- 更新日 : 2023年10月12日
労働者派遣法とは?法律の概要や派遣契約の流れ、直近の改正内容を徹底解説
企業に人材を派遣する派遣会社と派遣社員を受け入れる派遣先企業は「労働者派遣法」に則って契約を締結し、それに従って派遣社員に業務を任せなければなりません。契約を結ばずに派遣社員を受け入れたり、契約内容を無視して仕事をさせたりすると、派遣会社や派遣社員とトラブルになる、法律違反でペナルティが課されるといったリスクもあります。
今回は労働者派遣契約法の内容や人材派遣の契約の種類、契約締結までの流れ、2021年の法改正についてわかりやすく解説します。
目次
労働者派遣法の概要と歴史
労働者派遣法の定義と、2020年より前の改正の歴史について説明します。過去の改正内容が2020年の改正の背景となっているため、概要を確認しておきましょう。
そもそも「労働者派遣」とは?
労働者派遣法の正式名称は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」です。労働力の需給調整の適正化や、派遣労働者の保護などを目的として1986年に施行されました。略して「派遣法」とも呼ばれます。
同法第二条第一項において、労働者派遣は以下のように定義されています。
自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。
「自己」は派遣元である派遣会社、「雇用する労働者」は派遣労働者、「他人」は派遣先会社を指します。派遣会社と派遣労働者との間に雇用関係が成立している時、派遣先会社の指揮命令によって何らかの労働に従事させることを「労働者派遣」と呼んでいます。
派遣労働者の時給や雇用期間は、仕事によって決められています。派遣先のメリットは、業務量によって労働者の数を調整しやすく、正規雇用の従業員より安価に労働力を調達できることです。
一方、派遣労働者の労働条件は不安定であるため、その保護を図るために労働者派遣法が存在します。例えば、2020年の法改正によって、交通費やボーナス、退職金の支給など「同一労働同一賃金」の考えのもとで正社員と同等の待遇、賃金支払いが義務付けられました。
労働者派遣(人材派遣)の定義
労働者派遣(人材派遣)とは、派遣会社(派遣元)が労働者派遣契約を締結しているクライアント(派遣先)に労働者を派遣することです。労働者は派遣先の指揮命令下で仕事を行いますが、派遣元と雇用契約を結び、給料も派遣元から支払われます。
一般的に派遣社員として働く場合は、派遣会社に登録して派遣先の事業所を紹介してもらいます。登録した時点では雇用契約は成立せず、仕事が決まって初めて雇用関係が生まれます。
派遣期間には定めがあるため、基本的に同一の派遣先でずっと働くことはできません。また、派遣会社に登録したとしても必ず仕事が紹介されるわけではないため、どうしても収入が不安定になります。このような背景もあり、今回のテーマである労働者派遣法が制定されたのです。
派遣法改正の歴史
派遣法の改正は、2020年に初めて行われたわけではありません。1986年の施行後、産業界の規制緩和や労働者保護強化などを目的として、2022年2月までに11回もの改正が行われてきました。
実務上重要なのは、2012年以降の改正内容です。2012年には派遣労働者に対する待遇改善を目的として、いわゆる日雇い派遣の原則禁止、労働契約締結時の待遇説明の義務化などが定められました。2015年の改正では、同じ派遣先会社への派遣可能期間の上限を原則3年とするルールや、派遣社員が同一組織で労働できる期間の上限を原則3年とするルールなどが加わりました。
2020年には交通費やボーナス、退職金など、派遣労働者に対する金銭面での待遇改善が図られました。上記の「3年ルール」と派遣制限期間が切れた翌日である「抵触日」の概念、そして「同一労働同一賃金」は、派遣労働者の管理業務に携わる人は必ず押さえておくべき概念といえるでしょう。
規制緩和から派遣労働者保護へ
1986年に施行された時の名称は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」でした。現在は「~及び派遣労働者の保護等に関する法律」であり、「就業条件の整備」と「保護」という言葉の違いが派遣法の性格の変化を表しています。
名称が変わる2012年までは、派遣事業に対する規制緩和を目的とした改正が主でした。その一例が、労働者派遣を可能とする業務の拡大です。
