• 作成日 : 2022年9月30日

妊婦の労働時間について労働基準法に基づき解説

妊婦の労働時間について労働基準法に基づき解説

女性の社会進出が進んでいる現代では、労働に従事している妊婦も珍しくありません。妊婦は労働時間や労働形態に配慮が必要なため、労働基準法に妊産婦等を保護する条項が定められています。労働基準法は、労働者の保護を目的に労働条件等の最低基準を定めた法律です。この記事では妊婦の労働時間等について、労働基準法の観点から説明します。

労働基準法による妊婦の労働時間

労働基準法では、妊産婦を保護するための条項として、労働時間の制限や産前産後休業について定められています。妊産婦が請求した場合、事業主は1日8時間・週40時間の法定労働時間を超える時間外労働や深夜業、休日労働を課すことはできません。労働基準法第66条には下記の通り定められています。

労働基準法
第六章の二 妊産婦等
(産前産後)
第六十六条
使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十二条の二第一項、第三十二条の四第一項及び第三十二条の五第一項の規定にかかわらず、一週間について第三十二条第一項の労働時間、一日について同条第二項の労働時間を超えて労働させてはならない。

② 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十三条第一項及び第三項並びに第三十六条第一項の規定にかかわらず、時間外労働をさせてはならず、又は休日に労働させてはならない。

③ 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。
引用:労働基準法 | e-Gov法令検索

請求があった場合はいかなる事由でも時間外労働等を課すことはできないため、1日の法定労働時間が決まっていない変形労働時間制においても当該制限を受けることに注意しましょう。逆に、妊産婦からの請求が無い場合は、一般の労働者と同様に労働基準法の範囲内で時間外労働・深夜業・休日労働を課すことができます。

また、妊婦を保護する法律では、次章で紹介する男女雇用機会均等法の母性健康管理措置も大切です。特にコロナ禍においては一層の配慮が求められているため、厚生労働省からガイドラインが提示されています。新型コロナウイルス感染症と妊婦の労働について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

男女雇用機会均等法による母性健康管理措置

妊婦を保護する法律として、労働基準法とあわせて重要なのが「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」通称「男女雇用機会均等法」です。男女雇用機会均等法では、妊産婦を保護するために「妊娠中および出産後の健康管理に関する措置」が定められています。これは「母性健康管理措置」と呼ばれ、具体的には下記の4つの措置です。

  1. 保健指導または健康診査を受けるための時間の確保(第12条)
  2. 指導事項を守ることができるようにするための措置(第13条)
  3. 妊娠・出産等を理由とする不利益な取り扱いの禁止(第9条)
  4. 紛争の解決(第15条~第27条)

1・2については後ほど詳しく紹介します。3は妊娠・出産・産前産後休業の取得を理由に、解雇・降格・減給その他の不利益な取り扱いを禁止する条項です。4については、母性健康管理措置が講じられず事業主との間で紛争が生じた場合、調停などの紛争解決援助の申し出を行うことができます。

参考:働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について|厚生労働省

検診を受ける時間の確保

男女雇用機会均等法では下記の通り定められており、事業主は妊産婦が必要な保健指導や健康診査を受けるために必要な時間を確保しなければなりません。

男女雇用機会均等法
第二節 事業主の講ずべき措置等
(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)
第十二条
事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。

実際に確保しなければならない時間・回数は、母子保健法第13条第2項の規定に基づき下記の通り定められています。

  • 産前(妊娠中)
  • 妊娠23週までは4週間に1回
    妊娠24週から35週までは2週間に1回
    妊娠36週以後出産までは1週間に1回

  • 産後(出産後1年以内)
    医師等の指示に従って必要な時間を確保する

健康診査等に必要な休暇は事前に申請する必要があり、事業主は「健康診査・保健指導申請書」の提出を求めることができます。
健康診査・保健指導申請書
引用:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 | e-Gov法令検索
参考:母子保健法 | e-Gov法令検索
参考:・妊婦に対する健康診査についての望ましい基準(◆平成27年03月31日厚生労働省告示第226号)|厚生労働省
引用:働く女性の母性健康管理のために|厚生労働省

通勤緩和

妊産婦が上記の措置に基づき必要な健康診査等を受け医師等から指導を受けた場合は、その指導を守ることができるよう、事業主は勤務時間の変更や勤務の軽減など必要な措置を講じなければなりません。男女雇用機会均等法には下記の通り定められています。

男女雇用機会均等法
第二節 事業主の講ずべき措置等
(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)
第十三条
事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。

