- 更新日 : 2024年11月15日
年収103万以下の場合に年末調整は必要?不要?具体例を解説
アルバイトやパートなどで働く際、年収103万以下になるよう調整して働く人も多くいます。なぜなら、年収103万円を基準として年末調整の必要・不要が決まるからです。
本記事では年収103万以下の年末調整、所得税の源泉徴収が1円もないケースなどをテーマに説明します。
目次
年収103万以下で源泉徴収がない場合は年末調整は不要
税金の話をする際に「103万円の壁」という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。
ここでいう103万とは、年収が103万以下の場合、基本的には所得税がかからないことを意味します。では、103万という金額はどうやって導き出されるのでしょうか。
正社員や契約社員、アルバイト、パートなど、どのような雇用形態であっても、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を勤務先に提出し給与から源泉徴収をされている場合、年末調整は行われます。
その際に実際の給与収入から控除される「基礎控除」は、年収2,500万円以下の場合48万円で、「給与所得控除」は最低額でも55万円です。つまり、48万円と55万円を足した103万円が、控除により所得税がゼロとなる額なのです。そのため、月々の収入が一定額以下で源泉徴収が行われた月がない場合には、年末調整は不要となります。
なお、所得税が非課税となる年収額は103万以下ですが、住民税は、おおよそ100万(自治体によって異なる)を超えると課税対象となります。何らかの理由により年末調整が行われない場合には、自分で役所に申告し、支払う必要があります。
参考:
給与所得者(従業員)の方へ|国税庁
所得税法(昭和四十年法律第三十三号) | e-Gov 法令検索
年収103万以下でも年末調整が必要なケース
所得税は年収103万以下が非課税となるため、源泉徴収されていなければ年末調整は必要ありません。 しかし、収入が103万以下であっても、年末調整が必要となるケースも存在します。ここでは、どんなときに年末調整が必要になるのかをご説明します。
勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を出している場合
人を雇って給与を支払う場合、雇用主は所得税や住民税を給与から天引きして、本人の代わりに国に支払います(源泉徴収義務)。しかし、年末になってみなければ一人ひとりの正式な納税額は確定できません。そのため、年末に年収が確定した後、控除額などを計算し、源泉徴収した額と正式な納税額の精算を行います。これが年末調整です。
所得税法では「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出した人については年末調整を行うこととされています。「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していれば、年収が103万以下の人でも年末調整が行われるのです。
上記申告書の提出を前提として、年末調整は以下の条件に当てはまる従業員全員に行うこととされています。
- 1年を通じて勤務、または12月末の給与が確定する時点で勤務していて、源泉徴収されている人
- 年の途中で退職した人で、年内の再就職が見込まれない人
- アルバイト、パートなど年の途中で退職した人で、本年の年収が103万以下の人
- 海外転勤などで非居住者(海外に1年以上居住する見込み)となった人
参考:
所得税法(昭和四十年法律第三十三号)|e-Gov法令検索
年末調整の対象となる人|国税庁
年末調整とは|国税庁
ひと月の給与が8万8000円を超ええている場合
所得税や住民税などは、国税庁の源泉徴収税額表をもとに毎月の収入から概算し、源泉徴収として給与から天引きされています。
この所得税の源泉徴収は月あたり8万8,000円を基準として判定されます。
源泉徴収税額表に記載されている通り、月々の収入が8万8000円以下の場合には、源泉徴収額は0円です。
つまり、一月の給与が8万8000円以下の場合は源泉徴収がされず、年末調整は不要になります。
年収103万以下の年末調整で注意する点
年収103万を超えないように働いている場合、年末調整の際に注意しなければならない点があります。判断を間違えてしまうと、税金を多めに払ったままになってしまう場合があるため注意しましょう。ここでは年収103万以下の場合に、年末調整で注意する点をご説明します。
2つ以上の勤務先から給与をもらっている場合
アルバイトやパートなどで働く場合、いくつかの勤務先を掛け持ちして働いている人もいるでしょう。しかし、年末調整は1つの勤務先でしか行えません。2つ以上の勤務先から給与をもらっている場合は、通常、一番収入の多い勤務先で年末調整をしてもらいます。
では、それ以外の勤務先の収入についてはどうしたらよいのでしょうか。
勤務先すべての収入の合計が103万以下である場合、以下のようになります。
- 年末調整をした勤務先以外で、源泉徴収されている場合
年末調整をした勤務先以外にも源泉徴収をされている勤務先がある場合、本来よりも多くの税金を支払っている場合があります。源泉徴収票を受け取り、確定申告を行うことで、多めに支払った分を返金(還付)してもらうことができます。
- 年末調整をした勤務先以外で、源泉徴収をされていない場合
どこからも源泉徴収をされていない場合は、もともと非課税であるため確定申告をする必要はありません。
複数の勤務先を掛け持ちしている場合には、収入の管理をしっかり行い、間違いのないように注意しましょう。
勤務先の会社で年末調整できない場合
年収103万以下で、勤務先で年末調整を受けることができないのは以下の条件に当てはまる人です。
- 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない人
- 2つ以上の勤務先で働いており、他の勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人
- 日雇い労働者など、継続して一つの勤務先に勤務しない人
- 災害などの被害により所得税の徴収猶予や還付を受けた人
