- 更新日 : 2024年12月13日
源泉徴収税の納付期限はいつ?所得税・住民税の処理方法や納付方法を解説
給与から天引きされているのは、社会保険料や雇用保険料だけではありません。所得税や住民税などの税金も源泉徴収や特別徴収され、給与から天引きされています。
当記事では、源泉徴収(特別徴収)税について、納付期限や納付手続き、利用可能な特例など、多岐にわたって解説します。正確な税金納付のために、ぜひ参考にしてください。
目次
源泉徴収税とは?
「源泉徴収」とは、給与や報酬を支払う企業や個人事業主が、それらの支払い時に所定の税額を差し引き、給与等が支払われる者に代わって国に納付することを意味します。給与等から天引きされるといえば、分かりやすいでしょう。源泉徴収の対象となる税金は、「所得税」「復興特別所得税」です。給与等から差し引き、企業が代わって納付した所得税と、復興特別所得税が「源泉徴収税」です。なお、源泉徴収を行い、従業員に代わって国に納付する義務を負う者を「源泉徴収義務者」と呼びます。
給与等から天引きされる税金は、所得税等だけではありません。住民税も所得税等と同様に、企業が給与から差し引いたうえで地方自治体に納付しています。この手続きが住民税の「特別徴収」です。
住民税の納付方法には、特別徴収のほかに、課税者本人が直接納付する「普通納付」も存在します。しかし、企業に勤める従業員がこの方法で納税することは原則としてできません。地方税法によって、特別の事情がない限り、給与所得者の住民税は給与支払い者である企業が特別徴収し、納付しなければならないと定められています。正社員だけでなくパートやアルバイトも、特別徴収によって住民税を納付しなければなりません。なお、産休中など、支払うべき給与等がない場合には、普通徴収への切り替えも認められています。
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源泉徴収税の納付期限はいつ?
源泉徴収(特別徴収)された税金は、定められた期限内に納付することが必要です。所得税と住民税に分けて、納付期限の解説を行います。
所得税
源泉徴収された所得税等の納付期限は、原則として給与等が実際に支払われた月の翌月10日です。この期限内に、従業員の給与から徴収した所得税等を国に納付しなければなりません。
源泉徴収した所得税等を納付期限までに納めなかった場合には、ペナルティが科されます。本税の10%に当たる「不納付加算税」が課されるため、期限を守って納付しましょう。なお、一定の条件を満たせば、納付期限の特例を利用できます。利用条件等については、記事後半で詳述します。
住民税
特別徴収により徴収した住民税は、所得税等と同様に給与等の支払い月の翌月10日までに、自治体に対して納付しなければなりません。なお、住民税についても、納付期限の特例が利用できるため、所得税等と併せて記事後半で解説します。
特別徴収した住民税を納付期限までに納めなかった場合には、納付期限の翌日から納付日までの間に「延滞金」が課されることになります。納付期限翌日から1か月を経過すると、延滞金の年率が上がってしまうので、納付期限に遅れた場合には速やかな納付が必要です。また、悪質な未納と判断された場合には、地方税法に基づき10年以下の懲役または200万円以下の罰金、もしくはその双方が科せられる恐れもあります。納付期限を超過する恐れがある場合には、納付先となる自治体に連絡しましょう。
源泉徴収した所得税の納付手続き
源泉徴収税額は、どのように計算されるのでしょうか。納付手続きと併せて解説します。
源泉徴収税の計算方法
源泉徴収税額は、企業が自ら計算し、納付しなければなりません。給与から差し引かれる源泉所得税の計算には、「源泉徴収税額表」を用います。源泉徴収税額表を利用すれば、社会保険料等控除後の金額と、扶養親族の数に応じた源泉徴収税額が算出可能です。
たとえば、社会保険料等控除後の金額が25万円で、扶養親族がひとりであれば、源泉徴収税額は4,920円となります。ただし、扶養控除等申告書を提出していない場合には、税率の高い乙欄が適用されるため、同様のケースでは36,400円が特別徴収税額です。
給与ではなく、給与以外の報酬が支払われる場合には、源泉徴収税額表は使えません。弁護士や税理士などへの報酬や、原稿料などが該当します。この場合には、次の計算式で計算した金額を源泉徴収します。
原則:支払い額×10.21%
一回の支払い額が100万円を超える場合:超えた部分×20.42%
たとえば、支払い額が10万円であった場合には、以下のように計算できます。
支払い額が100万円を超え、200万円であった場合には、次のようになります。
源泉徴収税の納付方法
源泉徴収税は、窓口での現金納付のほか、クレジットカードやインターネットバンキングでの納付も可能です。また、e-Taxを利用したダイレクト納付や、コンビニ納付、スマホアプリ納付も利用できます。
- 現金納付
金融機関や所轄となる税務署の窓口に出向き、納付書によって現金で納付する方法です。手数料はかからず、領収書が発行されます。なお、窓口ではクレジットカードが利用できないため注意してください。
- クレジットカード納付
インターネット上で、クレジットカード支払いの機能を利用します。国税庁長官が指定した納付受託者へ立替払いを委託することによって、源泉徴収税を納付する手続きです。なお、一度で1,000万円以上となる支払いには利用できず、利用には決済手数料がかかります。
- ダイレクト納付
e-Taxを利用した口座振替による源泉徴収税の支払い手続きです。利用にあたっては、事前にe-Taxの利用開始手続きを行ったうえで、専用の届出書を所轄税務署へ提出する必要があります。
- インターネットバンキング
インターネットバンキングやATMなどを利用して、電子納付する方法です。事前にe-Taxの利用開始手続きが必要となります。
- スマホアプリ納付
国税庁長官が指定した納付受託者の運営する専用Webサイトから、利用可能となるPay払いを選択することで納付を委託する方法です。利用可能なPay払いには、「PayPay」「d払い」「au PAY」などがあります。
