- 作成日 : 2022年9月30日
社会保険料の勘定科目は?仕訳方法を解説
社会保険は健康保険や厚生年金保険などからなり、毎月の給与から保険料が源泉徴収され納付されています。これら社会保険料は基本的に労使折半での負担で、会社負担分と従業員負担分をそれぞれ適切な勘定科目で会計処理しなければなりません。当記事では社会保険料の会計処理における勘定科目ならびに仕訳方法を紹介します。
目次
社会保険料の勘定科目は?
労使折半で費用負担する社会保険料は、会社負担分と従業員負担分を分けて考え、それぞれ適切な勘定科目で会計処理しなければなりません。会社負担分については「法定福利費」として費用計上します。従業員負担分は「法定福利費」で計上する方法と「預り金」として計上する方法の2つのパターンで会計処理が可能です。あくまで預り金のため費用とはならない点に注意しましょう。仕訳方法については、次章以降で詳しく解説します。
勘定科目 | |
---|---|
会社負担分 | 法定福利費 |
従業員負担分 | 法定福利費もしくは預り金 |
社会保険料とは
ここで改めて社会保険について確認してみましょう。
社会保険には「狭義の社会保険」と「広義の社会保険」があります。冒頭で説明した「健康保険」と「厚生年金保険」に「介護保険」を加えた3つが狭義の社会保険に分類されます。そして、ここに雇用保険と労災保険からなる「労働保険」を加えたものが広義の社会保険です。
健康保険料、厚生年金保険料ならびに第2号被保険者が負担する介護保険料は労使折半です。雇用保険料は、厚生労働省が毎年発出する「雇用保険料率表」に事業ごとの保険料率と労使の負担割合が定められています。労災保険料については全額事業主負担です。
社会保険料は、毎年4月から6月まで3ヶ月間の平均給与から算定される「標準報酬月額」に基づき算出されます。変更手続きは毎年7月に「被保険者報酬月額算定基礎届」を年金事務所に提出することで行われ、新たな保険料の適用時期は毎年9月です。これを「定時決定」といいます。年度の途中で昇給や降給などで標準報酬月額が2等級以上変動するような大幅な給与変動があった場合は定時決定を待たずに改定されます。これが「随時改定」です。
なお、介護保険料については年齢や加入している保険制度によって算出方法が異なります。40~64歳の被保険者は「第2号被保険者」に該当し、自営業者など「国民健康保険」に加入している被保険者は「所得割額」「均等割額」「平等割額」「資産割額」が算定基礎で、会社員や公務員など協会けんぽ等の「健康保険」に加入している被保険者は「標準報酬月額」が算定基礎です。65歳以上の「第1号被保険者」は、居住している自治体ごとに定められた「基準額」と「本人および世帯の所得状況」を基に算出されます。
社会保険料の算定方法等について、詳しくはこちらの記事を参照ください。
社会保険料の仕訳
社会保険料の会社負担分は「法定福利費」、従業員負担分は「法定福利費」もしくは「預り金」の勘定科目で会計処理を行うと説明しました。それでは実際にこれらをどのように仕訳すればよいのか、仕訳方法について具体的に紹介します。
会社負担分を未払費用に計上
まず、会社負担の法定福利費を「未払費用」として計上する仕訳をご紹介します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
法定福利費 | 200,000円 | 未払費用 | 200,000円 |
なお、労働保険料は年に1回、6月1日から7月10日の間に1年分まとめて納付するため、他の社会保険料と分けて仕訳することも可能です。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
法定福利費 | 170,000円 | 未払費用 | 170,000円 |
法定福利費(労働保険料) | 30,000円 | 未払費用(労働保険料) | 30,000円 |
従業員負担分を法定福利費に計上
続いて、従業員負担分を「法定福利費」として計上する仕訳です。まず、給与支給時に法定福利費を貸方で計上します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
給与 | 300,000円 | 現金 | 280,000円 |
法定福利費 | 20,000円 |
実際に年金事務所に社会保険料を納付する際は、会社負担分を合わせた法定福利費を借方で計上しましょう。この会計処理によって借方と貸方が相殺され、会社負担分のみが法定福利費として費用計上されます。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
法定福利費 | 40,000円 | 現金 | 40,000円 |
従業員負担分を預り金に計上
最後に、従業員負担分を「預り金」として計上する仕訳をご紹介します。会社負担分と従業員負担分で勘定科目を分けて計上するので、保険料負担を明確に管理したい場合は最適な方法です。まず、給与支給時に預り金を貸方で計上します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
給与 | 300,000円 | 現金 | 280,000円 |
預り金 | 20,000円 |
実際に年金事務所に社会保険料を納付する際は、預り金だけでなく会社負担分の法定福利費も借方で計上しましょう。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
預り金 | 20,000円 | 現金 | 40,000円 |
法定福利費 | 20,000円 |
従業員負担分を天引きした場合
社会保険料は月末時点で在籍している従業員に納付義務が生じるため、翌月の給与から天引きするのが一般的です。なお、年金事務所への納付期限は翌月末までとなっています。月末締め、翌月25日払いの会社を例に説明すると下記の通りです。
- 締め日:月末