では、上記の理由により勤務先で年末調整をされない人はどうしたらよいのでしょうか。
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していないと、提出した場合よりも高い税率が適用されます。収入を低く抑えても課税され、源泉徴収されているのです。この場合、受け取った源泉徴収票をもとに年明けに確定申告をして、納めすぎた税金を還付してもらう方法があります。
2つ以上の勤務先で収入を得ている場合は、前述したとおりです。
日雇い労働者の場合、年収の合計が103万以下であれば所得税は非課税であるため、確定申告などを行う必要はありません。
被災して災害減免法の適用を申請し、すでに所得税の減免や還付を受けている場合には、確定申告を行い所得税などの精算を行います。
参考:
令和6年分 年末調整のしかた|国税庁、「Ⅱ 年末調整とは」
給与所得の源泉徴収税額表(令和6年分)|国税庁
No.8003 給与・公的年金等及び報酬等の支払を受ける方が災害を受けたときの源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予及び還付|国税庁
年収103万以下で年末調整が必要な場合で、年末調整を忘れてしまった場合
年収103万以下でも年末調整が必要なケースでありながら、年末調整を忘れた場合には、どのような対応が必要なのでしょうか。もともと、源泉徴収と年末調整は従業員ではなく会社側の義務です。翌年の1月末までに年末調整を行い、税務署や市区町村に関係書類を提出しなければなりません。
ただし、繰り返しになりますが、会社は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない従業員の年末調整を行うことができません。そのため、年末調整の時期になると従業員に向けて申告書や関係書類の提出を催促します。たいていはこのタイミングで催促されることにより、年末調整を忘れるという事態は回避できるでしょう。しかし、それでもなお忘れてしまった場合には年末調整は行われず、源泉徴収で徴収された不正確な納税額のままとなります。
また、申告書は提出しても控除を受けたい項目についての書類を出し忘れてしまった、というケースもあります。この場合、年末調整は行われますが控除は行われません。ちなみに、年末調整で受けられる控除には、以下のものがあります。
このように、年末調整関係の書類提出を忘れた場合、税金で損をしてしまうのです。
もし、関係書類を提出し忘れたことに気付いたら、まずは会社に連絡しましょう。1月末の期限に年末調整の事務処理を間に合わせるために、従業員から会社への提出期限を早めに設定していることが多く、まだ年末調整が終わっておらず間に合う可能性があります。また、終わっている場合でも、期間に余裕があればやり直しを依頼することも可能です。必ず受け入れてもらえるとは限りませんが、まずは相談してみましょう。
会社の年末調整に間に合わなかった場合には、自分で確定申告を行います。控除の申請を忘れた場合にも、確定申告ですべて精算することができます。確定申告期限は、対象となる年度の翌年2月16日~3月15日です。また、確定申告によって新たな税金の支払いが発生せず還付のみの場合には、翌年の1月1日から5年間、還付の申告を行うことができます。
年収103万を超えても年末調整できないケースは?
年収が103万円を超えると所得税を納付する義務が発生するため、会社は年末調整を行い、所得税を徴収します。しかし、年収が103万円を超えていても下記のようなケースでは年末調整ができません。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出していない
- 1年間の給与の総額が2,000万円を超えている
- 年末時点で在籍していない
- 所得税の徴収猶予または還付を受けている
それぞれについて見ていきましょう。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出していない
会社は、従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を受けて年末調整を行います。この申告書が提出されていない場合、年収が103万円を超えていても会社は年末調整を行うことができません。
また、2社以上の会社に勤務している従業員の場合は、他社の給与の方が多いとそちらの会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出して年末調整を行っています。年末調整は申告書を提出していないと行うことができないため、年収が130万円を超えていても年末調整はできません。
1年間の給与の総額が2,000万円を超えている
会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していても、1年間に支給した給与ならびに賞与の総額が2,000万円を超える人は年末調整の対象にならないことになっています。
年末時点で会社に在籍していない
年の途中で退職していて、なおかつ、下記に該当していない人は年末調整の対象にはなりません。
- 死亡により退職した人
- 著しい心身の障害のため退職した人で、その退職の時期からみて、本年中に再就職ができないと見込まれる人
- 12月中に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職した人
- いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人(退職後本年中に他の勤務先等から給与の支払を受けると見込まれる場合を除きます。)
引用:令和6年分 年末調整のしかた|国税庁、「Ⅱ 年末調整とは」
所得税の徴収猶予または還付を受けている
災害による被害を受けた人のうち、「災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律」により、給与にかかる源泉所得税ならびに復興特別所得税の徴収を猶予、または還付を受けている人は年末調整の対象になりません。
年末調整に必要な書類
