• 更新日 : 2023年5月24日

社会保険の適用拡大とは?パート・アルバイトの加入条件も解説

社会保険の適用拡大とは?パート・アルバイトの加入条件も解説

パート・アルバイトなど短時間で働く労働者であっても、労働時間などの要件を満たす場合には健康保険と厚生年金保険への加入義務が生じます。

今回は、パート・アルバイトなどの短時間で働く労働者が社会保険加入の対象となる条件や、2022年10月に法改正があった短時間労働者を対象とした社会保険適用拡大の詳細について解説します。

2022年10月からはじまった社会保険の適用拡大とは?

パート・アルバイトなどの短時間労働者に対する社会保険の適用拡大が始まったのは、2016年の10月からです。

この社会保険の適用拡大が2022年10月からと2024年10月からの2段階に分けて改正され、さらに適用される企業の範囲が広がりました。

法改正により一部のパート・アルバイトの社会保険加入が義務化

2016年10月以降、厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上の企業は特定適用事業所と呼ばれ、短時間労働者が被保険者となる条件を満たす従業員の社会保険加入が義務となりました。また、被保険者数が常時500人以下の企業で働く短時間労働者であっても、労使の合意により申出をすることで、健康保険・厚生年金保険の被保険者となることができます(任意特定適用事業所)。

これまでは厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上を対象としていたため、適用拡大は大企業にのみ対応が必要となるイメージがあったでしょう。
しかし、法改正によって、2022年10月からは被保険者数が常時101人以上の事業所、2024年10月からは被保険者数が常時51人以上の事業所へと対象となる企業の範囲が広がったため、今後は中小企業においても適用拡大への対応が必要となるケースが増えることが予想されます。

段階的に適用対象態様となる企業の範囲が広がることによって、これまで社会保険に加入する必要がなかったパート・アルバイトの従業員に対しても、所定労働時間数や給与額によっては社会保険加入が義務となります。中小企業の場合は特に、自社がいつから社会保険の適用拡大の対象となるかを確認することが大切です。

従業員数が増加してあらたに適用拡大の対象となった場合にも、パート・アルバイトなどの短時間労働者の従業員の社会保険加入手続きを行わなければなりません。

社会保険の適用拡大の対象となる企業は?

社会保険の適用拡大の対象となる企業の適用範囲は、2022年10月に変更され、さらに2024年10月にも適用範囲が広がることが決まっています。ここでは、それぞれの変更要件について解説します。

2022年10月から:従業員数101人~500人の企業も対象

2022年10月からの適用拡大では、現行の制度から以下の2点が変更となっています。

  1. 特定適用事業所の要件が「被保険者が常時501人以上」から「常時101人以上」に
  2. 雇用期間の要件が「1年以上見込まれること」から「2ヶ月を超えて見込まれること」に

特定適用事業所となる事業所は現行よりも小規模になり、雇用期間の要件は正社員など通常の被保険者と共通の要件に変更されました。

被保険者が常時100人以下の事業所であれば、これまで通り、週の所定労働時間および月の所定労働日数が正社員など常時雇用される従業員の4分の3以上(一般的には週30時間以上)、契約期間が2ヶ月超の両方を満たす場合に、社会保険に加入させればよいということになります。

2024年10月から:従業員数51人~100人の企業

2024年10月の適用拡大では、特定適用事業所の要件が「常時101人以上」から「常時51人以上」へとさらに変更されます。なお、その他の要件については、変更点はありません。

被保険者が常時50人以下の事業所であれば、これまで通り、週の所定労働時間および月の所定労働日数が正社員など常時雇用される従業員の4分の3以上(一般的には週30時間以上)、契約期間が2ヶ月超の両方を満たす場合に、社会保険に加入させればよいということになります。

社会保険の適用拡大の対象者は?