法律が制定された1985年は、ソフトウェア開発や財務処理など専門的な知識や技能を必要とする13業務に限定されていましたが、施行時には16業務、1996年の改正で26業務に拡大。さらに1999年の改正では、「労働者派遣が可能な業務」を明記するポジティブリスト方式から「労働者派遣が禁止される業務」を明記するネガティブリスト方式へ転換されました。
労働者派遣が規制緩和の潮流の中で拡大する中、一日や数日だけ派遣労働を行う「日雇い派遣」が社会問題になりました。2008年のリーマン・ショックによる景気後退を受け、派遣労働者の雇い止め、いわゆる「派遣切り」も問題視されるようになります。
派遣労働者保護の声の高まりによって、2012年から前述のような労働者保護施策が相次いで打ち出されました。2020年の改正も、背景には派遣労働者保護の思想があります。もちろん、派遣労働者の保護を強化することで、さまざまな事情を抱える人々が安心して正規雇用以外の柔軟な働き方を選択できるようになるという意図もあります。
労働者派遣契約は2種類ある
派遣元である派遣会社と労働者を派遣してもらう派遣先は、労働者派遣契約を締結します。この契約が成立しないと、派遣先は人材を派遣してもらうことができません。労働者派遣契約については労働者派遣法第26条に内容が定められていて、これに従う必要があります。
第二十六条 労働者派遣契約(当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう。以下同じ。)の当事者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣契約の締結に際し、次に掲げる事項を定めるとともに、その内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めなければならない。
一 派遣労働者が従事する業務の内容
二 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称及び所在地その他派遣就業の場所並びに組織単位(労働者の配置の区分であつて、配置された労働者の業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者が当該労働者の業務の配分に関して直接の権限を有するものとして厚生労働省令で定めるものをいう。以下同じ。)
三 労働者派遣の役務の提供を受ける者のために、就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者に関する事項
四 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日
五 派遣就業の開始及び終了の時刻並びに休憩時間
六 安全及び衛生に関する事項
七 派遣労働者から苦情の申出を受けた場合における当該申出を受けた苦情の処理に関する事項
八 派遣労働者の新たな就業の機会の確保、派遣労働者に対する休業手当(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第二十六条の規定により使用者が支払うべき手当をいう。第二十九条の二において同じ。)等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担に関する措置その他の労働者派遣契約の解除に当たつて講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項
九 労働者派遣契約が紹介予定派遣に係るものである場合にあつては、当該職業紹介により従事すべき業務の内容及び労働条件その他の当該紹介予定派遣に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
引用:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索
10項目の「厚生労働省令で定める事項」は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則第22条」に定められています。
第二十二条 法第二十六条第一項第十号の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。
一 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度
二 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
三 労働者派遣の役務の提供を受ける者が法第二十六条第一項第四号に掲げる派遣就業をする日以外の日に派遣就業をさせることができ、又は同項第五号に掲げる派遣就業の開始の時刻から終了の時刻までの時間を延長することができる旨の定めをした場合における当該派遣就業をさせることができる日又は延長することができる時間数
