• 更新日 : 2025年6月23日

テレワークでも労災は認められる?10の事例、判断基準を解説

テレワークでも労災は認められます。しかし、労災と認められるのは業務が原因のケガや病気などで、私的な行為による災害は労災として認められません。そのため、作業中に負傷した場合でも家事や育児などは私的行為となり、労災の対象外です。

テレワークでは、自宅での作業環境や私的な行動との境界線があいまいになるため、災害の状況が労災として認定されるかは状況により異なります。したがって、どのような事例が労災と認められるかを事前に知っておくと、万が一の備えとなるでしょう。

本記事では、テレワークでも労災が認められるかについて解説します。

目次

テレワーク(在宅勤務)は労災が認められる?

テレワーク中でも、業務に関するケガや病気は労災として認められます。

まず、テレワークとは「Tele(離れて)」と「Work(仕事)」を組み合わせた言葉です。職場から離れた場所で、スマートフォンやパソコンなどの情報通信技術(ICT)を使用し、場所や時間に縛られずに働ける新しい働き方を指します。

厚生労働省の「テレワークガイドライン」によると、労働契約に基づいて事業主の管理下にあることで生じた災害は、労災保険給付の対象となると記載されています。

労災は職場や通勤中に発生した労災事故だけでなく、労災認定の要件を満たしていれば認められる可能性があるため、要項の確認が重要です。

事例10選!テレワーク中の労災は認められる?

テレワーク中の労災は認められますが、事前にどのような事例が認定されるかの確認も重要です。労災認定を受けるためにも、テレワーク中の労災の事例10選を見てみましょう。

業務中に椅子から転倒して怪我を負った

テレワーク中に椅子から転倒してケガを負った場合、業務に関する行為が原因で災害が発生しているため、労災に認定される可能性があります。

具体的な例は、業務中にトイレに行く際や、作業場所に戻る途中での転倒など、業務に関係する行為中の事故です。

ただし、私的な行為中の事故や業務との関連性が不明確な場合は、労災と認められません。そのため、事故の状況や業務との関連性を明確にすることが重要です。

業務中にコーヒーをこぼしてやけどした

テレワーク中にコーヒーをこぼしてやけどした場合、労災に認定される可能性があります。

たとえば、キッチンで熱いコーヒーを入れ、仕事部屋まで運ぶ際にこぼしてやけどしたケースは、労災認定される可能性が考えられます。

在宅勤務中にコーヒーを飲むことは生理的行為の一部と考えられており、私的な行為には該当しません。ただし、最終的な労災認定は労働基準監督署が、当時の状況を調査して判断します。そのため、やけどした場合は事故の詳細や業務との関連性の記録が重要です。

カフェで仕事をしてやけどした

カフェでの作業中にコーヒーをこぼしてやけどを負った場合、業務時間内であり、業務に付随する行為と認められると労災として認定される可能性があります。

ただし、会社が就業場所を自宅に限定している場合、カフェでの作業は会社に命令されていない行為のため、労災認定が困難であるかもしれません。したがって、労災が認められるかは、会社の就業規則や指示、さらに事故の状況により異なります。

カフェでやけどした際は、業務と関係があるかを説明できるように、事故の詳細について必ず記録しておきましょう。

昼食で外出中に交通事故にあった

テレワーク中の昼休憩に外出して交通事故に遭った場合、労災として認められる可能性が低いといえます。

休憩時間中の外出は業務とは関係がないとされ、事業主の管理下にないと判断されます。また、オフィス勤務の際と同様に、休憩中の私的な外出中の事故は労災の対象外となるケースがほとんどです。

