• 更新日 : 2024年3月22日

内定取り消しとは?認められるケースや違法性、企業の対応を解説

求職者の内定取り消しを行った場合、企業は損害賠償を請求されるリスクがあります。新卒・中途採用に関わらず、内定を出した段階で労働契約が成立するため、内定取り消しは解雇に相当し、原則として認められないためです。

しかし、どうしても内定取り消しを行いたい事情もあるでしょう。本記事では、内定取り消しになるケースや、違法となる事例などについて解説します。

内定取り消しとは?

企業が求職者に対して内定を出すと「解約権留保付」の労働契約が成立します。内定取り消しとは、企業が「解約権」を行使することです。しかし、内定取り消しは解雇にあたるため、容易には行えません。ここでは、内定取り消しがどのようなものかを解説します。

内定とは?

内定とは、企業が応募者に採用の意思を伝え、入社について合意している状況です。一般には内定が出された時点で、労働契約が成立します。

ただし、内定時の労働契約は「始期付・解約権留保付労働契約」です。「始期付」とは、企業と応募者(内定者)との間で、労働契約について合意されていても、労働の始期は入社日だという意味です。

「解約権留保付」とは、場合によって、労働契約を解約する権利を有することです。内定が決まると企業は内定通知書を出しますが、内定通知書には通常、内定取消事由が記載されています。つまり「契約はするが、一定の場合には内定取り消し(解約)があり得ます」という意味です。

内定取り消しの意味は?

内定取り消しとは、企業側が「一度は成立した労働契約を解約すること)です。つまり、始期付解約権留保付労働契約の解約権を行使することだといえます。

内定通知書に記載された内定取消事由に該当した場合などに、内定取り消しが可能です。

内定の取り消しが認められるケース

内定通知書などに記載された取消事由に該当した場合は、内定取り消しが可能です。ただし、内定取り消しは解雇と同様であるため、客観的に合理的、かつ社会通念上相当と認められる事由でなければ認められません。

ここでは、内定取り消しが認められる一般的なケースを確認しておきましょう。

学校を卒業できなかった場合

内定者が新卒者の場合、高校や大学等を卒業できることを想定して、内定を出します。そのため、単位が足りなかったなど、何らかの理由で学校を卒業できなかった場合、企業は内定取り消しを行えます。

必要な免許・資格が取得できなかった場合

免許や資格が必要な業務の場合、内定者が免許を取得できなかったときなどは、内定取り消しができます。

免許や資格がないと実施できない仕事では、企業は応募者が免許等を取得する前提で内定を出しているため、前提が崩れた以上、内定取り消しが可能です。

履歴書の内容に嘘があった場合

履歴書の内容に嘘があったときは、内定取り消しが認められることがあります。ただし、内定取り消しができるのは、経歴詐称など嘘の内容が重大な場合に限られる点に注意が必要です。したがって、嘘の内容が軽微な場合は、内定取り消しが無効とされることもあります。

健康上の問題により勤務に重大な支障がでる場合

仕事に支障があるような病気やけがなど、健康状態に大きな問題が生じた場合も、内定を取り消すことが可能です。ただし、内定取り消しが認められるのは、通常の勤務ができないほど健康状態が悪い場合に限られます。

病気やけがの程度が軽く、業務に大きな支障がない場合や、別の業務ならできる場合などは、内定取り消しが認められないこともあるでしょう。また内定者の健康状態について、従前から企業側が承知していた場合も同様です。

内定後に刑事事件を起こした場合

内定後に刑事事件を起こした場合も、内定取り消しが可能です。ただし事件の内容によっては、内定取り消しが違法になる可能性はあります。

経営難により整理解雇の要件を満たした場合

経営上の事由により整理解雇の必要性があり、整理解雇の4要件を満たしているときも、内定取り消しが可能です。

整理解雇の4要件とは、以下の4つです。

  • 経営上の事由により、人員削減が必要であること
  • 解雇を回避する努力をつくしたこと
  • 解雇対象者を合理的に選定したこと
  • 充分な説明や話し合いをしたこと

内定取り消しは解雇にあたるため、経営難で内定を取り消す場合は、上記の整理解雇の4要件の充足が不可欠です。

内定取り消しが不当・違法になるケース

内定取消事由に該当しても、内容が極めて軽微な場合などは、内定取り消しが不当とされることがあります。ここでは、 内定取り消しが不当・違法になるケースについて解説します。

健康上の事由等が軽微な場合

内定後に、内定者の健康状態が悪化した場合でも、悪化の程度が軽く、就労可能な状況の場合は、内定取り消しが認められません。

また、履歴書に嘘が書かれていたケースでも、その嘘が軽微で内定者との信頼関係が損なわれない程度の場合は、内定取り消しが不当とされる可能性があります。

業務と関係がない理由の場合

内定後に企業が内定者を調査した結果、内定時に把握できなかった事項が判明したときでも、それが業務と関係がない場合は、不当な内定取り消しになることがあります。

なお、内定者の国籍や出身地などは本人の仕事の能力と関係がないため、内定取消理由として認められません。

内定取り消しをした企業のリスク

内定取り消しは取消対象者に大きな被害を与える行為です。そのため不当・違法な内定取り消しをすると、訴訟や企業名公表のリスクがあります。ここでは、内定取り消しをした場合に、企業が被る可能性のあるリスクをご紹介します。