適用拡大の対象となる従業員の要件は以下のとおりです。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 2ヶ月を超える雇用の見込みがある(一般の被保険者と共通)
  • 学生ではない

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

週の所定労働時間が20時間以上

パート・アルバイトの従業員の中でも、週の所定労働時間および月の所定労働日数が正社員など常時雇用される従業員の4分の3以上となる従業員は、これまで同様社会保険の加入が義務であることに変わりはありません。
本記事では、従来から加入義務があるパート・アルバイトの従業員と区別するために、適用拡大の対象者となるパート・アルバイトの従業員を「短時間労働者」と表記しています。

「週の所定労働時間が20時間以上」というのは、就業規則や雇用契約書で定められた時間数でカウントします。判断のポイントは、短時間労働者の通常であれば働かなければならない1週間の時間数が20時間以上であるかどうかです。業務が忙しい時期に一時的に残業が多くなって、週に20時間以上労働したケースでは対象とはなりません。

月額賃金が8.8万円以上

「月額賃金が8.8万円以上」というのは、日給や時給を1ヶ月の賃金額に換算した金額で判断します。
ただし、賞与のように1ヶ月を超える期間で算定された賃金や結婚手当のような一時的な賃金、時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金、精皆勤手当・通勤手当・家族手当などのような通常の労働日や労働時間に対する賃金に該当しないものは含みません。

2ヶ月を超える雇用の見込みがある(一般の被保険者と共通)

「2ヶ月を超える雇用の見込みがある」というのは、正社員などのような通常の被保険者と同じ要件であることを意味します。「2月超の期間を定めて雇用する場合」や「2月以内の雇用契約であったとしても更新されることが見込まれる場合」には、「2ヶ月を超える雇用の見込みがある」ことになります。

雇入れ当初の雇用契約書の雇用期間が2月以内であったとしても、以下の要件のいずれかに該当する場合には、2月以内の雇用契約が更新されることが見込まれます。したがって、雇用したときから社会保険に加入させる必要があります。

  • 就業規則、雇用契約書などに雇用契約を「更新する」または「更新する場合がある」などと明示がある
  • 同一の事業所で同様の雇用契約に基づき雇用されている労働者が、最初の雇用契約の期間を超えて更新された実績がある

ただし、最初に契約した2月以内の雇用契約期間を超えて雇用しないことを労使で合意している場合には、「2ヶ月を超える雇用の見込みがある」とはいえないため、社会保険に加入する手続きをしなくても問題ありません。

学生ではない

大学、高等学校、専修学校、各種学校などの学生は、原則として適用拡大の対象者にはなりません。
ただし、卒業前に就職して卒業後引続き勤務する予定の学生(卒業見込証明書を有する)、休学中の学生、大学や高校の夜間の学生は、適用拡大の対象になりますので注意しましょう。

社会保険の適用拡大によるメリット・デメリットは?

企業としては社会保険の適用拡大のメリットとデメリットをしっかりと説明し、従業員の理解を得ることが大切です。

従業員が社会保険に加入するメリットには、以下のことが考えられます。

  • 厚生年金保険に加入することで、将来受け取る年金額が増加する
  • 厚生年金保険加入中の病気やケガにより不幸にも障害が残ってしまった場合、障害等級などの条件を満たすことで、障害厚生年金や一時金として障害手当金が支給される
  • 厚生年金保険加入中に万が一亡くなった場合、配偶者などが遺族厚生年金を受給できる
  • ケガや病気、出産により働けない場合、健康保険の傷病手当金や出産手当金の制度を利用できる
  • 企業が健康保険や厚生年金保険の保険料を半分負担するため、国民健康保険や国民年金に加入するよりも保険料が安くなることがある

企業にも人手不足の解消や有能な人材の確保の点でメリットがあります。

  • 従業員が社会保険の130万円の扶養の範囲などを気にせず働くことができるようになるため、労働時間の延長なども可能になる
  • 健康保険や厚生年金保険に加入して働きたいと考える従業員のニーズに応えることは、採用の場面でも有利になる
  • 福利厚生の充実により離職防止、定着率向上が見込める

一方、給与から社会保険料が控除されるため、従業員の給与の手取り額が減少するデメリットがあります。従業員への説明が不十分だと労使間のトラブルに発展することもあるので注意しましょう。

社会保険の適用拡大にともない企業が対応すべきことは?

