- 作成日 : 2022年7月8日
残業時間とは?上限や各種法律について解説
残業時間とは、法定労働時間を超える時間外労働です。残業時間上限は36協定で月45時間と定められています。働き方改革によって、多い時でも年間720時間、月平均80時間が上限とされました。この記事では、変形労働時間制・裁量労働制・フレックス制などの就労形態によって何時間まで残業が認められるかどうか、詳しく解説します。
目次
残業時間とは?
労働時間には、就労規則などで企業ごとに定めている「所定労働時間」と、労働基準法で定められた「法定労働時間」があります。法定労働時間は1日8時間・週40時間までと定められており、所定労働時間はこの上限以内で取り決める必要があります。上限を超えて労働を課す場合は時間外労働となり、労使間で36協定を締結して労働基準監督署への届け出が必要です。この章では、労働時間・残業時間の定義と36協定との関わりをご紹介します。
労働時間の定義
冒頭でもご紹介した通り、労働時間には「所定労働時間」と「法定労働時間」が存在します。所定労働時間は就労規則や雇用契約書などに定められた「従業員が仕事に従事する時間」です。休憩時間以外の始業から就業までの時間で、企業ごとに自由に定められます。一方、法定労働時間は、労働基準法に定められた労働時間です。労働基準法第32条には労働時間の上限について下記の通り定められています。
労働基準法
第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
(労働時間)
第三十二条
- 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
- 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
所定と法定の違い
所定労働時間は企業ごとに定める労働時間、法定労働時間は労働基準法によって定められた労働時間と説明しました。就労規則などで自由に定めることができる所定労働時間ですが、制限なく労働を課すことができるという訳ではありません。
労働基準法によって上限が「1日8時間」かつ「週40時間」と定められているため、所定労働時間についてもこの上限以内で定める必要があります。例え就労規則や雇用契約書で法定労働時間を超えた所定労働時間を定めていたとしても、上限を超えた時間については無効扱いです。法定労働時間や所定労働時間を超えた労働を課す場合は「時間外労働」となります。なお、裁量労働制や変形労働時間制などの就労形態を採用している場合は、1日あたりの労働時間が変動する場合があります。
法定外時間残業
労働時間は所定労働時間や法定労働時間として定められており、これらを超える労働については「時間外労働」となります。例えば、所定労働時間が9時から17時までの1日7時間労働+休憩1時間と定められている企業で18時まで働いた場合、法定労働時間内である17時から18時までの1時間の残業は「法定内残業」となります。20時まで残業した場合は、法定労働時間を超える18時から20時までの2時間は「法定外残業」として扱われます。
法定内残業と法定外残業では賃金の支払い基準が異なるため、明確に区別して扱いましょう。まとめると下記のようになります。
所定労働時間:9~17時の7時間労働+休憩1時間
法定労働時間:8時間
法定内残業:17~18時までの1時間
法定外残業:18~20時までの2時間
時間外労働
時間外労働には「法定内残業」と「法定外残業」が存在します。法定労働時間に含まれる法定内残業については、原則として通常の労働時間と同様の賃金支払いが必要です。就労規則や労使協定などで別途定められている場合は、その金額に従います。一方、法定労働時間を超える法定外残業については、「割増賃金」を支払わなければなりません。労働基準法第37条には下記の通り定められています。
労働基準法
第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
先ほどの所定労働時間7時間の例で説明してみましょう。20時まで残業した場合、17時から18時までの1時間は法定内残業で通常の労働時間と同様の賃金が支給されます。18時から20時までの2時間については法定外残業として扱われるため、通常の賃金の25~50%の割増賃金となります。まとめると下記の通りです。
17~18時の1時間(法定内残業):通常の賃金
18~20時の2時間(法定外残業):割増賃金
法定外残業における割増賃金は「残業手当」などと呼ばれることが一般的です。法定内残業については残業手当がつかない点を注意しましょう。
残業時間と36協定の関わり
労働時間は労働基準法に法定労働時間として定められており、1日8時間・週40時間を上限としています。これを超える時間外労働や休日労働は、原則として労働基準法違反となります。しかし、繁忙期や従業員が少ないなどの特別な事情がある場合、労使間で「時間外労働・休日労働に関する協定書」を締結し、所管の労働基準監督署に届け出ることで、法定労働時間を超える残業を課すことができるようになります。
