• 更新日 : 2024年8月21日

コンピテンシー評価とは?公平な評価基準や書き方の例、企業事例を解説

人事評価について調べていると、コンピテンシー評価というものを目にする機会が増えてきたかと思います。コンピテンシー評価とは、業務において高いパフォーマンスを発揮する人材に共通する行動特性「コンピテンシー」をもとに、評価基準を作成する人事評価のことです。

本記事では、コンピテンシー評価の概要を紹介するとともに、導入方法やコンピテンシー評価のメリット・デメリットなどを解説します。

コンピテンシー評価とは?

まずは、コンピテンシー評価の概要について解説します。そもそも「コンピテンシー(competency)」とは、企業内で高い業績を上げる人材の行動特性のことです。1970年代にハーバード大学のマクレランド教授が提唱した、人事管理の概念を指します。個人のスキルや技能だけでなく、成果を出している社員がどういった行動をとっているかという観点から評価基準を決めて行くのが特徴です。

コンピテンシーは、企業ごとにオリジナルの評価項目を作成します。その際、コンピテンシーディクショナリと言われる6つのカテゴリと20の項目を参考にしつつ作成するのが一般的です。目標や成果に対して必要な行動特性は部署や業務ごとに違うため、部署や業務単位でコンピテンシーを複数作成することもありえるでしょう。

優れた人材の行動をもとに人事評価を行うこと

コンピテンシー評価とは、仕事において高いパフォーマンスを発揮している人材に共通する行動特性「コンピテンシー」をもとに評価基準を作成する人事評価のことです。

コンピテンシー評価では、公平な人事評価や効率的な人材育成の担保を介して、従業員の成果を向上させ、企業の成長につなげることを目的としています。

コンピテンシー評価が注目される理由

コンピテンシー評価が注目される背景には、次の3つの理由が挙げられます。

  • 人事評価制度の変化
  • 人材確保・生産性向上の問題
  • コスト削減

それぞれ詳しく見ていきましょう。

人事評価制度の変化

人事評価制度が時代とともに変わってきていることが1つの理由です。日本では年功序列制が一般的でしたが、バブル崩壊後は人事評価制度を成果主義へ転換する傾向が見られるようになりました。

年功序列と深く関連する職能資格制度(能力評価)は、勤続年数に比例して高評価を得られやすい制度ですが、バブル崩壊後の厳しい経済状況のなかでは、職能資格制度の維持が困難になります。その結果、従業員の仕事の成果を評価する成果主義にシフトする企業が増え、成果に直結する行動や思考性を評価するコンピテンシー評価が注目され出したという分けです。

人材確保・生産性向上の問題

少子高齢化が進む日本の企業が持続可能な経営を行うためには、労働力の確保と生産性の向上の両立が欠かせません。

人材の確保においては、活躍する人材の見極めのほか、採用や採用後の定着率向上が必要です。しかし年功序列制度では、成果を出していなくても、長期間勤めていれば給与が高くなることがあるなど、不満やモチベーション低下につながる要因がありました。その点、コンピテンシー評価は客観的かつ公平な評価が行えるため、人材の定着率向上対策として有効です。

また、従業員のコンピテンシーに着目すれば、個人や企業の能力をさらに引き出すために必要な人材の採用、効果的なマネジメントなどが実現できます。その結果、生産性の向上につながり、人材の確保の問題対策にもなるというわけです。

コスト削減

年功序列制度では、従業員の成果は報酬に反映されません。そのため、能力と報酬がつりあわず、無駄なコストを発生させる原因となっていました。

そこでコンピテンシー評価を導入すれば、従業員の成果や能力に基づいた評価、報酬設定を実現可能です。また、各従業員のコンピテンシーを人事が把握することで、適切な人材配置や効果的な育成が可能になり、生産性向上はもちろん無駄なコスト削減にもつながります。

コンピテンシー評価、バリュー評価、能力評価との違い

コンピテンシー評価と似た用語にバリュー評価や能力評価という用語が存在します。ここでは、それぞれの違いについて解説します。

バリュー評価との違い

バリュー評価とは、従業員を企業の設定するバリューに基づいて評価する人事評価制度です。バリューとは、企業の経営方針として従業員に求められる行動規範や価値観などを指します。

それぞれの共通点・相違点は表のとおりです。

共通点従業員の行動を評価対象する点
相違点基準となる評価対象が違う
バリュー評価の基準:企業のバリューや価値観に従業員がどれだけ適合しているか
コンピテンシー評価の基準:どれだけコンピテンシーのような行動がとれているか