特に対象となる短時間労働者が多い企業の場合、手続きに手間がかかることや社会保険料の負担増加などの問題点が生じます。社会保険の適用拡大にともない発生する、企業が対応すべきポイントについて解説します。

会社の方針を決定する

最初に自社が特定適用事業所にいつから該当するのかをしっかりと確認し、短時間労働者の組織上の役割や位置付けなど、会社の方針を決定します。事前に準備できることを整理し、担当する部署や担当者の決定、対象となる従業員との面談や説明会の実施など、企業としてやるべきことをスケジュール化して進めていくのがよいでしょう。

また、社会保険に加入することによって従業員の社会保険料の負担が増加することから、「労働時間を増やして給与の手取り額アップを図りたい」「社会保険に加入すると手取り額が減少するため、社会保険に加入しないように労働時間を減らしたい」と、従業員の考えも二極化することが考えられます。
場合によっては、現状の短時間労働者の労働契約の内容を見直しし、労働時間の延長または短縮などの契約変更が必要となることもあります。

適用拡大を契機に短時間労働者に対して正社員へのキャリアアップにつながる提案も可能となるため、適用拡大への取り組みは、従業員の定着率の向上や有能な人材の確保にもつながります。短時間労働者が安心して働くことができる職場環境をつくるためには、会社の方針を明確化し、その方針に合わせて準備を進めていくことが重要です。

社会保険の適用対象者を確認する

適用拡大の対象となる従業員の要件を確認し、適用対象者の洗い出しをする必要があります。対象者の洗い出しには、社会保険の被保険者となっていない従業員の労働条件を確認し、対象者リスト化するのがよいでしょう。

社会保険の適用拡大後の保険料を計算する

パート・アルバイトが多い企業の場合、社会保険の適用拡大により、企業の社会保険料の負担が増加します。
企業としては社会保険料の増加による企業の資金繰りへの影響にも備えなければなりません。企業が負担する社会保険料をあらかじめ計算し、資金調達面の準備も怠らないようにしましょう。

【社会保険料を概算で計算する場合】

  • 年間給与額:2,400万円(月10万円のパートが20人 東京都の保険料で計算)
  • 健康保険の保険料率:11.82%(介護保険あり)
  • 厚生年金の保険料:18.3%
  • 社会保険料合計:30.12% (社会保険料は労使折半となるため企業負担は15.06%)
  • 社会保険料概算額:約361万円(給与総額2,400万円×企業負担分15.06%)

※健康保険の保険料率は都道府県ごとに異なります。また、従業員ごとに標準報酬月額によって社会保険料を計算することになるため、正確な計算は企業によって異なります。

被保険者資格取得届を準備する

法施行日以降、新たに適用拡大の対象となる企業は、原則「特定適用事業所該当届」の提出が必要となります。また、労働者が社会保険に加入する際には、企業が「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を作成し、日本年金機構へ提出する必要があります。

特に新たに適用拡大の対象となる事業所では、多数の被保険者資格取得の手続きが同時に発生するため、あらかじめ資格取得届を作成しておきましょう。対象となる従業員の被扶養者がいる場合には「被扶養者(異動)届」の提出も必要となりますので、準備を忘れないようにしましょう。

社会保険の制度を押さえて、短時間労働者が安心して働ける環境づくりを

パート・アルバイトなどの短時間労働者でも安心して働ける環境をつくるうえで、社会保険は必要不可欠な制度です。短時間労働者が社会保険に加入できることは、手続きにかかる手間や保険料といった負担はあるものの、従業員の保障充実につながり、離職率の低下、人手不足の解消など、企業側にメリットをもたらすと考えられます。

社会保険適用拡大の現行の制度(2022年10月から)や今後の予定(2024年10月から)の内容を把握し、余裕を持って準備を進めましょう。

よくある質問

2022年10月に変更された社会保険の適用拡大のポイントは?

特定適用事業所の要件が「被保険者が常時501人以上」から「常時101人以上」へ、雇用期間の要件が「1年以上見込まれる」から「2ヶ月を超えて見込まれる」へ変更されたことがあげられます。詳しくはこちらをご覧ください。

社会保険の適用拡大の対象となる従業員の要件は?

特定適用事業所に勤務し、「週の所定労働時間が20時間以上」「月額賃金が8.8万円以上」「2ヶ月を超える雇用の見込みがある」「学生ではない」の4つのすべてに該当すると社会保険加入が義務となります。詳しくはこちらをご覧ください。


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