四 派遣元事業主が、派遣先である者又は派遣先となろうとする者との間で、これらの者が当該派遣労働者に対し、診療所等の施設であつて現に当該派遣先である者又は派遣先になろうとする者に雇用される労働者が通常利用しているもの(第三十二条の三各号に掲げるものを除く。)の利用、レクリエーション等に関する施設又は設備の利用、制服の貸与その他の派遣労働者の福祉の増進のための便宜を供与する旨の定めをした場合における当該便宜供与の内容及び方法
五 労働者派遣の役務の提供を受ける者が、労働者派遣の終了後に当該労働者派遣に係る派遣労働者を雇用する場合に、労働者派遣をする事業主に対し、あらかじめその旨を通知すること、手数料を支払うことその他の労働者派遣の終了後に労働者派遣契約の当事者間の紛争を防止するために講ずる措置
六 派遣労働者を協定対象派遣労働者に限るか否かの別
七 派遣労働者を無期雇用派遣労働者(法第三十条の二第一項に規定する無期雇用派遣労働者をいう。)又は第三十二条の四に規定する者に限るか否かの別
引用:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則(昭和六十一年労働省令第二十号)|e-Gov法令検索
また、労働者派遣契約には「基本契約」と「個別契約」があり、契約の性質や締結するタイミングが異なります。
基本契約
派遣基本契約は、派遣先と派遣元企業が取引を行う旨の契約です。派遣料金やお互いの義務、禁止事項、損害賠償、契約解除事項などの取り決めを定め、両者が合意します。
派遣基本契約は企業間のトラブルを回避するために締結される契約ですが、労働者派遣法では締結や保管が義務付けられていません。しかし、派遣会社がクライアント企業に人材を派遣する際は、リスク回避のために派遣基本契約を締結するケースがほとんどです。また、毎回詳細な記載が必要となっては煩雑なので、派遣基本契約を利用するという意味もあります。
個別契約
個別契約は、基本契約を締結した上で、派遣労働者を受け入れる際に個別の就業条件等を定める契約です。こちらは労働者派遣法で締結・保管が義務付けられており、前述の労働者派遣法第26条に定められた内容を盛り込む必要があります。項目は業務内容や派遣日、就業時間、休憩などで、派遣社員が働くにあたってより具体的な内容について取り決めることになります。派遣先は、この契約内容に従って派遣社員を指揮命令しなければなりません。
派遣基本契約は企業間トラブルを回避するものであるのに対し、個別契約は派遣社員を守るという意味合いがあるのが両者の違いです。
労働者派遣契約における個別契約の詳細やひな形については、下記記事で紹介しています。
労働者派遣契約の流れ
ここからは、労働派遣契約を締結するまでの流れを見ていきます。前述のとおり、派遣元と派遣先が取引を開始する際は派遣基本契約を、実際に人材を派遣する際は個別契約を結ぶのが基本的な流れですが、それ以外にも抵触日通知や派遣先管理台帳保存などのルールが決められています。契約の流れを図にまとめました。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
基本契約を結ぶ
基本契約は、派遣先企業と派遣元企業が取引関係を構築する際に締結する契約です。個別契約は労働者派遣法で義務付けられているため必須ですが、基本契約は任意です。しかしながら、派遣会社と派遣先企業の間でトラブルにならないよう、基本契約に関しても事前に協議して内容をすり合わせ、確認した上で締結する必要があります。なお、基本契約書と個別契約書は別々に作成します。
基本契約書
料金(通常の派遣料金や派遣先都合による損害金など)やお互いが履行すべき義務(法令遵守や守秘義務)、損害賠償に関する取り決め、禁止事項、知的所有権の帰属、契約解除に関する事項など、契約の基本となる内容を盛り込みます。派遣元と派遣先の間で取り決めを定め、認識を共有することが基本契約の目的です。初めて取引を行う際に締結し、それ以降は労働者を派遣する際に都度個別契約を締結します。
個別契約書
個別契約書は業務内容や派遣期間、人数、就業日、就業時間、残業など、具体的な就業条件について定めた契約書です。前述のとおり、労働者派遣法第26条所定の事項を定めなければなりません。
事業所抵触日を通知する
基本契約書を交わせば派遣元と派遣先が取引関係となりますが、実際に労働者を派遣する前には「事業所抵触日の通知」という手続きを行わなければなりません(労働者派遣法26条4項)。労働者派遣法では、同一の事業所が派遣労働者を受け入れられる期間は原則3年と定められています。事業所抵触日の通知は、この期間を超えることがないようにするための措置です。
