• 更新日 : 2023年3月31日

みなし残業が違法になるケースを解説!注意点と対処法

みなし残業が違法になるケースを解説!注意点と対処法

みなし残業は、固定残業代として多くの企業で採用されている労働条件の一つです。しかし、みなし残業だからといって残業代の支払いが発生しないわけではありません。また、基本給からみなし残業代を引いた金額が最低賃金を下回るような賃金設定は、違法となります。ここでは、違法とみなされるみなし残業のケースや、対処法について解説します。

みなし残業が違法になるケース

みなし残業は、適切な労務管理のもと運用すれば問題はありません。しかしながら、管理が不適切であると、残業代の未払いなど労働問題に発展する可能性があります。以下、みなし残業の定義と違法とみなされるケースについて解説します。

みなし残業についてのおさらい – 定義と意味

みなし残業とは、手当や賃金のなかにあらかじめ一定の残業時間に対する賃金を含める制度のことをいいます。みなし残業は「固定残業代制」とも呼ばれ、一定時間分の時間外・深夜・休日労働などに対する割増賃金を定額の手当として支払うケースと、基本給に含めるケースの2種類に分けることが可能です。

固定残業代制(みなし残業代制)では、手当や基本給などにあらかじめ定めた時間分の残業代が含まれています。実際の労働時間に対する時間外・深夜労働・休日労働などの割増賃金がみなし残業代を上回る場合には、不足分を追加で支払わなければなりません。また、みなし残業代に設定された時間数より実際の時間外・深夜・休日労働などの時間数が短い場合には、あらかじめ定めた一定額が減額されることなく支給されるのが原則です。

一方、似た言葉に「みなし労働時間制」と呼ばれるものがあります。代表的なものに「事業場外みなし労働時間制」があり、これは、外回りの多い営業職など、事業場外で業務をするために上司など使用者の指揮監督が及ばず、労働時間の算定が難しい業務を対象に適用する制度です。この制度では、労働時間の算定をする際に、「所定労働時間、労働したものとして労働時間を算定する」のが原則となります。

ただし、所定労働時間を超えて労働することが業務遂行に必要な場合には、「業務遂行に必要とされる時間、労働したものとして労働時間を算定する」ことも可能です。

なお、事業場外で労働する際、業務遂行に必要とされる時間が法定労働時間を上回る場合には、割増賃金の支払いが必要となります。

みなし労働時間制にはほかにも「専門業務型裁量労働制」や「企画業務型裁量労働制」がありますが、いずれも「働いたものとみなす時間」を設定する制度です。 みなし残業代とは趣旨や目的が異なりますので、混同しないように注意しましょう。

計算した場合の基本給が最低賃金を下回っている

みなし残業代を基本給に含めている場合には、みなし残業代を引いた基本給が最低賃金を下回れば、違法となります。

最低賃金は都道府県別に規定されるものと、産業別に規定されるものの2種類があります。特定(産業別)最低賃金」は、通常「地域別最低賃金」よりも高い水準で設定されています。地域別と産業別の両方の最低賃金が適用される場合には、企業は高いほうの水準で賃金を設定しなければなりません。

労働条件の設定の際には、最低賃金を上回る形で基本給を設定し、さらにみなし残業代を加算する形で給与を設計する必要があります。

参考:最低賃金の種類は?|厚生労働省

求人募集の際にみなし残業代を基本給に含めている

みなし残業代制を採用する場合、厚生労働省は求人票での適切な表示を求めています。具体的には、みなし残業代を基本給に含めて明記するのではなく、基本給とみなし残業代を分け、かつ、みなし残業代の計算方法を記載しなければなりません。

【固定残業代制を採用する求人の表記ルール】

以下の3点を必ず記載すること

  • 固定残業代を除いた基本給の額
  • 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
  • 固定残業時間を超える時間外労働、 休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

引用:固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。|厚生労働省

みなし残業代について正しく記載せず求人を行った場合、労使の間の認識の違いからトラブルになるケースが多くあります。

みなし残業分と実労働時間が大きく乖離している

みなし残業代で多いトラブルが、実労働の時間外労働が、労働条件で定められたみなし残業時間よりも上回っているのに、追加の残業代が支払われないケースです。みなし残業分と実労働時間が大きく乖離しているにもかかわらず、追加の残業代が支払われなければ、残業代未払として違法となります。

なお、みなし残業代によって設定した時間分の時間外・休日・深夜の割増賃金で実際に労働した分の割増賃金が賄われていれば、時間外手当・休日手当・深夜手当が支給されないのが一般的です。

極端なみなし残業時間(月80時間~100以上など)が設定されている

労働基準法では、時間外労働の上限規定を設定しています。具体的には月45時間・年間360時間が時間外労働の上限です。そもそも、企業が労働者に時間外労働をさせる場合には36協定の締結・届出が必要です。さらに、この上限を超えて労働者を残業させる場合には、特別条項付き36協定を締結・届け出る必要があります。

