- 更新日 : 2021年5月31日
事業所得とは?副業の確定申告で気になる課税の仕組みや雑所得にならない場合について解説

主たる収入が給与所得の人にとって副業で得られた所得は事業所得でしょうか?それとも雑所得でしょうか?ここでは、事業所得とはなにかから、確定申告までをわかりやすく解説します。
目次
事業所得とは?
事業所得とは農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業、その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます。ただし、不動産の貸し付けや山林所得、譲渡所得に該当する所得は除きます。
【参考】国税庁|No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)
事業から得られた所得と認められない所得には雑所得があります。
所得税の対象となる所得は、10種類の所得があります。その中で雑所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも当たらない所得のことで、例えば公的年金等や副業に係る所得などをいいます。
雑所得は、青色申告が認められておらず、また事業所得や不動産所得などで可能な損益通算が認められないなどのデメリットがあります。
事業所得と認められるためには、過去の判例で「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」とされたことがあります。事業所得は、事業主が自らリスクを背負い、事業主自身の判断で事業を営み、実際に対価を得て、かつ、その行為が反復継続していてこそ、「事業」であると客観的にもわかるものです。たとえ副業においてもこのような認識、事実があれば事業所得となります。
事業所得の計算方法
事業所得の金額は、次の算式で求めます。
事業所得の算式における総収入金額とは、1年間の事業活動から生じたすべての収入金額です。
また、金銭ではなく物品で受け取ったもの、販売商品を自家用に消費または贈答用に使ったもの、棚卸商品の損失被害で受け取った保険料・賠償金、空箱などの廃品を売却した収入、仕入割引やリベート収入などが総収入金額に含まれます。
必要経費とは、売上に要した原価や販売費、一般管理費があります。すなわち、必要経費とは、商品仕入代金である売上原価、給料、旅費交通費、交際費、地代家賃など、売上を得るために直接要した経費のことです。
自宅兼事業所としている場合の必要経費の計上には、気をつけなければなりません。家賃、水道光熱費、固定資産税など家事にも事業にも利用している費用を家事関連費といいますが、家事関連費について、所得税法45条1項1号では家事費及びこれに関連する経費(家事関連費)は、原則として必要経費に算入することはできないと規定しています。
家事関連費を按分して必要経費とするためには、業務に直接関連するか、業務務遂行上の必要性があるか、業務のため金額を明らかに区別できるかなどを確認して計上します。
事業用の車両を売った場合ですが、これは事業所得にはなりません。事業用の車なのにと思われるかもしれませんが、譲渡所得として計算されます。
また、預貯金の受取利息は、たとえ事業用の預貯金であっても利子所得になりますので事業の収入にはなりません。しかしながら、取引先や従業員に対する貸付金の利息などは利子所得に該当しませんので、事業上の受取利息として雑収入に計上します。
事業所得にかかる税金のしくみ
事業所得について、所得税の計算までを簡単に解説しておきます。
事業所得には、後述する青色や白色といった申告方法がありますが、損益計算書や収支内訳書によって事業所得を確定します。このとき、損益計算書などが作成の根拠となる会計帳簿(法定帳簿)の保存が義務付けられています。
次に、事業所得では、確定申告書Bの第一表及び第二表を作成しますが、所得が赤字の場合は第三表も作成します。
不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得で損失があるものについては、総所得金額等を計算する際に他の各種所得の金額から差引きする「損益通算」を行います。
その後、扶養控除、医療費控除や住宅ローン控除などの所得控除を行い、課税される所得金額を求め、税率を掛けて所得税を求めます。
所得税の税率は分離課税に対するものなどを除くと、5%から45%の7段階に区分されており、これを累進課税制度といいます。
所得税の速算表
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
【参考】
令和2年分の確定申告に関する手引き等|国税庁
所得税の税率|所得税 | 国税庁
副業が雑所得か事業所得かの判断基準
損益通算により少しでも納税額を減らしたいとなると、副業が事業所得になるか雑所得になるかは非常に重要な判断となります。
損失が出た場合は事業所得にして損益通算できる?事業所得か雑所得か
本業の傍ら証券取引などをサイドビジネスとして行っている人も多いでしょう。
このサイドビジネスが事業所得か、あるいは雑所得になるかが問題になります。特に取引で損失が出た場合、事業所得にして損益通算したいと思うのは当然です。しかし、事業所得として認められるのは難しいことも多く、その点を実際のケースを使って説明します。
有価証券・商品先物取引売買
長い間、大きな金額を費やし継続的に有価証券・商品先物取引売買を行っていて損失が出たケースです。このケースでは、次の3点が決め手となり、事業所得とは認められませんでした。
