• 更新日 : 2024年1月30日

競業避止義務とは?有効性はある?契約書の作成ポイントなど解説

仕事を行う際には、当事者間において一定の取り決めを交わす場合があります。取り決めによって、秘密保持などをはじめとした様々な義務が当事者に課されることになるのです。当記事では、そのような義務の中でも競業避止義務に焦点を当てて、解説を行っています。正しく理解し、競業避止義務違反が起こらないようにしてください。

競業避止義務とは?

「競業避止義務」とは、企業が行っている事業と競合する事業を営むことや、競合他社への転職などを禁止する義務です。競合する事業を営む会社の設立や、競合他社への転職などの競業行為は、自社に不利益をもたらす恐れがあります。そのため、競業避止義務を定めることで、競合企業の設立や競合他社への転職を防止しているわけです。

競業避止義務は、法に基づいて当然に発生する場合と、誓約や、労働契約書、就業規則などによって定められる場合があります。ただし、競業避止義務を定めれば、その全てが有効となるわけではないことに注意してください。

競業避止義務の種類

競業避止義務は、従業員との間で発生する場合もあれば、企業間で定める場合などもあり、様々な種類が存在します。本項では、競業避止義務の種類ごとに、その概要を説明します。

従業員の競業避止義務

労働契約法第3条第4項には、労働者と使用者に対する「労働契約の遵守」や「信義誠実の原則」が定められています。労働契約を遵守するとともに、信義にしたがって誠実に権利を行使し、義務を履行することが求められているわけです。そのため、従業員には、労働契約法に基づいた競業避止義務が課せられていると解釈されています。

競業行為は、企業に損失を与える恐れのある信義にもとる行為であると考えられることがその理由です。仮に入社時の誓約や、労働契約書、就業規則などによって、競業避止義務が課せられていなくても、信義則上当然に義務が発生していることに注意が必要です。

従業員には、職業選択の自由が存在するため、競業避止義務が課されていなければ、競合企業の設立や、競合他社への転職も自由となってしまいます。そのため、従業員に競業避止義務を課すことで、競業行為による自社への損失の発生を防ぐ必要があるわけです。

参考:労働契約法|e-Gov法令検索

取締役の競業避止義務

会社法第356条第1項により、取締役は事前の承認がなければ、競業行為を行えないと定められています。つまり、取締役は会社法に基づいて、当然に競業避止義務が課せられていることになります。そのため、取締役は株主総会や取締役会の承認がなければ、競業行為が行えません。

取締役には、競業避止義務の他にも、業務に当たって注意を払うべき「善管注意義務」や、忠実に業務を果たすことを求める「忠実義務」が、法律上当然に課されています。取締役は、企業の所有者である株主からの信認を得て、経営に関わる広範囲の権限を有しています。その地位に伴う義務が課せられていることも、また当然といえるでしょう。

参考:会社法|e-Gov法令検索

退職者の競業避止義務

在職中の従業員に労働契約法に基づく競業避止義務が課せられていることは、すでに説明しました。しかし、競業行為は在職中に行われるとは限りません。職業選択の自由に基づき、退職後に競合企業を設立したり、競合他社へ就職したりすることも十分に考えられるでしょう。

そのため、在職中のみならず、退職後の一定期間も競業行為を禁止する競業避止義務が定められる場合があります。このような義務を課さなければ、自社在職中に業務を通じて得たノウハウや、機密情報を基に設立された企業に自社のシェアを奪われるような事態に陥りかねません。

企業間の競業避止義務

従業員や取締役などの個人だけでなく、企業間取引において競業避止義務が定められる場合もあります。従業員などの個人だけでなく、取引先の企業も自社と競合する事業を始める恐れがあるためです。

企業間の競業避止義務は、M&Aなどに伴って定められることが多くなっています。競業避止義務の定めがなければ、M&A後において売り手となる企業が、ノウハウや顧客を維持したまま、同種の事業を始めることができてしまいます。そのため、退職後の従業員と同様に、一定期間は同種の事業を営むことを禁止する必要があるわけです。

会社法第21条では、企業間で競業避止義務に関する明確な取り決めをしていなかった場合でも、事業譲渡後に同種の事業を営んではならないと定めています。つまり、競業避止義務を定めなくても、当然に義務が課されていることになります。

ただし、義務の範囲や期間は、企業間で定めることが可能なため、契約により別途定めることが一般的です。また、事業譲渡の場合のように、当然に義務が発生する場合でなくとも、企業間の合意によって競業避止義務を定めることは可能となります。