この労使協定は労働基準法第36条に基づくことから通称「36協定」と呼ばれています。前章でご説明した「法定外労働」を課す場合は、労使間での36協定の締結ならびに労働基準監督署への届出が必要となるため注意が必要です。次章では、36協定で定められた残業時間の上限などについてご紹介します。
働き方改革で変わった残業時間の上限
これまでも残業時間の基準は定められていましたが、法律による規定ではなく厚生労働省による行政指導に留まっていました。そのため、特別条項付きの36協定を締結することで、年720時間を超えるような過重な残業を課すことも可能でした。しかし、度を越えた長時間残業による過労死などが社会問題となり、法改正によって上限規制が設けられたのです。
一億総活躍社会実現に向けた取り組みの一環として、2019年4月1日に働き方改革関連法案の一部が施行されました。働き方改革は、多様な働き方を実現し、労働力人口の減少や格差の是正に対応する取り組みです。対応策として、以下の3つの取り組みが挙げられています。
- 女性や高齢者などの社会参画を促し労働力人口を増やす
- 出生率を高めて将来的な労働力人口を増やす
- 労働生産性を上げる
これらを実現するために解決しなければならない3つの課題があります。
- 長時間労働の解消
- 正社員と非正規社員の格差の是正
- 高齢者の就労促進
働き方改革の課題の1つである「長時間労働の解消」においては、36協定の見直しがポイントです。労働基準法第36条には下記の通り定められています。
労働基準法
第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
(時間外及び休日の労働)
第三十六条
前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。
上記の通り、原則として月45時間および年360時間の残業を限度として定めています。
ただし、特別な理由がある場合は、労使間で特別条項付きの36協定を締結することで月45時間を超える残業も認められます。しかし、その場合においても下記の通り上限規制が定められているため注意しましょう。
- 年間720時間未満(労働基準法第36条5項)
- 月45時間を超えるのは年6ヶ月以内(労働基準法第36条5項)
- 1ヶ月につき100時間未満(労働基準法第36条6項2号)
- 2ヶ月ないし6ヶ月の平均が80時間未満(労働基準法第36条6項3号)
時間外労働の上限規制に関する働き方改革関連法案は2019年4月に施行され、人員が手薄な中小企業については1年間の猶予期間を経て、2020年4月から適用されました。これにより、企業規模の大小を問わず残業時間に上限が設けられたことになるため、今まで以上に労働時間を意識した働き方が求められるようになりました。
ケースごとに違う!残業代の出る・出ない
労働時間を超える時間外労働には賃金が支払われます。所定労働時間が法定労働時間より短い場合、法定労働時間である1日8時間以内であれば、法定内残業として通常の労働時間と同額の賃金が支給されます。法定労働時間を超える時間外労働は、法定外残業として割増賃金となります。割増賃金は「残業代」や「残業手当」などと呼ばれますが、法定内残業か法定外残業かによって残業代の有無が異なります。まとめると下記の通りです。
法定内残業:出ない
法定外残業:出る
さらに、変形労働時間制・裁量労働制・フレックス制などの就労形態によっては残業代の支給基準が異なるため、次章以降詳しくご紹介します。
変形労働時間制の場合
変形労働時間制とは、労働時間を日・週・月・年単位で調整し、繁忙期等で労働時間が一時的に増加しても時間外労働として扱わない制度です。しかし、法律で定められた労働時間を超えた時間外労働については残業手当を支払わなければなりません。例を挙げてご説明します。
日単位の変形労働制の場合
- 所定労働時間が8時間を越える日は、所定労働時間を超えた時間が法定残業となる
- その他の日は、法定労働時間である8時間を超えた時間が法定残業となる
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
所定労働時間 | 10 | 10 | 5 | 5 | 10 | 休み | 休み | 40 |
実働時間 | 12 | 10 | 6 | 6 | 11 | 0 | 0 | 45 |
法定残業 | 2 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 3 |
週単位の変形労働制の場合
- 所定労働時間が40時間を越える週は、所定労働時間超えた時間が法定残業となる
- その他の週は、法定労働時間である40時間を超えた時間が法定残業となる
