- 更新日 : 2024年11月14日
積立NISAは年末調整の対象?会社は対応する必要がある?
年末調整では、会社が毎月源泉徴収した所得税について、従業員への1年間の給与支払額が確定した時点で改めて計算と調整を行います。その際、積立NISAを行っている従業員に関する手続きはあるのでしょうか。本記事では、積立NISAと年末調整の関係について説明します。また、専業主婦/夫や公務員の控除についても触れていきます。
目次
つみたて(積立)NISAとは?
つみたて(積立)NISAとは、長期的な資産運用を目的とした少額・非課税の投資制度です。2024年以降は、上限額や非課税保有期間をはじめとして、積立NISA制度の内容が大きく変更されました。
2024年からのNISA制度の変更点
NISA制度には、年間における投資上限額が定められています。2023年までの旧NISA制度では、「積立NISA」が年間40万円、「一般NISA」は年間120万円が上限となっていました。しかし、2024年以降の新NISA制度において、年間投資上限額は「つみたて投資枠」が年間120万円、「成長投資枠」は年間240万円となっています。他にも非課税保有期間が無期限に変更されたことなど、多数の変更点があります。
まずは、2023年までの旧NISA制度をまとめます。
積立NISA | 一般NISA | |
---|---|---|
最大利用可能額 | 800万円 | 600万円 |
年間投資上限額 | 40万円 | 120万円 |
非課税保有期間 | 最大20年間 | 最大5年間 |
併用の可否 | 不可能 | |
期間 | 2023年末まで | |
対象となる年齢 | 18歳以上の成人(利用年の1月1日時点) | |
購入方法 | 積立 | 積立とスポット |
対象となる商品 | 投資信託 | 株式や投資信託、ETF |
移管(ロールオーバー) | 不可能 | 可能 |
続いて、2024年以降の変更された新NISA制度の内容です。
つみたて投資枠 | 成長投資枠 | |
---|---|---|
最大利用可能額 | 1,800万円(うち、成長投資枠が1,200万円) | |
年間投資上限額 | 120万円 | 240万円 |
非課税保有期間 | 期限なし | |
併用の可否 | 可能 | |
期間 | 2024年以降は制度が恒久化 | |
対象となる年齢 | 18歳以上の成人(利用年の1月1日時点) | |
購入方法 | 積立 | 積立とスポット |
対象となる商品 | 投資信託 | 株式や投資信託、ETF |
移管(ロールオーバー) | 不要 |
最大利用可能額および年間投資上限額の引き上げ、非課税保有期間の廃止が大きな変更点です。
2024年以降は、非課税保有期間の制限撤廃によって、最大利用可能額の大幅拡充や、NISA制度そのものの恒久化が実現されています。このことによって、投資家はこれまでよりも長期間にわたって、多くの資金を非課税の恩恵を受けながら、運用することが可能となりました。また、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の併用が可能となった点も、大きなポイントです。
2023年までの積立NISA保有分はいつまで運用できるか
旧NISA制度において保有している商品は、そのまま保有することが可能です。ただし、新NISA制度の年間投資上限枠の外枠として、管理することが必要となります。
非課税保有期間については、旧制度の基準のままとなります。積立NISAでは、購入から20年間、一般NISAであれば5年間、非課税で保有することが可能です。
たとえば、2023年につみたてNISAの商品を購入した場合には、2042年まで運用が継続できることになります。一般NISAについても、2023年購入の一般NISA商品であれば、非課税保有期間の限度である2027年までは、運用が継続可能です。
ただし、新NISA制度へ移管(ロールオーバー)することはできません。そのため、非課税保有期間終了前の売却や、期間終了後の払い出しなどを選択することになります。
積立NISAは年末調整の対象ではない
近年、若い世代を中心に、全世代で積立NISAを始める方が増えています。
では、給与所得を得ながら積立NISAに口座を開設した場合、年末調整の対象となるのでしょうか。
結論から言えば、積立NISAは年末調整の対象とはなりません。なぜなら、年末調整とは会社が従業員の給与から源泉徴収した源泉所得税について行うものだからです。例えば配偶者控除や保険料控除など、受けられる所得控除を適用して正確な所得税額を計算し、超過や不足があった場合には還付や徴収を行います。一般的に、従業員が副業や投資などで給与以外に収入を得ており、一定の金額を超えた場合には、自分で確定申告を行うことになります。そのため、会社側では、従業員の積立NISAでの収入について年末調整を行う必要がないのです。
なお、もう一つ、年末調整が不要である理由として、積立NISAの運用で得た利益は最長20年まで非課税だということが挙げられます。この20年の期間は、2023年までの旧制度のものであり、現行の新NISA制度では、非課税期間に制限はありません。すなわち、現在では期間を問わず、年末調整はもちろん、確定申告も必要ないということです。
参考:
NISA口座開設・利用状況調査結果(2024年6月末現在)|日本証券業協会
NISAを知る|金融庁
従業員が積立NISAをしていた場合の会社の対応は?