派遣受入期間の制限に抵触する事となる最初の日(制限期間を超える日)を「抵触日」といいます。例えば、2022年4月1日から期間を3年として派遣社員を受け入れる場合、派遣可能期間2025年3月31日までとなり、事業所抵触日は2025年4月1日となります。労働者を派遣する際は派遣先企業から派遣元企業に対して、あらかじめ抵触日がいつになるかを通知しておかなければなりません。
個別契約を結ぶ
実際に派遣先が派遣元から労働者を派遣してもらう際は、個別契約を締結します。基本契約は企業間のトラブルを防ぐことを目的としています、個別契約の主な目的は労働者の権利を守ることです。労働者派遣法で締結や内容が定められており、個別契約を締結しなければ人材を派遣してもらうことができません。また、派遣社員を受けるたびに個別契約を結ぶ必要があります。
派遣先管理台帳を作成・保存する
派遣先事業所が派遣社員を受け入れる場合は、派遣労働者ごとに「派遣先管理台帳」を作成し、派遣期間の終了日から3年間保管しなければいけません。派遣先管理台帳には派遣労働者の氏名、就労日、就業時間、業務内容などの情報を記載します。
派遣先管理台帳の内容は、労働者派遣法第42条に定められています。
第四十二条 派遣先は、厚生労働省令で定めるところにより、派遣就業に関し、派遣先管理台帳を作成し、当該台帳に派遣労働者ごとに次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 協定対象派遣労働者であるか否かの別
二 無期雇用派遣労働者であるか有期雇用派遣労働者であるかの別
三 第四十条の二第一項第二号の厚生労働省令で定める者であるか否かの別
四 派遣元事業主の氏名又は名称
五 派遣就業をした日
六 派遣就業をした日ごとの始業し、及び終業した時刻並びに休憩した時間
七 従事した業務の種類
八 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
九 紹介予定派遣に係る派遣労働者については、当該紹介予定派遣に関する事項
十 教育訓練(厚生労働省令で定めるものに限る。)を行つた日時及び内容
十一 その他厚生労働省令で定める事項
2 派遣先は、前項の派遣先管理台帳を三年間保存しなければならない。
3 派遣先は、厚生労働省令で定めるところにより、第一項各号(第四号を除く。)に掲げる事項を派遣元事業主に通知しなければならない。
引用:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索
派遣先は少なくとも1ヵ月に1回、派遣元に対して派遣労働者の就業状況などを書面、FAX、メールなどで通知するよう厚生労働省が定めています。
労働者派遣法で規制されている事項
労働者派遣法では、派遣労働に関するさまざまな規制を定めています。主な規制としては、以下のものがあります。
- 日雇い派遣の原則禁止
- 派遣労働者への特定行為禁止
- 派遣契約期間は3年以内(3年ルール)
- 派遣契約解除の制限
- 同一労働同一賃金
- 特定業務の派遣禁止
- 1年以内に離職した者の派遣労働者としての受け入れ禁止
- グループ企業内の派遣受け入れ規制
それぞれについて見ていきましょう。
日雇い派遣の原則禁止
雇用期間30日以下の日雇い派遣は原則禁止です。ただし、通訳やソフトウェア開発などの専門技術を求められる業務や、学生や高齢者などの不安定雇用につながらない労働者に関しては、例外的に日雇い派遣が認められています。
派遣労働者への特定行為禁止
派遣労働者を受け入れる場合、労働者を特定するための次の行為は禁じられています。
- 就業前に派遣労働者を面接すること
- 就業前に派遣労働者の履歴書を送付させること
- 「30代以下限定」など、派遣労働者に条件を課すこと
派遣契約期間は3年以内(3年ルール)
派遣労働者が同一事業所の同一部署で働けるのは、原則3年までです。これを3年ルールと読んでいます。ただし、派遣労働者が派遣会社と無期雇用派遣契約を結んでいる場合は、3年ルールは適用されません。
また、有期雇用派遣契約を締結している場合でも、以下のケースでは3年ルールは適用されません。
- 派遣労働者の年齢が60歳以上
- 期限が決まったプロジェクトに従事する
- 1ヵ月の勤務日数が10日以下かつ労働時間が通常の労働者の半分以下
- 産前産後休業・育児休業・介護休業取得中の労働者の代わりとして働く
- 3年の途中で部署を異動する
派遣契約解除の制限
