• 更新日 : 2025年2月3日

人事異動は拒否できる?拒否された場合の対応やスムーズな異動のポイントを解説

人事異動は会社の人事権に基づいて行われるため、原則として拒否できません。ただし、一定の条件下では拒否できる場合もあります。従業員はそれぞれ異なる事情を抱えているため、配慮が必要なケースも少なくありません。

本記事では、人事異動の拒否が認められるケースや、従業員が移動を拒否した場合の対応などについて詳しく解説します。

人事異動とは

人事異動とは、企業が人事権に基づいて従業員の地位や勤務内容などを変更することを指します。

人事異動の種類

人事異動にはさまざまな形態がありますが、同じ企業内での異動と、グループ会社などの企業間異動を伴うものに大きく分けられます。

企業内の異動には、以下のような種類があります。

  • 部署異動(配置転換):営業部から企画部への異動など、所属部署が変更となるもの
  • 転勤:勤務地や拠点の変更を伴う異動
  • 昇格・降格:役職や職位の移動

企業間の異動としては、以下のケースが挙げられます。

  • 出向:現在の会社との雇用関係を維持したまま、関連会社などに移動
  • 転籍:現在の会社との雇用契約を終了し、異動先の会社と新たに雇用契約を締結する異動

人事異動は拒否できる?

人事異動は従業員にとって少なからず変化をもたらすものであり、状況によっては拒否したいと考えることもあるかもしれません。しかし、原則として従業員は人事異動を拒否できません。

その理由について、詳しく見ていきましょう。

原則的に人事異動は拒否できない

企業には「人事権」という、従業員の職務内容や勤務地、処遇などを決定する権限が認められています。人事権は、従来の日本の終身雇用を前提とした雇用慣行において、企業の存続に必要な権限として確立されてきた経緯があり、従業員の異動に関する権限も人事権の一環です。

人事権が及ぶのは、正社員だけではありません。パートタイム労働者や契約社員など、その企業に直接雇用されている場合は、雇用形態にかかわらず人事異動命令に従う義務があります。

配転命令権を行使するには、就業規則や雇用契約書に規定が必要

ただし、企業が従業員の配置転換や出向などの異動を行う権限である配転命令権を行使するためには、就業規則や雇用契約書にその根拠となる規定が必要です。就業規則や雇用契約に人事異動に関する具体的な定めがない場合、企業側から一方的な人事異動の辞令を出すことはできません。

なお、明文化された規定がない場合でも、社内で人事異動が慣行として定着している場合は、「黙示の同意」として配転命令権が認められることがあります。

このように、人事異動は企業の人事権に基づく正当な権限行使であり、従業員には原則として異動命令に従う義務がありますが、その前提として適切な規定があることが求められます。

人事異動の拒否が認められるケース

就業規則や雇用契約書に規定がある場合は、原則として従業員は正当な理由なく人事異動の拒否はできません。ただし、以下のような状況では従業員による人事異動の拒否が認められるケースがあります。

異動の理由が人事権の濫用にあたる場合

業務上の必要性が認められない人事異動は、人事権の濫用として異動命令が無効となります。最終的に従業員を退職に追い込む目的での遠隔地への配転や、実務経験のない部署への意図的な配置転換などが該当します。

職種やエリアを限定した雇用契約を結んでいる場合

採用時に職種限定や地域限定として雇用契約を結んでいる場合、その範囲を超える異動命令は無効です。

例として研究職として採用された従業員への営業職への配置転換や、「東京都内勤務限定」の契約社員への地方転勤命令などが挙げられます。

理由なく賃金の減額を伴う場合

人事異動に伴って合理的な理由のない賃金減額が発生する場合、その異動命令は無効となる可能性があります。

ただし、人事評価による降格を伴う異動であり、降格の理由が合理的である、または労働条件の不利益変更手続きが適切に行われている場合は、賃金減額を伴う異動が有効になるケースもあります。

介護や育児などやむを得ない事情がある場合

育児・介護休業法に基づき、家族の介護や育児が必要な従業員については、一定の配慮が求められます。

要介護状態の家族の介護を行っている従業員や、育児中の従業員に対する遠隔地への転勤命令は、その必要性や代替手段の有無などを慎重に検討する必要があります。転居を伴う人事異動において、従業員自身が通院しており、その病気に対応できる病院が異動先にない場合なども同様です。

異動が男女雇用機会均等法など法律に違反する場合

性別や婚姻、妊娠・出産などを理由とした異動で、配慮のためではなく従業員に不利益がある場合は男女雇用機会均等法違反となります。

そのほか、労働組合活動への参加を理由とした不利益な異動異動は労働組合法違反(不当労働行為)です。育児・介護休業の取得や信条・国籍などを理由とした配置転換も法律違反に該当します。

人事異動を拒否された場合にとるべき企業の対応

人事異動の拒否は、企業の経営活動に影響を与える可能性がある問題である一方、従業員も人事異動を拒否せざるを得ない正当な理由があるケースもあり、慎重な対応が求められます。

企業は一方的に人事異動を強制するのではなく、従業員の状況を尊重しながら適切な対応をしなければなりません。以下では、従業員に人事異動を拒否された際の対応の流れを解説します。