能力評価との違い

能力評価(職能資格制度)は、人材の能力・技術・知識などを評価するものです。長期的に社員を育てていくときに活用する評価制度といえます。

それぞれの共通点・相違点は表のとおりです。

共通点従業員の行動を評価対象する点
相違点基準となる評価対象が違う
能力評価の基準:業務に必要な能力や適性を備えているか
コンピテンシー評価の基準:どれだけコンピテンシーのような行動がとれているか

コンピテンシー評価のメリット

コンピテンシー評価には3つのメリットがあります。それぞれのメリットについて見ていきましょう。

人材育成が効率化される

コンピテンシー評価を導入することで、人材育成が効率化されます。コンピテンシー評価の基準が、高い成果を上げている人材の行動特性をもとに導き出されているため、成果につなげるにはどのような行動をとればよいか、従業員からするとわかりやすいためです。

また、成果に直結する行動がわかれば、従業員それぞれが課題を見つけやすくなるほか、モチベーションも高まるでしょう。

従業員に対する評価がしやすい

これまでの評価制度では、評価者の主観や対象者との関係性で評価が左右されてしまうこともありました。コンピテンシー評価では評価基準が明確であるため、従業員に対しての客観的評価がしやすいメリットがあります。

評価がしやすいことにより、人事担当者の業務効率アップにもつながるでしょう。

人事評価への納得感が高まる

コンピテンシー評価による評価では、評価基準が明確なため、評価される側の納得感も高くなります。評価内容が公正かつ明確であれば、社員の不満を減らせることはもちろん、モチベーションやエンゲージメント向上につながるといったメリットも享受可能です。

コンピテンシー評価のデメリット

一方で、コンピテンシー評価にはデメリットも存在します。

導入までのハードルが高い

コンピテンシー評価の難点は、簡単に導入ができないことです。コンピテンシー評価で使用する項目は、既定のテンプレートなどが存在するわけではありません。各社独自の評価基準を作成したうえで、評価モデルとなる人材の選定、分析といったさまざまな工数が必要です。また、部署や職種、各種等級などから、具体的かつ細かな明示もする必要があります。

コンピテンシー評価導入にあたっては、さまざまな手順を踏む必要のあるため、簡単に導入できるものではないことを理解しておきましょう。

環境変化に適応しづらい

コンピテンシー評価のデメリットとして、環境変化に適応しづらいことが挙げられます。コンピテンシー評価には、定期的な変更・修正を行いながらの運用が欠かせません。しかし、実際の評価項目は、具体的かつ細かいため、変更が難しいのも事実です。そして、事業の成長フェーズや市場・社会情勢の変化によって企業に求められる課題も変化します。

しかし、その都度項目を修正するのは大変な作業です。コンピテンシー評価導入後のメンテナンスコストが高めであることにも注意しましょう。

定義したコンピテンシーが正しいとは限らない

会社内で特定したコンピテンシーが、必ずしも正しいとは限らないことには注意が必要です。コンピテンシー評価の運用とあわせて、成果が上がるようにコンピテンシーの定義も調整が必要になります。

コンピテンシー評価を導入するには?

ここでは、実際にコンピテンシー評価を導入する手順について紹介します。主なステップは、次のとおりです。

  1. コンピテンシーモデル開発チームの結成
  2. コンピテンシーモデル・項目の検討・作成
  3. コンピテンシー評価のテスト・調整
  4. コンピテンシー評価の導入

まずは、コンピテンシー評価導入にあたって、開発チームを組織しましょう。そして、実際にコンピテンシーモデルとなる人材の選定やその人物の行動特性について分析します。さらに、分析結果をもとに、コンピテンシーモデル・コンピテンシー項目の作成/洗い出しを行いましょう。

評価項目を洗い出す際は、具体的で成果の出来をハッキリと分けられる表現にするのがおすすめです。

コンピテンシーが設定できたら、自社のビジョンにコンピテンシーが合致しているかをチェックしてください。ここで、もしも合致しない項目があった場合は、除外して精度を高めていきましょう。

テストでは設定したコンピテンシーと自社のコンピテンシーモデルとを実際に評価基準に則って比較し、実際に高い評価になるか検証します。また、業績が中程度の社員についても評価基準に照らして、参考にしたモデルよりも高い評価とならないかどうか確認してください。

前述したように、コンピテンシー評価の項目は企業によって異なります。しかし、コンピテンシー評価の土台となるコンピテンシーモデルの例として、WHO(世界保健機関)が公開しているため、参考にしてみるのも一つの手です。なお、WHOの公開しているものを三重県立看護大学が日本語訳したものがあるため、検討の際はご活用ください。