時差通勤や勤務時間短縮、交通手段・通勤経路の変更などの通勤緩和も母性健康管理措置の1つといえます。

引用:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 | e-Gov法令検索

勤務中の休憩について

休憩回数の増加や休憩時間の延長、休憩時間帯の変更なども母性健康管理措置に該当します。妊婦の女性従業員から申請があった場合は、事業主は医師等の指導に基づき適宜休養や補食ができるよう配慮しなければなりません。なお、保健指導や健康診査のための休暇や休憩時間の賃金については労使間で話し合って決めることとなっています。2004年の厚生労働省の調査によると、通院休暇制度がある企業のうち46.7%が有給としているようです。

参考:母性健康管理Q&A|厚生労働省

症状に関する措置

健康診査の結果、医師等から症状について指導があり、妊婦の女性従業員から申し出があった場合は、指導事項を守れるよう事業主は必要な措置を講じなければなりません。例えば、妊婦は重いものを取り扱う作業や長時間の全身運動を伴う作業は避ける必要があります。当該従業員がこれらの業務に従事していた場合は、デスクワークや負荷の軽い作業へ配置転換を行い、負担を軽減しましょう。

労働基準法による母性保護規定

労働基準法では妊婦の労働時間に加え、産前産後休業や育児時間取得について定められています。これらは「母性保護規定」と呼ばれ、具体的には下記の4つの規定です。

  1. 産前産後休業(第65条第1項・第2項)
  2. 妊婦の軽易業務転換(第65条第3項)
  3. 妊産婦等の危険有害業務の就業制限(第 64条の3)
  4. 妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限(第66条第1項)
  5. 妊産婦の時間外労働、休日労働、深夜業の制限(第66条第2項・第3項)
  6. 育児時間(第67条)

1および6については後ほど詳しく紹介します。2は、妊産婦の女性従業員から申し出があった場合、事業主は他の軽易な業務に配置転換しなければならない規定です。3の規定では、重量物や毒劇薬・爆発物・有毒ガス・放射性物質等を取り扱う業務など、妊娠・出産・哺育に著しく有害な業務に妊産婦を就かせることを禁止しています。4・5については「労働基準法による妊婦の労働時間」の章を参照してください。

参考:産前産後休業その他の母性保護措置について。|厚生労働省

産前休業

産前休業は、妊婦の女性従業員が請求した場合、就業させてはならない期間です。休業期間は6週間、多胎妊娠の場合は14週間となります。労働基準法の定めは下記の通りです。

労働基準法
第六章の二 妊産婦等
(産前産後)
第六十五条
使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。

② 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。

引用:労働基準法 | e-Gov法令検索

あわせて規定されている産後休業については次章で紹介します。

産後休業

請求の有無にかかわらず、事業主は出産後8週間以内の女性従業員を就業させることはできません。ただし、6週間を経過した当該従業員から請求がある場合は、医師によって支障がないと認められた業務に限り就業させることが可能です。なお、出産とは妊娠4ヶ月以上の分娩のことを指し、死産や流産も含まれます。また、休業期間は出産日からの起算となるため注意しましょう。

産前産後休業中の給与については労働基準法には定めがなく、事業主には支払いの義務がありません。これらの休業期間中は給与が支払われないことが一般的ですが、申請することで健康保険から出産手当金を受け取ることが可能です。

参考:出産手当金について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会

育児休業制度

生後1歳未満の子供を育てている女性労働者は、1日2回「育児時間」を請求することができます。労働基準法第67条における育児時間の規定は下記の通りです。

労働基準法
第六章の二 妊産婦等
(育児時間)
第六十七条
生後満一年に達しない生児を育てる女性は、第三十四条の休憩時間のほか、一日二回各々少なくとも三十分、その生児を育てるための時間を請求することができる。

実子だけでなく、1歳未満の養子についても当該規定の対象です。また、労働基準法の「育児時間」に加え「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」通称「育児・介護休業法」では「育児休業」が定められています。「産後パパ育休(出生時育児休業)」は父親に認められている産後休業制度です。2021年可決成立・2022年10月施行の改正育児・介護休業法における育児休業の定義や対象者、休業期間についてまとめると下記のようになります。