派遣契約と労働契約は別のため、派遣契約が中途で解除された場合も、即座に派遣労働者を解雇できません。派遣会社は派遣先と連携して、派遣労働者の就業をあっせんするか、別の派遣先を探す必要があります。
また、派遣契約が中途で解除されたときも、雇用期間満了まで雇用契約は続いているため、賃金の支払いは必要です。
同一労働同一賃金
同一労働同一賃金とは、派遣先の一般労働者(無期雇用フルタイム労働)と派遣社員の不合理な待遇差を解消するための規制です。派遣先の企業には、次の点を徹底することが求められます。
- 職務内容や職務に必要な能力の内容を明確にする
- 職務内容と職務に必要な能力の内容に応じた待遇体系を、派遣労働者を含む労使の話し合いで確認・共有する
特定業務の派遣禁止
以下の業務に関しては、原則として派遣労働者は禁止されています。
- 港湾運送業務
- 建設業務
- 警備業務
- 医療関連業務
- 士業
港湾運送に関しては港湾労働法による規制が適用されているため、労働者派遣法は適用されません。ただし、事務に関しては労働者派遣法により派遣労働者が派遣されることもあります。
また、建設業務に関しては「建設労働者の雇用と改善等に関する法律」で雇用が定められています。そのため、原則として労働者派遣法により派遣労働者が派遣されることはありません。ただし、施工管理に関しては、労働者が派遣されることもあります。
警備業務では警備業法により請負形態で業務をおこなうことが求められているため、労働者が派遣されることはありません。また、医師や歯科医師、看護師、薬剤師などの医療関連業務従事者が、病院や介護医療員に派遣されることも原則として禁止されています。
ただし、派遣先への職業紹介を予定して派遣する「紹介予定派遣」や、産前産後休業・育児休業・介護休業のための不足人材を補うための派遣、へき地などの医療確保のための医師の派遣については認められています。
弁護士や公認会計士などの士業も、労働者派遣法の対象外です。ただし、特許業務法人以外から派遣された弁理士がコンサルティングをする場合など、派遣元と業務内容によっては派遣による労働が可能になります。
1年以内に離職した者の派遣労働者としての受け入れ禁止
労働者と企業が直接雇用契約を締結していた場合、離職後1年間は、同じ社員を派遣労働者として受け入れることが禁止されています。派遣会社が事情を正確に把握せず、1年以内に離職した元社員を派遣した場合は、派遣先の企業は速やかに派遣会社に通知しなくてはいけません。
グループ企業内の派遣受け入れ規制
グループ企業内に派遣会社がある場合は、グループ内への派遣割合を8割以下に調整しなくてはいけません。ただし、60歳以上の定年退職者については、規制の対象外となります。
なお、グループ内への派遣割合は、以下の計算式で求めます。
2020年4月における派遣法改正の概要
2020年4月に施行された改正派遣法の概要を説明します。2018年に成立した働き方改革関連法の一つに派遣法が含まれており、「働き方改革」推進の一環として派遣法の改正が行われました。改正のポイントは後述するとして、まずは派遣法改正の目的と公布日・施行日について見ていきましょう。
改正目的は「同一労働同一賃金」
法改正の目的を一言でいうならば、「同一労働同一賃金」に尽きます。これは、正規雇用されている従業員(厳密には「派遣先に雇用される通常の労働者=無期雇用フルタイム労働者」)と派遣労働者との不合理な待遇格差を解消するため、同じ労働に従事しているならば同程度の賃金を支払う(受け取る)べきという考え方です。
もともと、派遣労働者に代表される非正社員であっても、実質的に正社員とほぼ同等のレベルの業務に従事するケースは少なくありませんでした。そのようなケースであっても、派遣労働者は正社員より賃金が低い、交通費や福利厚生などが認められない、ボーナスがないなどの待遇格差がありました。従来の労働者派遣法は、このような格差に対する規制や罰則などを規定してなかったのです。
2020年の改正派遣法は、非正社員と正社員の間にあった待遇格差の解消を目指しています。基本給・賞与のみならず、交通費や食事手当、福利厚生、教育訓練などの待遇に対して「同一労働同一賃金」の原則が適用されることになりました。
ただし、派遣労働者の派遣先は変わります。派遣先が変わるたびに賃金水準が変わると所得が不安定になりますし、段階的・体系的なキャリアアップも難しくなります。そのため、同一労働同一賃金の原則を具体化するために、「派遣先均等・均衡方式」か「労使協定方式」のいずれかを確保することが派遣元の事業主に義務付けられています。
派遣先均等・均衡方式及び労使協定方式については、後ほどご説明します。
公布日・施行日は?