参考:会社法|e-Gov法令検索

競業避止義務が有効とされる要件

競業避止義務は、全てが有効とされるわけではありません。有効とされるためには一定の要件を満たすことが必要です。退職者の場合と企業間取引の場合に分けて解説を行います。

退職者の場合

退職者との間で定めた競業避止義務が有効とされるためには、以下の要件を満たす必要があります。

①適法な成立

競業避止義務が有効となるためには、前提となる労働契約が有効に成立していることが必要です。

②保護に値する企業の利益

営業秘密やノウハウなど、競業避止義務を課すことで保護するに値する企業の利益が存在していることが必要です。一般的な知識やノウハウでは、職業選択の自由を害すると判断されるでしょう。

③従業員としての地位

従業員として、競業避止義務を課すことが適当となる地位にあったことが必要となります。単純に高い地位にあるというだけでは認められず、保護すべき情報にアクセス可能であったことなどが必要です。

④地域的な限定

対象となる業務の性質などに照らし合わせて、適当となる範囲に義務の対象を絞り込むことが必要です。全国展開していないような企業が、全国を対象範囲とすることは認められづらくなっています。

⑤義務の存続期間

競業避止義務の存続する期間が、合理的なものであることが必要です。何年以上は無効のように、形式的に定められているわけではありません。しかし、2年以上になると認められづらくなる傾向が存在します。

⑥禁止範囲についての必要な制限

競合他社への転職を一律で禁止するような場合には、合理的な制限ではないと判断される恐れがあります。在職中の担当業務を行う場合や、在職中に担当していた顧客への競業行為であれば、有効性が認められやすくなっています。

⑦代替措置の設定

退職者に対して、競業避止義務を課す不利益の対価となる代替措置が講じられていることが必要です。退職した後の独立起業の支援や、退職金の増額など、不利益を課す対価が存在すれば、有効性も認められやすくなるでしょう。

企業間取引の場合

企業と個人では、どうしても個人の方が立場は弱く、保護する必要性があります。しかし、企業間の取引は基本的に対等であり、競業避止義務も原則として有効です。ただし、以下のような場合には、無効とされる場合があります。

①公序良俗違反

企業には、どのような事業を営むかの自由が存在します。しかし、ねずみ講や違法金利による貸付など、公序良俗に反するような事業は認められません。このような事業は、民法90条により、公序良俗違反とみなされます。

過度な競業避止義務の設定も、公序良俗違反となる場合があるため、注意が必要です。公序良俗違反に該当するか否かは、禁止の範囲や期間などを考慮して個別具体的に判断されます。そのため、ここからが違反となると明言はできません。しかし、期間や範囲を限定せず、無条件に全ての競業行為を禁止するような契約は、公序良俗違反と判断されるでしょう。

参考:民法|e-Gov法令検索

②独占禁止法違反

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)」に違反するような、競業避止義務を定めることは許されません。課される義務の内容によっては、独占禁止法によって禁止される「私的独占(第2条第5項、第3条)」「不公正な取引方法(第2条第9項、第19条)」などに触れる可能性があります。

代替となる取引先を見つけることを困難とし、企業の事業活動を困難とするような義務の設定は、独占禁止法が禁ずる私的独占における排他的取引に該当する恐れのある行為です。また、取引の拒絶など公正な取引を阻害するような義務の設定は、不公正な取引方法として独占禁止法違反となります。

独占禁止法違反によって、ただちに競業避止義務が無効となるわけではありません。しかし、独占禁止法に違反しているか否かは、公序良俗違反を判断する材料となるため、違反状態とならないように注意することが必要です。

参考:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律|e-Gov法令検索

競業避止義務の契約を作成するポイント

競業避止義務を相手に課しても、無効であったり遵守してもらえなかったりするようでは意味がありません。競業避止義務の遵守を図るうえでポイントとなる点を解説します。

① 過去の裁判例を参考にする

競業避止義務に関しては、判例が存在します。これらの判例は、設定を予定している義務の有効性を判断する有効な材料となるでしょう。無効な競業避止義務では、いざというときに企業を守ることができません。

➁ 雇用契約書・就業規則・業務契約を作成する

競業避止義務を設定するためには、根拠が必要です。そのため、前提となる雇用契約書や業務委託契約書などを作成する必要があります。また、就業規則に競業避止義務を盛り込む場合もあります。

③ 記載した内容を従業員に周知する

ただ契約書等で競業避止義務を定めただけでは、遵守を徹底することは難しいでしょう。契約書等を作成したうえで、社内の見やすい場所に遵守事項を記載した書面を掲示するなどの措置を取りましょう。