参考: WHOグローバルコンピテンシーモデル|三重県立看護大学

コンピテンシー評価項目の具体例

コンピテンシー評価の項目は、企業のビジョンや経営戦略などで異なります。ここでは、業務改善力に注力する場合を例に、具体例を紹介します。

コンピテンシー項目改善意識を常に持ち、業務にあたっているか
生産性向上/業務効率化につなげられているか
担当業務以外にも、部署、社内に対して業務改善を図れているか
評価レベル【レベル1】仕事に対して常に受け身な姿勢で、改善意識が一切見られない
【レベル2】担当業務に対して責任を持って取り組んでいるものの、改善意識は見受けられない
【レベル3】自分で考えて行動したうえで、改善行動/創意工夫などが見られる
【レベル4】業務の枠を超え、チームや部署の課題解決を図り、チーム・部署全体の業務効率化・生産性向上につなげている
【レベル5】改善行動を社内全体にすることで、生産性向上/業務効率化の影響を社内全体に及ぼしている

コンピテンシー評価シートの書き方

コンピテンシー評価シートとは、コンピテンシー評価制度で使用されるシートです。シートには、役職/等級ごとに目指すべき姿や行動指針が記載されています。

シートを作成する際には、具体的に目指すべき姿や行動指針を示すことが重要です。具体的に定められていなかったり、文章からイメージが伝わりにくかったりすると、適切な評価ができなくなります。評価者に行動イメージがわきやすいように、具体例などを入れておくとよいでしょう。

コンピテンシー評価を採用している企業事例

コンピテンシー評価を採用している企業事例を2つ紹介します。

楽天グループ株式会社の事例

楽天グループでは、半年ごとに全従業員がコンピテンシーとパフォーマンス(成果)の目標を立てています。コンピテンシー評価によって月額給与が、パフォーマンス評価によって業績賞与が決まる仕組みで、勤続年数にかかわらずステップアップできる体制です。

同時にコンピテンシー開発ハンドブックを作成し、全従業員に期待する行動や考え方の啓蒙も行っています。コンピテンシーを社員が理解し、具体的な目標を設定して実践することで、自分自身のコンピテンシーを高めることにつながっているそうです。

参考:楽天グループ株式会社

富士ゼロックス株式会社の事例

富士ゼロックス株式会社では、事業や市場などの環境変化に対応し、高い価値を継続して創造するために、従業員一人ひとりが自発的に自分の能力(コンピテンシー)を伸ばす取り組みを行っています。

2015年度からは組織風土変革の要である「オール富士ゼロックスマネジメント力強化研修」を本格展開し、統合した人事・教育制度および人事情報システムを活用して、海外を含む富士ゼロックスグループ全体で人材活用の強化に乗り出しました。

また、チャレンジする風土へ改革すべく、より挑戦する人材を評価したり表彰したりすると同時に、マネジメント力強化研修も継続展開しているそうです。

参考:富士ゼロックス株式会社

コンピテンシー評価の注意点

最後に、コンピテンシー評価導入にあたっての注意点を3つ紹介します。

成果も評価する

コンピテンシー評価では、成果も評価するようにしましょう。目標を達成するための行動特性をベースに評価基準を設けるため、人材育成や配置検討など人材マネジメントの効率や精度を向上させるフレームワークとして捉えられがちです。

しかし、本来の目的は企業の売上や成果を上げ、成長や発展を促すことにあります。そのため、コンピテンシー評価の最終的な目的が、成果を上げることであることを忘れないようにしましょう。

定期的な更新を実施する

前述したように、定期的な見直しも欠かせません。自社のビジネスモデルや競合他社とのポジショニングの違い、注力カテゴリの変化などが生じた際は、コンピテンシーと合致しているか見直しましょう。

コンピテンシーモデルを意識しすぎないようにする

コンピテンシーモデルを過度に意識しすぎないことも、重要です。コンピテンシーモデルどおりの人間はそもそも存在しません。また、コンピテンシーモデルと同じように行動することが目的ではないため、理想化した像を従業員に求めすぎないようにしましょう。

コンピテンシーモデルを押し付けてしまうと、従業員のモチベーション低下を引き起こしてしまいます。評価項目は目安であり、基準の1つにすぎないことも理解しておきましょう。

コンピテンシー評価を正しく理解して公平な評価につなげよう

コンピテンシー評価は、業務において高いパフォーマンスを発揮する人材に共通する行動特性「コンピテンシー」をもとに、評価基準を作成する人事評価のことです。コンピテンシー評価を導入することで、効率的な人材育成につながるほか、評価がしやすくなる、従業員の評価への納得が高まる、といったメリットが得られます。

一方で、導入までのハードルが高いことや環境変化に順応しづらいことなどのデメリットがあることは理解しておきましょう。

本記事で紹介した導入手順や項目の具体例を参考に、社内人事評価制度の改善に向けて、取り組んでみてはいかがでしょうか。


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