ただし、具体的な状況や業務との関連性が明確な場合は判断が異なる場合もあるため、事故が発生した際の記録は他のケースと同様に重要です。

在宅勤務中にシュレッダーで指を切った

在宅勤務中の業務により使用するシュレッダーで指を切った場合、業務上の作業として認められるため、労災として認定される可能性があります。

在宅勤務中のシュレッダーによる作業は、業務に直接関連する行為中の事故であり、業務遂行性と業務起因性が認められるといえます。

ただし、状況によっては認められないケースも考えられるため、事故発生時は会社に報告し、記録することも重要です。

業務中に子どもが投げたおもちゃが当たり負傷した

在宅勤務中に子どもが投げたおもちゃに当たって負傷した場合、労災として認められる可能性があります。

上記は、業務時間中に自宅で作業している際の事故であり、業務遂行性が認められます。在宅勤務中では、子どもと同じ空間で仕事する状況が想定されるため、子どもによる行為で負傷した場合でも労災の対象です。

しかし、休憩時間中によるケガや、業務中断中のケガは労災として認められないため注意が必要です。

家事や育児によってケガをした

テレワーク中に家事や育児を行って負傷した場合、労災に認定される可能性が低いといえます。

テレワーク中の家事や育児は、業務とは直接的な関係性がなく、業務遂行性が認められません。たとえば、業務時間中に子どもの世話をしている際に負傷した場合、私的な行為とみなされ、労災認定されにくい傾向にあります。

テレワーク中の家事や育児を行って負傷した場合は、労災認定されない可能性があるため、注意が必要です。

在宅勤務で腰痛が悪化した

在宅勤務中に腰痛が悪化した場合、労災として認定されない可能性があります。テレワーク中は長時間椅子に座ることが増えるため、腰痛が発症したり、悪化したりすることも珍しくありません。

ただし、腰痛を労災認定してもらうには、厚生労働省による「業務上の腰痛の認定基準」を満たす必要があります。

労災として認定される腰痛の具体例は、重い荷物を持ち上げた際に急に腰を痛めたことや、重量物を取り扱う業務に長期間従事した場合などが該当します。しかし、在宅勤務では上記のような状況が発生するのはまれです。

さらに、在宅勤務中は自分自身で休憩や姿勢の調整が可能なため、自己管理の責任が求められる場合があります。そのため、在宅勤務中の長時間のデスクワークによる腰痛は、労災として認められない可能性があります。

在宅勤務のストレスでメンタルが悪化した

在宅勤務中にストレスが原因でメンタルヘルスが悪化した場合、業務との関連性により認定は異なります。

厚生労働省が定めた「精神障害の労災認定」は、心理的負荷による精神障害の基準により判断されることが一般的です。上記の基準では、発病前の6ヶ月の間に業務による強い心理的負荷が認められる必要があるとされています。具体的には、業務上の出来事が労働者に強い心理的負荷を与え、精神障害の発病につながった場合に労災と認定される可能性があります。

在宅勤務中に、過重労働や業務内容の急激な変化、上司や同僚からのハラスメントなどが発生し、精神障害を発症した場合は労災と認められる可能性があるでしょう。

ただし、在宅勤務中のストレスが家庭内の問題や個人的な事情によるものの場合は、労災認定が困難なため注意が必要です。

業務中に地震で怪我を負った

在宅勤務中に地震が発生して負傷した場合、労災認定される可能性があります。在宅勤務中でも、業務時間内に業務をしている最中に地震が発生し、負傷した場合は業務遂行性が認められる可能性があります。

ただし、労災認定を受けるためには、実際に業務を行っていたことや、業務中に地震が発生した証明が必要です。そのため、労働時間や業務内容を記録しておくことが重要です。

在宅勤務中に地震で負傷した場合は、適切な手続きと証拠の収集が必要であることを覚えておきましょう。

テレワークで労災かどうか判断するポイント

テレワークで労災かどうか判断する際は、ポイントがあります。以下では、労災認定されるポイントを解説します。

業務遂行性:業務中かどうか

業務遂行性は、労働者が労働契約により事業主の管理下にある状態です。簡単にいうと、仕事中のことであり、業務を行っている状態を指します。

業務遂行性が認められた場合、労働者が業務中に負傷したと判断され、労災認定されます。テレワークでは、勤務場所が自宅やカフェなど本拠地とは異なる場所のため、業務時間と私的時間があいまいになりやすいでしょう。