    • 定義
      • 育児休業

労働者が原則として1歳未満の子供を養育するための休業です。

産後パパ育休(出生時育児休業)
産後休業を取得していない労働者が原則として出生後8週間以内の子供を養育するための休業です。

    • 対象者
      • 育児休業

日雇い労働者を除く労働者です。有期雇用労働者の場合は子供が1歳6ヶ月もしくは2歳になるまでに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかでない必要があります。一方、雇用期間が1年未満の労働者、1年以内もしくは1歳以降の休業の場合は6ヶ月以内に雇用関係が終了する労働者、週の所定労働日数が2日以下の労働者は対象外です。該当者であれば父母共に取得することができます。

      • 産後パパ育休(出生時育児休業)

日雇い労働者を除く産後休業を取得していない労働者です。有期雇用労働者の場合は、子供の出生日または出産予定日のいずれか遅い方から起算して8週間を経過する日の翌日から6ヶ月を経過する日までに労働契約期間が満了 し、更新されないことが明らかでない必要があります。一方、雇用期間が1年未満の労働者、8週間以内に雇用関係が終了する労働者、週の所定労働日数が2日以下の労働者は対象外です。名称に「パパ」と付いていますが、養子等で出産を伴わず産後休業の対象とならない母親等も取得が可能なので注意しましょう。

    • 回数
      • 育児休業

子1人につき、原則2回です。保育所等への入所を希望しているが入所できないなど、やむを得ない事情がある場合は再度取得することもできます。

      • 産後パパ育休(出生時育児休業)

子1人につき、2回です。

    • 期間
      • 育児休業

原則として子供が1歳になるまでの、連続した1年間です。ただし、配偶者が育児休業を取得しているなどの場合は、子が1歳2ヶ月に達するまで出産日、産後休業期間、育児休業期間、産後パパ育休期間を合計して1年間以内の休業を取得することができます。子が1歳に達する日においていずれかの親が育児休業中である場合、 保育所等への入所を希望しているが入所できないなどのやむを得ない事情がある場合、1歳6ヶ月までの育児休業を取得したことがない場合などは最長2年間まで延長可能です。

      • 産後パパ育休(出生時育児休業)

原則として子供の出生後8週間以内の期間内で通算4週間までです。

なお、育児休業中は無給であることが一般的ですが、雇用保険に加入し一定の要件を満たしている場合は「育児休業給付金」を受け取ることができます。給付率は、最初の6ヶ月間は67%、それ以降は50%です。さらに、育児休業中は社会保険料が免除され、育児休業給付金は非課税なので所得税・住民税の負担も軽くなります。これらを利用すれば、安心して子育てに専念できるでしょう。

参考:育児・介護休業法のあらまし|厚生労働省
参考:育児休業期間中の保険料免除|日本年金機構

母性健康管理指導事項連絡カードとは

妊産婦の女性従業員が健康診査等を受け医師等から通勤緩和や休憩取得などについて指導を受けた場合、指導内容を事業主に正確に伝えて適切な措置を講じられるよう「母性健康管理指導事項連絡カード」の利用が推奨されています。母性健康管理指導事項連絡カードとは、母性健康管理措置を守るために定められた様式です。一般的に「母健連絡カード」と呼ばれています。母健連絡カードは厚生労働省のWebサイトからダウンロード可能です。

母性健康管理指導事項連絡カード
引用:母健連絡カードについて|妊娠・出産をサポートする 女性にやさしい職場づくりナビ|厚生労働省委託 母性健康管理サイト

制度を活用し充実した子育てを実現しよう

妊婦の労働時間について紹介しました。女性の社会進出が進んでいる現代では、就労を続けている妊産婦も珍しくありません。しかし、妊産婦の女性従業員は通勤緩和や業務内容、休憩取得などで特別な配慮が必要です。そのため、労働基準法や男女雇用機会均等法では母性保護に関する様々な規定が定められています。また、育児・介護休業法では育児休業制度が定められているため、働きながら子育てすることも可能です。当記事を参考に妊娠・出産・哺育に関する制度を理解し、充実した子育てを実現しましょう。

よくある質問

妊婦の労働時間はどのように規定されていますか?

妊婦の女性従業員から申し出があれば1日8時間・週40時間を超える時間外労働・深夜業・休日労働等を課すことはできません。これは変形労働時間制にも適用されるため注意しましょう。詳しくはこちらをご覧ください。

労働基準法の母性保護規定とはなんですか?

産前産後休業・育児時間の取得や、妊産婦に有害な業務の禁止に関する規定です。労働時間についても母性保護規定に含まれます。母性保護については男女雇用機会均等法の母性健康管理措置も重要なのであわせて確認しましょう。詳しくはこちらをご覧ください。


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