- 更新日 : 2024年8月29日
雇用保険と社会保険の違いとは?どちらかのみ加入でOK?
会社員や公務員の多くは、雇用保険や社会保険に加入しています。雇用保険は失業時などに必要な給付を受けられる制度で、社会保険は健康保険と厚生年金保険が含まれる保険制度の総称です。雇用保険のみ加入するのと、セットで同時加入するのではどっちがいいのでしょうか。この記事では雇用保険と社会保険の違いと加入条件などを解説します。
目次
雇用保険とは?
雇用保険とは、失業時や傷病等により就労の継続が困難になった際に、必要な給付を受けることができる制度です。給付によって労働者の生活および雇用の安定を図り、早期の再就職を支援するための雇用に関する総合的な制度となっています。
雇用保険は政府が管掌する強制保険制度なので、事業主は雇用保険法に基づく適用基準を満たした労働者を雇用した場合は、事業主ならびに労働者の意思にかかわらず、所管の公共職業安定所(ハローワーク)に届け出なければなりません。
雇用保険は労働者災害補償保険(労災保険)と合わせて労働保険と呼ばれています。労働保険は雇用されている労働者を保護するための保険制度なので、事業主は原則加入することができません。
なお、雇用保険の保険料は、給与額または賞与額に雇用保険料率を乗じることで求めることが可能です。雇用保険料の対象となる賃金には通勤手当や残業手当、役職手当などの各種手当が含まれるため注意しましょう。一方、出張旅費や見舞金、退職金など一時的に支給されるものは含まれません。
保険料率と労使負担割合は業種ごとに異なり、厚生労働省から「雇用保険料率表」として毎年提示されています。
【令和4年4月1日~令和4年9月30日】
(1) 労働者負担 | (2) 事業主負担 | (1)+(2) 雇用保険料率 | |
---|---|---|---|
一般の事業 | 3/1,000 | 6.5/1,000 | 9.5/1,000 |
農林水産・ 清酒製造の事業 | 4/1,000 | 7.5/1,000 | 11.5/1,000 |
建設の事業 | 4/1,000 | 8.5/1,000 | 12.5/1,000 |
【令和4年10月1日~令和5年3月31日】
(1) 労働者負担 | (2) 事業主負担 | (1)+(2) 雇用保険料率 | |
---|---|---|---|
一般の事業 | 5/1,000 | 8.5/1,000 | 13.5/1,000 |
農林水産・ 清酒製造の事業 | 6/1,000 | 9.5/1,000 | 15.5/1,000 |
建設の事業 | 6/1,000 | 10.5/1,000 | 16.5/1,000 |
令和4年度は例外的に年度の途中で保険料率が変更となるため注意しましょう。
参考:雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか! |厚生労働省
参考:雇用保険料率について|厚生労働省
社会保険とは?
社会保険とは、厚生年金保険と健康保険、介護保険を含んだ保険制度の総称です。前章で紹介した雇用保険と労災保険からなる労働保険を含めて広義の社会保険と呼ぶこともあります。
※当記事では、特段の断りがない限り厚生年金保険・健康保険・介護保険のことを社会保険と呼称します。
広義の社会保険 | 狭義の社会保険 | 年金保険 |
健康保険 | ||
介護保険 | ||
労働保険 | 雇用保険 | |
労災保険 |
日本は国民皆保険制度を採用しているため、全国民が健康保険制度への加入が義務付けられています。会社員や公務員などは健康保険組合などが運営する健康保険へ、無職の人や個人事業主、自営業者は国が運営する国民健康保険に加入するのが一般的です。
年金についても、国民皆年金制度に従い加入が義務付けられます。会社や組織などに雇われている被用者は厚生年金保険へ、それ以外の人は国民年金への加入が一般的です。
なお、社会保険には扶養制度があるため、被保険者と同一生計で収入が一定以下の親族は扶養加入できます。被保険者が加入している社会保険が一体で保険料を負担するため、被扶養者には保険料がかかりません。
一方、国民年金ならびに国民健康保険には「扶養」という考え方は無く、被保険者がそれぞれ保険料を負担しなければなりません。社会保険の保険料は労使折半です。毎年4月から6月までの平均報酬から算定される標準報酬月額に保険料率を乗じた金額が保険料となります。賞与については、税控除前の総支給額から千円未満を切り捨てた標準賞与額が算定基礎です。
健康保険の保険料率は毎年改定され、都道府県ごとに全国健康保険協会または健康保険組合から提示されます。厚生年金保険の保険料率は全国一律18.3%です。
参考:我が国の医療保険について|厚生労働省
参考:公的年金制度はどのような仕組みなの?|厚生労働省
参考:被扶養者とは?|こんな時に健保|全国健康保険協会
参考:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|日本年金機構
参考:令和4年度保険料額表(令和4年3月分から)|協会けんぽ|全国健康保険協会
参考:厚生年金保険料額表|日本年金機構
雇用保険と社会保険の違い – 加入条件から見たとき
ここからは、雇用保険と社会保険の加入条件を紹介し、その違いを解説していきます。
まず、雇用保険と労災保険からなる労働保険の加入条件です。労災保険は農林水産事業等の一部の例外を除き、労働者を1名でも雇用したら事業主ならびに労働者の意思に関わらず必ず加入しなければなりません。雇用保険は労災保険加入者のうち、週の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある労働者は加入が義務付けられます。ここで言う労働者とは、雇用形態等を問わず事業主に使用されているすべての従業員を指し、パートやアルバイト等も含まれるため注意しましょう。
