- 作成日 : 2022年1月14日
最低賃金とは?勤め先が違反していた場合の対応について
街中で求人広告を見かけることがあります。パート、アルバイトの場合、労働条件のうち、賃金は時給で提示されるのが普通ですが、意外と最低賃金法に違反しているケースが少なくありません。確認方法は?どこに通報するのか?最低賃金を下回る場合の罰則は?適用除外は?最低賃金の対象とならない賃金はあるのか?etc.今回は、最低賃金に関するさまざまな疑問について詳しく解説していきます。
目次
最低賃金制度とは?
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づいて国が賃金の最低限度(時間額)を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。原則として事業場で働く常用・臨時・パート・アルバイトなど、すべての労働者とその使用者に適用されます。
最低賃金を下回ることは法律違反
最低賃金そのものを使用者と労働者の双方が知らず、労働契約で最低賃金未満の賃金を支払うことで合意した場合でも、その部分については無効となります。この場合、無効となった部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(最低賃金法4条2項)。
この場合、使用者は最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。もし、使用者が差額を支払わなかった場合は、罰則の適用を受けることになりますが、最低賃金の種類によって扱いが異なります。
最低賃金には2種類あり、各都道府県ごとに「地域別最低賃金」と、「特定(産業別)最低賃金」があります。
地域別最低賃金とは、一定地域ごとの最低賃金のことで、地域における労働者の生計費、賃金、通常の事業の賃金支払い能力を考慮して定められなければならないことになっています(最低賃金法9条2項)。
使用者が地域別最低賃金の定めに違反し、差額を支払わなかった場合は、罰則として50万円以下の罰金に処せられます(最低賃金法40条)。
もうひとつの特定(産業別)最低賃金は、企業内の賃金水準を設定する際の労使の取組を補完するものと位置付けられ、地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について設定されています(最低賃金法15条1項)。
特定(産業別)最低賃金の場合、定めに違反して差額を支払わなかったときは、賃金の一部が未払いとされ、労働基準法で定める「賃金全額払い原則」違反となります(労働基準法24条1項)。罰則としては、最低賃金法ではなく、労働基準法違反として30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法120条1項1号)。
参考:
最低賃金法|e-Gov法令検索
労働基準法|e-Gov法令検索
最低賃金の確認方法
自分に支払われている賃金が最低賃金法違反となっているかどうか、どのように確認するのでしょうか。まず地域別最低賃金は、都道府県単位で通常、毎年10月1日に改定されます。厚生労働省の地域別最低賃金の全国一覧で確認することができます。
特定(産業別)最低賃金についても、厚生労働省の全国一覧で確認することができます。
時間給、日給など、賃金の支払われ方で確認方法は異なります。それぞれについてみていきましょう。
- 時給制の場合
- 日給制の場合
- 月給制の場合
- 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
- 上記の支払い方法の組み合わせの場合
時給額が、最低賃金額(時間額)以上であれば適法です。
最低賃金は時間単価で設定されているため、時間単価に換算する必要があります。日給を勤務する事業場の1日の所定労働時間で割って時間単価としたものが、最低賃金額(時間額)以上であれば適法です。
日給の場合と同様、時間単価に換算します。月給を1カ月の平均所定労働時間で割り、最低賃金額(時間額)以上であれば適法です。
この場合も時間単価に換算することになります。出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、賃金計算期間に労働した総労働時間数で割った金額が、最低賃金額(時間額)以上であれば適法です。
基本給が日給制で、諸手当(職務手当など)が月給制などの場合が考えられます。この場合は、基本給は日給制、手当は月給制として上記の方法で時間単価に換算したものが、最低賃金額(時間額)以上であれば適法です。
参考までに、月給制の場合の換算方法について具体例を紹介しておきましょう。
年間所定労働日数:250日
1日の所定労働時間:8時間
基本給:120,000円
職務手当:20,000円
支給総額:140,000円