④ 誓約を締結する

誓約書を作成することも遵守意識を高めるために有効です。法律上当然に義務が課されている場合であっても、改めて書面にて遵守を誓約することで、より一層遵守意識が高まるでしょう。

競業避止義務に関連して記載する内容

競業避止義務契約に様式の定めなどはありませんが、一般的に盛り込むべき記載内容があります。項目ごとに分けて解説を行います。

秘密保持の誓約について

業務上知り得たノウハウや機密情報を所属企業の承諾なく、他社において利用しないなど、競業行為を行わない旨を誓約します。

秘密情報の帰属について

在職中に知り得た秘密情報の帰属先について記載します。秘密情報が自社に帰属することを強調し、漏えいを防ぎます。

競業避止義務

具体的な競業避止義務の範囲や期間などについて記載します。無効とされないためには、具体的かつ合理的な義務内容でなければなりません。

引き抜き行為の禁止について

在職中や退職後に、自社のノウハウ等を持った従業員を引き抜くことを禁止するための記載です。在職中は信義誠実の原則により、当然に行えませんが、退職後であっても社会的相当性のない引き抜きは許されません。

資料等の返還について

在職中に新商品や新技術の開発に使用した資料等は、機密情報が記載されている場合もあります。そのため、退職後は速やかに返還させ、機密情報の漏えいを防ぐ必要があります。

損害賠償について

競業避止義務に違反したことにより、自社に損害が発生した場合の損害賠償について定めることが一般的です。ただし、逸失利益など相当な範囲の賠償であることが必要であり、無制限の損害賠償が認められるわけではありません。

競業避止義務に違反した場合

競業避止義務に違反した場合に、企業はどのような措置を取ることができるのでしょうか。従業員や取締役、企業間それぞれについて解説します。

①従業員の場合

従業員が競業避止義務に違反したことで、企業に損害が発生した場合には、損害賠償を請求することができます。従業員の競業避止義務違反により、企業の権利が侵害された、または侵害される恐れなどがある場合には、当該行為の差止請求も可能です。

また、在職中であれば就業規則等の懲戒処分規定に基づき、降格などの懲戒処分を科すこともできます。退職金が支給される企業であれば、退職金の不支給や減額処分が下される場合もあるでしょう。なお、退職済みの場合には、退職金の一部や全部の返還が求められる場合もあります。

②取締役の場合

取締役が競業避止義務に違反した場合には、その取引によって生じた損害の賠償をする義務を負うことになります。取締役の競業避止義務違反は、解任事由となるため、解任される恐れもあるでしょう。また、取締役の行為に気付いたときには、差止請求を行うことも可能です。

③企業間の場合

企業間の場合も、従業員の場合と同様に競業避止義務違反によって発生した損害の賠償請求が可能です。また、競業避止義務違反によって、権利が侵害された、または侵害される恐れがある場合の差し止めや差し止めの仮処分が可能なことも同様です。

企業による競業避止義務違反は、違反企業の信頼を大きく失墜させる恐れもあります。信用の失墜は、従業員や取締役の場合も変わりませんが、企業間の方がより大きな影響となって表れるでしょう。

競業避止義務が有効な期間は?

従業員については、在職中であれば競業避止義務が有効となります。取締役もその任期中であれば、当然に競業避止義務を負っています。そのため、問題となるのは、退職後の有効期間です。

競業避止義務には、これ以上の期間は無効というような、厳密な区分があるわけではありません。しかし、長くなるほど有効性が否定される傾向にあるようです。経済産業省の公表した「競業避止義務契約の有効性について」によれば、2年以上の期間は否定される傾向が見られるため、ひとつの目安となるでしょう。また、同資料では規定例として期間を6か月としていますが、あくまで例であり6か月以内であれば、必ず認められるわけではないことに注意してください。

企業間で事業譲渡が行われた場合には、特段の取り決めがなくとも、当然に売り手となる企業には、競業避止義務が課せられます。その期間は、原則20年となっています。ただし、企業間の合意があれば、最長で30年まで延長可能です。

参考:競業避止義務契約の有効性について|経済産業省

競業避止義務を理解し正しく運用しよう

事業活動により培ってきたノウハウや、開発した新商品・新技術の情報などは、企業の重要な財産です。また、ノウハウを持った従業員や、開発に携わった従業員もまた企業の重要な財産となるでしょう。企業にとって重要なノウハウや知識を持った従業員が、競合他社へ移ることは企業にとって大きな脅威となります。そのような事態を防ぐためにも、当記事を参考に競業避止義務の理解を深め、正しく運用することを心掛けましょう。


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