- 更新日 : 2024年6月7日
裁量労働制とフレックスタイム制の違いを詳しく解説
裁量労働制とフレックスタイム制は、働く時間の自由度が高いという点で混同されやすい制度ですが、労働条件や適用職種、時間外労働の扱いなどに明確な違いがあります。
ここでは、裁量労働制とフレックスタイム制の基本を紹介すると共に、併用ができるのかといった運用面での注意点を解説します。
目次
裁量労働制とフレックスタイム制の違い
裁量労働制とフレックスタイム制は、「始業・終業時間に縛られずに働く」という働き方から似たものと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。この2つの制度は、そもそもの労働時間の管理の仕方や適用できる職種などにさまざまな違いがあります。
ここでは、裁量労働制とフレックスタイム制の違いについて見ていきましょう。
労働条件の違い
裁量労働制とフレックスタイム制の大きな違いは、労働時間の計算方法です。
裁量労働制では、労働時間を実労働で計算するのではなく、あらかじめ労使協定や労使委員会の決議によって定めた一定時間を労働時間とみなして運用します。対して、フレックスタイム制では一定の清算期間における総労働時間を労使協定に定めたうえで、従業員が始業と終業のタイミング、日々の労働時間を自身の裁量で決定します。
裁量労働制の場合、あらかじめ定めた一定時間をみなし労働時間として採用するため、1日の時間外労働のカウントといった労務管理が求められません。フレックスタイムも、同じように1日単位での時間外労働のカウントは行いませんが、1カ月や3カ月という、あらかじめ定めた清算期間で時間外労働の清算を行います。
また、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合や、法定休日や深夜勤務帯に労働した場合には、割増賃金の支払いが発生します。フレックスタイム制でも、清算期間における法定労働時間の総枠を計算し、実際に働いた時間がその総枠を超える場合には、割増賃金の支払いが必要です。法定休日の労働や深夜労働についても、裁量労働制と同じく、割増賃金の支払いが発生します。
なお、労働時間のカウントを行わないからといって、裁量労働制もフレックスタイム制でも従業員の健康管理の観点から、企業には労働時間の適切な把握を行う責務があります。労働時間を管理しなくていいという意味ではないことに注意しましょう。
導入手続きの違い
裁量労働制もフレックスタイム制も、導入するには就業規則の規定や労使協定の締結、労使委員会の決議などが必要です。
裁量労働制は、労使協定や労使委員会の決議を、労働基準監督署に届ける必要があります。フレックスタイム制では、清算期間が1カ月を超えるときのみ、協定書を労働基準監督署に届け出ます。
対象従業員の違い
フレックスタイム制は、職種や業態を問わず適用可能です。一方裁量労働制では、適用できる職種が限定されます。
裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。専門業務裁量労働制とは、「業務の性質上、業務遂行の手段や時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務」を指し、研究開発やデザイナー、システムコンサルタント、弁護士など19の業務が指定されています。
企画業務型裁量労働制は、事業の運営上重要な決定が行われる事業場(本社等)だけで行うことができるというわけではありませんが、以下の4つをすべて満たすことが必要です。企画、立案、調査や分析を行う従業員が対象となります。そのため、裁量労働制を導入する際は、適用可能な職種であるかどうかの確認が必要となります。
【企画業務型裁量労働制の対象になる範囲】
イ 業務が所属する事業場の事業の運営に関するものであること(例えば対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼすもの、事業場独自の事業戦略に関するものなど)
ロ 企画、立案、調査及び分析の業務であること
ハ 業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると、「業務の性質に照らして客観的に判断される」業務であること
ニ 企画・立案・調査・分析という相互に関連し合う作業を、いつ、どのように行うか等についての広範な裁量が労働者に認められている業務であること
報酬制度の違い
裁量労働制は、賃金計算にみなし労働時間を採用するため、原則として事前に定めたみなし労働時間を超える残業代が発生しません。ただし、法定休日に労働した場合や、深夜労働を行った場合には、割増賃金が発生します。
フレックスタイム制は、実労働時間をもとにした賃金の支払いが必要です。清算期間内で実際に働いた労働時間(実労働時間)のうち、法定労働時間の総枠の範囲内で清算期間における総労働時間(フレックスタイム制の所定労働時間)を超えた部分があれば法定内残業としてカウントします。そして、清算期間の法定労働時間の総枠を超えた部分があれば、それは法定外残業としてカウントします。それぞれ分けて労働時間のカウントを行うことが必要となるので注意しましょう。
また、法定労働時間の総枠を超えた部分の労働は、時間外労働としてカウントされ、割増賃金の支払いが必要です。なお、清算期間が1か月を超える場合には、1か月毎に1週間の平均労働時間を計算し、平均50時間を超えた労働時間も時間外労働としてカウントする必要があることにも注意しましょう。
引用:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
フレックスタイム制では、清算期間が1か月を超える場合と超えない場合とで計算方法が異なります。の時間外労働のカウント方法については、「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)にも詳しく記載がありますので、参照するとよいでしょう。
裁量労働制とフレックスタイム制の併用は可能?
