- 更新日 : 2024年11月1日
パートの育休とは?取得条件や給付金、配偶者控除との関係、産休との違いを解説
育児休業は、原則として子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで取得でき、男女ともに計画的に育児に携わることができる仕組みです。パートタイマーも条件を満たせば利用できます。
この記事では、パートの育児休業の取得条件や給付金、配偶者控除との関係、取得方法、注意点について解説します。
目次
パートの育休とは?
労働者は、父親、母親どちらであっても、1歳に満たない子どもを養育するために育児休業を取得することができます。
育児休業は、保育所(無認可保育所を除きます)の利用が困難な場合などには、1歳から1歳6カ月に達するまで、さらに1歳6カ月から2歳に達するまで延長することができます。
産休と育休との違い
産前・産後休業(産休)と育児休業(育休)の一番大きな違いは、取得する際の要件の有無です。産前休業は出産予定の女性が請求したら使用者は拒否できません。産後休業については、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならないと定められています。そして、どちらについてもこれ以外の要件はありません。
一方、育休は、日々雇用の労働者は適用除外となるほか、パートタイマーなどの有期雇用労働者は労働契約の終了時期や労使協定の内容によって取得できない場合があります。
妊娠・出産・育児期間と休業
産前・産後休業と育児休業の流れを以下のとおり図にして整理してみました。なお、左側の日付けは期間を計算する際の参考にしてください。
産前産後休業と育児休業の流れは以上のとおりですが、産後パパ育休(出産時育児休業制度)とパパ・ママ育休プラスについて説明をしておきます。
【産後パパ育休】
出産日から8週間以内に最長4週間(28日)の育休を取得できる制度です。2回に分割して取得することもできます。
男性の育児参加の促進が目的でしたので、主な利用者は男性を想定していますが、養子縁組などで産休を取得していない場合には女性も取得できます。
産後パパ育休は、育児休業中であっても、労使協定があれば一定の範囲内で就業が可能となっています。
【パパ・ママ育休プラス】
パパ・ママ育休プラスは、夫婦がともに育休を取得するときには育児休業の期間を1歳2カ月まで延長できる制度です。
どちらが先に育休を取るかによって、子どもが1歳2カ月になるまで育休を取得できる者が決まります。たとえば、母親が産後休業に続いて育休を取っている場合には、父親が子どもの1歳2カ月までの育休を取得することになります。なお、この場合、父親も子どもが1歳になるまでに育休を開始することが必要です。
パパ・ママ育休プラスは夫婦ともに育休を取得することが条件となっているため、夫婦ともに雇用保険の被保険者であることが必要です。
パートが育休を取得できる条件
育児休業を取得するにあたって、パートタイマーやアルバイトなどの有期雇用労働者については労働契約の満了時期に関する制限があります。
また、労使協定を締結することによって、雇用期間や1週間の労働日数に関して育児休業を取得できない場合を定めることもあります。
育児休業の取得条件
パートタイマーなどの有期雇用労働者は、子どもが1歳6カ月(育休を再延長し1歳6カ月から2歳未満の子どもにかかる育休を取る場合には「2歳」)に達する日までに労働契約の期間が満了し、更新されないことが明らかな場合には育児休業の取得はできません。
このほか、労使協定を締結し、①継続雇用期間が1年未満、②育休申出の日から起算して1年以内に雇用関係が終了、③1週間の所定労働日数が2日以下の場合には育休を取得できない定めをすることがあります。
育児休業を取れないパートタイマー
ここでは、パートタイマーを含む有期雇用労働者が育休の取得要件を満たさないケースを具体的に確認しておきます。
①明示されている更新回数の上限に達したときの契約期間の最終日が1歳6カ月に達する日までのケース
②契約を更新しないことが明示されており、育休の申出の時点で契約期間の最終日が1歳6カ月に達する日までのケース
パートで産休・育休を取得する際の手当や給付金
出産には多額の費用がかかります。また、パートタイマーも含め労働者が休業するときには、多くの場合賃金の支給がなくなったり、減額されたりします。
こうした多額の出費や賃金の無支給・減額があった場合でも安心して出産・育児ができるようさまざまな支援制度があります。