たとえば、業務中に業務に必要な書類を取りに行く途中で負傷した場合は、業務遂行性が認められる可能性があります。しかし、業務時間中でも、家事や育児などの私的な行為による負傷は業務遂行性が認められない可能性があるため、注意が必要です。

業務起因性:業務環境と関連性があるか

業務起因性とは、労働者の負傷や病気が業務そのものや業務に関係する行為により引き起こされた状態です。

業務起因性が認められると、労働者の負傷や病気が業務上のものだと判断され、労災認定されます。たとえば、業務中に椅子から落ちて負傷した場合、業務起因性が認められる可能性があります。しかし、業務とケガの因果関係がない場合、業務起因性が認められないケースもあるため注意が必要です。

そのため、テレワーク中のケガや病気を労災認定してもらうためには、業務起因性を明確にすることが重要です。

テレワーク中に労災と認められにくいケース

テレワークでは自宅など職場外で業務を行うため、労災に該当するかどうかの判断が難しくなる傾向があります。会社での勤務と違い、業務時間と私生活の境界があいまいになることが多く、発生した事故が仕事中のものか、私生活の一部とみなされるかが争点になります。ここでは、労災と認められにくい代表的なケースについて確認しておきましょう。

私的行為による災害(家事・育児中の事故など)

テレワーク中でも、家の中では家事や育児といった私的な行為と業務が混在しがちです。このような状況下で発生した事故は、労災と認められないことが少なくありません。たとえば、業務の合間に洗濯をしようとして階段から転落した場合や、子どもを抱きかかえている最中にケガをした場合などは、仕事とは無関係の行為中の事故と判断される可能性が高くなります。

労災保険の給付対象となるのは、業務に密接に関連する行為に起因して負傷や疾病が生じた場合です。そのため、明らかに私生活の延長にある行動中に起きた事故については、業務起因性を認めるのが難しくなります。家族の世話をしている間や、趣味の活動をしている最中の事故も同様に扱われます。

労働時間中であっても、業務から逸脱した行為に起因する災害は、労災の適用外とされることが多いため、勤務中の行動については注意が必要です。業務中であっても、仕事の内容とは関係のない活動でケガをした場合、認定されないことがあることを念頭に置いておくと安心です。

休憩時間中や勤務時間外の事故

テレワークでは勤務と休憩の境界があいまいになりがちで、休憩中の事故が労災と認められるかどうかも、状況によって判断が分かれます。たとえば昼食のためにキッチンへ移動する途中で転倒した場合などは、業務とある程度の関連性があるとして認定される可能性がありますが、その判断は一律ではありません。

一方で、休憩中に近所のコンビニまで買い物に出かけて交通事故に遭った場合などは、業務との直接の関係が薄いとされ、労災には該当しないと判断されることがあります。勤務時間外であればなおさら、私的行動とみなされる可能性が高くなります。たとえば就業後にストレッチをしていてケガをしたり、趣味の動画を視聴している最中に事故が起きたりした場合などは、補償の対象にはなりません。

休憩時間中であっても、業務に付随する行動と評価されるかどうかは、行為の内容や職務との関連性によって判断されます。事故の状況や発生時刻、行動内容を記録しておくと、後日の認定判断において役立つ場面があります。テレワーク中は自由度が高い分、行動履歴の管理がより重要になります。

就業場所や業務範囲から逸脱した場合

テレワーク中に、就業場所や業務の範囲から逸脱した場合の事故も、労災と認められにくくなります。たとえば、就業場所として事前に自宅の一室が指定されていたにもかかわらず、リビングや庭で作業していた際に起きた事故は、業務の範囲外と判断されることがあります。

また、本来の業務とは関係のない作業を自主的に行っていた場合や、会社から指示を受けていない業務中の行為によりケガをした場合も、補償の対象外となることがあります。仮に業務に関係しそうな行動であっても、上司の指示や業務命令がないまま独自に行動していたと判断されると、労災とみなされない可能性が高まります。