アルバイトが年末調整において必要な書類は以下になります。各申告書のダウンロード先は下記を参照してください。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
定額減税の対象者の確認に必要な同一生計配偶者の有無と扶養親族の人数を把握するほか、扶養控除、障害者控除、その他の各種控除を確認するために必要な書類です。
年の最初に提出した申告書の内容に変更がある場合には、再度申告書を提出して、年末調整の際には最新の情報になっていなければ正しい年末調整ができません。
参考:2-1 扶養控除等(異動)申告書の受理と内容の確認|国税庁
給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書
申告書により、基礎控除、配偶者控除や定額減税の確認を行います。配偶者等がいない場合には、一番上の本人部分のみ記載して提出します。
参照:2-2 基礎控除申告書、配偶者控除等(兼定額減税)申告書及び所得金額調整控除申告書の受理と内容の確認|国税庁
給与所得者の保険料控除申告書
生命保険、介護保険、地震保険や個人年金保険、地震保険に個人で加入して保険料や掛金を支払っている人は、その額に応じて保険料控除を受けることができます。
保険料控除を受けるためには、保険料控除申告書の提出が必要です。社会保険料、小規模企業共済等の掛金も保険料控除の対象になるため、該当する場合は記入して提出してください。
なお、保険料控除を受けるためには保険料を支払ったことを証明する証明書が必要(必要ないものもあります)です。保険料控除申告書に必要事項を記入して証明書を添付の上、提出してください。
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書 兼 (特定増改築等)住宅借入金等特別控除計算明細書
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除とは、個人が居住用の家屋を新築、取得もしくは増改築等した際に、一定の要件を満たすときは、取得などに際して借り入れた住宅借入金等の年末残高を元にして計算した額を、各年分の所得税額から控除するものです。
参考:2-4 (特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書の受理と内容の確認|国税庁
年収103万以下の年末調整が必要なケースを確認しておこう!
年収103万以下とは、所得税が非課税となる分岐点ですが、月々の給与が基準以上であれば、源泉徴収は行われます。最終的に年収103万以下となったとしても、源泉徴収された分は年末調整をしないと還付されません。また、さまざまな控除を受けたい場合にも、年末調整が必要です。
年末調整をしてもらうためには、年末調整の日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しなければなりません。
最初にご紹介したように「103万円の壁」は所得税が非課税となる金額です。ほかにも、住民税の非課税や社会保険の加入要件、配偶者控除、配偶者特別控除など、利用したい制度によってさまざまな金額の「壁」が存在します。詳しく知りたい場合にはこちらの記事をご覧ください。
よくある質問
年収103万以下でも年末調整は必要ですか?
毎月の給与から源泉徴収されていない場合には、必要ありません。ただし、「扶養控除等(異動)申告書」を提出した場合や、1年のうち1月でも源泉徴収されている月がある場合には年末調整が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
年収103万以下で2つ以上の勤務先から給与を受け取っている場合、年末調整は必要ですか?
1人の労働者に対して年末調整が行えるのは1社のみです。複数の勤務先がある場合、最も収入の多い(主たる)勤務先で年末調整を行います。ただし、主たる勤務先でも、質問①の回答内容が適用されます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
年末調整の必要書類を未提出の場合
年末調整で提出しないといけなかったものを提出し損ねてしまった、ということはないでしょうか。 年末調整を会社が実施することは、勤務する社員にとってもありがたい制度です。なぜなら、自分で確定申告せずに、過払いの税金や控除などの手続きを会社がして…
詳しくみる年末調整で「配偶者控除」を受けられないケースとは?具体的な年収をもとに解説
年末調整のシーズンがやってきました。毎年11月頃になると勤務先から書類の提出を求められますが、後回しにしてまだ手続きをしていない方もいることでしょう。 2017年度の税制改正の影響を受け、「配偶者控除」の仕組みが変わりました。主な変更点を確…
詳しくみる所轄税務署とは?年末調整との関わりから解説!
税務署といえば、脱税を摘発する“マルサ(国税局査察部)”を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、実際にマルサが関わる税務調査は、1%程度といわれています。一般的に税務署は、個人事業主の年1回の確定申告、会社の経理担当者の法人税や消費税…
詳しくみる育休中の年末調整はどうする?申請書類や各種控除について解説
育休中や産休中で給料が支払われていない場合でも、年末調整はきちんと受けることが大切です。要件を満たしていれば対象となるため、申請方法にしたがって必要書類を提出することで、配偶者控除、配偶者特別控除、保険料控除を受けることができます。ここでは…
詳しくみる年末調整での年税額の計算方法を紹介!算出所得税額の速算表の見方も
年末調整では、最終的に計算した所得税の金額と月々の給与から源泉徴収された税額を精算します。年税額とはその年の給与に対して算出した所得税額のことであり、年末調整で年税額を計算する際には、算出所得税額の速算表を使うと便利です。 年末調整での業務…
詳しくみる源泉徴収税額表の甲欄・乙欄・丙欄とは?年末調整の基礎知識
年末調整では、会社が従業員に毎月支払う給与から源泉徴収してきた所得などを、年末に精算して過不足を調整します。その源泉徴収する税額を決定するのが、国税庁の「給与所得の源泉徴収税額表」です。源泉徴収税額表には、甲欄、乙欄、丙欄という記載欄があり…
詳しくみる