- 更新日 : 2023年10月27日
借り上げ社宅制度とは?社有社宅との違いや税制面のメリット、家賃相場を解説
借り上げ社宅制度とは、企業が契約した賃貸物件を従業員に貸し出す制度のことです。従業員が負担する家賃が相場よりも低い傾向にあることや、企業によっては従業員が物件を選べる場合があるため、人気の福利厚生制度の1つです。本記事では、借り上げ社宅制度のメリットや注意点、社有社宅制度との違いなどを解説します。
目次
借り上げ社宅制度とは?
借り上げ社宅制度とは、企業が賃貸物件を契約し、従業員に住宅を貸し出す制度のことです。地方に支社や営業所を持つ従業員の転勤が多い企業や、海外事業を展開する企業が、借り上げ社宅制度を導入している傾向があります。
借り上げ社宅制度があると、従業員は慣れない場所で不動産物件を探す必要がありません。地方の場合は、支社や営業所の近くに物件を借りることで、従業員の通勤の負担を減らすメリットもあります。
借り上げ社宅の家賃負担は会社?従業員?
借り上げ社宅制度は法人契約であるため、企業が住居の初期費用を負担するケースが一般的です。初期費用は、家賃の4~5ヶ月分が目安といわれています。ただし、法律で企業の負担が義務付けられているわけではないため、一部を従業員負担にする場合は、社宅管理規程でその旨を定めることも可能です。
家賃は、通常、物件の借主である企業に対して、従業員が企業ごとに決められた金額を支払います。住宅費は家計の中で大きな割合を占めます。そのため、借り上げ社宅制度は、福利厚生制度の中でも従業員の満足度が高い制度といえるでしょう。
税制面でお得?借り上げ社宅制度のメリット
借り上げ社宅制度は、従業員にとっても企業にとっても多くのメリットをもたらします。その中でも特に、税制面に関するメリットが大きいことが特徴です。ここでは、税制面における企業側のメリットと従業員側のメリットを解説します。
企業側のメリット
借り上げ社宅の家賃は、福利厚生費として計上することが可能です。福利厚生費とは、従業員に支払う給与や賞与以外の費用のことで、経費として扱われるため原則として非課税の扱いとなります。ただし、従業員から賃料相当額の50%以上を徴収しないと、課税対象になることに注意しましょう。
また、社会保険の計算上、企業に支払う家賃は対象となる収入から差し引けるため、従業員の社会保険料の負担が軽減できます。社会保険料は企業と従業員が折半して負担するため、企業側にとってもメリットです。
従業員側のメリット
従業員が借り上げ社宅の家賃の一定額を支払えば、賃料相当額は給与所得として計上しなくてよいため、所得税や住民税の負担額を軽減できます。
加えて、前述のように社会保険の計算上、企業に支払う家賃は対象となる収入から差し引くことが可能なため、社会保険料の負担が少なくてすみます。
参考:No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき|国税庁
借り上げ社宅制度のデメリット
メリットの多い借り上げ社宅制度ですが、デメリットも存在します。企業側のデメリットと従業員側のデメリットは、以下のとおりです。
企業側のデメリット
借り上げ社宅制度における、企業側のデメリットとして挙げられるのは以下の3点です。
- 契約や支払いなどの手続きが発生する
- 借りている部屋が空き部屋の状態でも家賃が発生する
- 解約時に違約金が発生する場合がある
借り上げ社宅制度を導入すると、契約や支払いなどの事務手続きが発生するため、手間がかかります。また、借りている部屋が空き部屋でも家賃が発生する、解約時に違約金を支払うリスクがあるといった点もデメリットです。解約時に違約金を支払うケースとしては、従業員が入居後すぐに退職したり、転勤が決まったりしたような場合が該当します。
従業員側のデメリット
借り上げ社宅制度を利用する従業員のデメリットは、以下のとおりです。
- 自由に物件を選べないことがある
- 社会保障額が減る可能性がある
あらかじめ借り上げ社宅が用意されている場合は、従業員は希望する立地や間取りの物件を選べません。
また、既にお伝えしたように、企業に支払う家賃が収入から差し引かれるため、失業保険や将来受け取れる年金額が減ってしまう点がデメリットといえるでしょう。支払わなければいけない社会保険料が減るのはメリットである一方で、社会保障額も減ってしまうことに注意しましょう。
借り上げ社宅の家賃相場はどのぐらい?