裁量労働制とフレックスタイム制は、その性質の違いから一人の従業員に併用することはできません。
裁量労働制は、業務遂行方法を従業員の裁量にゆだねる必要がある業務に適用される労働制度であり、実際の労働時間ではなくみなし労働時間で管理を行うものです。一方、フレックスタイム制は、始業・終業時間の管理こそ従業員にゆだねているものの、賃金には、清算期間での総労働時間(フレックスタイム制の所定労働時間)と実労働時間の過不足が反映されます。
「裁量労働制であるにもかかわらず、コアタイムがあるフックスタイム制」の職種というのは、裁量労働制の目的を考えれば非常に不自然な労務管理となり、矛盾が生じます。フレックスタイム制が全社適用が可能であることから、しばしば混同するケースが見受けられますが、労働制度の特徴を理解して運用しましょう。
裁量労働制、フレックスタイム制の導入のために必要な手続きとは?
次に、フレックスタイム制を導入するために必要な手続きについてご説明します。
専門業務型裁量労働制を導入するには?
制度の導入に当たっては、原則として次の事項を労使協定により定めた上で、様式第13号により、所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
(1) 制度の対象とする業務
(2) 対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
(3) 労働時間としてみなす時間
(4) 対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
(5) 対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
(6) 協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましい。)
(7) (4)及び(5)に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること
企画業務型裁量労働制を導入するには?
以下8つの要件をすべて満たす必要があります。
- 制度の対象となるのは、事業の運営に関する企画・立案・調査および分析の業務でなければいけません。また、業務の遂行手段や時間配分については、会社が具体的な指示を行うことはできません。
- 制度の対象となる業務を行う事業場が、「本社・本店」もしくは、本社・本店の指示を受けることなく、独自に事業の運営に大きな影響を及ぼす事業を行っている支社・支店(対象事業場)である必要があります。
- 制度の対象となるのが「その業務を適切に遂行するための知識経験等があり、常態としてその業務に従事する者(対象労働者)」である必要があります。
- 対象労働者が、企画業務型裁量労働制で働くことを個別に同意得る必要があります。
- 労働基準法38条の4第2項で定められた条件に合致する適切な労使委員会の設置が必要です。
- 労使委員会の委員の5分の4以上の多数によって、労働基準法38条の4第1項各号に定められた事項に関する決議が適切になされていなければなりません。
- 労使委員会で下された決議を、管轄の労働基準監督署長へに届け出なければなりません。
- 企画業務型裁量労働制の採用、その他必要な要件を就業規則または労働協約で定めている必要があります。
その他、実施後においても、決議がなされた日から6カ月以内に1回の定められた書式による管轄の労働基準監督署への定期報告、健康・福祉を確保するための措置、苦情を処理するのための措置など、労使委員会の決議で定めた事項を実施する必要があります。継続するためには、その都度労使委員会の決議と労働基準監督署への届出が必要となることも覚えておきましょう。
フレックスタイム制を導入するには?
以下2つの要件をいずれも満たす必要があります。
- 就業規則もしくはこれに準ずるものに、始業と終業の時刻をその従業員の決定に委ねる旨規定すること
- 対象となる労働者の範囲、清算期間、清算期間における起算日、清算期間における総労働時間、標準となる1日の労働時間、コアタイム(コアタイムを設ける場合のみ)、フレキシブルタイムを労使協定で定めること
裁量労働制、フレックスタイム制導入のメリット・デメリットとは?
