• 更新日 : 2024年6月14日

正常性バイアスとは?意味や具体例、企業のリスク、対処法を解説

人は物事を判断するときに、思い込みや先入観などに支配されてしまうことがあります。目の前で起こった事象を過小評価してしまい、的確な対応を行えなくなる「正常性バイアス」が企業の活動に悪影響を及ぼすこともあるでしょう。本記事では、正常性バイアスが発生するメカニズムや内容、対応方法などについて解説します。

正常性バイアスとは?

正常性バイアスとは、予期せぬ事態に直面したときに、正常なことだと自動的に判断してしまう心理的メカニズムのことを言います目の前の事象に対して「たいしたことはない」「通常あり得ないことなのだから放っておいてもよい」などの判断が働くことです。

人が意思決定を行うときに、先入観や過去の経験から来る記憶などに基づいた、非合理的な判断をしてしまう認知バイアスの一種だと言われています。

正常性バイアスの役割

正常性バイアスには、人の心をストレスから守り精神の安定を図る役割があります。正常性バイアスが働くことで、想定していなかった事象が発生したときに過度な恐怖や不安に見舞われることを回避することが可能です。

正常性バイアスの具体例

正常性バイアスは、日常生活や災害・緊急事態の発生時、ビジネスの場などのあらゆる場面で発生します。

日常生活での例

会社勤めをしている人は、年に一度の健康診断があります。診断で異常な結果が出たのに、「自分は今まで健康だったのだからたいしたことはない」と決めつけ検査を受けない判断をすることもあるでしょう。これは、深刻な病を抱えることのストレスから逃れるための正常性バイアスです。

災害時、緊急時の例

災害が発生したときに、正常性バイアスが働くことが原因で被害を拡大してしまうことがあります。地震発生時の津波警報の発令に対して「今まで大きな被害はなかったのだから今回も大丈夫」と思うことで逃げ遅れてしまうようなことです。

ビジネスシーンでの具体例

企業活動上のリスクとして、違法行為による従業員の不利益を過小評価したことにより、人材流出や企業イメージ低下を招くことがあります。違法な働き方やハラスメント発生に対して、「この程度のことで騒ぎ立てる従業員はいないだろう」などと思い込むことで生じがちです。

他にも、主要取引先の異変を察知したときに「あの会社の経営はずっと順調だったのだから心配する必要はないだろう」という思い込みが働くことがあります。それにより対応を放置し、主要取引先の経営が破綻することによって、自社の経営に大きなダメージを与えてしまったという事案も少なくありません。

正常性バイアスのメリット・デメリット

正常性バイアスには心の負担を軽減させるメリットがある反面、適確な対応を行えなくなることによるデメリットも存在します。

正常性バイアスのメリット

正常性バイアスが働くことで精神的に過度な負担がかかることから解放され、ストレスの回避につながります。それにより精神状態を安定に保つことができ、うつ病などのメンタル面での疾病に罹患するリスクが軽減されます。

正常性バイアスのデメリット

正常性バイアスが働くことで的確な対応を行えなくなり、最悪の結果を招いてしまうことも少なくありません。その中でも、企業活動における正常性バイアスは、企業の正常な経営や成長に対して悪影響を与えてしまうことがあります。

不良品の発生やコンプライアンス違反に対して「これくらい大丈夫だろう」と甘く見たことが、損失の拡大や企業イメージ低下という結果につながります。「今までこのやり方でうまくいっていたのだから、今後もこのままでよいだろう」と改善を放棄することが、従業員の成長を妨げる可能性もあります。

正常性バイアスが強い人の特徴

正常性バイアスが強い人には、以下のような特徴が見られます。

「自分は大丈夫」と思いこむ

正常性バイアスが強い人は、「自分だけは大丈夫だろう」という思い込みが働くことも少なくありません。自分だけは大丈夫という固定観念によって、問題が発生したときに迅速な対応が行えなくなります。

自分の判断だけで物事を進める

正常性バイアスが強い人は、物事を判断するときに他人の意見を聞かずに自分の考えだけで進めてしまいがちです。問題が発生したときに視野が狭くなるため、的確な対応を行えなくなるでしょう。

手順やルールを無視する

正常性バイアスが強い人は、「決められた手順やルールを守らなくても結果がよければ問題ない」という思い込みが働くことが少なくありません。結果がよければ問題はないと思い込むことにより、ミスや事故、災害の発生などにつながってしまいます。

公平な評価ができなくなる

正常性バイアスが強い人は、「自分の評価は正しい」と思い込みがちです。自分の評価は正しいという固定観念が、人事評価の公平性や透明性を失うことなどにつながってしまいます。

正常性バイアスが招く企業のリスク

正常性バイアスが働くと、企業活動において以下のようなリスクを招くことがあります。

リスク対策の軽視

企業の経営を安定させるためには、あらゆるリスクを事前に想定し、リスクを回避するための対策を明らかにした上で実践する必要があります。「今までこのようなことは発生しなかったのだから、今後も大丈夫」という思い込みが、リスク対策の軽視につながります。