- 有価証券・商品先物取引売買は、もともと投機性が強く、安定した収入を得る可能性が低い
- 本業で安定した高額収入がある
- 結局は本業のかたわら、趣味と実益を兼ねて行った行為である
FX取引
FX取引は、サラリーマンの間でも人気です。FX取引では、外国為替証拠金取引を取引額1億3,000万、取引回数1,400回、1日平均15時間費やして行なったというケースがあったそうです。ですが、こちらも先に述べた「有価証券・商品先物取引売買」のケースと同様、事業所得とは認められませんでした。理由は次のとおりです。
- 外国為替証拠金取引は投機性が高く、安定した収入につながらない
- 自らが経営する会社から安定した高額収入がある
- 外国為替証拠金取引を行うに当たって、精神的・肉体的労力を要していない
- 取引のための資金調達が認められない
- 取引のための人的物的設備を要していない
金銭貸付
特定の法人に対する金銭の貸付けで貸倒損失が出た場合の事例です。この件は、以下の理由から貸し付け事業者としてのレベルに達していないと判断されています。
- 事業者と貸付けた法人が特殊な関係にある
- 担保がない、または形式的で実質的な価値がない
- 金利が低すぎる
- 保証料を取らず連帯保証人になっている
- 銀行から融資を得られなかった
- 貸付業とは別に安定した給与収入がある
副業を事業所得で申告するメリット
事業所得による申告については「青色申告制度」を利用できることが大きなメリットです。
しかしながら、白色申告であっても専従者給与については特例が設けられています。
青色申告制度
所得税において青色申告ができるのは「事業所得」、「不動産所得」、「山林所得」です。会社員などの給与所得者で副業による事業所得がある場合でも、青色申告は可能です。
青色申告の条件は、貸借対照表と損益計算書が作成できるよう複式簿記によることが原則です。複式簿記でなく簡易帳簿でも青色申告は認められますが、後述する青色申告特別控除額は少なくなります。
また、帳簿及び書類などは原則として7年間(請求書、見積書、納品書などは5年間)保存することが義務付けられます。
新たに青色申告の申請をする人は、業務を開始した日から2か月以内に「青色申告承認申請書」を所轄税務署に提出することになっています。
青色申告の特典1 青色申告特別控除額
事業所得に係る取引を複式簿記により記帳し、貸借対照表及び損益計算書を確定申告書に添付し、かつ、申告期限までに提出した場合には、原則として最高55万円の控除を受けることができます。
さらに、電子帳簿保存または電子申告を実施した場合には、最高で合計65万円の所得控除が受けられます。(ただし、令和2年分以降)
青色申告の特典2 青色事業専従者給与
青色申告者である事業者と生計をともにする配偶者や15歳以上の親族で、その年を通じて6カ月をこえる期間働いている場合は、「青色事業専従者」と認められ、届出書に記載された給与の金額まで必要経費に算入できます。ただし、記載する給与はその専従者の労働の対価として適正な金額でなければなりません。
なお、必要経費に算入しようとする年の3月15日までに「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要です。
青色申告の特典3 貸倒引当金
事業の遂行上生じた売掛金や貸付金の貸倒れによる損失の見込額として期末における売掛金など貸金残高合計額の5.5%以下を貸倒引当金として繰り入れた場合、その繰入額は必要経費として認められます。
青色申告の特典4 純損失の繰越と繰戻し
事業所得が赤字の場合、損益通算によっても控除しきれない金額(純損失)があるときには、翌年度以後3年間にわたりその損失を各年分の所得金額から控除できます。また、前年も青色申告をしている場合には、過去にさかのぼって赤字を相殺できる繰戻し還付も可能です。
白色申告制度
事業による所得の場合には、白色申告でも、事業に専ら従事する家族従業員の状況や所得金額に応じ、必要経費とみなす事業専従者控除の特例があります。
必要経費とみなされる事業専従者控除額は、次のどちらか低い金額です。
なお、事業専従者とは事業者と生計をともにする配偶者や15歳以上の親族で、その年を通じて6カ月をこえる期間働いている者をいいます。
事業所得のメリットを最大に活かそう!
事業所得と雑所得は、厳密に区分されたものではありません。
しかしながら、現時点では小規模な取引であっても、自己の判断でその事業を営み、継続する意思があるのであれば、まずは税務署や専門家に積極的に相談してみましょう。
そして、事業所得として「開業届」を提出することになった場合は、できれば当初から青色申告を利用することをおすすめします。
よくある質問
事業所得とは?
農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業、その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます。詳しくはこちらをご覧ください。
サイドビジネスにて損失が出た場合、事業所得にして損益通算できる?
事業所得として認められるのは難しいことが多いです。詳しくはこちらをご覧ください。
副業を事業所得で申告するメリットは?
事業所得による申告については「青色申告制度」を利用できることです。詳しくはこちらをご覧ください。
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