従業員にとっての裁量労働制のメリットは、働く時間や業務の進め方を、従業員自身が決められる点にあるでしょう。求められる成果を出していれば、「定時」のように会社に拘束されることはありません。
一方で、みなし労働時間を超えて働いていたとしても、原則として給与は増えないため、残業代が出ない点をデメリットと感じる従業員もいます。知識と経験がある者にしか適用されないため、誰でもできるわけではないこともデメリットといえるでしょう。
フレックスタイム制では、多くの従業員が働く時間帯の自由度にメリットを感じます。プライベートの用事に合わせて、始業時間を遅らせたり、業務の繁忙期・閑散期に合わせて、1日の勤務時間を調整したり、効率的な時間配分が可能となります。出社が必要な職種では、ラッシュアワーを避けられる点を魅力に感じるかもしれません。
さらに、繁忙期・閑散期に合わせた勤務時間の調整によって残業代削減につながります。裁量労働制では、人件費の予測のしやすさ、フレックスタイム制では、現場にあわせた人件費の調整のしやすさというメリットがあるといえます。
ただ、裁量労働制にもいえることですが、一般的な出退勤時間と勤務時間がズレることで、打ち合わせ時間の設定や、顧客対応に支障が生じる可能性があります。その部分は、会社のデメリットとして認識しておいたほうがいいでしょう。また、飲食店や建設業など、現場に従事する必要がある業種や職種では、従業員の裁量で始業と就業の時刻を決定することがなじまないケースもあります。
また、従業員の視点でいえば、裁量労働制・フレックスタイム制ともに、同僚と働く時間がズレていることで、コミュニケーションのタイムラグが発生し、孤独感を抱きやすい点が懸念点として挙げられます。とくに、テレワークなど一人で仕事をするスタイルが裁量労働制やフレックスタイム制を導入する場合には、コミュニケーションの取り方について工夫が必要です。
「高度プロフェッショナル制度」は裁量労働制?
最後に、裁量労働制と似ていると混同される「高度プロフェッショナル制度」について紹介します。
高度プロフェッショナル制度とは、正式には「特定高度専門業務・成果型労働制」と呼ばれ、2019年4月の働き方改革関連法の施行により創設された、比較的新しい働き方です。裁量労働制は、休日労働や深夜労働の割増賃金のほか、休憩時間など労働基準法の適用を受けるのに対し、高度プロフェッショナル制度は、これらの労働基準法の適用がなく、2つの労働制度は別物といっていいでしょう。
高度プロフェッショナル制度は、「健康・福祉確保措置」を企業が講ずることや本人の同意、労使委員会の決議を労働基準監督署に届け出るなどの一定の条件を満たすことで、労働基準法に定められた「労働時間」「休息」「休日」「深夜の割増賃金」の規制の適用が除外される特徴があります。適用できるのは、年収1,075万円を目安とした労働者であり、適用職種も「金融商品の開発業務」や「コンサルタント業務」「アナリスト業務」など、裁量労働制よりもさらに限定されたものとなっています。
参考:⾼度プロフェッショナル制度わかりやすい解説|厚生労働省
裁量労働制とフレックスタイム制の違いを正しく理解しよう
裁量労働制では、従業員が裁量を持って働く時間や業務の進め方を決め、賃金の計算ではみなし労働時間が適用されます。適用できる職種も限定されています。一方、フレックスタイム制は、裁量労働制とおなじく1日の労働時間で時間外労働の判断はしないものの、清算期間の総労働時間を基準にして、実労働時間との過不足分を賃金に反映させます。
従業員が働く時間を自由に決められるという点では、似た労働制度に見えますが、本質は異なるものです。とくに、2つの労働制度を併用するといった誤った運用をしないよう気を付けなければなりません。違いを抑え、自社の業種や従業員の職種に合わせた適切な運用をしましょう。
よくある質問
裁量労働制とフレックスタイム制の違いについて教えてください。
裁量労働制とフレックスタイム制では、報酬の計算方法、適用できる職種、導入方法に大きな違いがあります。裁量労働制はみなし労働時間で賃金を計算し、適用できる職種や業務の内容が限定されています。詳しくはこちらをご覧ください。
裁量労働制とフレックスタイム制、それぞれのメリット・デメリットを教えてください。
裁量労働制は従業員が仕事の時間数や業務遂行方法を決められ、フレックスタイム制では働く時間帯の調整が柔軟に行えます。どちらも顧客対応やコミュニケーションのタイムラグなどの点で注意が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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