- 更新日 : 2022年10月11日
退職する従業員の社会保険手続きを解説!事業主がやること

従業員の退職が決まったら、人事がするべき手続きが数多くあります。なかでも健康保険や厚生年金保険、雇用保険などの社会保険は、手続きの期限が決まっているため、迅速に必要書類を提出しなければなりません。
ここでは、いつまでに何をすればいいのか、従業員が退職時に必要となる社会保険手続きについて解説します。
目次
従業員が退職・死亡したときの社会保険手続き
従業員の退職や死亡の際、社会保険の資格喪失に伴い、人事は3つの手続きを行う必要があります。以下で、それぞれについてポイントを説明します。
健康保険
健康保険の資格喪失の手続きに必要な書類を、事業所を管轄する年金事務所または事務センター、もしくは健康保険組合に提出します。
それ以外には、当該社員および扶養家族の健康保険証を回収します。状況に応じて、回収が難しい場合には年金事務所に「健康保険被保険者証回収不能届」を提出します。
手続きの際には、被保険者期間に注意しましょう。後述する厚生年金保険・介護保険もあわせて、健康保険は1カ月単位で加入します。月の途中で資格喪失となった場合は、資格喪失日(退職日の翌日)が属する月の「前月」までが被保険者期間となります。
厚生年金
協会けんぽに加入している企業は、健康保険・厚生年金保険および介護保険年金について、まとめて1枚の用紙で年金事務所または事務センターに届出を提出します。
事業所が健康保険組合に加入しているのであれば、厚生年金保険と健康保険の資格喪失手続き先が異なります。厚生年金保険は年金事務所、健康保険・介護保険は健康保険組合で手続きを行います。
介護保険
40歳以上の従業員は、介護保険の被保険者となっています。退職や死亡などによる介護保険の資格喪失手続きについては、健康保険・厚生年金保険と同じ書類で処理されます。
介護保険の被保険者には2種類あり、65歳以上の方を第1号被保険者、40歳以上65歳未満の医療保険に加入している方は第2号被保険者と呼びます。第2号被保険者の場合、40 歳になると自動的に介護保険に加入することとなるため、健康保険の保険料と共に介護保険の保険料を給与から控除しなければなりません。
従業員が65歳になった際には、自動的に第1号被保険者になるため介護保険料の控除が不要となります。ただし、年齢が到来したことにより介護保険の2号被保険者の資格を失ったとしても、資格喪失の手続きは必要ありません。
健康保険および、介護保険と厚生年金保険の手続き – 提出書類など
事業主は従業員の退職日の翌日から5日以内に、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を事業所管轄の年金事務所へ提出します。
「被保険者資格喪失届」には、「資格喪失日」を記載する欄があります。この「資格喪失日」は退職日とは異なり、「退職日の翌日」を記載することになっていますので、注意が必要です。
「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」のほかに、以下の添付書類が必要です。
「資格喪失届」の添付書類
健康保険組合または協会けんぽより交付されている健康保険被保険者証(本人および被扶養者分)を添付して返却します。退職後に、既に失効している健康保険被保険者証を使用してしまうと、医療費を後から請求されることがありますので、注意が必要です。
特殊な場合の資格喪失手続きに係る添付書類
また、下記のような特殊な場合は、別途添付書類が必要となります。
- 届出書の受付年月日よりも、60日以上さかのぼる「資格喪失年月日」の場合
2017年6月に厚生労働省で決定された「『行政手続コスト』削減のための基本計画」により、事業主の事務負担軽減を図る目的から、60日以上さかのぼる場合の届出に必要な添付書類が不要となりました。しかし、年金事務所が実施する事業所調査では以下の書類を確認することとなっているため、退職日がわかる書類は準備して保存しておきましょう。 - 退職後、1日も間をあけず再雇用された60歳以上の場合
この場合は、「被保険者資格喪失届」に以下の書類を添えて提出すると同時に、「被保険者資格取得届」の提出も必要になりますので、忘れずに準備しましょう。- 就業規則、退職辞令(退職日の確認ができる書類)と雇用契約書(再雇用の確認ができる書類)の3つの書類、または、退職日や再雇用の日がわかる事業主の証明書
なお、健康保険組合の場合、組合により必要書類が異なる場合がありますので、事業所が加入している組合へ別途ご確認ください。
退職時の社会保険料控除に関する注意点
健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料については、「資格喪失日」を含む月は徴収しないこととなっています。そのため、退職月の社会保険料の控除の取り扱いには注意が必要です。
