- 更新日 : 2025年5月27日
育休後の退職はOK?失業手当はもらえる?
失業手当は雇用保険の給付のうちの基本手当のことで、失業した際の生活保障として支給されます。育児休業後に退職した場合でも、倒産や解雇などの特定受給資格者や特定理由離職者で支給要件を満たせば失業手当をもらえるでしょう。
本記事では、育休後に退職した場合の手当の支払要件と一緒に、計算式、リアルな声などについて触れていきます。
目次
育休後すぐの退職は法的に問題ない理由
育児休業は職場への復帰を前提とする制度ですが、育休後に退職することが禁止されているわけではないため、法的には問題ありません。あくまでも退職するかどうかは労働者個人の自由です。
育休取得時点では、職場への復帰を考えていたものの、家庭の事情が変わったなどの理由で退職を余儀なくされる方も少なくありません。
そもそも育休・育休手当とは?
育児休業は、育児介護休業法に基づく制度であり、育児と仕事の両立を図るとともに、夫と妻が協力して育児を行う環境を促進するために設けられました。なお、育児介護休業法では休業期間中、事業主に対し賃金の支払いを義務づけていません。
育児休業給付制度は、育児休業により賃金の支給がなくなることを理由に出産を控える状況を改善するために設けられたものです。
育休とはどんな制度?
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育児休業は、労働者が1歳未満の子どもを育てるために取得することができる休業で、育児・介護休業法(第5条)に定められています。
育児休業の期間は、一定の条件を満たす場合には、子どもが1歳から1歳6カ月までの延長、さらに1歳6カ月から2歳までの再延長が認められます。
育休手当(育児休業給付金)とは?
育児休業給付金は、1歳未満の子どもを養育するために育児休業を取得した被保険者が、休業開始日前2年間で賃金支払基礎日数が11日以上あることなどの要件を満たした場合に支給されます。育休期間の延長・再延長やパパ・ママ育休プラスの取得がある場合は、それに応じた期間も支給の対象となります。
育休手当を期限まで受給した後に退職はできる?
育休手当を受け取ると退職できないという規定はありません。出産、育児の過程で予想外の事態が生じ、職場に復帰できなかった事例も実際にあります。育休明けに、一度は復職したものの仕事と子育ての両立が難しく、退職を余儀なくされることもありえます。
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育休直後の退職でも失業手当はでる?
育児休業の取得や育児休業給付金の受給が失業手当(正式名称:雇用保険の基本手当)の計算に関わる場合がありますので、以下の説明を参考にしてください。
失業手当の支給要件とは?
失業保険の一般的な受給資格は、「離職の日以前2年間(1)に、雇用保険の被保険者期間(2)が通算して12カ月以上あること」です。
このほか、倒産や解雇などによって離職した人(特定受給資格者)および雇止めなどによって離職した人(特定理由離職者)については、「離職の日以前1年間(1)に、雇用保険の被保険者期間(2)が通算して6カ月以上あること」が要件となっています。
(1)算定対象期間。
(2)離職日からさかのぼって1カ月ずつ区切った区間で、賃金を受け取った日数が11日以上(11日以上ない場合は80時間以上)ある区間を「1カ月」としてカウントする
育休が失業保険の計算に与える影響(その1)~育休直後でも失業手当はもらえるか?~
賃金の支給がない育児休業期間や産前・産後休業期間は、被保険者期間には含まれません。
となると、算定対象期間2年間のうち被保険者期間12カ月という要件をクリアすることができず、一見すると受給資格がなさそうですが、病気、ケガ、出産、育児などで賃金のなかった期間が引き続き30日以上ある場合、その日数分だけ算定対象期間が延長されます。
したがって、育休直後に退職しても失業手当の受給資格はあります。
育休が失業保険の計算に与える影響(その2)~いくらもらえるか?~
失業手当の支給日数(所定給付日数)は、受給者の年齢、算定基礎期間、離職理由によって決定されます。この算定基礎期間には、育児休業給付金、出生時育児休業給付金を受給していた期間は含まれません。また、所定給付日数は算定基礎期間に応じて決まります。
育児休業給付金を受給していた方の場合、その受給期間によって所定給付日数が違ってくる場合があります。
《参考》
一般の受給資格者の所定給付日数
算定基礎期間 | 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 |
---|---|---|---|
年齢 | |||
一般の受給資格者は年齢区分なし | 90日 | 120日 | 150日 |
失業手当の計算方法は?
失業手当は次の手順で計算します。
①賃金日額を算出
②基本手当日額を算出
③受給金額の総額を算出
失業手当はどれくらいもらえる?
