• 更新日 : 2025年1月28日

産休で扶養に入れる?出産手当金とどちらが得?条件や控除額を解説

産休中は給与が支払われないため収入面での不安を感じやすいですが、条件を満たせば夫の扶養に入れます。しかし、扶養に入っても出産手当金をもらえるのかわからず、扶養に入る場合と入らない場合ではどちらが得か悩んでいる方もいるでしょう。

本記事では扶養に入るための条件や、扶養に入った際の出産手当金について解説します。扶養の控除額や出産手当金の額について具体例も紹介するので、お金を多くもらうには扶養に入るか入らないかのどちらが良いか判断する際の参考にしてください。

産休で扶養に入れる?

産休中に収入が少なくなり条件を満たせば、扶養に入ることは可能です。扶養の概要と扶養に入れる条件について、それぞれ詳しく解説します。

そもそも扶養とは?

扶養とは、自分の収入だけでは生活できない親族を経済的に援助し、養うことを指します。

経済的に援助する人は「扶養者」、援助を受ける人は「被扶養者」と呼ばれます。産休中は収入が減る妻が被扶養者であり、夫が扶養者です。

扶養には、「所得税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類があります。

所得税法上の扶養の対象に該当すると、扶養者の所得税や住民税の納付額が減少します。一方で、社会保険上の扶養に入れる場合は、被扶養者は保険料を支払わずに扶養者が勤める会社の社会保険に加入することが可能です。

扶養に入れる条件

産休中の妻が所得税法上の扶養に入るためには、以下の5つの条件をすべて満たす必要があります。以下の条件は、配偶者控除を受けるためのものです。

  • 控除を受ける年の12月31日時点で民法上の婚姻関係にある
  • 夫婦で生計を一にしている
  • 妻の1月1日~12月31日の合計所得金額が48万円以下(給与収入のみなら103万円以下)である
  • 妻が1年間、青色申告者の事業専従者として給与を受け取っていない、または白色申告者の事業専従者ではない
  • 夫の1月1日~12月31日の合計所得金額が1,000万円以下(給与収入のみなら1,195万円以下)である

なお、妻の合計所得金額が48万円(給与収入のみなら103万円)を超えていても、133万円(給与収入のみなら201万6,000円)未満ならば配偶者特別控除が受けられます。

一方で、以下の2つの条件のすべてを満たすと、産休に入る妻が社会保険上の扶養に入れます。

  • 年間の収入が130万円未満である
  • 妻の収入が夫の収入の半分未満である

年間の収入は、被扶養者となる時点および認定された日以降の収入の見込み額のことです。また、所得税法上の扶養と異なり、社会保険上の扶養は出産手当金や育児休業給付金なども収入に含まれる場合があるため、収入の条件を満たすか確認する必要があります。

ただし、産休中は手続きを行えば社会保険料が免除となるため、年金の社会保険料上の扶養に入るケースは少ないでしょう。

参考:No.1191 配偶者控除|国税庁

参考:No.1195 配偶者特別控除|国税庁

参考:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|日本年金機構

産休で扶養に入ると出産手当金はもらえる?

産休前や産休中に所得税法上の扶養に入り、社会保険上の扶養に入らない場合は、出産手当金がもらえます。

出産手当金とは、出産のため仕事を休み、給料の支払いがない期間に健康保険から支給される手当のことです。支給条件は以下の3つをすべて満たしていることです。

  • 会社の健康保険に本人が加入している
  • 妊娠4ヵ月(85日)以降に出産する(流産や死産、人工妊娠中絶も含む)
  • 出産のために仕事を休んでいる

産休中も健康保険への加入は継続しますが、健康保険料が免除されます

出産手当金の支給期間は、出産日(出産日が予定日より後なら予定日)以前の42日目から、出産日の翌日以降56日目までです。なお、多胎妊娠の場合は出産日あるいは予定日以前の98日目からとなります。

