• 更新日 : 2025年1月10日

パワハラによるうつ病で示談金は請求できる?相場や示談の流れを解説

パワハラによるうつ病を発症した場合、業務災害と認定されれば労災保険が適用される一方、民法上は上司などの加害者による不法行為にも該当します。法律上、労災保険の給付請求権と民事上の損害賠償請求権が生じますが、請求権は同一事由で重複して行使することはできません。本記事では、会社の視点から示談による解決方法について解説します。

パワハラによるうつ病で慰謝料を請求されたら、示談が望ましい

労働者がうつ病を発症し、上司など会社の管理監督者の責任であるとされた場合、加害者となった上司と連帯して会社も損害賠償責任を負う可能性があります。また、労災保険法でも認定されれば業務災害として給付対象です。いずれにしても、パワハラによって労働者がうつ病になったということが外部に拡散されると、会社の信用問題に大きな影響を与えることになるでしょう。

示談と訴訟の違い

示談とは、裁判や調停などの手続きではなく、当事者同士が話し合って紛争を解決することです。一方、訴訟は、裁判によって解決することです。当初は示談を目指して話し合ったものの合意に至らず裁判に移行することがあります。

一般的に、裁判の開始から判決が出るまでの期間は1年から1年半といわれています。

判決前に和解が成立する場合には6カ月から1年となりますが、示談はこれよりも短期間で解決可能です。裁判では訴訟費用、弁護士費用が発生しますが、示談にはそうした費用はかかりません。

示談を行うメリット

法律上のトラブルが生じた際に、示談を選択することには以下のような意義とメリットがあります。特に信用を重んじる会社や組織にとっては、トラブルの解決方法として有力な選択肢となります。

    1. 迅速な問題解決
      • 裁判の長期化を回避
        裁判は通常、時間がかかり、判決が出るまでに数年を要することがあります。示談であれば、当事者間で合意が得られ次第、短期間で解決可能です。
      • 業務への影響を最小限に
        長期的な法的手続きによるリソース消費を防ぎ、日常業務に専念できます。
    2. 費用の削減
      • 裁判コストの軽減
        裁判では弁護士費用、訴訟費用、証拠収集費用などがかかりますが、示談ではそれらを削減できます。
      • ダメージコントロール
        裁判による信頼の損失が、顧客離れや営業損失を招くリスクを示談で緩和できます。
    3. プライバシーの保護
      • 公開リスクの回避
        裁判は原則として公開されるため、企業や個人の信用に影響を与える可能性があります。一方で、示談は非公開で進められるため、プライバシーが守られます。
      • メディアへの露出防止
        特に企業の場合、トラブルが報道されることでブランドイメージが悪化するリスクを示談で回避できます。
    4. 柔軟な解決策の提案
      • 当事者間での合意形成
        示談では、裁判とは異なり、双方の事情や要望を考慮した柔軟な解決策を見出せます。
      • 関係修復の可能性
        争いを長引かせず、示談を通じて関係修復の余地を残すことができます。
    5. リスクの管理
      • 敗訴リスクの回避
        裁判では勝敗が明確に決まるため、敗訴すれば大きな金銭的・ reputationalな損害を被る可能性があります。示談であれば、双方が合意する範囲でリスクを管理できます。
      • 予測可能な結果
        示談では合意内容が明確なため、結果を予測しやすく、不確実性を減らすことができます。
    6. 社会的責任の履行
      • 迅速な被害者救済
        示談を選択することで、被害者への補償が早期に実現し、社会的責任を果たす姿勢を示せます。
      • 企業イメージの維持
        被害者との誠実な対応を通じて、責任を果たす企業姿勢を社会に示せます。示談を選択することで、被害者への補償が早期に実現し、社会的責任を果たす姿勢を示せるでしょう。

パワハラによりうつ病になった場合の示談金の相場

示談金の額は、被害者に生じた客観的な損害額を考慮し、それに近い金額で合意に至るケースが一般的です。具体的には、被害者の治療費、慰謝料、逸失利益などの一切をまとめた金額となります。

一般的な相場として、パワハラを受けた場合の示談金の額は50万円から100万円程度と考えられます。ただし、うつ病の罹患により治療期間が長期にわたる場合には、その分だけ治療費が高額になります。こうした場合には100万円を超えた額になることが考えられます。

パワハラの示談金額の増減要素

パワハラ被害と一口に言っても、その内容はさまざまです。示談金の額も、パワハラの状況や被害の程度に応じて増減します。ここでは、パワハラの内容とそれに対する示談金の相場を紹介します。