就業場所や作業内容は、労使間で事前に取り決めておくことが望ましく、また業務の実施状況についても定期的な報告を行うことで、万が一のときに労災の判断を受けやすくなります。日々の業務ログや行動記録を残しておくことで、事故が業務中であったと説明しやすくなり、給付の申請にも役立ちます。

このように、テレワーク中の事故でもすべてが労災の対象になるわけではありません。業務との関係性を明確に示せない場合や、業務から逸脱したと評価される行為に起因する事故は、労災と認められにくい傾向にあります。働き方の柔軟性が増す一方で、労災との線引きも慎重に判断されるため、日頃から記録の整備と自己管理を意識しておくことが大切です。

テレワーク中の労災保険の補償

テレワーク中の事故や災害についても、労災保険の対象となる場合があります。ここでは、テレワーク中に発生した労災に対して、どのような補償が受けられるのかを整理していきます。

療養補償給付(治療費の補償)

テレワーク中にケガを負ったり、業務に関連して病気を発症したりした場合、医療費の負担が発生します。労災保険の療養補償給付を利用すれば、労働者が自己負担なしで治療を受けられる仕組みが用意されています。この制度では、指定の医療機関(労災指定病院)で診療を受けた場合、治療費は原則として全額労災保険から支払われます。

また、労災指定以外の医療機関にかかった場合でも、後から申請を行うことで支払った費用の全額が支給される場合があります。労働者が一時的に立て替えた治療費も、正当な範囲内であれば補償の対象となります。なお、通院にかかる交通費も労災保険でカバーされる場合があるため、領収書や診療明細などの記録は丁寧に保管しておくことが大切です。

テレワーク中に受けた傷病が業務に関係するものだと認められれば、通常の通勤災害や事業場内の災害と同様に、医療面での支援が可能になります。ただし、業務との関連性を明らかにできない場合や、私的行為中の事故と判断された場合には、対象外となることもあります。

休業補償給付(休業中の賃金補償)

テレワーク中の労災によって治療が長引き、業務に就けない状態が続いた場合には、収入の補償が課題となります。このようなケースに対応するのが、労災保険における休業補償給付です。これは、業務上の負傷や疾病で休業を余儀なくされた際に、賃金の一部を補填する制度です。

休業補償給付の支給は、労災発生の翌日から3日間は「待期期間」とされ、賃金補償は行われません。しかし、4日目以降の休業については、1日あたりの給付基礎日額の60%が支給されます。さらに、労災特別支給金制度により、別途20%相当の支援も加算されるため、実質的には8割程度の収入が確保される仕組みとなっています。

このような補償により、テレワーク中に労働者がやむを得ず長期休業となった場合でも、生活基盤を維持することができます。申請には、医師の診断書や会社の証明書類などが必要となるため、労災が発生した際は早めに必要な手続きを確認しておくことが有効です。

なお、休業補償の支給対象となるには、「労務不能」と医師が判断したことが前提となります。軽傷で通院しながら働ける場合などは、補償の対象外となる可能性もあるため、個別の状況を医療機関と相談しながら対応しましょう。

その他の給付(障害・遺族への補償など)

テレワーク中に負った傷病が重篤で後遺障害が残った場合、または万が一死亡事故に至った場合には、障害補償給付や遺族補償給付と呼ばれる支援制度が用意されています。

障害補償給付は、労災により治療後も身体機能に障害が残った場合に支給される制度です。障害の程度は、労働基準監督署の審査により等級認定され、それに応じて一時金または年金形式で給付が行われます。視力や聴力の喪失、手足の切断などが対象とされます。

一方、テレワーク中の事故によって命を落とすような事態が発生した場合には、遺族補償給付が支給されます。これは、遺族に対して生活資金の支援を目的として行われる給付で、生計を同じくしていた遺族の人数などに応じて年金または一時金が支給されます。

これらの給付は、在宅での業務中に発生した事故であっても、業務との関連性が認められれば事業所内の災害と同様に取り扱われます。ただし、認定には詳細な状況確認や、事故時の証拠となる情報が求められるため、普段から業務記録や通信履歴などを整備しておくことが、迅速な補償を受けるために役立ちます。