従業員の拒否理由を確認する

まずは、その従業員がなぜ人事異動を拒否しているのか、その理由を確認しましょう。家族の介護や育児、健康上の問題などの正当な理由による拒否の可能性もあるため、従業員との面談を通じて状況を詳しく把握することが求められます。

この際、一方的な聞き取りではなく、相手の立場に立った丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。

人事異動の必要性を丁寧に説明する

従業員の状況を把握した後は、なぜその異動が必要なのかを明確に説明しましょう。経営上の必要性をはじめ、その従業員が選ばれた理由、異動後の具体的な業務内容などについて、できるだけ詳しく説明することが従業員の理解につながります。

また、就業規則や雇用契約書における根拠規定についても説明し、異動命令の正当性を示すことも大切です。

待遇面の配慮や柔軟な対応を検討する

従業員が異動を拒否する理由によっては、経済的負担や生活環境の変化に対する配慮が必要です。例えば、転居を伴う異動の場合には転居費用の補助や単身赴任手当の支給など、経済的な負担を軽減する措置が考えられます。

また、配慮すべき事情がある場合には、異動時期を柔軟に調整したり、異動先を見直したりすることも検討しましょう。

最終手段として懲戒処分を慎重に検討する

すべての対応を尽くしても、従業員が正当な理由なく異動を拒否し続ける場合には懲戒処分の検討が視野に入ってきます。ただし、いきなり重い処分を行うのではなくまずは口頭での注意や書面による警告からスタートし、段階的に対応を進めることが望ましいでしょう。

懲戒処分を行う場合は、就業規則に明確な規定があることが前提となり、処分の程度は拒否の状況や理由に応じて慎重に判断する必要があります。

人事異動を拒否して退職した場合の退職理由

就業規則に転勤や人事異動に関する規定がない、または不明確な場合は、会社都合退職として認められることがあります。これは、会社側が就業規則に違反した状態で異動を命じたと判断されるためです。

会社都合になる可能性が高いケース

そのほか、以下のようなケースで人事異動を拒否し、退職に至ったときも会社都合での退職になる可能性があります。

  • 雇用契約書で職種やエリアが限定されているにもかかわらず、その範囲外への異動を命じられた場合
  • 異動に伴い、合理的な理由なく降格される、または賃金が大幅に減額される場合
  • 嫌がらせ目的など、明らかに人事権の濫用と認められる異動の場合
  • 家族の介護や通院など、配慮が求められる正当な拒否理由がある場合

自己都合退職となる一般的なケース

一方、以下のような場合は自己都合退職になる可能性が高いでしょう。

  • 就業規則に異動の規定があり、正当な人事異動であるにもかかわらず拒否して退職する場合
  • 家族の事情や個人的な理由で異動を受け入れられず退職する場合
  • 通勤時間の増加や生活環境の変化を理由に退職する場合

退職理由が自己都合か会社都合かの判断は、最終的には公共職業安定所(ハローワーク)が行います。そのため、退職時には異動命令の正当性や退職に至った経緯を明確に説明できるよう、関連する書類や記録を残しておくことが大切です。

人事異動をスムーズに実現させるポイント

人事異動をスムーズに実施するためには、従業員の理解と協力が欠かせません。以下のポイントを押さえることで、円滑な人事異動を実現できます。

社内公募など、希望を反映した人事制度を導入する

社内公募制度は従業員の主体的なキャリア形成を支援するほかに、組織の活性化と人材の適正配置にも貢献します。この制度により、従業員は自身のキャリアを主体的に選択できるようになり、モチベーションの向上にもつながるでしょう。

また、部門や職種をまたいだ異動を可能にすることで、組織全体の相乗効果を高める効果が期待できます。

異動の根拠を明確に示す

従業員の理解と納得を得るためには、人事異動の目的や理由を明確に説明することが大切です。異動の背景にある経営戦略や期待される効果、個人のキャリア形成における意義などをわかりやすく示すことで、従業員は前向きに異動を受け入れやすくなります。

特に、異動が企業だけではなくその従業員の成長にどのように寄与するのかを、具体的なキャリアパスを提示して説明するといいでしょう。

異動先に定着できるよう、フォローアップ体制を整える

異動先で期待する役割を明確に伝えておくことはもちろん、定期的に面談を実施するなど必要なサポート体制を整えることで、従業員は安心して新しい職務に取り組めます。移動先に対しても、人事異動の意図や今回の異動に何を期待しているのかなどを共有しておきましょう。

従業員の異動に対する不安をやわらげ、新環境にできるだけ早く適応できるよう移動前後のフォローアップ体制を整えておきましょう。

人事異動にはさまざまな配慮が求められる

人事異動は原則として拒否できませんが、介護や育児などのやむを得ない事情がある場合や、人事権の濫用にあたる場合は、正当な拒否理由として認められます。企業は従業員の状況を把握し、丁寧な説明と必要な配慮を行うことが大切です。

また、社内公募制度の導入やフォローアップ体制の整備など、従業員が前向きに異動を受け入れられる環境を整え、企業にも従業員にも負担が少ないスムーズな人事異動ができるようにしましょう。


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