同一労働同一賃金の原則を規定した改正労働者派遣法は、2018年7月6日に公布された働き方改革関連法の一つです。その際に派遣法が見直しの対象となり、2020年4月1日に施行されました。
法改正への対応に時間がかかると考えられることから、場合によっては猶予措置として中小企業への適用を大企業より遅らせるケースもあります。しかしながら、2020年の改正ではそのような猶予措置は設けられず、事業規模にかかわらず一律で施行されました。
派遣法の改正のポイント
2020年の派遣法改正のポイントを3点にまとめて説明します。特に賃金決定方法については具体的に定められたため、こちらは2つの方法に分けてお伝えします。
1.派遣社員の賃金決定方法の厳格化
正社員との間の不合理な待遇差を解消するために、派遣労働者の待遇を確保する規定が整備されました。派遣労働者を雇用する際には、以下のとおり、派遣先均等・均衡方式か労使協定方式のいずれかの採用が義務化されています。
- 派遣先均等・均衡方式
派遣先均等・均衡方式とは、派遣労働者と同等の職務に従事する正社員の賃金とのバランスを考慮して、派遣労働者の賃金を決定するものです。
しかし、賃金を派遣労働者に支払うのはあくまで派遣元なので、派遣先の賃金事情が明らかにならない限り、待遇格差の解消は困難です。そのため、比較対象となる正社員の待遇情報を派遣先が派遣元に提供する必要があります。派遣元は、その待遇情報を参考にして派遣労働者の賃金を決定するわけです。
派遣先の待遇を把握できるようになれば、不合理な待遇差を防ぐことが容易になると考えられます。
- 労使協定方式
労使協定方式は、派遣元と派遣労働者の過半数代表者又は過半数労働組合との間で賃金を取り決めるものです。労使協定では、以下の6点を定めます。
- 労使協定の対象となる派遣労働者の範囲
- 賃金の決定方法
ア 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上の賃金額となるもの
イ 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に賃金が改善されるもの
- 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価して賃金を決定すること
- 「労使協定の対象とならない待遇(法第40条第2項の教育訓練及び法第40条第3項の福利厚生施設)及び賃金」を除く待遇の決定方法(派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)との間で不合理な相違がないものに限る。)
- 派遣労働者に対して段階的・計画的な教育訓練を実施すること
- その他の事項
- 有効期間(2年以内が望ましい)
- 労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を派遣労働者の一部に限定する場合は、その理由
- 特段の事情がない限り、一の労働契約の期間中に派遣先の変更を理由として、協定の対象となる派遣労働者であるか否かを変えようとしないこと
また、派遣先企業にも講ずべき措置が定められています。派遣元の求めに応じて、業務遂行に必要な教育訓練、そして正社員と同様な福利厚生を提供する必要があります。
2.派遣先から派遣会社への情報提供の義務付け
前述のとおり、派遣先均等・均衡方式を採用した場合は、均等・均衡の取れた賃金を派遣社員に提供できるよう、派遣先から派遣元会社へ情報提供することが義務付けられました。
その際に提供するのは、派遣社員と同程度の業務に従事する正社員の賃金等に関する情報です。この場合の社員を「比較対象労働者」と呼び、雇用する派遣社員の賃金水準を決める際の参考とするわけです。もちろん、賃金に変更があった場合は速やかに派遣元へ報告します。
このような情報が派遣先から提供されない場合、派遣元は労働者派遣契約を締結してはいけません。
3.派遣会社から派遣社員への説明義務付け
派遣元から派遣社員に対し、雇入れ時と派遣時、そして派遣社員から求めがあった場合に、待遇内容や比較対象労働者との相違の理由などについて説明することが義務付けられました。
雇入れ時には、労働基準法第15条に基づく労働条件の明示に加えて、以下の点について説明します。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か(対象である場合には、労使協定の有効期間の終期)
- 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
- 派遣先均等・均衡方式によりどのような措置を講ずるか
- 労使協定方式によりどのような措置を講ずるか
- 職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案してどのように賃金を決するか(協定対象派遣労働者は除く)
派遣時には、以下の説明を行います。
- 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金を除く)の決定等に関する事項
- 休暇に関する事項
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か(対象である場合には、労使協定の有効期間の終期)
さらに、派遣社員から求められた際には、比較対象労働者との待遇の相違について内容や理由を説明する必要があります。
【派遣先均等・均衡方式】
- 派遣労働者及び比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項の相違の有無