労災保険は治療や休業の補償にとどまらず、障害や死亡といった深刻なケースにまで対応する仕組みが整っており、テレワーク中でもその恩恵を受けることが可能です。労働者自身が補償内容を理解し、必要な場合に備えておくことが、安全で安心なテレワーク勤務の実現につながります。

テレワークで労災の申告を受けた場合の対応【会社側】

テレワークをする従業員から労災報告を受けた場合の対応確認は、従業員の安全と信頼関係を築くためにも重要です。以下では、テレワークで労災の申告を受けた場合にすべきことを解説します。

事故の申告があった時間の記録を保存する

テレワークで労災の申告を受けた場合、事故の申告があった時間を記録・保存してください。

申告時間の記録は、事故発生時の状況や業務との関連性を明確にするための重要な証拠です。記録を保管することにより、業務中の事故であると証明でき、労災認定を受けられるか正確に判断できます。

たとえば、従業員が業務中に負傷し、チャットツールで事故を報告した場合、送信時刻を保存すると事故が業務時間内に発生した証拠となります。

そのため、従業員から事故の申告があったと報告を受けた場合は、申告時間を記録・保存し、パソコンの稼働状況の情報もあわせて保管することが重要です。

従業員に労災時の状況を記録するよう周知しておく

労災申告を受けた場合は、従業員に労災時の状況を記録するように周知することが重要です。

労災発生時の状況を詳細に記録すると、業務中の事故であることを明確にし、労災申請手続きをよりスムーズに行うための重要な証拠となります。

たとえば、従業員が在宅勤務中に業務用の機器を操作して負傷した場合は、業務内容や時間、状況を詳細に記録すると業務中の事故であると証明しやすくなります。一方、記録が不十分だと、私的な行為中の事故とみなされ、労災認定が困難になる場合もあるため注意が必要です。

そのため、企業は従業員に対し、テレワーク中の労災の状況を詳細に記録するように事前に指導しておくことが重要です。

パソコンの稼働状況など客観的な情報を保存する

テレワーク中に労災の申告を受けた場合、パソコンの稼働状況を保存するよう伝えましょう。

労災認定の際に業務中の事故であると証明するには、客観的な証拠が必要です。パソコンの使用状況やログなどの記録は、業務中であることを示す有力な証拠となります。

たとえば、従業員が在宅勤務中に業務用パソコンを使用して負傷した場合、パソコンの使用ログを確認すると業務中のケガであると証明できます。また、パソコンの使用状況と従業員からの申告時間に誤りがあれば、労災が認められない可能性があるため注意が必要です。

テレワーク中に労災が発生した場合の手続き【従業員側】

テレワーク中に起きたケガや病気が業務に起因するものである場合、労災として補償を受けるためには、適切な手続きが必要です。流れをあらかじめ理解しておくことが円滑な対応につながりますので見ていきましょう。

労災発生時の初期対応

テレワーク中に労災が発生したときは、まず従業員自身がケガの程度や発症状況に応じて適切に対処し、その後できるだけ早く会社へ報告を行うことが求められます。報告の際には、発生日時や状況、業務内容との関連性などを正確に伝えることがポイントです。発生場所が自宅であっても、就業時間中で業務遂行中であれば、労災の対象となる可能性があります。

この段階での対応が今後の手続きに影響を及ぼすこともあるため、メールやチャットなど、後から証明できる形で会社へ報告を残しておくのが有効です。電話での口頭報告だけで終わらせず、社内の労務担当や上司に報告内容を文書で共有することにより、申請手続きがスムーズになります。

労災保険給付の請求

労災と認定されるためには、従業員または事業主が労働基準監督署に対して所定の様式で申請を行う必要があります。申請の出発点となるのが「労働者死傷病報告」および「給付請求書」の提出です。従業員自身が行うことが原則ですが、多くの場合は事業主を通じての申請となります。