【出産・産休】出産育児一時金
出産育児一時金は、公的医療保険制度の被保険者が妊娠4カ月(85日)以上で出産したときに、出産費用として支給されます。早産、流産、人工妊娠中絶、死産でも支給されます。被扶養者の場合は家族出産育児一時金といいますが、内容は同じです。
医療機関が一時金を直接受け取ることによって、出産費用に充てることもできます。2023年4月1日以降の支給額は50万円です。妊娠週数が22週未満などの場合の支給額は48.8万円です。
【出産・産休】出産手当金
出産手当金は、被保険者が出産のため休業したことによって給与の支払いがなかった場合に生活保障を目的として支給されます。
出産の日(予定日後の出産のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までの範囲内で、休業期間を対象に支給されます。出産日は出産の日以前の期間に含まれます。また、出産が予定日より遅れた場合、その遅れた分だけ産前休業が延長され出産手当金が支給されます。
【育休】育児休業給付金(育休手当)
育児休業給付には、出生時育児休業給付金と育児休業給付金があり、いずれも雇用保険の被保険者が対象です。出生時育児休業給付金は、産後パパ育休を取得した場合に支給されます。
育児休業給付金は、1歳未満の子どもを養育するために育児休業を取得した場合で、みなし保険者期間が一定の要件を満たすときに支給されます。育休期間の延長・再延長やパパ・ママ育休プラスの取得がある場合は、それに応じた期間が対象となります。パートタイマーなどの有期雇用労働者については、労働契約期間が、子どもが1歳6カ月(再延長した場合は2歳)になる日までの間に満了する場合は対象外です。
【病気やケガ】傷病手当金
傷病手当金は、健康保険の被保険者が病気やケガによる療養のために仕事をすることができず(労務不能)、3日間以上継続して休業することとなった場合に、所得補償のために支給されます。支給されるのは休業開始後4日目からで、はじめの3日間(待期期間)には支給されません。
「療養」には入院だけでなく自宅療養や病後の静養なども含まれます。
また、「労務不能」は本人が自分の業務に耐えられる状態かどうかをみて判定します。
【自治体】出産・子育て応援交付金
都道府県や市町村でも交付金制度を設けているところが多くあります。特に市町村では、それぞれの財政力や地域特性に応じて多彩な特色のある施策を実施しています。
ぜひお住まいの地域のウェブサイトなどで確かめてみてください。
育児休業給付金をもらうと配偶者控除はどうなる?(税金・雇用保険料・社会保険料)
育児休業給付金、出産育児一時金、出産手当金、傷病手当金は非課税とされており、所得金額には計上されません。したがって、これらの支援金を受けても、その年の所得税の計算や配偶者控除の適用については影響しません。
ただし、住民税は前年所得について課税されるので、産休中・育休中でも支払い義務があります。
育休中の社会保険料は労使ともに免除され、雇用保険料もほかに給与所得がなければ生じません。
【給与所得が55万円 その後育児休業給付金の支給】
所得税:55万円の給与所得控除により0円
社会保険料・雇用保険料:55万円の給与所得について発生
育児休業給付金についてはそれぞれ免除・0円
パートの育児休業給付金の計算方法、具体例
育児休業給付金は、休業開始時賃金日額(育児休業開始前/産前産後休業開始前6カ月間の賃金を180で割った額)、支給単位期間(育児休業開始日から起算して1カ月ごとに区切った各期間)の支給日数(通常は30日)および給付率(休業開始日から180日目までは67%、181日以降は50%)によって計算します。
育児休業給付金の計算ルール
育児休業給付金の計算は、休業期間中の賃金支払いの有無で異なります。
①賃金の支払いがない場合
②賃金の支払いがある場合
【支払い額が賃金月額(*2)の13%/30%(*3)以下の場合】
*2 賃金月額=賃金日額×30日
*3 休業開始日から180日目までは13%、181日以降は30%
【支払い額が賃金月額の13%/30%超 80%未満の場合】
【支払い額が賃金月額の80%以上】
具体例で計算してみる
育児休業給付金を計算してみましょう。
例:休業開始前6カ月の賃金が2,880,000円の場合
①休業開始前賃金日額の計算
ここで注意!賃金日額の上限・下限をチェック!実際の賃金が賃金日額の上限を超える場合、賃金日額を基準にする。
令和6年8月1日現在の賃金日額の上限:15,690円(30~44歳) ⇒ 賃金月額の上限:470,700円
