- 作成日 : 2022年3月4日
2020年の労働者派遣法改正についてわかりやすく解説!

労働者派遣法は、派遣労働者の保護及び労働者派遣の円滑な運営を目的として制定された法律です。何年かに一度は改正が行われており、改正頻度が高い法律といえます。
今回は2020年の改正内容を中心に、そのポイントについて解説します。
目次
労働者派遣法とは?
労働者派遣法の定義と、2020年より前の改正の歴史について説明します。過去の改正内容が2020年の改正の背景となっているため、概要を確認しておきましょう。
そもそも「労働者派遣」とは?
労働者派遣法の正式名称は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」です。労働力の需給調整の適正化や、派遣労働者の保護などを目的として1986年に施行されました。
同法第二条第一項において、労働者派遣は以下のように定義されています。
自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。
「自己」は派遣元である派遣会社、「雇用する労働者」は派遣労働者、「他人」は派遣先会社を指します。派遣会社と派遣労働者との間に雇用関係が成立している時、派遣先会社の指揮命令によって何らかの労働に従事させることを「労働者派遣」と呼んでいます。
派遣労働者の時給や雇用期間は、仕事によって決められています。派遣先のメリットは、業務量によって労働者の数を調整しやすく、正規雇用の従業員より安価に労働力を調達できることです。
一方、派遣労働者の労働条件は不安定であるため、その保護を図るために労働者派遣法が存在します。例えば、2020年の法改正によって、交通費やボーナス、退職金の支給など「同一労働同一賃金」の考えのもとで正社員と同等の待遇、賃金支払いが義務付けられました。
派遣法改正の歴史
派遣法の改正は、2020年に初めて行われたわけではありません。1986年の施行後、産業界の規制緩和や労働者保護強化などを目的として、2022年2月までに11回もの改正が行われてきました。
実務上重要なのは、2012年以降の改正内容です。2012年には派遣労働者に対する待遇改善を目的として、いわゆる日雇い派遣の原則禁止、労働契約締結時の待遇説明の義務化などが定められました。2015年の改正では、同じ派遣先会社への派遣可能期間の上限を原則3年とするルールや、派遣社員が同一組織で労働できる期間の上限を原則3年とするルールなどが加わりました。
2020年には交通費やボーナス、退職金など、派遣労働者に対する金銭面での待遇改善が図られました。上記の「3年ルール」と派遣制限期間が切れた翌日である「抵触日」の概念、そして「同一労働同一賃金」は、派遣労働者の管理業務に携わる人は必ず押さえておくべき概念といえるでしょう。
規制緩和から派遣労働者保護へ
1986年に施行された時の名称は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」でした。現在は「~及び派遣労働者の保護等に関する法律」であり、「就業条件の整備」と「保護」という言葉の違いが派遣法の性格の変化を表しています。
名称が変わる2012年までは、派遣事業に対する規制緩和を目的とした改正が主でした。その一例が、労働者派遣を可能とする業務の拡大です。
法律が制定された1985年は、ソフトウェア開発や財務処理など専門的な知識や技能を必要とする13業務に限定されていましたが、施行時には16業務、1996年の改正で26業務に拡大。さらに1999年の改正では、「労働者派遣が可能な業務」を明記するポジティブリスト方式から「労働者派遣が禁止される業務」を明記するネガティブリスト方式へ転換されました。
労働者派遣が規制緩和の潮流の中で拡大する中、一日や数日だけ派遣労働を行う「日雇い派遣」が社会問題になりました。2008年のリーマン・ショックによる景気後退を受け、派遣労働者の雇い止め、いわゆる「派遣切り」も問題視されるようになります。
派遣労働者保護の声の高まりによって、2012年から前述のような労働者保護施策が相次いで打ち出されました。2020年の改正も、背景には派遣労働者保護の思想があります。もちろん、派遣労働者の保護を強化することで、さまざまな事情を抱える人々が安心して正規雇用以外の柔軟な働き方を選択できるようになるという意図もあります。
2020年4月における派遣法改正の概要
2020年4月に施行された改正派遣法の概要を説明します。2018年に成立した働き方改革関連法の一つに派遣法が含まれており、「働き方改革」推進の一環として派遣法の改正が行われました。改正のポイントは後述するとして、まずは派遣法改正の目的と公布日・施行日について見ていきましょう。
改正目的は「同一労働同一賃金」
法改正の目的を一言でいうならば、「同一労働同一賃金」に尽きます。これは、正規雇用されている従業員(厳密には「派遣先に雇用される通常の労働者=無期雇用フルタイム労働者」)と派遣労働者との不合理な待遇格差を解消するため、同じ労働に従事しているならば同程度の賃金を支払う(受け取る)べきという考え方です。
もともと、派遣労働者に代表される非正社員であっても、実質的に正社員とほぼ同等のレベルの業務に従事するケースは少なくありませんでした。そのようなケースであっても、派遣労働者は正社員より賃金が低い、交通費や福利厚生などが認められない、ボーナスがないなどの待遇格差がありました。従来の労働者派遣法は、このような格差に対する規制や罰則などを規定してなかったのです。
2020年の改正派遣法は、非正社員と正社員の間にあった待遇格差の解消を目指しています。基本給・賞与のみならず、交通費や食事手当、福利厚生、教育訓練などの待遇に対して「同一労働同一賃金」の原則が適用されることになりました。
ただし、派遣労働者の派遣先は変わります。派遣先が変わるたびに賃金水準が変わると所得が不安定になりますし、段階的・体系的なキャリアアップも難しくなります。そのため、同一労働同一賃金の原則を具体化するために、「派遣先均等・均衡方式」か「労使協定方式」のいずれかを確保することが派遣元の事業主に義務付けられています。
派遣先均等・均衡方式及び労使協定方式については、後ほどご説明します。
公布日・施行日は?