積立NISAは非課税の投資信託であり、年末調整を行う必要がないことを説明しました。
では、従業員が積立NISAをしている場合、会社側がするべきことは何かあるのでしょうか。
想定できる事態としては、従業員側から、年末調整時に積立NISAの扱いをどうするかの問い合わせがあることです。また、確定申告が必要な場合でも申告を行わず、申告漏れとなってしまう従業員が出ることもあります。
これらの問題に対して、労務担当者が行う必要のある対応は、積立NISAについては基本的に年末調整・確定申告の必要がない旨を周知することです。ただし、そのほかにも収入がある場合には、確定申告が必要な例を説明し、該当する場合には確定申告を促す必要があります。
積立NISAは所得控除を受けられるか
税制優遇のある積立型の金融商品として、積立NISAとよく比べられるiDeCo(個人型確定拠出年金)があります。iDeCoは「自己資金で積立と運用を行うことにより老後資産を形成する」という目的で設けられた制度です。運用益が非課税で、さらに掛金(積立金)にも控除が適用されます。ただし、運用できるのは60歳まで、引き出しは原則60歳から、などの条件があります。
一方、積立NISAは、ライフスタイルに合わせていつでも引き出すことのできる、「長期的に積立、分散投資を行い資産を増やす」という目的の制度です。積立NISAによる運用の場合には、その運用利益は非課税となります。しかし、掛金については、控除を受けることができません。そのため、確定申告などによって、控除手続きを行う必要はありません。
なお、積立NISAの特徴や確定申告との関係については、以下の記事に詳しく紹介されています。
参考:
2023年までのNISA:NISA特設ウェブサイト|金融庁
iDeCoの概要 |厚生労働省
積立NISAで確定申告が必要なケースは?
積立NISAは、原則として確定申告が不要です。しかし、積立NISAであっても確定申告が必要となるケースが存在します。
分配金を「株式数比例配分方式」以外で受け取る場合
分配金の受取方法は、主に以下の3種類です。
- 株式数比例配分方式
- 登録配当金受領口座方式
- 配当金領収証方式
積立NISAにおける分配金の受取方法が「株式数比例配分方式」以外である場合には、確定申告が必要です。
積立NISA制度において、選択した商品によっては、ETF(上場投資信託)の分配金が払い戻される場合もあります。そのようなケースにおいて、分配金の受取方法を「株式数比例配分方式」以外にしている場合には、積立NISAの運用利益も確定申告の対象となる場合があります。
「登録配当金受領口座方式」や「配当金領収証方式」で、分配金を受け取る場合には注意しなければなりません。なお、ETF以外の商品を選択している場合には、受取方法を問わず、非課税です。
非課税期間が終了し一般口座や特定口座に移す場合
現行の新NISA制度では、非課税保有期間に制限はありません。しかし、2023年までの旧NISA制度においては、非課税保有期間に上限が設けられていました。
旧NISA制度を利用している場合には、非課税保有期間終了後に、課税口座(一般口座、または源泉徴収のない特定口座)への払い出しか、売却を選択することになります。ただし、課税口座において運用を継続する場合には注意しなければなりません。
課税口座に移した移管後の価格が、新しい取得価格になるため、値上がりにより得た利益は、課税対象となり、確定申告が必要となる場合があります。なお、非課税保有期間内での売却、または払い出し先口座が源泉徴収ありの特定口座であれば、確定申告は不要です。
投資における口座ごとの確定申告の要否を、以下の表にまとめます。
口座の種類 | 確定申告の要否 | ||
---|---|---|---|
課税口座 | 一般口座 | 確定申告の必要あり | |
特定口座 | 源泉徴収なし | 確定申告の必要あり | |
源泉徴収あり | 確定申告の必要なし | ||
非課税口座 | NISA口座 | つみたて投資枠 | 確定申告の必要なし |
成長投資枠 | 確定申告の必要なし |
積立NISAに関する注意点
ここまでは、従業員が積立NISAをしている場合の会社の対応について説明してきました。
では、収入のない専業主婦/夫が積立NISAを行う場合には、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
また、副業が原則禁止とされている公務員が積立NISAを行う場合など専業主婦/夫や公務員が積立NISAをする際の注意点をみていきましょう。
