• 更新日 : 2025年1月20日

コンプライアンスとパワハラの関係は?パワハラのコンプラ違反事例や防止策を解説

企業にとってコンプライアンスの遵守は最重要事項の一つといっても過言ではありません。とりわけ、パワハラは職場で起こりやすく大きな問題に発展する恐れもあるため、早急な対策が必須です。

この記事ではコンプライアンスの観点からパワハラ対策の重要性や具体的な施策を紹介します。

コンプライアンスとパワハラの関係は?

まずはコンプライアンスとパワハラ、それぞれの定義から両者の関係について考えてみましょう。

コンプライアンスの定義

コンプライアンスとは「法令遵守」のことです。一般的には国が定めた法律を守ることはもちろんのこと、会社内や業界内で定めた規則や企業倫理、社会規範など、幅広いルールやモラルを遵守することが求められます。

これまで企業や団体が利益を追求するあまり法令違反行為や不祥事を起こす事態、あるいはこれらを隠蔽する事態が数多く発生してきました。また、近年ではインターネットが普及したことで、企業や団体あるいは従業員の不正行為や不適切行為が明らかになり、批判が集中する、いわゆる「炎上」という現象が頻繁に発生しています。

企業や団体は社会のルールやモラルを守りながら運営すべきという機運の高まりや、法令違反行為や不祥事によるリスク対策のため、コンプライアンス対策が非常に重要になってきているのです。

パワハラの定義

パワハラ(パワーハラスメント)とは、職場において行われる嫌がらせやいじめ、人権侵害行為のことを指します。厚生労働省ではパワハラを

「①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素をすべて満たすもの」

引用:あかるい職場応援団|厚生労働省

と定義しています。

また、パワハラは大きく「精神的な攻撃」「身体的な攻撃」「過大な要求」「過小な要求」「人間関係からの切り離し」「個の侵害」という6つの類型に分けられます。

参考:あかるい職場応援団|厚生労働省

パワハラはコンプライアンス違反事案の一例

パワハラが発生した場合、コンプライアンス違反事案に該当し、行為者や組織が法的制裁あるいは社会的制裁を受ける恐れもあります。

例えば、優越的な立場にある上司が部下に対して必要以上に叱責し、暴力を振るうという精神的・身体的な攻撃を行い、それによって部下が苦痛を感じた場合、前項で挙げた3つの要素を全て満たすため、パワハラに該当する恐れがあります。

上司が部下に一人では納期までに完了できないような非常に多くの業務を与え、長時間労働や休日出勤をせざるを得ない状況を作り出した場合、「過大な要求」に該当する可能性が高いです。

また、パワハラは上司から部下に対して行われるとは限りません。例えば、職場のメンバーが結託して上司を無視するといったケースでは、上司であっても集団となった部下には抵抗できない状況にあります。集団での無視は「人間関係からの切り離し」に該当する恐れがあり、就業環境を害されたと上司が感じた場合は、パワハラに該当する可能性があるでしょう。

パワハラがコンプライアンス違反に該当するケース

パワハラ行為が脅迫罪や強要罪、傷害罪や暴行罪、名誉毀損罪などの刑事事件化した場合、あるいは労働基準法や労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)などの法令違反行為とみなされた場合、重大なコンプライアンス違反に該当する恐れが極めて高いと言われています。

また、パワハラの被害者から行為者や組織が民事で訴えられた場合、労働基準監督署などの第三者機関から調査が行われた場合なども、組織の対応が求められます。

他にも社内外のパワハラ相談窓口に相談があったケース、第三者機関に告発があったケース、あるいはSNSやインターネットの口コミサイトにパワハラを告発するような内容が書き込まれたケースなども、適切かつ迅速な対応を行わないと重大な問題に発展するリスクが高くなります。

パワハラ対策がコンプライアンス強化において重要な理由

2023年に厚生労働省が行った『職場のハラスメントに関する実態調査』によると、過去3年以内にパワハラを受けたと回答した人は約2割になります。また、2023年度の都道府県労働局における「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は約6万件でした。それ以前にも自殺事件が報道されるなど、パワハラが社会問題化しており、厚生労働省としてもパワハラ対策を喫緊の課題として捉えています。

2019年には「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」いわゆる労働施策総合推進法が改正されて、事業者はパワハラ防止策を講じることが義務付けられました。中小企業においては2022年3月までは努力義務でしたが、2022年4月からは全ての企業においてパワハラの防止措置が義務化されました。

もちろんパワハラは重大な人権侵害行為であり、社会規範や倫理に反する行為です。しかし、現在ではパワハラの防止策をとらないこと自体が法令違反であり、パワハラ対策はどの組織においてもコンプライアンスを強化するうえでは避けては通れない事項となっています。