失業手当は、失業期間中の生活保障として支給されるものですから、高額過ぎることも低額過ぎることもない、適切な範囲内に収まるように調整されています。
具体的には、賃金日額については上限額と下限額が設定されており、「毎月勤労統計」の平均定期給与額の増減により、その額が変更されます。上限額については4つの年齢区分(29歳以下、30歳から44歳、45歳から59歳、60歳から64歳)に応じて異なります。さらに基本手当日額の算出に当たって、賃金日額に50%から80%の率をかけます。
例えば、29歳の場合、実際の賃金日額が17,000円であっても賃金日額の上限は14,130円(2024年8月1日以降分)が適用されます。これに調整率である50%をかけると、7,065円が基本手当日額となります。なお、下限額については、全年齢で同じです。賃金日額の下限額は2869円(2024年8月1日以降分)であるため、調整率の80%をかけて基本手当日額の下限額は2,295円になります。
育休後に退職して後悔した人の主な理由
いろいろな計画や課題があって退職したものの、当初の想定と違って後悔することもあります。そんな事例をいくつか紹介します。
子どもと一緒にいる時間がすぐに終わった
子どもが日々成長していくのを見ていると、もっと子どもと一緒にいたいという思いが高まってくるものです。しかし、幼稚園に通い出すころには、友達と遊ぶことも楽しいと感じるようになり、一日中親にべったりではなくなるのはよくあるケースです。子どもの親離れは親が思っているよりも早いのです。
近所の専業ママとのお付き合いにウンザリ
最初のうちは付かず離れずと考えていても、屋外の遊び場などで頻繁に顔を合わせるようになると面倒なことも見えてくるものです。気が進まないままにコーヒーブレイクに顔を出したのがきっかけになって、聞きたくもないうわさ話を聞かされたり、他愛もないいさかいに巻き込まれたりして抜け出せないケースもあります。
家計のやりくりが厳しくなった
これまで受け取っていた毎月の収入がなくなるのですから家計のやりくりが大変になるのは当然です。それを想定してシミュレーションしていた月々の収支計画が、実は皮算用だったということもあります。子どもを預けて働くことも考えられますが、それなら気心の知れた同僚のいる職場に残った方が賢明だったと思うかもしれません。
退職時に会社ともめて再就職時のリファレンス・チェックで苦戦
今はとにかく育児に専念したいとの思いから、ケンカ別れのように退職してしまうこともあるでしょう。辞めた当初はそれでよかったのですが、子どもが少し大きくなったので再就職にチャレンジしてみたら思うようにいかない場合があります。
その理由の一つに最近よく行われているリファレンス・チェックによって、退職時の態度が評価を下げているケースもあります。
パートナーが家事・育児を全部押し付けてくる
それぞれが仕事をしていたころは、お互いに気遣って家事も育児も分担していたのに、いざ一方が仕事を離れると次第に家事や育児をまかせっきりになるという事態が自分の身に降りかかってくるとは思いもよらなかったというケースもあります。
育休後に退職する際の円滑な辞め方
労働者の意思に基づく任意退職(自己都合退職)は、契約の一般法である民法でも認められています(民法第627条)。しかし、退職によって仕事の担い手を失うわけですから会社にとっても大きな痛手です。
育児休業期間中は同僚や上司が仕事をカバーしていたので、仕事の引継ぎには可能な限り時間を割くなどの姿勢は必要です。退職を一方的に主張するのではなく、会社側の慰留にきちんと耳を傾けるとともに自分の退職の事情も丁寧に説明し、合意形成に努めることが大切です。
育休後の退職を妨げた際の企業側のリスク
民法によると、無期雇用契約の場合は、退職を申し入れた日の翌日から2週間が経過すれば退職できます。
有期雇用契約では、基本的には契約期間が経過するまで退職できませんが、やむをえない事情があれば退職が可能です(民法第628条)。契約期間が1年を超える場合には、契約初日から1年が経過した後はいつでも退職できます。
会社の違法な引き止め策
会社の引き止め策にはあの手この手がありそうですが、次のような引き止めは違法です。毅然とした態度ではねのけましょう。
- 後任者の人材がいないことを理由とした引き止め
- 受け取る権利がある給料や退職金を支払わないとする引き止め
- 退職の日までに残っている有給休暇の消化を認めない引き止め
- 雇用保険に関する離職票を発行しないという引き止め
- 退職ではなく懲戒解雇として扱うと脅すことによる引き止め
- 退職すれば損害賠償を請求すると脅す引き止め
いろいろな引き止め理由を持ち出してくることが予想されます。一人で悩まず労働基準監督署に相談することも考えましょう。
違法な引き止めへの対処法
違法な引き止めに対する対処法として主なものを紹介します。参考にしてください。
- 離職票を発行しないとする引き止め
ハローワークに相談し、雇用保険の被保険者の資格喪失を確認してもらいましょう。 - 懲戒解雇として扱うとの引き止め
正当な退職の申し入れを理由にした懲戒解雇はできません。 - 退職を理由として損害賠償をするとの引き止め
労働者の退職する権利を会社が侵害することはできません。
ただし、重要なプロジェクトの責任者としての義務を放棄して退職した場合には損害賠償を請求される可能性があります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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