• 更新日 : 2024年8月16日

皆勤手当とは?概要や相場、有給休暇を取っていてももらえる?

皆勤手当は、1ヵ月の所定労働日数の内、一定以上出勤したことを条件に支給される手当のことです。しかし、従業員が遅刻をした場合や年次有給休暇を取得した場合に、皆勤手当を支払うべきか迷うこともあるでしょう。

皆勤手当とは何か、時間外労働・休日・深夜労働の割増賃金や年次有給休暇との関係や、相場、近年の企業動向について解説します。

皆勤手当とは?

皆勤手当は、従業員の出勤率向上やモチベーションアップに役立ちます。しかし、皆勤手当の廃止を検討する企業があるのも事実です。最初に、皆勤手当の概要や法的な性格について解説します。

皆勤手当の概要

その企業で決められている1ヵ月の所定労働日数の内、一定以上出勤したした場合に支給される手当のことを皆勤手当や精勤手当、精皆勤手当などと呼ぶのが一般的です。賃金規程などで企業が任意に設けることができる手当であり、遅刻・早退・欠勤の防止による出勤率の向上や従業員の勤務へのモチベーションアップなどを目的として手当を設けている企業は多いでしょう。そのため、皆勤手当の金額や支払い条件は企業によって異なり、皆勤手当を設けていない企業も多くあります。

皆勤手当は法定手当?課税対象?

皆勤手当について法的な定義や決まりはありません。労働基準法11条では賃金を以下のように定めています。出勤率や出勤日数によって支払う手当であれば、労働の対償といえるため、皆勤手当も賃金とされています。

労働基準法第11条

この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

引用:労働基準法 | e-Gov法令検索

税法上でも給与所得は、「使用人や役員に支払う俸給や給料、賃金、歳費、賞与のほか、これらの性質を有する給与に係る所得」とされており、皆勤手当も課税対象になります。

引用:No.2508 給与所得となるもの|国税庁

精勤手当との違い

皆勤手当と似た言葉に精勤手当があります。精勤手当は、「精勤」という言葉の通り、勤務に精を出して誠実に取り組んでいる場合に支給される手当と考えるのがよいでしょう。会社を1日も休まなかったときや、欠勤がわずかであるときに支給され、遅刻や欠勤があっても支給されることがあります。

一方、皆勤手当は、一定期間、無欠勤・無遅刻・無早退であった場合に支給される手当といわれています。皆勤手当の方が厳格なイメージはありますが、精勤手当も皆勤手当と同じく法的な決まりはなく、「精皆勤手当」などと呼ばれるように、明確な違いはありません。

皆勤手当、精勤手当ともに、企業によって呼び方や基準が異なり、支給される条件・金額も異なると考えてよいでしょう。出勤率や欠勤・遅刻・早退の回数などによって減額して支払われるケース、条件に該当しなければまったく手当が支払われないケースなど、企業によって様々です。

割増賃金の計算方法

時間外・休日・深夜労働などの割増賃金は、皆勤手当を含んだ金額で単価を計算しなければなりません。割増賃金の基礎となる賃金から除外できるものは、以下の7つです。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われる賃金
  • 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金

参考:割増賃金の基礎となる賃金とは?|厚生労働省

一方、最低賃金を計算する際の対象になる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金であることは同じですが、以下の通り精皆勤手当が除外されていることに注意しましょう。

  • 臨時に支払われた賃金
  • 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
  • 所定労働時間を超える労働時間、所定労働日以外の日の労働時間、深夜労働に該当する(午後10時から午前5時まで)労働時間に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分
  • 精皆勤手当、通勤手当、家族手当

参考:最低賃金の対象となる賃金|厚生労働省 

皆勤手当の相場

皆勤手当の相場を見るとともに、アルバイトやパートに皆勤手当を支給するべきかについて考えてみましょう。

大企業と中小企業での違い

厚生労働省の「令和2年就労条件総合調査の結果の概況」を見ると、精皆勤手当・出勤手当などの労働者1人当たりの平均支給額は9,000円になっています。従業員1,000人以上の企業は6,400円であるのに対し、30人〜99人までの企業は11,200円となっており、企業規模が大きくなるほど精皆勤手当・出勤手当などの金額が少なくなっていることがわかります。

精皆勤手当・出勤手当などを支給する企業の割合も同様に企業規模が大きくなるほど支給割合が低くなっており、皆勤手当を支給するのは中小・零細企業の特徴といえるでしょう。