なお、産休を取得し復職せずに退職する場合も、以下の条件をすべて満たしていれば出産手当金を受け取れます。

  • 退職日までに継続して1年以上健康保険に加入している
  • 退職時に出産手当金を受け取っている、または受け取る条件を満たしている
  • 退職日に出勤していない

ただし、健康保険の継続期間を計算する際に、任意継続期間は含まれません。

参考:出産に関する給付|全国健康保険協会

参考:出産手当金について|全国健康保険協会

出産手当金が支払われるタイミング

出産手当金が支払われるタイミングは、申請してから1〜2ヵ月後が一般的です。

出産手当金は産休中の給与の支払い状況を確認してからでないと支給要件を満たすかわからないため、産休終了日を含む給与の締め日を過ぎてから申請します。そのため、出産後3~4ヵ月経ってから出産手当金を受け取れます。

なお、出産手当金は複数回にわけて受け取ることも可能です。複数回にわけて支給してもらう場合は、産休終了を待たずに出産手当金を受け取れます。

ただし、申請のたびに会社に申請書類を記入してもらう必要があります。また、予定日よりも出産が遅くなり1回目の申請時に医師や助産師の証明欄に予定日が記載されている場合は、2回目の申請時も医師または助産師に書類を記入してもらわないといけません。

産休中の扶養と出産手当金のどちらが得?

月収30万円の東京都在住のAさん(30歳)が産休を取る際に、扶養に入る場合と入らずに出産手当金を受け取った場合に得する金額について解説します。なお、夫の年収は995万円(合計所得金額800万円)とします。

ただし、Aさんの社会保険料は産休中は免除となるため、計算には含めていません。

扶養の控除額

配偶者控除は納税者(夫)の合計所得金額、配偶者特別控除額は妻と夫それぞれの合計所得金額によって控除額が異なります。

仮に、Aさんが1ヵ月分の月収を受け取ってから産休に入る場合、Aさんの年収は30万円(合計所得金額は0円)となり配偶者控除が使えます。夫の合計所得金額は800万円のため、控除額は満額である38万円です。

一方で、Aさんが6ヵ月分の給与を受け取ってから産休に入るとします。Aさんの年収は180万円(合計所得金額は118万円)となるため、配偶者特別控除の条件を満たします。夫の合計所得金額が800万円のため、16万円の扶養の控除を受けることが可能です。

夫の所得税と住民税は、合計所得額から扶養の控除額を差し引いた金額に税率を掛けて計算されます。たとえば、控除がない場合と配偶者控除を満額受けた場合の所得税は、以下のとおりです。

控除なし:800万円×0.23−63万6,000円=120万4,000円

配偶者控除満額あり:(800万円-38万円)×0.23-63万6,000円=111万6,600円

つまり、配偶者控除を受けると夫の所得税は最大で8万7,400円減税できます。住民税は住んでいる地域によって均等割の金額、また稀に所得割の税率が異なるため、確認してみましょう。

出産手当金の額

出産手当金の額は、支給が始まる日以前の「標準報酬月額」をもとに、以下の計算で求めます。標準報酬月額とは、社会保険料を計算する際に基準となる金額です。

1日の出産手当金=支給開始日以前12ヵ月の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3(小数点第1の位を四捨五入)

出産手当金の総額=1日の出産手当金×産休の日数

たとえば、Aさんが出産前に42日間(出産日含む)、出産後に56日間休んだ場合、出産手当金は以下のとおりです。なお、東京都に住んでいるAさんの標準報酬月額は30万円です。

1日の出産手当金の額=30万円÷30日×2/3=6,667円

出産手当金の総額=6,667円×98日=65万3,366円

ただし、産休中にも務めている会社から給与が支払われる場合、出産手当金よりも給与額が高いと出産手当金は支給されません。給与額のほうが少ないときのみ、差額分を出産手当金として受け取れます。

産休によってAさんの収入が減り所得税法上の扶養にも入れる場合は、夫の税金も減るためさらにお得となります。

産休で扶養に入るタイミングはいつが良い?