パワハラの悪質性

パワハラが悪質であれば被害者のダメージも大きくなるため、示談金は増額される傾向にあります。具体的には、強い暴力が振るわれた場合、公の場で侮辱的な発言をされた場合、極端に個人的な内容について詮索された場合などが考えられます。

また、単独の加害者からのパワハラよりも、複数の人物によって行われた場合の方が示談金の額が高くなる傾向があります。被害者が加害者に絶対的に逆らえない立場であった場合(例:上司からのパワハラなど)にも、示談金が増額される可能性があります。

パワハラの頻度と期間

パワハラが頻繁に行われたり、長期的に行われたりした場合には、示談金が高くなる傾向があります。

数カ月、時には数年間にわたりパワハラを受け続けるようなことがあれば、被害の程度は極めて高くなるため、これに応じて示談金も高額になります。仮に短期間であっても、暴力を振るわれた頻度が高ければ、被害者が受けるダメージが大きくなり、示談金が増額されるでしょう。

精神的損害以外の損害

精神的損害以外の損害とは、暴力行為により身体的な損傷が生じ、通院期間も長期にわたる状態が考えられます。

このほかにも、パワハラが原因で発症したうつ病のために働くことができなくなり、収入が減少してしまった場合、パワハラを苦にして被害者が自殺した場合などがあります。いずれも甚大な被害であり、示談金の額も高額になります。

被害者側の素因

被害者側の素因を理由として、示談金の額を減額する場合があります。つまり、被害者の性格的な特性(特定のストレスに対する脆弱性など)を理由に、示談金が減額されるケースなどです。例えば、パワハラの被害者が普通の人と比べるとプレッシャーに弱いタイプであった場合には、通常よりも被害の程度が大きく見えるので、その分だけ加害者の責任を減じて示談金を算出するといったケースがあります。

パワハラの示談の流れ

示談金は、被害者に発生した損害全般を金銭で補填するものです。示談を始める時期は、うつ病の治療が終了することにより治療費が算出され、その後の就業の可否が決定したときです。つまり、被害の内容が確定した時点となります。ただし、示談金は、被害者に発生した損害全般を金銭で補填するものです。このことを前提に、パワハラによりうつ病を発症した場合の示談の流れを整理しましょう。

  1. パワハラによるうつ病の発症
    • 職場のパワハラ相談窓口に報告し、パワハラの事実を認定
    • 医師による診断書:うつ病発症の事実・発症の原因
    • 職場の産業医の意見
  2. 治療
  3. うつ病の治癒
    (注意)精神疾患が治るとは、症状による生活への支障が低減した状態のこと。
    薬の服用が必要な場合や就業困難の場合もあることを踏まえ、交渉を開始。
  4. 示談交渉の開始
    • パワハラとうつ病発症の因果関係の提示
    • パワハラおよびうつ病発症などによって受けた精神的・身体的打撃の提示
    • 治療に要した経費の提示
    • 今後の就労の見通し
  5. 示談の成立
    • 示談書を作成

パワハラの示談書の作成のポイント

パワハラの示談書には、通常以下の事項を記載します。

  1. 事実・経緯の確認
    パワハラが行われ、これに起因するうつ病の発症があったことについて、その時期や内容を明確にしておきます。
  2. 示談金の額・支払期限・支払方法
  3. 示談成立後の誓約事項
    パワハラ再発を防止するために加害者が遵守すべき事項を列挙しておきます。
  4. 清算条項
    清算条項とは、示談に合意し、示談金の支払いが終わった後は、被害者は追加の請求を行わない旨を確認する条項です。この条項によって、パワハラおよびうつ病発症に関する事件は解決したことになります。

パワハラを理由にうつ病が労災認定された場合、示談金への影響は?

加害者と示談を結び、示談額以外の損害賠償請求権を放棄した場合、原則としてその後の労災保険の給付は行われません。ただし、この示談が錯誤や脅迫によるものでないことが前提となっています。つまり、先に示談金が支払われ、その後、労災認定された場合、示談金への影響はありませんが、後遺症などが生じたとしても労災請求できないということです。

示談か訴訟か~パワハラ解決の道は~

パワハラに関わる賠償問題の解決手段には、民事上の損害賠償請求権の行使と労災保険の給付請求権の行使という2つの方法があります。また、民事上は裁判ではなく、当事者の話し合いによる示談という方法もあります。企業の立場で考えた場合、示談を選択するほうがメリットが多いともいえるでしょう。

示談を選択するかどうかは、事案の性質、損害額、関係者間の合意可能性などを総合的に判断する必要があります。また、示談を有利に進めるためには、弁護士などの専門家の法的アドバイスを受けつつ、慎重に進めることが重要です。


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