支給総額を時間単価に換算します。
東京都の最低賃金(令和3年度)は、1,041円です。したがって、上記条件では、最低賃金法違反ということになります。
最低賃金についての注意点
最低賃金の確認方法について説明してきましたが、いくつか注意すべき点があります。ひとつは、最低賃金の適用除外となるケースもあること。これは、最低賃金の減額が認められる特例として定められています。また、すべての賃金が最低賃金の対象ではなく、実際に支払われた賃金から除外される場合もあります。
最低賃金法の適用除外ケースもある
一般の労働者と労働能力などの点から、最低賃金を一律に適用することが必ずしも適当ではない場合について、都道府県知事の許可を条件として適用除外とすることが認められています(最低賃金法8条)。
具体的には、次の労働者については、最低賃金額から最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮し、厚生労働省令で定める率を乗じて減額した額を適用するとしています。
- 精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者
- 試用期間中の者
- 職業能力開発促進法に基づく職業訓練を受ける者のうち一定の者
- 所定労働時間が特に短い者
- 軽易な業務に従事する者
- 断続的労働に従事する者
いずれも適用除外とする趣旨は、これらの労働者に一般の労働者と同じ最低賃金を適用すると事業主が雇用しなくなり、むしろ雇用の機会を奪うことになるからというものです。それぞれについて、詳しく解説していきます。
1.精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者
対象となるのは、あくまでも精神または身体の障害が原因となっている労働者だけであり、不器用等によって労働能力が低い場合は含まれません。
また、適用除外の許可が与えられるのは、障害が業務の遂行に直接支障を与えることが明白であることに加え、支障の程度が著しい場合に限られています。
2.試用期間中の者
試用期間とは、本採用前に適性、能力等を見るための期間を意味します。したがって、一定の試用期間の後、本採用が予定されていなければなりません。試用期間中は適性、能力等を審査するための研修等が中心となり、一般の労働力としては期待していないというのが最低賃金の適用除外の理由となっています。
なお、就業規則や労働契約に試用期間があることが定められていなければ、適用除外の許可を与えられないことになります。
3.職業能力開発促進法に基づく職業訓練を受ける者のうち一定の者
試用期間と同様、職業訓練を受けている間は、十分な労働力として期待されないのが適用除外の理由です。職業訓練中でも、年間を通じて一日平均の生産活動に従事する時間が、所定労働時間の3分の2以上の場合は、許可は与えられません。
4.所定労働時間が特に短い者
賃金額が日、週、月によって定められた場合にのみ、適用除外の対象となります。したがって、パートタイム労働者の場合も、時間によって定められている場合は、一般の労働者に比べて所定労働時間が特に短くても対象とはならないことになります。
「所定労働時間が特に短い」とは、その事業場の一般労働者の所定労働時間の3分の2程度以下を意味し、これに該当する場合でなければ許可されません。
5.軽易な業務に従事する者
作業自体が軽易である場合に適用除外するという趣旨ではなく、その事業場で最低賃金の適用を受ける最も軽易な業務に従事する労働者と比較しても、さらに軽易である場合に限られています。
6.断続的労働に従事する者
宿日直のように、作業が常態として間欠的であるため、使用者の指揮監督下にありながら待機時間(手待時間)が多く、実際の作業時間が少ない労働者を意味します。
参考:
減額措置及び適用除外について|厚生労働省
最低賃金法|e-Gov法令検索
最低賃金の対象とならない賃金もある
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金とされており、いわゆる基本給と諸手当です。具体的には、次の賃金は最低賃金の対象とはならず、除外されることになります。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
前述の【東京都のA事業場で働くBさんのケース】は、次のような事例でした。
1日の所定労働時間:8時間
基本給:120,000円
職務手当:20,000円
支給総額:140,000円
仮に基本給と職務手当以外に以下のようなものが支払われていたとします。
時間外手当:35,000円
支給総額:205,000円
この場合、結婚祝金と時間外手当は対象とはならないため、計算自体は前述の計算式と同じとなり、最低賃金法違反であることは変わりません。
勤め先がもし最低賃金制度に違反していたら?