- 「派遣労働者及び比較対象労働者の待遇の個別具体的な内容」又は「派遣労働者及び比較対象労働者の待遇の実施基準」
【労使協定方式】※賃金が以下の内容に基づいて決められていることを説明
- 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上であるものとして労使協定に定めたもの
- 労使協定に定めた公正な評価
また、これらを口頭で説明すればよいわけではなく、派遣社員が理解できるように資料を活用することが基本です。
2021年1月の改正内容
派遣法は数年に一度改正されており、2020年以降も2021年に2回(1月と4月)改正されています。ここでは、1月の改正内容を4点にまとめてご紹介します。
雇入れ時における教育訓練についての説明義務
2020年の段階では、雇入れ時における説明義務は賃金や働き方に関するものに限られていました。また、教育訓練については、あくまで派遣元の求めに応じて派遣先が講じるべき措置とされ、派遣元には特に規定がありませんでした。
2021年1月の改正によって、派遣元が派遣社員に対して教育訓練計画やキャリアコンサルティング(希望者のみ)についての説明を行うことが義務付けられました。派遣社員は一つの派遣先で長く業務に従事するわけではないため、派遣元がキャリア形成に責任を負うことが法律上でも明確になったといえます。
派遣契約書の電磁的記録の容認
この場合の「電磁的記録の容認」とは、派遣先と派遣元との間で取り交わされる労働者派遣契約を対象としています。これまで契約書は書面での交付を義務付けていましたが、改正によってPDFやワードなどの電磁的記録による交付も認められるようになりました。
日雇い派遣の契約解除に対する休業手当の支払い
日雇い派遣労働者の派遣契約が中途解除された場合、派遣元が新たな就業機会を確保できないとしても、休業手当の支払いなど雇用の維持のために努める責任があると定められました。
派遣先における派遣労働者からの苦情処理
派遣先において派遣労働者から労働関係法令に関する苦情があった場合、派遣元だけではなく派遣先が誠実かつ主体的に対応することが義務付けられました。
2021年4月の改正内容
2021年は4月にも改正がありました。主な改正点を2つご紹介します。
雇用安定措置に関する派遣労働者からの希望の扱い
派遣元は、雇用安定措置に関する派遣労働者からの希望をヒアリングするとともに、その内容を派遣元管理台帳に記載する必要があります。雇用安定措置とは、ある組織への就業見込みが3年で、継続就業を希望する派遣社員に対して実施される措置のことです。具体的には、以下の4つのいずれかを実施する義務があります。
- 派遣先への直接雇用の依頼
- 新たな派遣先の提供 (※能力、経験等に照らして合理的なものに限る)
- 派遣元での無期雇用
- その他安定した雇用の継続を図るために必要な措置(有給の教育訓練、紹介予定派遣など)
マージン率等の開示
派遣元から派遣先へ提供が義務付けられる情報について、インターネットなどの方法で常時開示することが義務付けられました。開示対象となる情報は、派遣先から派遣元へ支払われる紹介料・派遣料などのマージン率や派遣労働者の数、派遣先数、派遣労働者の平均賃金額などです。これによって、労働者は信頼できる派遣元を選びやすくなると期待されています。
労働者派遣法に違反した場合
労働者派遣法では、違反内容によって罰則が定められています。たとえば、以下のいずれかの行為には、1年以下の懲役あるいは100万円以下の罰金が課せられます。
- 港湾運送業務などの派遣適用除外業務において、労働者派遣事業をおこなう
- 厚生労働大臣の許可を受けずに一般労働者派遣事業をおこなう
次のいずれかの行為については30万円以下の罰金が課せられます。
- 派遣労働者に就業条件などを明示せず、派遣先に派遣する
- 派遣労働者の氏名などを派遣先に通知しない
- 派遣期間の制限を受ける最初の日以降、継続して派遣労働者を仕事に就かせる
また、上記の罰則とは別に、派遣会社が労働者派遣法に違反した場合については派遣許可の取り消しなど、派遣先については勧告や公表などの行政処分を受けることもあります。
労働派遣法に関するセミナーの探し方
派遣法に関する情報は、厚生労働省などの公的機関から取得するのが一般的です。しかし、実務の変更部分を大まかに把握したい場合は、公的機関や社労士・弁護士などの士業、あるいは人材会社などが実施するセミナーに参加する方法もあります。
無料かつオンラインで参加できるセミナーも多いので、気軽に参加できるでしょう。
頻繁に改正される労働者派遣法の内容は細かくチェックしよう
労働者派遣法は頻繁に改正されており、2020年以降だけでも3回改正されています。特に近年の改正は、労働者保護の観点から企業に細かく対応を求める内容が中心になっているため、把握していないとトラブルが発生するおそれがあります。適法に実務を行うためにも、最新の情報を定期的にチェックすることをおすすめします。
よくある質問
2020年の労働者派遣法改正内容はどのようなものですか?
派遣社員の賃金決定方法を規定するとともに、派遣元と派遣先、派遣元と派遣労働者間の情報提供が義務化されました。詳しくはこちらをご覧ください。
最新の労働者派遣法改正はいつ行われましたか?
2021年4月です(2022年3月現在)。毎年のように改正が行われていますので、当該領域を担当している人は最新ニュースをチェックするようにしましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
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