- 更新日 : 2024年8月21日
扶養控除とは?所得税から引かれる金額や条件、配偶者控除との違い
扶養控除とは、納税者に所得税法上の扶養親族がいるときに、適用される控除制度のことです。同居の有無や年齢によって、38万~63万円の控除を受けられます。適用条件や配偶者控除との違い、扶養親族が老人ホームで暮らしている場合は同居とみなすか、また、アルバイト・年金収入がある場合は対象となるのかなどについて解説します。
目次
扶養控除とは?所得税からいくら引かれるか
扶養控除とは、納税者に所得税法によって規定される扶養親族がいる場合に適用される所得控除のことです。扶養控除が適用されると、課税所得額から38万~63万円が所得控除として差し引かれます。
親族を扶養するには、経済的な負担がかかります。扶養控除は扶養にかかる経済的負担の軽減を目的とした制度です。扶養控除が適用されて課税所得額が減ると、所得税や住民税が軽減され、納税者の手取りが増えます。
所得税の扶養控除額の区分
扶養控除額は、以下の4つの区分があります。
区分 | 扶養控除額 | |
---|---|---|
一般の扶養親族 | 38万円 | |
特定扶養親族 | 63万円 | |
老人扶養親族 | 同居老親等以外の者 | 48万円 |
同居老親等 | 58万円 |
特定扶養親族とは、控除対象の扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満の人を指します。
老人扶養親族とは、その年の12月31日現在の年齢が70歳以上の人です。同居老親等は、納税者本人や配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で、納税者本人もしくは配偶者と常に同居している人を指します。
老人ホームなどに入所している場合は同居しているとはいえませんが、病気の治療を目的とした入院により、一時的に納税者本人もしくは配偶者と別居している場合は同居とみなされます。
所得税法上の扶養親族になる要件
控除対象の扶養親族は、次の条件すべてを満たしている必要があります。
各条件について解説します。
①納税者と生計を一緒にしている
扶養親族は、納税者と生計を一緒にしていることが求められます。なお、生計を一緒にしているとは、必ずしも同居を要件とはしません。勤務や修学、療養などの事情から別居している場合でも、余暇を一緒に過ごしたり、生活費や学資・療養費などを送金したりしている場合なら生計を一緒にしていると判断されます。
同一の家屋に起居している場合は、生計を一緒にしているとして扱うことが一般的です。しかし、それぞれが独立した生活を営んでいるときは、扶養・被扶養の関係にないと判断されることもあります。
②16歳以上
控除対象となる扶養親族は、扶養親族であり、なおかつその年の12月31日現在の年齢が16歳以上でなくてはいけません。
ただし、令和5年分以降の所得税においては、非居住者である扶養親族については、次のいずれかに該当している人のみ控除対象となります。
- その年の12月31日現在の年齢が16歳以上30歳未満
- その年の12月31日現在の年齢が70歳以上
- その年の12月31日現在の年齢が30歳以上70歳未満であり、なおかつ以下の条件を満たしていること
- 留学中であり、日本国内に住所・居所がない
- 障害者
- 納税者から生活費もしくは教育費として38万円以上受け取っている
③配偶者以外の親族(子ども・親・兄弟など)
控除対象となる扶養親族は、配偶者以外の親族でなくてはいけません。なお、親族とは6親等内の血族と3親等内の姻族のことです。また、都道府県知事から養育を委託された児童や、市町村長から養護を委託された高齢者も扶養親族に含めます。
④1年間の所得金額が48万円以下(給与年収103万円以下)
控除対象となる扶養親族は、1年間の合計所得金額が48万円以下でなくてはいけません。収入を給与としてのみ受け取っている場合は、給与収入が年103万円以下である必要があります。
⑤青色申告・白色申告の事業専従者でない人(個人事業主など)
青色申告もしくは白色申告の事業専従者でないことも、控除対象となる扶養親族の条件です。ただし、青色申告の事業専従者であっても、その年を通じて1回も給与の支払いを受けていない場合は、控除対象となる扶養親族の条件を満たします。
所得税の扶養控除額は年齢によって異なる
所得税法上の扶養控除額は年齢によって異なります。以下をご覧ください。
所得税法上の扶養親族の年齢 | 扶養控除額 |
---|---|
16歳以上19歳未満 | 38万円 |
19歳以上23歳未満 | 63万円 |
23歳以上70歳未満 | 38万円 |
70歳以上 | 同居老親等以外:48万円 |
同居老親等:58万円 |
たとえば、大学生は19歳~22歳であることが一般的なため、授業料が高くなる時期の扶養控除額は高く設定されています。
一方、子どもが高校生のときも、義務教育ではないため基本的には授業料が必要です。しかし、高等学校等就学支援金制度(高校無償化制度)などにより、大学の授業料よりは家計への負担は少ないと考えられるため、扶養控除額は38万円と少なく設定されています。
扶養控除が受けられる所得の計算方法
年齢や同居などの条件を満たしていても、扶養親族に年間48万円を超える(給与収入の場合は年間103万円を超える)所得がある場合は、所得税法上の扶養親族ではないため、所得控除も適用されません。
扶養親族が学生でアルバイトをしている場合と、老親が年金受給者である場合に分けて解説します。
学生アルバイトの場合