コンプライアンス違反

企業の存在が社会から受け入れられるためには、コンプライアンスの内容を正しく理解した上で実践し続ける必要があります。「この程度のことは徹底していなくても問題ない」という思い込みを抱くことが、コンプライアンス違反を招いてしまいます。

ハラスメントの原因

従業員を定着させて安定した経営を行うためには、ハラスメントのない働きやすい労働環境を実現していく必要があります。「この程度のことはやっても問題ないだろう」という思い込みを抱くことがハラスメントの発生につながります。

不公平な人事評価

従業員が定着し企業が成長するためには、人事評価の公平性を担保する必要があります。「自分の評価は正しい」という思い込みを抱くことにより、人事評価を不公平な結果へと導いてしまいます。

事業での大きな損失

問題が発生したときの損失を最小化するためには、原因を正確に認識した上で、その後の対応を的確に行う必要があります。「今までもこのような対応で乗り切れていたのだから、今回もこの対応で大丈夫だろう」という思い込みを抱くことで、事業での損失を大きくしてしまいます。

正常性バイアスを防ぐ方法、企業の取り組み

正常性バイアスによる経営上のリスクを回避するために、以下のような対応を行うことが効果的です。

正常性バイアスを周知する

従業員に「正常性バイアスが働くことがあること」「そのことが悪い結果を招くことにつながること」を理解させることが、正常性バイアス防止に効果的です。思考停止に陥らずに広い視野で物事を考えることを啓蒙すると、従業員が正常性バイアスの存在を認知することにつながります。

様々なリスクを想定しておく

従業員に「今後起こりうるリスク(想定外の事態の発生)」について具体的に理解させることが、正常性バイアス防止に効果的です。想定外の事態が発生した場合に客観的に物事を考えるように啓蒙することが、従業員が企業活動を行う中でどのようなリスクが潜んでいるのかを理解することにつながります。

予期せぬ事態への対応方針を定めておく

異常な事態が発生した場合の対応方針について、あらかじめ定めておくことも正常性バイアス防止に効果的です。対応方針が定められていると、問題が発生したときに従業員が正常な行動を取りやすくなります。

危機対応マニュアルの整備

異常事態への対応をマニュアル化することで、正常性バイアス防止効果が高まります。具体的な対応を明示することで、事態が発生したときに統一的な対応を行うことが可能になり、正常性バイアスが働くことによる経営上のリスク回避につながります。

職場での防災訓練

異常事態への対応をマニュアル化して行動訓練を行うことで、正常性バイアス防止効果がさらに高まります。想定外の事態発生に対する意識付けを強化し、具体的な対応への経験を高めることが、正常性バイアスが働くことによる経営上のリスクの回避・強化につながります。

正常性バイアスと同調性バイアスとの違い

人の最適な行動を妨げる心理的メカニズムの1つに「同調性バイアス」があります。同調性バイアスとは、「周りの人がこうしているのだから自分もこうすべきだ」などと周囲の行動に合わせるべきだと思い込むことです。

自分自身の思いに合わせる正常性バイアスに対して、同調性バイアスには周囲(他人)の思いに合わせるという違いがあります。

この2つが混ざり合った場合、目の前に危機が迫っていることを認識しながら対処できずに手をこまねいてしまうリスクが発生します。

正常性バイアス以外のバイアス

正常性バイアス、同調性バイアス以外に、企業の活動に対して影響を及ぼすことのあるバイアスに「確証バイアス」「ハロー効果」があります。

確証バイアス

確証バイアスとは、自分にとって都合のよい情報を積極的に集め、都合の悪い情報を軽視する心理的メカニズムのことです。自分自身の見解をまとめるときに「このような情報があるからこの見解は的確なのだ、だからその他の情報は無視してもよい」と都合よく思ってしまうことです。

ただし、確証バイアスには、結論に至る論拠を明確にしやすいという面でのメリットが生じることもあります。

ハロー効果

ハロー効果とは、人や物を評価するときに特定の印象に左右されながら全体を評価してしまう心理的メカニズムのことです。人事評価に関して、直前の大きな失敗に対する印象が強く残り、悪い評価を行うことで評価の公平性が失われることもハロー効果による影響です。

ただし、ハロー効果には、人や物の優れた部分を認識することで、最適な活用や育成を考えやすくなるメリットが生じることもあります。

バイアスの存在は企業経営にとってのリスクとなることも

人は誰でも思い込みや、自分にとって都合よく物事を考えたくなる心理的思考が存在します。そのことが、危機に対して迅速に対応し、的確な判断を行った上で行動することの妨げとなりかねません。このようなバイアスの存在は、企業が最適な活動をしていく上でのリスクにもなります。

バイアスの内容やリスクを正しく認識した上で、バイアスが働くことを防止する職場環境を築いていくことが企業に求められるでしょう。


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