給与が月末締め当月25日払いの例を使用して、退職月の社会保険料控除について説明します。
- 例1)3月20日退職の場合、資格喪失日は3月21日となり、3月分の保険料は徴収不要です。3月25日に支払う給与では、実務的に前月分の社会保険料を控除するので、前月(2月分)の社会保険料のみ控除します。
- 例2)3月31日退職の場合、資格喪失日は4月1日となり、4月分の社会保険料は徴収されませんが、3月分の社会保険料の徴収が必要です。この場合、4月25日に支払う給与がないため、3月25日に支払う給与では、前月(2月分)と当月(3月分)の2カ月分の社会保険料を控除する必要があります。
雇用保険との手続きと注意点
事業主は退職日の翌々日から10日以内に「雇用保険被保険者喪失届」と、「雇用保険被保険者離職証明書」(交付を希望しない場合を除く/59歳以上の退職者は本人が希望するしないに関わらず提出が必要)を管轄のハローワークに提出します。
従業員が退職し、基本手当(失業したときに支払われる雇用保険の給付金)を受けようとする場合には、ハローワークに離職票を提出し、求職の申し込みを行わなければなりません。この離職票は、事業主が資格喪失届に添えて提出する離職証明書に基づいて、ハローワークが発行します。
そのため、従業員が退職し、基本手当を受けるためには、必ず企業は「離職証明書」を作成し、ハローワークに提出する必要があります。
「雇用保険被保険者喪失届」の記入方法と注意点
「雇用保険被保険者喪失届」は従業員が退職したときのほか、死亡等により被保険者で亡くなったときや、労働条件の変更等により被保険者資格要件を欠くこととなったとき等に提出する書類です。「離職等年月日」は、従業員が在籍した最後の日(退職日)を記入します。
「雇用保険被保険者離職証明書」の記入方法と注意点
「雇用保険被保険者離職証明書」には、従業員がハローワークからもらえる基本手当の金額や期間を決めるために必要な、賃金額の情報や退職理由の情報等を記載します。
この証明書の内容によって、従業員がハローワークからもらえる基本手当の金額や期間が変わってきますので、正確に記入する必要があります。
また、退職理由については、事業主と退職者の間でしっかりと認識を同じにしておくようにしましょう。
退職した場合の社会保険の注意点
従業員の退職に伴う社会保険の手続きは遅れないように行いましょう。社会保険の手続きを行う際に、どのような注意点があるのかをみていきます。
手続きに期限はある?
社会保険(健康保険・介護保険・雇用保険)は、退職の翌日から5日以内に資格喪失の届出を提出しなければなりません。また、雇用保険は退職の翌々日から10日以内です。提出期限が土日や祝日に該当する場合は、その翌日が提出日となります。
とくに社会保険の資格喪失手続きは、期限が近いので迅速に行う必要があります。退職など、事前に退職日が確定している場合には、早めに必要書類を揃えるようにしましょう。
手続きが遅れてしまった場合は?
資格喪失の手続きが遅れると、本来は脱退していたはずの期間も保険料が徴収されるといったケースが発生します。また、被保険者証が本来は使用できないにも関わらず誤って保険給付を受けると、医療費が後から請求されるなど、その後の手続きが複雑になり、トラブルの原因にもなりかねません。事後に保険料の精算や調整が発生することがあるため、期日までに届出を行いましょう。
万が一、資格喪失日から60日以上過ぎて届出を提出する場合は、年金事務所の事業所調査で賃金台帳や出勤簿などの確認を求められることがあるので注意が必要です。
従業員の退職時の手続きは計画的に行う
従業員の退職に際して、社会保険上必要な手続きは、抜け漏れのないよう計画的に行う必要があります。とくに、届出の期日が決まっている社会保険と雇用保険はミスが起こりやすい業務です。全体の流れを把握し、退職の連絡があったらすぐに必要書類を確認してスムーズに対応しましょう。
よくある質問
退職した場合に、手続きの必要な社会保険はなんですか?
従業員が退職した場合、健康保険(介護保険)・厚生年金保険の資格喪失届を提出します。協会けんぽに加入していれば年金事務所に、健康保険組合に加入していれば、年金事務所と健康保険組合で手続きを行います。詳しくはこちらをご覧ください。
退職した際に、社会保険手続きが遅れてしまった場合、どうすればよいですか?
社会保険の資格喪失手続きは退職の翌日から5日以内が期限です。気づいた時点で速やかに提出しましょう。月をまたいだ場合、保険料が徴収されることがありますが、届出が処理されたのち、超過分が調整されます。詳しくはこちらをご覧ください。
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