への貢献

労働生産性へ貢献できることもディーセントワークに取り組むメリットとして挙げられます。そもそも、労働生産性とは労働者1人当たりでどれだけ成果を生み出したかを示すものです。ディーセントワークを実現している職場では、労働者の働く意欲が高まります。向上心を持って仕事に取り組める環境を整えられるので、労働生産性の向上が期待できるのです。

採用活動におけるアピールポイントとなる

ディーセントワークを実施すれば、採用活動におけるアピールポイントにもなります。日本では働き方改革が推進され、求職者が企業を選ぶポイントにも影響を与えました。具体的には成長する機会の有無や社内の雰囲気の良さを重視する傾向が高まっており、企業にはディーセントワークを実践する姿勢が求められているのです。企業がディーセントワークを積極的に実施することは職場の魅力向上につながるため、採用活動においても強みとして訴求できます。

ディーセントワークを推進しよう

ディーセントワークは世界だけでなく日本でも注目されている言葉です。ディーセントワークを実現できれば労働者の働く環境を大きく改善できるだけでなく、SDGsの達成にも貢献できます。ディーセントワークを評価する7つの基準を念頭に置いて、職場環境を見直してみてはいかがでしょうか。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談していただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事