ここまで最低賃金の確認方法について解説してきました。実際に賃金が最低賃金法違反であった場合、使用者は最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。しかし、頑なに支払ってくれなかった場合、どのような対応をすればよいのでしょうか。
労働組合がない場合の個別労働紛争の解決手段はいくつかありますが、ここでは労働基準監督署に対する通報(法的には「申告」といいます)による、効果についてご紹介します。
すでに述べたように最低賃金法違反には罰則がありますが、通報を受けた労働基準監督署では、通常はまず、行政指導である是正勧告をします。
最低賃金法違反の状態が悪質ではなく、速やかに行政指導にしたがって最低賃金額との差額が支払われれば、罰則が適用されることはないでしょう。しかし、悪質性が認められ、指導にもしたがわない場合は、罰則だけでなく、検察庁に書類送検されることもあります。
通報するに際し、まずはこうした流れを理解しておきましょう。労働基準監督署から使用者に対する是正勧告では、こうした事後の処分についても説明がなされると思われます。その意味で、労働基準監督署への通報は相当程度、強い力を持っていると考えてよいでしょう。
ちなみに、労働基準監督署には守秘義務があるため、素性を明かしたうえで給与明細等の証拠資料を提供しても使用者に知られることはありません。
最低賃金以下の場合には適切に対処しよう!
最低賃金制度について詳しく解説してきました。違反の場合は罰則があること、最低賃金の確認方法、また、適用除外や対象とならない賃金等の注意点についてもご理解いただけたのではないでしょうか。
地域別最低賃金は、毎年10月に改定されます。まずは、勤務先の都道府県に適用される最低賃金がいくらになっているのか、関心を持つことが大切です。
よくある質問
最低賃金制度とはなんですか?
最低賃金法に基づいて国が賃金の最低限度を定め、使用者はその最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。詳しくはこちらをご覧ください。
最低賃金の対象とならない賃金はありますか?
毎月支払われる基本的な賃金である基本給と諸手当以外は対象となりません。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
役員報酬とは?給与との違いや相場・決め方などを解説
役員報酬とは、取締役や監査役といった役員に支払う報酬を指します。役員報酬は従業員に支払う給与とは異なり、一定のルールを厳守しなければ損金に計上することはできません。この記事では、役員報酬と給与の違い、相場や決め方などをわかりやすく解説してい…
詳しくみる源泉徴収票の発行はいつ?作成方法やタイミングを解説!
源泉徴収票は、従業員の1年間の収入や納税額、扶養控除や社会保険料控除など各種控除額が記載された書類であり、作成と交付が企業に義務付けられています。 従業員が転職するときや確定申告をするときなどで源泉徴収票が必要となり、ときには再発行を依頼さ…
詳しくみる企業年金は3種類!厚生年金基金・確定給付企業年金・確定拠出年金の違いと特徴を解説
退職時または60歳以降に受け取ることができる給付に企業年金があります。企業年金は、3階建ての年金の3階部分(1階部分の「基礎年金」、2階部分の「被用者年金」)を担っている年金制度で、3種類の制度が存在します。 今回は、企業年金の種類とそれぞ…
詳しくみる給与計算代行・アウトソーシングの基本!代行業務の内容・相場やメリット・デメリットを解説
企業の毎月の給与計算、年末調整などの業務の委託を受けて処理するサービスを、給与計算代行・給与計算アウトソーシングといいます。収益に直結しない、こうした間接業務に人員を割く余裕がないという理由で、委託を検討されている方も多いのではないでしょう…
詳しくみる所得税で認められる寄付金控除の範囲とは?
納税者である個人が、国や地方公共団体などに対して寄付をした場合、つまり特定寄付金を支出した場合は、所得税の所得控除(寄付金控除)を受けることができます。 また指定寄付金のうち、政治活動関連への寄付金や、認定NPO法人、公益社団法人などへの寄…
詳しくみる給与明細の作成方法を徹底解説!
給与明細を作成するにあたって必要な給与の計算は、まず勤務時間や残業時間を集計し基本給に残業手当や各種手当を加えます。そこから社会保険料や源泉所得税、住民税を控除し差引支給額を算出します。給与計算ソフトがあると効率的に作成できるでしょう。今回…
詳しくみる