- 給与支給および社会保険料の天引き:翌25日
- 社会保険料の納付期限:翌月末
保険料を天引きするタイミングと納付するタイミングが異なるため、どのタイミングで費用を計上するのかを注意しましょう。金銭授受に関わらず費用が発生したタイミングで計上する「発生主義」と、実際に現金を支払ったタイミングで計上する「現金主義」の2つの考え方があり、費用は発生主義で計上するのが原則です。しかし、企業によっては現金主義による会計処理を行っている場合もあるため注意しましょう。
実際に月末締め、翌月25日払いの会社の1月分給与を例に会計処理の流れを紹介します。発生主義と現金主義で社会保険料を計上するタイミングが異なっている点に注意してください。
- 発生主義(原則)
- 現金主義
従業員負担分を法定福利費で計上 | 従業員負担分を預り金で計上 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
月 | 内容 | 借方 | 貸方 | 借方 | 貸方 | ||||
1月末 | 給与計上 | 給与 | 300,000円 | 未払費用 | 280,000円 | 給与 | 300,000円 | 未払費用 | 280,000円 |
法定福利費 | 20,000円 | 預り金 | 20,000円 | ||||||
社保計上 | 法定福利費 | 40,000円 | 未払費用 | 40,000円 | 法定福利費 | 20,000円 | 未払費用 | 20,000円 | |
給与支給 | 未払費用 | 280,000円 | 現金 | 280,000円 | 未払費用 | 280,000円 | 現金 | 280,000円 | |
2月末 | 社保納付 | 未払費用 | 40,000円 | 現金 | 40,000円 | 預り金 | 20,000円 | 現金 | 40,000円 |
未払費用 | 20,000円 |
従業員負担分を法定福利費で計上 | 従業員負担分を預り金で計上 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
月 | 内容 | 借方 | 貸方 | 借方 | 貸方 | ||||
1月末 | 給与計上 | 給与 | 300,000円 | 未払費用 | 280,000円 | 給与 | 300,000円 | 未払費用 | 280,000円 |
法定福利費 | 20,000円 | 預り金 | 20,000円 | ||||||
2月25日 | 給与支給 | 未払費用 | 280,000円 | 現金 | 280,000円 | 未払費用 | 280,000円 | 現金 | 280,000円 |
2月末 | 社保納付 | 法定福利費 | 40,000円 | 現金 | 40,000円 | 預り金 | 20,000円 | 現金 | 40,000円 |
法定福利費 | 20,000円 |
社会保険料の負担は?
健康保険料と厚生年金保険料、第2号被保険者が負担する介護保険料は労使折半で「標準報酬月額」に基づき算出されます。標準報酬月額の算定においては、年4回以上支給される賞与も報酬に含まれるため注意しましょう。
一方、年3回以下の賞与については、税引き前の賞与額から千円未満の端数を切り捨てた「標準賞与額」に基づき保険料が算出されます。
健康保険料率と第2号被保険者が負担する介護保険料率は都道府県ごとに分かれており、毎年改定されます。一方、厚生年金保険料については平成16年から段階的に引き上げられてきましたが、平成29年に引き上げが終了し全国一律18.3%です。
雇用保険料は事業ごとに労使負担割合と保険料率が分かれており、毎年厚生労働省から発出される「雇用保険料率表」にまとめられています。従業員負担分は毎月の給与から源泉徴収されますが、会社が厚生労働省に保険料を納付するのは年に1回なので注意しましょう。
労災保険料については全額事業主負担で、業種ごとに細かく保険料率が定められています。毎年厚生労働省から発出される「労災保険率表」を参照しましょう。
なお、労災保険料も雇用保険料と同様、納付は年1回です。労働保険料は毎年1回その年度の見込み給与に基づき保険料を算定し、会社が一括して前払いします。これが「労働保険の年度更新」です。
社会保険料の仕訳時の注意点
前章でご紹介した通り、労働保険料の納付は年に1回です。労災保険料は全額事業主負担ですが、労働者負担もある雇用保険料については毎月の給与から源泉徴収するため、これらを計上するタイミングには注意しましょう。発生主義もしくは現金主義に基づいて過不足なく計上することが重要です。労働保険料は他の社会保険料と分けて仕訳すると間違いないでしょう。労働保険料の年度更新については下記の記事で詳しく解説しています。
社会保険料の勘定科目・仕訳方法を理解し正しく会計処理しよう
社会保険料の勘定科目と仕訳方法を紹介しました。社会保険料は会社負担分と労働者負担分を分けて、適切な勘定科目で計上しなければなりません。仕訳方法についても、発生主義が原則ですが現金主義を採用している場合は計上するタイミングが異なるため注意が必要です。さらに、雇用保険料と労災保険料からなる労働保険料については納付が年に1回であるため、計上するタイミングに注意しなければなりません。当記事を参考に社会保険料の勘定科目と仕訳方法を理解し、正しく会計処理を行いましょう。
よくある質問
社会保険料の勘定科目はなんですか?
会社負担分は「法定福利費」、従業員負担分は「法定福利費」もしくは「預り金」として計上します。詳しくはこちらをご覧ください。
社会保険料を計上するタイミングはいつですか?
発生主義に基づく場合、費用が発生した締め日に計上します。現金主義の場合は実際に社会保険料を納付する時点で費用計上しましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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