みなし残業時間には明確な上限の規定がありません。しかしながら、時間外労働の上限は月45時間・年間360時間です。また、特別条項付き36協定を締結している場合でも、時間外労働は以下の範囲とする必要があり、労働者の健康や安全衛生の観点から、月45時間・年間360時間に近づけるように努めることとされています。

  • 年720時間以内(時間外労働の合計のみをカウントする)
  • 複数月の平均で80時間以内(時間外労働と休日労働の合計をカウントする)
  • 月100時間未満(時間外労働と休日労働の合計をカウントする)
  • 月45時間を超えることができるのは年間6カ月まで

参考:36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針|厚生労働省

これらのことから、みなし残業時間を設定する場合には、まずは上限である月45時間以内におさまるよう設定することが望ましいでしょう。みなし残業代制で月80時間などの極端な残業時間があらかじめ設定されている場合には、違反・無効と判断されるケースがあります。

就業規則にみなし残業についての規定がない

労働基準法第15条第1項では、労働時間や賃金の決定方法、労働場所などの労働条件に関して労働者に明示することが規定されています。

みなし残業代も、労働基準法で規定する明示するべき労働条件に該当します。そのため、就業規則などにみなし残業代についての規定や、固定の残業時間、残業代の計算方法について記載がない場合には、みなし残業代が割増賃金として認められず、割増賃金を計算する際の単価に含めなければならなくなる可能性があります。そのようなことになれば、割増賃金を支払っていないことになり、賃金未払いとして違法とみなされるでしょう。

みなし残業について注意すべきこと

みなし残業代を給与に含める場合には、企業は以下の点に注意して運用しましょう。

上限がないからと言って極端な時間を規定してはならない

みなし残業時間には、上限がありません。しかし、労働基準法で定められている時間外労働の上限を極端に上回るようなみなし残業は、労働者の健康や安全衛生といった観点から違法とみなされる可能性があり、望ましくありません。

いくら残業しても、見合った給与がもらえない状況では、労働者の不満の原因となり労使トラブルに発展する恐れがあります。みなし残業代を設定する場合には、基本給とのバランスを慎重に検討するとともに、労働基準法に照らし合わせて設定しましょう。

みなし残業代制においても残業は強制できない

みなし残業代制は、固定の残業時間を賃金に含めて設定しますが、労働者にみなし時間代分の残業を強制できる性質のものではありません。正当な理由なく、残業を強制したり、みなし残業代分の労働をしていないことを理由に賃金を減額したりすることは認められません。

みなし残業が違法だった場合の対処法

実際の労働時間に対する割増賃金がみなし残業時間を上回っている場合には、不足分を支払わなければ違法になります。就業規則などに適切に規定していなければ、みなし残業が認められない可能性もあります。もし、みなし残業が違法となる恐れがある場合、どのような対処法があるでしょうか。

労働時間の実態の把握

実際の労働時間がどれくらいなのか、まずは正確な把握に努めます。タイムカードの記録など、勤怠管理の時間を集計し、みなし残業代に設定した時間と実態の乖離を計算しましょう。実際の実際の時間外労働時間数がみなし残業の時間数を大幅に上回る場合には、企業は不足する割増賃金を支払わなければいけません。

みなし残業時間を上回る残業はしない

みなし残業時間を上回る労働をしているにも関わらず、追加の残業代が支払われない場合は違法な残業となります。

労働者が違法な残業に従わないということもあるでしょう。36協定に違反している、業務上必要とは言えない、労働者の健康に影響を及ぼす可能性があるといった場合には、労働者に残業を拒否されかねません。

労働基準監督署へ相談する

労働者が会社に直接訴えるのが難しいような場合、労働基準監督署に相談することがあります。総合労働相談では、違法な残業をはじめ、さまざまな相談を受け付けています。企業からの相談も匿名の相談も可能です。みなし残業代の内容が法的に適切かどうかを相談するのも1つの方法です。

参考:総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省

みなし残業を導入する場合には慎重な確認を!

みなし残業を導入したからといって、上限なく労働者を働かせることが可能なわけではありません。みなし残業で労働者を雇用する場合には、求人票の記載や就業規則への明記を正しく行うとともに、実態と労働条件がかけ離れないよう、適切な労務管理を行いましょう。

よくある質問

みなし残業代が違法になるケースについて解説してください

みなし残業代は基本給と分けて記載する必要があります。また、みなし残業代を引いた基本給が最低賃金を下回るようなケースや、割増賃金がみなし残業時間を上回る場合に不足分が支給されないケースは違法です。詳しくはこちらをご覧ください。

みなし残業代について、注意すべきことを教えてください

求人票や就業規則に、みなし残業代の金額や計算方法について正しく記載しましょう。労働条件を明確にし労働者に伝えることで労使間のトラブルを予防することができます。詳しくはこちらをご覧ください。


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