扶養親族である子が学生なら、19歳以上23歳未満の場合は63万円、それ以外の年齢でも基本的には38万円の扶養控除が適用されます。所得税法上の扶養親族の条件を満たす収入・所得の条件は以下をご覧ください。
アルバイト収入の種類 | 所得税法上の扶養親族となるアルバイト所得 |
---|---|
給与のみ | 年間103万円以下 |
給与以外のみ | 年間48万円以下 |
もし学生が収入を得ている場合は、給与として受け取る収入が103万円を超えたときは、扶養控除が適用されません。また、家庭教師や研究の手伝いの報酬を給与以外の形で受け取るときは、所得が48万円を超えたときは扶養控除が適用されなくなります。
なお、所得とは、収入から経費を除いた金額のことです。たとえば、家庭教師の仕事により、年間60万円の収入を得ている場合について考えてみましょう。仕事先に行く交通費や教えるときに使用する参考書などの必要経費が、年間12万円以上かかっているなら、所得は48万円以下のため扶養控除は適用されます。
年金受給者の場合
扶養親族が年金受給者の場合は、以下をご覧ください。
扶養親族の年齢 | 所得税法上の扶養親族となる年金受給額 |
---|---|
65歳未満 | 年間108万円以下 |
65歳以上 | 年間158万円以下 |
年齢が65歳未満の方の公的年金等控除額は60万円のため、年金受給額が年間108万円以下なら所得金額は48万円以下となり、所得税法上の扶養親族の条件を満たします。一方、年齢が65歳以上の方の公的年金等控除額は110万円のため、年金控除額が年間158万円以下なら所得金額は48万円以下となり、所得税法上の扶養親族の条件を満たします。
所得税の扶養控除から外れる場合のデメリット
所得税法上の扶養親族から外れ、扶養控除が適用されなくなることには、次のデメリットがあります。
- 扶養者の手取りが減る
- 被扶養者の負担が増える
- 世帯収入が減る可能性がある
それぞれについて解説します。
扶養者の手取りが減る
扶養控除が適用されなくなると、扶養者の課税所得額が38万~63万円高くなります。課税所得額が増えると所得税や復興特別所得税、住民税が増え、扶養者の手取りが減ります。
被扶養者の負担が増える
所得が増えた分に対して、所得税や住民税が課せられます。また、社会保険の扶養からも外れた場合は、社会保険料も被扶養者自身が支払わなくてはいけません。所得が増えた分よりも、税金や保険料のほうが多いケースもあり、手取りが減る可能性があります。
世帯収入が減る可能性がある
扶養者と被扶養者の手取りが減ることで、世帯収入も減る可能性があります。所得税や社会保険の扶養範囲内・外のボーダーラインの収入のときは、所得を減らすように調整することで、世帯収入を増やせるかもしれません。
所得税の扶養控除の申告方法、手続き
所得税の扶養控除の申告は、給与所得者は勤務先の年末調整で手続きをしてください。年末に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に必要事項を記入し、勤務先で指定された日までに提出しましょう。
給与所得者以外は、確定申告の際に扶養控除の手続きを実施します。被扶養者の氏名や年齢、同居の有無、居住地などの必要事項を記入して、確定申告または住民税の申告手続きの際に被扶養者の氏名を申告してください。
また、扶養者が年金受給者で確定申告の必要がない場合は、「扶養親族等申告書」に必要事項を記入し、公的年金の支払者に提出しましょう。
扶養控除と配偶者控除の違い
扶養控除は配偶者以外の扶養親族に適用される制度です。一方、配偶者控除は、配偶者のみに適用される制度です。そのため、どちらか都合が良いほうを選択するといったことはできません。
配偶者控除の控除額は以下をご覧ください。
控除を受ける納税者の合計所得金額 | 控除額 | |
---|---|---|
一般の控除対象配偶者 | 老人控除対象配偶者 | |
900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 | 32万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
配偶者控除は、所得が年1,000万円以下の方を対象とした控除制度で、配偶者の所得が年48万円以下のときに活用できます。ただし、民法上の配偶者を指すため、内縁関係の方は対象外です。また、配偶者の年末時点の年齢が70歳以上のときは「老人」となり、70歳未満は「一般」となります。
配偶者の所得が年48万円を超え133万円以下の場合は、「配偶者特別控除」の対象です。控除額は納税者・配偶者それぞれの所得により、1万~38万円の間で規定されます。配偶者に年齢制限はなく、所得のみで控除額が決まります。
なお、いずれの制度も、配偶者双方が同時には活用できません。一方が控除を受ける場合は、他方は控除対象配偶者となります。
扶養控除の適用条件を確認しておこう
扶養控除が適用されることで、課税所得額が減り、所得税や住民税が節税できます。適用されるには被扶養者の年齢や同居の有無だけではなく、所得も基準を満たす必要があるため、条件を確認しておきましょう。
基準を少し上回るときは、扶養控除が適用されなくなったことで発生するデメリットが、所得が増えたメリットよりも大きくなることがあります。所得を増やす前に、どちらが世帯にとってより良いのか考えることも大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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