借り上げ社宅の家賃相場は、近隣相場の1~2割程度を目安に設定されることが一般的です。
税制上のメリットを享受するには、借り上げ社宅の賃料を給与所得としてではなく、福利厚生費として計上しなければなりません。そのためには、従業員から賃料相当額の50%以上を徴収する必要があることは既にお伝えしたとおりです。
しかし、ここでの賃料相当額を算出する際の基準になるのは「固定資産税の課税標準額」であり、実際に支払っている賃料とは異なります。ほとんどのケースで、賃貸相当額は実際の家賃よりかなり下回ります。
そのため、従業員が負担する家賃が相場の10~20%程度であっても、賃貸相当額の50%以上を経費として計上できるケースが多いことを押さえておきましょう。
借り上げ社宅制度の注意点
借り上げ社宅制度の注意点は、主に以下の3点です。
- 会社が賃貸借契約を行う
- 社内管理規程を作成する
- 従業員が水光熱費を負担する
それぞれの内容を解説します。
会社が賃貸借契約を行う
借り上げ社宅を借りる際は、企業側が賃貸借契約を行う必要があります。従業員が個人的に賃貸借契約を結んだ物件は、企業が家賃の一部を負担している場合でも、借り上げ社宅制度とは認められないことがほとんどです。
また、敷金や礼金、火災保険料などの賃貸借契約に付随して発生する費用を従業員が支払っていると、法人の契約とみなされない場合があります。借り上げ社宅と認められない場合、企業が負担する家賃分が給与とみなされ、課税の対象となるため注意が必要です。
社内管理規程を作成する
借り上げ社宅制度を導入する際は、社内管理規程を作成しましょう。具体的には、以下のような内容を決めておきます。
- 企業と従業員が負担する家賃の割合や金額
- 住居に住むことが可能な人の範囲
- 退去条件
このように、トラブルになりやすい項目についてのルールをあらかじめ決めておくとよいでしょう。
従業員が水光熱費を負担する
家賃に関しては、従業員が負担しなければならないのは一部ですが、水光熱費などの従業員の生活に関わる必要については、従業員自身が全額負担するのが基本です。
企業が水光熱費まで負担してしまうと、従業員が利益を享受したと判断され、企業が負担した分が給与扱いになってしまいます。それにより、税金や社会保険料の対象となり、結果的に従業員と企業の双方の負担が大きくなってしまう点に注意しましょう。
「借り上げ社宅」と「社有社宅」の違い
借り上げ社宅制度のほうが社有社宅制度よりも、従業員が物件を選ぶ自由度が高いといえるでしょう。借り上げ社宅制度は、企業が一棟丸ごと借り入れる場合もありますが、従業員が物件を選んで、企業が賃貸手続きをする場合もあります。
それに対して、社有社宅は企業が所有する物件を、従業員に貸し出す仕組みです。そのため、社有社宅制度においては、従業員が立地や間取りなどに関する希望を持っていたとしても、反映されることは難しいといえます。
また、社有社宅では他の住人すべてが同じ企業の従業員であったり、門限やルールなどが設けられたりするため、従業員から敬遠される傾向にあります。さらに、社有社宅は築年数が経過していることも少なくありません。
コストや労力を抑える視点からも、借り上げ社宅のほうがおすすめです。借り上げ社宅は建設費用がかからないことに加え、自社で管理する必要がないため、社有社宅よりも手間がかかりません。
さらに、社有社宅の場合は、従業員への家賃補助は住宅手当、つまり給与扱いになります。そのため、借り上げ社宅と比べて負担する社会保険料の額が大きいこともデメリットといえるでしょう。社有社宅には、固定資産税がかかることも押さえておかなければなりません。
事業所移転の可能性がある場合も、借り上げ社宅のほうが適しています。社有社宅の場合、事業所が社宅から離れた場所に移転してしまうと、従業員の通勤の負担や交通費が増えてしまいます。借り上げ社宅であれば、事業所の移転に応じて近くの物件を新しく探すことが可能です。
借り上げ社宅制度の仕組みやメリットを知ろう
借り上げ社宅制度とは、企業が借りた賃貸物件を従業員に貸し出す制度を指します。相場よりも安い家賃で住居を借りられることや、物件を探す手間が省けることなどから、従業員に人気の福利厚生制度であり、採用活動におけるアピールポイントとなります。また、企業にとっても従業員にとっても、税制面でのメリットが大きいことも魅力です。
一方で、契約や支払いなどの手続きが必要であったり、空き部屋になっても家賃が発生したりといったデメリットも存在します。借り上げ社宅制度の導入は、借り上げ社宅制度のメリットとデメリットの両方をよく理解したうえで検討しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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