産休で所得税法上の扶養に入るタイミングは、産休に入る年の収入によって異なります。

条件を満たしているなら産休を取る年に扶養に入れますが、産休に入る時期によっては収入が扶養に入る条件より多くなることもあります。

しかし、翌年以降に育休や時短勤務によって収入が減ることで条件を満たす可能性もあるため、必ず収入を計算しましょう。

産休で扶養に入る際の手続き方法

産休後に復職せずに退職するといった理由から社会保険上の扶養に入る場合は、必要な手続きを行う必要があります。

社会保険上の扶養に入る際は、妻が被扶養者になった日から5日以内に所轄の年金事務所または事務センターへ必要書類を提出します。提出するのは従業員ではなく、会社側です。

必要書類は以下のとおりです。

  • 被扶養者(異動)届 第3号被保険者関係届
  • 続柄を確認するための書類(被扶養者の戸籍謄(抄)本、住民票の写しなど)
  • 収入が扶養に入る条件を満たしていると確認できる書類(退職証明書、雇用保険被保険者離職票の写しなど)
  • 受取金額がわかる通知書などのコピー(出産手当金、失業給付などを受け取っている場合)

なお、続柄を確認するための書類は、夫婦それぞれのマイナンバーが届書に記載されており、事業主が届書の記載に相違がないと確認した旨が記入されていれば添付する必要はありません。

また、所得税法上の扶養に入っている場合は、収入が扶養に入る条件を満たしているか確認するための書類も不要です。

提出方法は、窓口への持参や郵送、電子申請から選べます。さらに、書類でなく電子媒体(CDまたはDVD)での提出も可能です。

参考:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|日本年金機構

扶養控除の申請手続き方法

扶養控除の申請手続きは方法は2つあります。申請時期や夫の仕事によって申請方法が異なるため、自分に適した方法で申請しましょう。

納税者(夫)の勤務先で年末調整する

配偶者控除や配偶者特別控除を利用するためには、利用する年の年末調整で「給与所得者の配偶者控除等申告書」を夫の勤務先へ提出します。書類の提出期限は会社によって異なるため、確認しておきましょう。

書類には妻の年収額やマイナンバーを記載する必要があるため、事前に確認しておくとスムーズに記載できます。

確定申告する

扶養控除を利用したい年の年末調整に間に合わなかったり、自営業のため年末調整がなかったりするときは、夫が確定申告で申請します。確定申告書の以下の記入欄に情報を記載しましょう。

  • 配偶者(特別)控除の金額
  • 配偶者の合計所得金額
  • 配偶者の氏名や生年月日、マイナンバーなど

なお、年末調整や確定申告で申告するのを忘れても、5年以内であればさかのぼって申告できます。

産休・育休に関わる申請書類のテンプレート

産休や育休を取得する際は、申請書を用意する必要があります。以下のテンプレートはどちらも無料で利用できるため、ぜひご活用ください。

産休申請書テンプレート

産休申請書は、産休を取得する従業員の社会保険料を免除するために提出する書類です。産休の終了日から起算して1ヵ月以内に従業員が記入し、日本年金機構の事務センターか管轄の年金事務所へ会社が提出します。

会社は事前に書類を用意しておき、産休を取得する職員に記入してもらいましょう。

産休申請書(ワード) テンプレート

育児休業申請書テンプレート

育休申請書は、従業員が記入し会社に提出する書類です。子どもが1歳になるまでの場合や保育園に入所できなかった場合など、その都度提出する必要があります。

子どもが1歳になるまでの育休申請と1歳以降の申請では提出期限が異なるため、余裕を持って用意しておきましょう。

育児休業申請書(ワード) テンプレート

産休中は扶養制度を上手に活用しよう

産休中は収入が減るため、不安を感じやすくなります。所得税法上の扶養を活用し節税することで、収入面の不安を減らせるでしょう。

また、産休中は社会保険料が免除されたり、扶養に入って社会保険料の支払いを無くしたりすることも可能です。

扶養や手当金について理解し、自分に合った方法で扶養制度を活用しましょう。


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