訴訟を起こされることがある

内定取り消しをした場合、求職者に内定取消無効の訴訟を起こされる可能性があります。裁判の結果によっては、取消対象者の雇入れや賃金の遡及支払いなどの義務が発生するでしょう。また、慰謝料を請求されることもあります。

厚生労働省のサイトに公表されることがある

不当な内定取り消しをした場合、厚生労働省により企業名を公表されることがあります。企業名が公表されるのは、以下のような場合です。

  • 2年以上連続して、内定取消が行われた
  • 同一年度内に、10名以上の者に対して内定取消が行われた
  • 事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないときに、内定取消が行われた
  • 内定が取り消された新規学卒者に対し、内定取消事由について充分な説明がなかった、または再就職先についての支援がなかった等

企業名が公表されると企業イメージが悪化し、その後の採用等に悪影響が及ぶことがあります。

参考:新規学校卒業者の採用内定取消しの防止について|厚生労働省

内定取り消しを行う手順や注意点

さまざまな理由により、内定を取り消さざるを得ない状況になることもあるでしょう。そのような場合は、内定取り消しの対象者に対し、取消事由の説明など、誠意ある対応をしなければなりません。ここでは、内定取り消しを行う手順や注意点について解説します。

内定を取り消す手順

まず、内定取消事由に該当しているかをよく精査します。取消事由が客観的に合理的なものか、本当に内定を取り消さざるを得ない状況か、慎重に検討する必要があります。

検討後、内定を取り消すことが決定したら、可能な限り早く、取消対象者に伝えなければなりません。早期に連絡を受ければ、内定を取り消されても次の就職活動ができるためです。

連絡方法は、対面のほか、文書の郵送やメールでも可能ですが、どの方法の場合でも、取消事由をよく説明する必要があります。内定取り消しにより取消対象者は甚大な損害を被るため、金銭などによる補償も検討し、誠意を尽くした対応を行わなくてはなりません。

内定を取り消すときの注意点

内定取り消しをする場合、一方的な取り消しにならないよう、取消対象者の受けた被害に見合う補償内容を提示し、取消事由をていねいに説明することが必要です。

また対面、郵送、電子メールなど、どの方法をとる場合でも「いつ、どのような説明をしたか」というログを残しておきます。また説明後、内定取り消しについて合意が得られた場合は、合意書を作成しておくとよいでしょう。

なお、内定取り消しは解雇と同様の扱いになるため、少なくとも就業開始予定日の30日前には通知する必要があります。

内定取り消しに関する訴訟・事例

内定取り消しをめぐる数多くの裁判のうち、代表的なものを紹介します。

大日本印刷事件(1979.7.20最二小判)

採用内定を受けたため就職活動を中止していた学生が、就職直前に内定を取り消され、内定取消の無効を訴えた事件です。

内定を出した企業は、内定当時から、内定者に陰気な印象があるため従業員としての適確性に不安を持っていましたが、何もしないまま時間が経過し、雇入れ直前になってから内定を取り消しました。

取消通知を受けた学生は、内定取り消しは解雇権の濫用にあたるとして、内定取り消しの無効を訴えました。

その結果、裁判所は、陰気な印象は内定時からわかっていたはずで、その時点で調査すれば早期に適確性を判断できたはずだとしました。

そして「内定取り消しができるのは、内定当時知ることができないか、知ることが期待できないような事実であって、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できるものに限られる」として、内定取り消しを無効と判断しました。

インフォミックス事件(1997.10.31東京地判)

採用内定を出した会社が、その後の経営悪化により、内定者に内定辞退を勧告をしました。しかし内定者は前職に退職届を出してしまい元に戻れない状況だったため、内定取り消しを無効として地位確認の仮処分申請をしました。

裁判所は、内定者はまだ就業を開始していないものの、既に前職には戻れない状況であったため、経営悪化を理由とする内定取り消しをするには整理解雇の4要件を満たしていなければならないとしました。

その結果、整理解雇の4要件のうち3つは充足しているが「手続きの妥当性」が満たされていないとして、内定取り消しを無効と判断しました。

内定取り消しには慎重さと誠意が大切

内定取り消しは解雇に相当するため、客観的に合理的な事由がなければ行えません。不当な内定取り消しは、訴訟や企業名公表などの不利益につながります。

たとえ内定取り消しを行わざるを得ない状況のときでも、取消事由に該当しているかよく確認する等、慎重に進める必要があります。取消対象者には可能な限り早期に通知し、取消事由の説明や補償の提示など、誠意を尽くした対応をすることが大切です。


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