同一労働同一賃金の原則を規定した改正労働者派遣法は、2018年7月6日に公布された働き方改革関連法の一つです。その際に派遣法が見直しの対象となり、2020年4月1日に施行されました。
法改正への対応に時間がかかると考えられることから、場合によっては猶予措置として中小企業への適用を大企業より遅らせるケースもあります。しかしながら、2020年の改正ではそのような猶予措置は設けられず、事業規模にかかわらず一律で施行されました。
派遣法の改正のポイント
2020年の派遣法改正のポイントを3点にまとめて説明します。特に賃金決定方法については具体的に定められたため、こちらは2つの方法に分けてお伝えします。
1.派遣社員の賃金決定方法の厳格化
正社員との間の不合理な待遇差を解消するために、派遣労働者の待遇を確保する規定が整備されました。派遣労働者を雇用する際には、以下のとおり、派遣先均等・均衡方式か労使協定方式のいずれかの採用が義務化されています。
- 派遣先均等・均衡方式
- 労使協定方式
- 労使協定の対象となる派遣労働者の範囲
- 賃金の決定方法
- 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価して賃金を決定すること
- 「労使協定の対象とならない待遇(法第40条第2項の教育訓練及び法第40条第3項の福利厚生施設)及び賃金」を除く待遇の決定方法(派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)との間で不合理な相違がないものに限る。)
- 派遣労働者に対して段階的・計画的な教育訓練を実施すること
- その他の事項
- 有効期間(2年以内が望ましい)
- 労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を派遣労働者の一部に限定する場合は、その理由
- 特段の事情がない限り、一の労働契約の期間中に派遣先の変更を理由として、協定の対象となる派遣労働者であるか否かを変えようとしないこと
派遣先均等・均衡方式とは、派遣労働者と同等の職務に従事する正社員の賃金とのバランスを考慮して、派遣労働者の賃金を決定するものです。
しかし、賃金を派遣労働者に支払うのはあくまで派遣元なので、派遣先の賃金事情が明らかにならない限り、待遇格差の解消は困難です。そのため、比較対象となる正社員の待遇情報を派遣先が派遣元に提供する必要があります。派遣元は、その待遇情報を参考にして派遣労働者の賃金を決定するわけです。
派遣先の待遇を把握できるようになれば、不合理な待遇差を防ぐことが容易になると考えられます。
労使協定方式は、派遣元と派遣労働者の過半数代表者又は過半数労働組合との間で賃金を取り決めるものです。労使協定では、以下の6点を定めます。
ア 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上の賃金額となるもの
イ 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に賃金が改善されるもの
また、派遣先企業にも講ずべき措置が定められています。派遣元の求めに応じて、業務遂行に必要な教育訓練、そして正社員と同様な福利厚生を提供する必要があります。
2.派遣先から派遣会社への情報提供の義務付け
前述のとおり、派遣先均等・均衡方式を採用した場合は、均等・均衡の取れた賃金を派遣社員に提供できるよう、派遣先から派遣元会社へ情報提供することが義務付けられました。
その際に提供するのは、派遣社員と同程度の業務に従事する正社員の賃金等に関する情報です。この場合の社員を「比較対象労働者」と呼び、雇用する派遣社員の賃金水準を決める際の参考とするわけです。もちろん、賃金に変更があった場合は速やかに派遣元へ報告します。
このような情報が派遣先から提供されない場合、派遣元は労働者派遣契約を締結してはいけません。
3.派遣会社から派遣社員への説明義務付け
派遣元から派遣社員に対し、雇入れ時と派遣時、そして派遣社員から求めがあった場合に、待遇内容や比較対象労働者との相違の理由などについて説明することが義務付けられました。
雇入れ時には、労働基準法第15条に基づく労働条件の明示に加えて、以下の点について説明します。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か(対象である場合には、労使協定の有効期間の終期)
- 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
- 派遣先均等・均衡方式によりどのような措置を講ずるか
- 労使協定方式によりどのような措置を講ずるか
- 職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案してどのように賃金を決するか(協定対象派遣労働者は除く)
派遣時には、以下の説明を行います。