専業主婦/夫で積立NISAをしていた場合
積立NISAは、一人が持てる口座は一口座までと決まっています。
ただ、原則として日本に居住している20歳以上の方ならば誰でも口座を持てるため、収入のない専業主婦/夫も自分の名義で口座を持つことができます。夫婦がそれぞれ口座を持って運用し、利益を得ることができるのです。
通常の投資と違って積立NISAの運用益は非課税であるため、会社で働いて収入を得ている夫や妻は、扶養に入る配偶者の収入上限額を気にせず、年末調整の配偶者控除を受けることができます。
なお、前述した通り、積立NISAそのものに関する控除はないため、特に手続きをする必要はありません。
家計全体で考えた場合、専業主婦/夫が積立NISAの口座を持つことにより、運用益が出ればその分収入が増え、しかも増えた分は非課税なので節税対策となる、というメリットがあります。
対してデメリットとしては、預貯金とは違って利益が出るだけでなく、元本割れのリスクもあることです。必ずしも得をするばかりではない、ということは頭に入れておきましょう。
また、専業主婦/夫が積立NISAをする際に注意すべき点は、家計全体を見て投資金額を決めることです。夫婦どちらかの収入で暮らしている場合、投資に使える額もおのずと決まってきます。積立NISAは、途中で引き出すことができるとはいえ、原則として長期にわたって運用する資産です。現在のライフスタイルや今後のライフイベントなどを考慮し、家族でよく検討することが大切でしょう。
参考:2023年までのNISA:NISA特設ウェブサイト|金融庁
公務員で積立NISAをしていた場合
前出のiDeCoでは、自営業やDB(確定給付企業年金)に加入していない方と、DBに加入している方や公務員との拠出金額の違いがありますが、積立NISAにはそういった区別がありません。官民の区別なく条件は同じです。公務員にも掛金に対する控除などはなく、運用益は非課税であるため、年末調整や確定申告で積立NISAについての手続きは必要ありません。
公務員の方が気にされるのは、国家公務員法や地方公務員法に定められた副業規定でしょう。国家公務員法第103条や第104条、地方公務員法第38条では、原則として営利企業での役員や従業員を兼業すること、自営業と兼業することを禁止しています。しかし、投資は資産運用であり、副業ではありません。(ただし、不動産経営など、条件によっては自営兼業とみなされるものもあるため注意が必要です)
投資を行うにあたって問題となるのは、立場上知り得た情報によって有利な取引を行ったり(インサイダー取引)、国家公務員法第101条「職務に専念する義務」に反し、業務中に投資に関する情報を見たり売買をしたりした場合です。
また、積立NISAは非課税ですが、ほかにも課税対象となる収入があった場合に確定申告を忘れてしまうと、脱税となってしまいます。
公務員の義務違反だけではなく法を犯すことにもなるため、注意しましょう。
参考:
義務違反防止ハンドブック|人事院
第2章 公務員における副業・兼業の現状と課題|公益財団法人 東京市町村自治調査会
積立NISAのメリットを活かして資産形成を
積立NISAとは、少額の資金で投資信託を始められるよう支援するための制度で、リスクの低い「長期、積立、分散投資」の方法をとっています。投資額や投資期間、投資対象商品などが限定されており、さまざまな職業や年代の方が投資しやすい仕組みとなっています。
なかでも注目したいのは、2024年以降の新NISA制度における運用益については、期間を問わず非課税だということです。掛金に対する控除などはなく、運用益は非課税であるため、会社での年末調整や確定申告は必要ありません。また、専業主婦/夫や公務員など投資に不安のある方も、少しの配慮をすることで十分に運用できます。
投資である限り、リスクがないとは言えませんが、始めやすい資産運用であることは確かです。将来の資産形成のために、検討してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
積立NISAは年末調整の対象ですか?
積立NISAは、掛金についての控除はなく運用益は非課税のため、年末調整の対象にはなりません。確定申告も不要ですが、問い合わせを受けた労務担当者は、ほかに確定申告が必要なものはないかを確認しましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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