参考:令和2年就労条件総合調査 結果の概況 賃金制度|厚生労働省

アルバイト・パートへの支給

アルバイトやパートの出勤率を上げるために皆勤手当を支給したいと考える企業も多いでしょう。アルバイトやパートは正社員よりも労働時間が短く、シフト制で働くことが多いことから、所定労働日数や所定労働時間が正社員に比べて少なくなります。皆勤手当を支給する場合、勤務日数や労働時間に応じて減額をするという取り扱いが望ましいといえます。

アルバイトやパートの皆勤手当の金額の相場は、個々に労働条件やシフトの日数が異なるため、データとして示すことができません。しかし、同一労働同一賃金の観点から考えると、正社員には支給してアルバイトやパートには支給しないというのは避けるべきと考えられます。パートタイム有期雇用労働法の第8条では、パートや有期雇用労働者の待遇について、不合理な待遇差を設けることを禁止しています。これに違反すると認められれば、待遇差の相違に関する部分は無効となり、損害賠償が認められるケースも考えられます。

皆勤手当を支給する際は、1日単位で金額を設定するのか、所定労働日数や所定労働時間に応じた支給率で金額を設定するのかなど、自社の就業形態や正規社員と非正規社員の構成などから、支給条件の設定について慎重に検討しましょう。

参考:パートタイム・有期雇用労働法のあらまし(令和5年6月版)|厚生労働省

皆勤手当は有給休暇を取っていてももらえる?

年次有給休暇を取得したことにより皆勤手当を不支給とすることはできないと考えたほうがよいでしょう。労働基準法では以下のように定められています。

労働基準法第136条

使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

引用:労働基準法 | e-Gov法令検索

つまり、皆勤手当や賞与の金額などを決定する際、年次有給休暇を取得した日を欠勤扱いすることはできないと考えられます。

会社が皆勤手当を付けるメリット

企業が皆勤手当を支給することにはメリットがあります。特に中小企業では、1名休んだだけでも事業に影響が大きくなるケースが多いことから、大企業に比べて皆勤手当を支給する企業の割合が多い傾向にあります。

従業員の「遅刻、欠勤、早退」の防止

皆勤手当の支給は、遅刻・早退・欠勤の防止に役立ちます。出勤すればよいということではありませんが、皆勤手当がもらえることを理由に従業員の欠勤・遅刻が少なくなるのであれば、企業としても大きな効果があったといえるでしょう。

生産性の向上

皆勤手当の支給で収入が増えれば、従業員のモチベーションアップにつながり、企業としても生産性向上による収益増加の効果が期待できます。従業員のモチベーションアップ、従業員エンゲージメント向上への取り組みは重要です。収入増加は従業員のパフォーマンスにも大きく影響することが多いため、生産性の向上も皆勤手当のメリットといえるでしょう。

相次ぐ離職に歯止めをかけられる

遅刻・欠勤・早退は、周囲の従業員へも悪影響を与えます。突然シフトに穴をあけられるようなことがあれば、他の従業員がカバーしなければなりません。このような状態が続けば従業員の不平不満が大きくなり、退職者が現れることもあるでしょう。

退職者が増えれば、企業の存続にかかわる事態になりかねません。皆勤手当は、このような悪循環に歯止めをかける効果が期待できます。

皆勤手当はいずれ廃止される?

皆勤手当の廃止を検討する企業、廃止している企業が増えていると聞きます。そもそも出勤日に出勤するのは当然であり、出勤成績によって昇給・昇格などの人事上の評価を行うため、皆勤手当を支給することに意味がないという考え方もあります。出勤成績を賞与の査定に反映させることも可能です。出勤成績が不良の従業員に対しては、昇給・昇格、賞与の査定に反映させる企業も多いでしょう。

同一労働同一賃金の問題で皆勤手当を廃止する企業もあります。パートタイム有期雇用労働法の第8条では、正規社員と非正規社員との間の不合理な待遇差を設けることを禁止しています。正社員には皆勤手当を支給し、アルバイトやパートには支給しないという理由がなく、皆勤手当を廃止・見直しをして同一労働同一賃金の考え方を取り入れる企業も中にはあります。

皆勤手当の見直し・廃止の際には法的手順を踏むことが重要

皆勤手当は企業に多くのメリットをもたらす一方、廃止を検討する企業が多いのも事実です。皆勤手当は企業独自に設けることができる任意の制度であり、自社の就業形態や従業員の構成に合わせて、効果的に運用することが重要です。

ただし、皆勤手当は同一労働同一賃金の問題があり、廃止や変更・見直しのやり方を間違えると労働条件の不利益変更に当たる可能性があります。ときには、労使のトラブルに発展することもあるため、従業員にはよく事情を説明し、個々の同意を得るなど、法的な手順を踏んで慎重に行いましょう。


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