②休業開始日から181日以降の場合で計算 ⇒ 給付率50%
【賃金の支払いがない場合】【賃金月額の 30%以下を支払いの場合】
【30万円支払いの場合】
300,000円÷470,700円=63.7% ⇒ 賃金月額の30%超80%未満
【38万円支払いの場合】
380,000円÷470,700円=80.7% ⇒ 賃金月額の80%以上
パートが育休を取得する流れ
育児休業を取得するためには、事業主にその旨を申出る必要があります。ポイントは次のとおりです。
- 申出は原則として書面で行う。
子どもの出生などを証明する書類を添付する。
<申出書の主な記載事項>
申出年月日 労働者の氏名 子どもの氏名、生年月日および続柄
休業の開始予定日および終了予定日 その他
- 申出は育休開始予定日の1カ月前(産後パパ育休の場合は2週間前)までに提出する。
- 育休を延長・再延長する場合には、開始予定日の2週間前まで。
パートの育休に関して会社がすべきこと
育児休業について事業主は、就業規則への記載、給付金の手続き、就業環境の整備などを行う必要があります。
就業規則に明記しているか
育児休業は、労働基準法が定める就業規則の絶対的必要記載事項のうち休暇、賃金に関係しています。したがって、以下の事項を規定しなければなりません。
休暇に関しては、育休の①付与要件(対象となる労働者の範囲等)、②取得に必要な手続き、③期間を記載する必要があります。
賃金に関しては、①育児休業期間中の賃金の支払いの有無、②育児休業期間中に通常と異なる賃金を支払う場合は計算方法・支払方法、賃金の締切りおよび支払時期を記載する必要があります。
給付金などの手続き
従業員が育児休業の申出を行ったときは、事業主は、年金事務所または事務センターに「育児休業等取得者申出書」を提出します。給付金の初回申請は、従業員が育休を開始して2カ月を経過した日以降4カ月を経過する日の属する月の末日までに届出を行います。
雇用環境の整備
事業主は、育児休業の申出などの円滑化を図るため、育児休業に関して次のいずれかの措置を講じる必要があります。
- 研修の実施
- 相談体制の整備
- 取得事例の収集と提供
- 制度や取得促進方針の周知
このほか、育休の申出や育休後の就業の円滑化を図るため、労働者の配置、職業能力の開発・向上について必要な措置を講じる努力義務があります。
ハラスメントの防止
妊娠・出産・育児に関する不利益な取扱いやハラスメントは、決して許されるものではありません。男女雇用機会均等法、育児・介護休業法は事業主に対し、妊娠・出産・育児休業などに関するハラスメントについて防止措置を講じることを義務付けています。
防止措置のポイントは、①ハラスメント防止に関する周知・啓発、②苦情・相談窓口の設置、③問題発生時の迅速かつ適切な対応といった点です。
パートの育休中、育休明けの雇用契約の注意点
育児・介護休業法第10条は、事業者が、育児休業の申出や取得を理由にして労働者に対し解雇その他不利益な取扱いをすることを禁止しています。
不利益な取扱いには、解雇のほかにも、有期雇用契約を更新しない、契約の更新回数を減らす、労働者の意に沿わない業務への変更などがあり得ます。時には、育児休業ではなく短時間勤務とするよう迫ることなどもあります。
こうした問題では、育児休業制度の目的を理解し、業務上の必要性と労働者の不利益とのバランスなどをしっかり判断することが必要です。
育休手続きに関する各種テンプレート
産前産後休業、育児休業、短時間勤務などに関する多くの手続きは事業主側で処理することになります。しかし、手続きを進めるうえでは、こうした制度を利用する方の情報を正確に把握しておく必要があります。
そこで、制度の利用手続きに必要な情報を漏れなくかつ正しく盛り込むことのできる申出書のテンプレートを用意しました。事業主が用意している場合も多いですが、ぜひ活用してください。
職場が協力して育児休業を応援しよう!
育児に関する制度には、育児休業、出生時育児休業(産後パパ育休)、パパ・ママ育休プラス、育児休業給付金などが整備されています。
これらの制度はどれも、子どもを持った夫婦が育児と仕事を両立させることを応援するためのものです。パートでも条件を満たせば制度の活用が可能なので、本記事を参考にして十分に制度を活用してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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