療養補償給付を請求する場合は、「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」を医療機関に提出し、その記入を受けたうえで事業主経由で労働基準監督署へ提出します。事業主は、発生状況や就業実態について所定の項目に記載し、労働者との連携を図りながら処理を行うことが望まれます。

休業補償給付や通勤災害給付など、給付の種類に応じて提出する様式が異なります。給付を受けたい内容に合わせて、該当する書類を選び、医療機関や会社の協力を得ながら、正確に記入していきます。

書類提出後、労働基準監督署による審査が行われ、申請内容に問題がなければ給付が決定されます。審査には一定の時間がかかるため、早めに準備と提出を行いましょう。審査に必要な追加資料や説明が求められることもあるため、その際には速やかに対応してください。

労災の給付申請における注意点

労災保険の給付申請には期限が設けられており、期限を過ぎると給付が受けられなくなることがあります。療養補償給付や休業補償給付の請求には、原則として災害発生日から2年以内の申請が必要です。障害補償給付や遺族補償給付など、一部の給付では5年以内とされているものもあります。

申請の際に必要な書類には、給付請求書のほかに、診断書や医療機関の領収書、業務内容や災害発生状況を示す資料が含まれます。就業記録やチャットのやり取りなど、業務との関連性を示せる証拠資料があると、労災と認められやすくなります。

また、テレワークという業務形態では、就業場所や業務時間が柔軟であるため、私的行為と業務行為の区別があいまいになりがちです。申請時には「いつ・どこで・どのような業務中に災害が発生したのか」を明確に説明することが肝心です。

テレワークでの労災を防ぐために

企業は必要に応じて労災の対策をするのも重要です。テレワークでの労災を防ぐためにできることを確認しておきましょう。

適切な作業環境の確保

テレワーク中の労災を防ぐためには、適切な作業環境の確保が必要です。労働者の安全と健康を守るためにも、事業者は作業環境の整備が重要です。

在宅勤務中は、オフィスとは異なり、作業環境が労働者任せになってしまいます。不適切な机や椅子の使用、身体的な負担などを引き起こす可能性もあります。したがって、適切な作業環境を整えると、労災の発生防止が可能です。

たとえば、厚生労働省では「テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト」を使用し、労働者自身が自宅の作業環境を定期的に確認することを推奨しています。チェックリストを確認することで、作業環境の問題点を明確にし、必要な対策を取れます。

そのため、企業は労働者に対して適切な作業環境を整えるよう呼びかけ、必要なサポートを提供することが重要です。

メンタルヘルス対策(ストレスチェックなど)

テレワーク中の労災を防ぐためには、メンタルヘルス対策を講じることも重要です。メンタルヘルス対策を行うと、従業員の精神的健康状態の把握につながり、早期に適切な対策を取れます。

在宅勤務の際は、職場での直接的なコミュニケーションが減少し、孤立感やストレスが増大する可能性があります。結果的にメンタルヘルスの不調の原因となり、放置すると労災につながるかもしれません。定期的なストレスチェックをすると、従業員のストレスレベルを把握でき、必要なサポートを提供できます。

たとえば、定期的なストレスチェックをWeb上で実施し、従業員が自身のストレス状態を把握できれば、早期ケアにつながります。

したがって、企業はテレワーク下でも定期的なストレスチェックを実施し、従業員のメンタルヘルスを継続的に確認することが重要です。

ハラスメントを防ぐ

テレワーク中でも、ハラスメントを防ぐことが大切です。リモート環境でもハラスメントが発生する可能性はありますが、未然に防ぐことで従業員の精神的・身体的健康を守り、従業員の労災リスクを低減可能です。

在宅勤務では、対面でのコミュニケーションは少ないものの、オンライン上ではやり取りを行います。オンライン上でも、無意識なうちに不適切な言動や過度な業務要求が行われることもあり、ハラスメントにつながる可能性があります。

たとえば、上司が部下に対してオンライン会議中にプライベートな空間を映すように強要したり、勤務時間外にもかかわらず頻繁に連絡をとったりする行為はハラスメントの一種です。