続いて、社会保険の加入条件です。まず、企業は社会保険への加入が義務付けられた強制適用事業所と、任意加入の任意適用事業所に分けられます。下記の条件に該当する企業は、社会保険への加入が義務付けられるため注意が必要です。
【強制適用事業所の条件】
- 事業主のみの場合も含む、常時1名以上の従業員を使用する法人ならびに国・地方公共団体
- 常時5名以上の従業員を使用する、農林水産業やサービス業等の一部の事業を除いた個人事業所
上記の条件により、たとえ従業員が事業主1名であっても、法人成りしているしている場合は社会保険への加入が義務付けられるため注意しましょう。強制適用を受けない事業所の場合、従業員の半数以上の合意に基づき厚生労働大臣の認可を受けることで、任意適用事業として社会保険に加入できます。その際、厚生年金保険と健康保険のどちらか一方のみに加入することも可能です。
さらに、従業員が常時501名以上の事業所は特定適用事業所として、パートやアルバイトなどの短時間労働者も加入が義務付けられます。従業員が500名以下でも、労使合意を行うことで任意特定適用事業所として、下記の条件を満たした短時間労働者を社会保険に加入させることが可能です。
【短時間労働者の社会保険への加入条件】
週の所定労働時間および月の所定労働日数が正社員の4分の3以上、もしくは4分の3未満で下記の条件をすべて満たす労働者は被保険者となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 雇用期間が1年以上見込まれる
- 賃金の月額が8.8万円以上
- 学生でない
- 特定適用事業所または任意特定適用事業所に勤めている
令和4年10月より、2は要件から除外されます。さらに、特定適用事業所の条件も501名以上から101名以上、51名以上と段階的に引き下げられるため注意しましょう。
このように、雇用保険と社会保険の加入条件は大きく異なります。会社によっては労働保険には加入できても、社会保険の適用は受けていない場合もあるため注意しましょう。なお、一般に「社会保険完備」といった場合は雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金保険のすべてに加入できることを意味します。
参考:労働保険とはこのような制度です|厚生労働省
参考:適用事業所とは?|こんな時に健保|全国健康保険協会
参考:適用事業所と被保険者|日本年金機構
参考:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構
参考:社会保険適用拡大 特設サイト|厚生労働省
雇用保険と社会保険における注意点
前章で説明した通り、雇用保険は条件を満たした従業員を1名でも雇用した場合、強制的に加入しなければなりません。社会保険については、適用を受けているかいないかで加入の可否が変わります。ここでは雇用保険と社会保険の同時加入、雇用保険のみの加入について解説します。
雇用保険と社会保険は同時加入できる?
社会保険完備の会社の場合、雇用保険と社会保険の同時加入が可能です。週の所定労働時間が20時間以上の場合、雇用保険は強制加入となります。さらに、学生ではなく、1年以上にわたって特定適用事業所または任意特定適用事業所での雇用が見込まれ、賃金の月額が8.8万円以上であれば社会保険にも加入できます。
雇用保険のみ加入は可能?
会社が社会保険の適用を受けていない、もしくは加入条件等を満たしていない場合は、雇用保険にのみ加入することになります。なお、労災保険と合わせた労働保険には一元適用事業と二元適用事業があり、一般の事業は雇用保険と労災保険を一元的に扱う一元適用事業です。一方、建設業や農林水産業などは事業の特性上、どちらか片方にだけ加入することもあるため、二元適用事業として雇用保険と労災保険の加入手続きを別々に行う必要があります。労働保険は社会保険の適用とは別に扱われる点に注意しましょう。
参考:労働保険(労災・雇用)に入る義務があります|広島労働局
雇用保険と社会保険の違いと加入条件を把握し適切に加入手続きを行おう
ここまで、雇用保険と社会保険の違いを紹介しました。雇用保険は失業時に必要な給付を受けられる制度で、社会保険は厚生年金保険・健康保険・介護保険からなる保険制度の総称です。雇用保険と社会保険は加入条件が異なります。会社によっては社会保険の適用を受けておらず、労働保険にのみ加入できることもあるでしょう。社会保険完備という場合は、雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金保険のすべてに加入できるのが一般的です。雇用保険と社会保険の同時加入も可能ですが、条件によっては雇用保険にのみ加入することもあり得ます。雇用保険と社会保険は強制保険なので、条件を満たした従業員はその意思に関わらず加入手続きを行わなければなりません。お勤めの会社の適用条件や加入条件等を把握し、適切に加入手続きを行いましょう。
よくある質問
雇用保険とはなんですか?
失業時や傷病等によって就労の継続が困難になった際に、必要な給付を受けられる制度です。給付によって労働者の生活および雇用の安定を図り、早期の再就職を支援するための雇用に関する総合的な制度となっています。詳しくはこちらをご覧ください。
雇用保険と社会保険の違いについて教えてください。
雇用保険は失業給付等に関する制度、社会保険は厚生年金保険・健康保険・介護保険からなる保険制度の総称です。雇用保険と労災保険は労働保険と呼ばれ、社会保険と合わせて広義の社会保険と呼ばれることもあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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