さらに、派遣社員から求められた際には、比較対象労働者との待遇の相違について内容や理由を説明する必要があります。
【派遣先均等・均衡方式】
- 派遣労働者及び比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項の相違の有無
- 「派遣労働者及び比較対象労働者の待遇の個別具体的な内容」又は「派遣労働者及び比較対象労働者の待遇の実施基準」
【労使協定方式】※賃金が以下の内容に基づいて決められていることを説明
- 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上であるものとして労使協定に定めたもの
- 労使協定に定めた公正な評価
また、これらを口頭で説明すればよいわけではなく、派遣社員が理解できるように資料を活用することが基本です。
2021年1月の改正内容
派遣法は数年に一度改正されており、2020年以降も2021年に2回(1月と4月)改正されています。ここでは、1月の改正内容を4点にまとめてご紹介します。
雇入れ時における教育訓練についての説明義務
2020年の段階では、雇入れ時における説明義務は賃金や働き方に関するものに限られていました。また、教育訓練については、あくまで派遣元の求めに応じて派遣先が講じるべき措置とされ、派遣元には特に規定がありませんでした。
2021年1月の改正によって、派遣元が派遣社員に対して教育訓練計画やキャリアコンサルティング(希望者のみ)についての説明を行うことが義務付けられました。派遣社員は一つの派遣先で長く業務に従事するわけではないため、派遣元がキャリア形成に責任を負うことが法律上でも明確になったといえます。
派遣契約書の電磁的記録の容認
この場合の「電磁的記録の容認」とは、派遣先と派遣元との間で取り交わされる労働者派遣契約を対象としています。これまで契約書は書面での交付を義務付けていましたが、改正によってPDFやワードなどの電磁的記録による交付も認められるようになりました。
日雇い派遣の契約解除に対する休業手当の支払い
日雇い派遣労働者の派遣契約が中途解除された場合、派遣元が新たな就業機会を確保できないとしても、休業手当の支払いなど雇用の維持のために努める責任があると定められました。
派遣先における派遣労働者からの苦情処理
派遣先において派遣労働者から労働関係法令に関する苦情があった場合、派遣元だけではなく派遣先が誠実かつ主体的に対応することが義務付けられました。
2021年4月の改正内容
2021年は4月にも改正がありました。主な改正点を2つご紹介します。
雇用安定措置に関する派遣労働者からの希望の扱い
派遣元は、雇用安定措置に関する派遣労働者からの希望をヒアリングするとともに、その内容を派遣元管理台帳に記載する必要があります。雇用安定措置とは、ある組織への就業見込みが3年で、継続就業を希望する派遣社員に対して実施される措置のことです。具体的には、以下の4つのいずれかを実施する義務があります。
- 派遣先への直接雇用の依頼
- 新たな派遣先の提供 (※能力、経験等に照らして合理的なものに限る)
- 派遣元での無期雇用
- その他安定した雇用の継続を図るために必要な措置(有給の教育訓練、紹介予定派遣など)
マージン率等の開示
派遣元から派遣先へ提供が義務付けられる情報について、インターネットなどの方法で常時開示することが義務付けられました。開示対象となる情報は、派遣先から派遣元へ支払われる紹介料・派遣料などのマージン率や派遣労働者の数、派遣先数、派遣労働者の平均賃金額などです。これによって、労働者は信頼できる派遣元を選びやすくなると期待されています。
労働派遣法に関するセミナーの探し方
派遣法に関する情報は、厚生労働省などの公的機関から取得するのが一般的です。しかし、実務の変更部分を大まかに把握したい場合は、公的機関や社労士・弁護士などの士業、あるいは人材会社などが実施するセミナーに参加する方法もあります。
無料かつオンラインで参加できるセミナーも多いので、気軽に参加できるでしょう。
頻繁に改正される労働者派遣法の内容は細かくチェックしよう
労働者派遣法は頻繁に改正されており、2020年以降だけでも3回改正されています。特に近年の改正は、労働者保護の観点から企業に細かく対応を求める内容が中心になっているため、把握していないとトラブルが発生するおそれがあります。適法に実務を行うためにも、最新の情報を定期的にチェックすることをおすすめします。
よくある質問
2020年の労働者派遣法改正内容はどのようなものですか?
派遣社員の賃金決定方法を規定するとともに、派遣元と派遣先、派遣元と派遣労働者間の情報提供が義務化されました。詳しくはこちらをご覧ください。
最新の労働者派遣法改正はいつ行われましたか?
2021年4月です(2022年3月現在)。毎年のように改正が行われていますので、当該領域を担当している人は最新ニュースをチェックするようにしましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。