そのため、企業はテレワーク環境下でもハラスメント防止のための対策を行う必要があります。

長時間労働を防ぐ

テレワーク中の労災を防ぐためには、長時間労働を未然に防ぐことも重要です。労働時間の適切な管理により、従業員の健康を守り、労災リスクを低減できます。

在宅勤務では、過重労働になりやすい傾向にあり、過労死やメンタル不調の原因となり、労災認定につながるケースも考えられます。そのため、リスクを未然に防ぐためにも労働時間管理が重要です。

たとえば、企業によってはテレワーク中の労働時間を正確に把握できるように勤怠管理システムを導入し、従業員が始業・終業時に打刻する仕組みを導入しています。また、システムへのアクセス制限を設け、深夜や休日の業務を制限すると、長時間労働を防止可能です。

企業はテレワーク環境下でも労働時間の管理を徹底し、長時間労働を防止するための対策が重要です。

テレワークの労働時間の把握に役立つツール

テレワークの労働時間を把握するためには、ツールを利用して管理するのも重要です。以下では、テレワーク中の労働時間管理に役立つツールを紹介します。

勤怠管理システム

勤怠管理システムは、以下のような勤怠管理に関する業務をまとめられるシステムです。

  • 業務開始終了時間の打刻や記録
  • 残業や休暇の申請
  • 労働時間の集計

    勤怠管理システムを導入すると、労働時間の適切な管理が可能となります。

    在宅勤務の場合、勤務開始や終了時間の自己申告や手動記録が一般的です。しかし、手動の場合は人為的なミスや不正確さを招く可能性があります。そこで、勤怠管理システムを活用すると、オンライン上の打刻や労働時間の自動集計が可能となり、正確性と効率性も向上します。

    たとえば、クラウド型勤怠管理システムを導入すると、従業員はインターネット経由でスマートフォンやパソコンから手軽に出退勤の打刻が可能です。管理者である企業も、リアルタイムで勤務状況を確認でき、労働時間の適切な管理が実現します。

    したがって、テレワーク中は労働時間の正確な把握のためにも、勤怠管理システムの導入を検討してみましょう。

    タスク管理ツール

    タスク管理ツールは、各タスクの開始と終了時間や進捗状況を共有・記録できるツールです。在宅勤務の際は、従業員の勤務状況や労働時間の把握が困難で、過重労働や労災のリスクが考えられます。しかし、タスク管理ツールを導入すると、労働時間の透明性が向上し、適切に労務管理が可能です。

    たとえば、タスク管理ツールの導入により、各従業員の業務内容や進捗状況を可視化すると、管理者は従業員の作業時間を把握可能です。さらに、適切な業務配分や労働時間の調整ができ、過重労働の防止ができます。

    そのため、テレワーク中の勤務時間の管理を行うためにも、タスク管理ツールが効果的です。

    操作ログ記録アプリ

    操作ログ記録アプリは、従業員や関係者が利用するツールから操作ログの収集や参照、分析・集計などができるツールです。操作ログ管理アプリを導入すると、パソコンの起動・終了時間、使用したアプリ、キーボードやマウスの操作履歴などを記録できます。そのため、実際の労働時間や業務内容を客観的に把握可能です。

    たとえば、操作ログ記録アプリを導入すると従業員のパソコン操作ログを収集・分析し、労働時間や業務状況を可視化でき、結果的に管理者は各従業員の勤務実態を把握できます。

    したがって、在宅勤務中の適切な管理を行うためにも、操作ログ記録アプリの活用が有効です。

    テレワークでも労災は認められるため、事故発生時は詳細に記録しておこう

    テレワークの場合でも、オフィスで勤務しているときと同様に業務に起因する事故は労災として認められます。労災が認められた際は、労災保険から補償を受けられます。

    ただし、テレワーク中の事故内容や証拠の有無により労災として認められない場合もあるため、万が一事故が発生した場合は業務への関係性や業務時間内かどうかなどを正確に記録することが重要です。

    そのため、企業は従業員に在宅勤務の際でも労災が認められることと、詳細な記録が必要であることを周知しておきましょう。


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