パワハラやコンプライアンス違反の防止策

組織におけるパワハラやコンプライアンス違反の対策の重要性を説明しましたが、ここからは具体的に企業がとるべき施策について、4つ見ていきましょう。

研修やアンケートを定期的に実施する

まず重要なのは社内の実態の把握です。パワハラやコンプライアンス違反行為が発生していた場合、いち早く対処をし、再発防止策を考える必要があります。数カ月から1年に1度などの頻度で定期的に全従業員に対してパワハラの被害に遭っていないか、パワハラやコンプライアンス違反行為を見聞きしていないかアンケートを実施しましょう。

同時に従業員の意識を高めることも重要です。可能な限り全従業員に研修を実施し、どのような言動がパワハラにあたるのか、パワハラを働くことでどのようなリスクがあるのか、パワハラやコンプライアンス違反があった際にどのように対処すればいいのかといった内容を周知しましょう。また、管理職向け、一般従業員向けというように階層別に教育すれば、より高い効果が得られます。

相談窓口や社内通報制度など体制を整備する

パワハラやコンプライアンス違反行為があった際に相談できる窓口を設置しましょう。人事部門担当者やコンプライアンス担当者、従業員から選任されたパワハラ相談員、産業医などによる社内窓口のほか、カウンセラー、社労士、コンサルタントなどによる社外窓口を設けるという方法もあります。

また、窓口を設けるだけでなく実際の運用体制についても確立しておきましょう。メールや電話、メッセージなどで通報を受け付け、そこから事実関係の確認やとるべき措置の検討・実施、フォロー、再発防止策の策定といった一連のフローを決め、それぞれの工程で誰が、どのように対応していくのか、社内ルールを決めておくことが大切です。

経営のトップからのメッセージを周知する

パワハラやコンプライアンス違反の対策としてはトップからの働きかけも非常に有効です。社長や代表者が「パワハラやコンプライアンス違反をなくすべき」「パワハラやコンプライアンス違反行為を許さない」という方針を明確に示すことで、全従業員のベクトルが一致しやすくなります。

また、トップが率先してパワハラやコンプライアンス対策に力を入れるという姿勢を示すことで、その下の役員層、さらにその下の管理者層、従業員層に至るまで意識が変わり、社内の風土改善につながります。

社内のコミュニケーションを強化する

パワハラは相手に対する理解不足や誤解が発生することで起こるケースもあります。コミュニケーションを密にして相互理解を深めることで、職場の人間関係が良好になりパワハラが起きにくい土壌が醸成されます。

また、日頃から管理者と従業員がコミュニケーションをとることで、パワハラやコンプライアンス違反行為が発生したときに従業員が相談しやすくなり、管理者としても従業員の表情や話し方などの様子からいち早く異変に気づけるようになります。

パワハラ対策やコンプライアンス向上施策の成功例

最後にパワハラ・コンプライアンス違反対策がうまくいった2つの事例をご紹介します。ぜひ、参考にして自社の対策を考えましょう。

従業員への働きかけと継続的な研修による防止策事例

Q社では過去に社内でパワハラを起因としたトラブルが発生し、そこから「もう二度とトラブルを起こしてはいけない」「対策をしっかり行わなければならない」という意識が高まりました。

まずはすでにあったセクハラ禁止規定を、セクハラやパワハラを含めたハラスメントを禁止する規定に変更し、全社員に周知を徹底しました。加えて弁護士や社会保険労務士などの外部講師を招き、全従業員に対して研修を行い、どのような言動がパワハラに該当するのかなどパワハラに対する理解を深めました。

さらに、同社では役員が率先して現場に出て従業員とコミュニケーションをとり、パワハラにつながるような言動に注意しているということです。

こうした対策の甲斐もあり、同社では近年ではパワハラに関するトラブルは1件も起こっていないということです。

トップメッセージ、実態の把握、教育という3本柱でハラスメントを防止

全国でホテル事業を展開するX社。年に1回トップが自ら全国の拠点(ホテル)を巡回して、直接ハラスメント防止に関して働きかけを行い、各拠点の責任者は年に2回の会議でより詳しい指針を把握し、それを現場の従業員に共有しています。

また、同社ではコンプライアンス部門が中心となって毎年無記名のアンケートを実施。社長、総務部門、部署責任者などに結果を共有。コンプライアンス意見交換会で議論を行い、次年度の取り組みに活かしているということです。

近年では階層別研修を強化し、セクハラ防止、パワハラ防止、マタハラ防止というようにハラスメントごとに防止策の教育と意識づけをしているということです。

男女割合は半々で、外国籍の従業員も在籍し、全国に拠点がある同社。さまざまなバックボーンをもった人が働いていますが、以上のような取り組みを通じて「組織も個人も高めるプロ集団」を目指すことで、パワハラの防止にもつながっているということです。

パワハラ対策、コンプライアンス強化は今すぐ取り組もう

昨今企業や団体に対してコンプライアンス遵守が強く求められるようになり、今後さらにシビアになっていくでしょう。なかでも、組織内で起こる可能性が高く重大な事態につながりかねないパワハラの防止策は喫緊の課題です。

ぜひ今回の記事を参考に、一度社内で対策ができているか、実態がどうなっているかを見直し、防止策を検討してみましょう。


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