- コンビニ納付
出力したQRコードや、税務署発行のバーコード付き納付書を利用して、コンビニ店頭で支払う方法です。コンビニ店頭での支払いに、クレジットカードや電子マネーは利用できません。
いずれの方法を選択することも自由なため、確実な納付が望める方法を選択しましょう。
源泉徴収した住民税の納付手続き
特別徴収における住民税の計算方法と、特別徴収された住民税の納付手続きについて解説します。正しく理解し、納付漏れを防いでください。
特別徴収する住民税の計算方法
住民税には、「所得割」「均等割」の2種類が存在します。所得割と均等割の両者を合計した金額が特別徴収すべき税額です。
所得割は、課税所得金額に10%(都道府県民税は4%、市区町村民税については6%)の税率を乗じることで計算可能です。課税所得金額を計算するためには、まず所得金額を計算しなければなりません。所得金額は、収入金額から必要となる経費を差し引いて計算しますが、企業に勤める給与所得者の場合には、経費の代わりとなる「給与所得控除額」を差し引くことで計算可能です。なお、給与所得控除額は一定ではなく、年収に応じて変動します。
計算された所得金額から、所得控除額の合計を控除することで、課税所得金額が算出されます。所得控除には、「基礎控除」や「社会保険料控除」、「配偶者控除」など、15種類が存在し、それらの合計額が所得金額から控除される仕組みです。このようにして計算された課税所得金額に10%を乗じることで、所得割の金額が計算可能です。
均等割は、都道府県と市区町村ごとに、1人当たりの徴収すべき金額が一律で定められています。東京都では、道府県民税が1,000円、市町村民税が3,000円の合計4,000円となっており、2024年からは、1,000円の森林環境税と合わせて、5,000円が均等割として設定されています。
東京都における以下のようなケースで、特別徴収すべき年間の住民税額を計算してみましょう。
年収:600万円
給与所得控除額:164万円(600万円×20%+44万円)
所得控除の合計額:100万円
税額控除なし
600万円-164万円-100万円=336万円(所得金額)
336万円×10%=33万6,000円(所得割額)
33万6,000円+5000円(均等割額)=34万1,000円(年間の住民税額)
上記額を6月から翌年の5月まで、12か月に分けて特別徴収を行います。なお、調整控除等の税額控除が適用される場合には、上記額からさらに控除することが必要です。
参考:
特別徴収した住民税の納付方法
特別徴収によって住民税を納付するには、毎年1月末までに市区町村に対して「給与支払報告書」を提出する必要があります。提出された報告書を基に市区町村が住民税額を決定し、企業に対して「住民税課税決定通知書」を交付します。交付された通知書に基づいて、従業員に対する特別徴収が開始されることになります。
特別徴収した住民税の納付方法には、納付書による現金納付だけでなく、eLTAXや地方税納入サービスなどがあります。
- 納付書による納付
特別徴収税額通知書に同封されている納付書を用いて、銀行等の金融機関やコンビニ店頭などで納付する方法です。クレジットカードや各種決済アプリが利用できる場合もあります。
- eLTAX
eLTAXの地方税共通納税システムを利用して納付する方法です。eLTAXでは、給与支払報告書等必要となる書類を提出することも可能です。
- 地方税納入サービス
銀行が顧客から送付されたデータを基に、特別徴収の手続きを代行するサービスです。事務負担の軽減が可能となります。
原則として、特別徴収による住民税は、口座振替はできません。都合のよい方法を選択し、納付漏れを防ぎましょう。
源泉徴収した税金の納期を年2回とする特例とは?
源泉徴収した所得税等や特別徴収した住民税は、毎月支払う必要があります。しかし、条件を満たせば年2回の支払いとすることも可能です。ここでは、納期の特例について解説します。
給与支給が常時10人未満の会社が対象
納期の特例を利用するためには、源泉徴収税と特別徴収された住民税に共通して、給与を支払う従業員が10人未満であることが必要です。また、所得税等は所轄税務署、住民税は市区町村に承認申請書を提出し、承認を受けることも求められます。これらの条件を満たすことで、毎月ではなく年2回半年ごとの納付が可能となります。なお、従業員が10人以上となった場合には、特定適用の条件を満たさなくなるため、その旨を記載した届書を提出しなければなりません。
所得税の納期の特例の納付期限
所得税における納期の特例について承認を受けた場合には、納期が以下のように変更されます。
- 1月から6月分:7月10日が納期限
- 7月から12月分:翌年1月20日が納期限
特例の利用が可能なのは、従業員に支払うことになる給与や退職金、弁護士等への報酬にかかる源泉徴収税に限られます。株主への配当金などにかかる源泉徴収税については、原則通りの納期による納付が必要です。
住民税の納期の特例の納付期限
住民税における納期の特例について承認を受けた場合には、納期が以下のように変更となります。
- 6月から11月分:12月10日が納期限
- 12月から5月分:翌年6月10日が納期限
所得税と期限が異なるのは、住民税の特別徴収が6月から開始されるためです。なお、年度の途中からでも特例の申請は可能ですが、承認を受けた前月までの分については、各月の納期限までに納付しなければなりません。
源泉徴収や特別徴収は企業の大切な仕事
所得税等の源泉徴収や住民税の特別徴収を行うことは、企業の義務です。しかし、制度が複雑であり、正しく理解しなければ、税金の過納や未納につながってしまいます。未納に対してはペナルティも用意されているため、制度の正しい理解が欠かせません。当記事の解説を参考にして正しい知識を身につけ、適切な納付を行ってください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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