第1週 | 第2週 | 第3週 | 第4週 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
所定労働時間 | 50 | 30 | 30 | 50 | 160 |
実働時間 | 50 | 30 | 45 | 55 | 180 |
法定残業 | 0 | 0 | 5 | 5 | 10 |
裁量労働制の場合
裁量労働制とは、「みなし労働時間制」の一つで、特定の業種で「実働時間にかかわらず、一定時間の労働をしたとみなす」制度です。基本的に会社側から業務内容や労働時間などについて指示することはできず、労働者の裁量に委ねられています。例えば、みなし労働時間が9時間の場合、7時間働いても11時間働いても労働時間は9時間とみなされます。裁量労働制は所定労働日に一定の労働に従事したとみなす制度なので、所定休日に働いた場合は時間外労働として残業手当が支給されます。具体的に見てみましょう。
みなし労働時間8時間の場合
- 裁量労働制なので平日に何時間働いても時間外労働とはならない
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
みなし労働時間 | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 | 休み | 休み | 40 |
実働時間 | 10 | 8 | 7 | 7 | 10 | 0 | 0 | 42 |
時間外労働 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
みなし労働時間9時間・所定休日土日の場合
- 所定休日に働いた場合は時間外労働として残業手当が支給される
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
みなし労働時間 | 9 | 9 | 9 | 9 | 9 | 休み | 休み | 45 |
実働時間 | 10 | 8 | 7 | 7 | 10 | 8 | 0 | 50 |
時間外労働 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 8 | 0 | 8 |
みなしの労働時間は労使協定によって定める労働時間ですが、法定労働時間を超える時間については時間外労働と見なされ残業手当が支給されます。例えば、みなし労働時間が9時間の場合、法定労働時間8時間を超える1時間については割増賃金です。この割増賃金は、労使協定を結んだ段階で給与に含めて計算されます。
似たような制度で「みなし残業制」というものがあります。みなし残業制は「固定残業制」とも呼ばれ、一定額の残業代を毎月基本給と合わせて支給する制度です。裁量労働制が労働者の裁量によって労働時間が決まるのに対し、みなし残業は適正な残業時間を会社の判断で決定します。みなし残業時間を超えた時間外労働については、もちろん残業手当が支給されます。
裁量労働制は勤務時間全体に対して適用されますが、みなし残業はあくまで残業時間にのみ適用される制度のため、混同しないよう注意しましょう。
フレックス制の場合
フレックス制とは、定められた一定期間内において「総労働時間」の範囲内で、労働者の裁量で始業・終業時間を決めることができる制度です。労働すべき時間を定めた期間を「清算期間」、清算期間内で働くべき所定労働時間を「総労働時間」と言います。これらは就労規則に定め、それに則り労使協定を結ぶ必要があります。フレックス制では、就労規則等で定められた総労働時間を超えた労働が時間外労働として扱われます。ただし、フレックス制では総労働時間内で柔軟に労働時間を定めるため、法定労働時間である1日8時間・週40時間を超えたらただちに時間外労働となるわけではありません。フレックス制における時間外労働は「法定労働時間の総枠」に基づき判断されます。法定労働時間の総枠は下記の計算式で算出されます。
例えば、清算期間が1ヶ月(30日)の場合、171.4時間(40時間×30日÷7日)を超えた労働が時間外労働に該当します。
また、従来フレックス制における精算期間は「最長1ヶ月」と定められていましたが、2019年の労働基準法の改正に伴い「最長3ヶ月」に改められました。この改正によって月をまたいだ労働時間の調整が可能となり、より柔軟な労働環境を実現できるようになりました。
残業代については「法定労働時間の総枠」に基づき算出される点は変わりませんが、「月ごとの清算」と「清算期間終了後の清算」が必要など、計算方法が複雑になるため注意しましょう。
残業時間の上限を把握し法令順守を心掛けよう
今回は残業時間についてご紹介しました。労働時間には所定労働時間と法定労働時間があり、所定労働時間を超え法定労働時間内の残業を法定内残業、法定労働時間を超える残業を法定外残業と言います。
法定外残業を課す場合は、労使間で36協定を締結し、割増賃金を支給する必要があります。また、以前は時間外労働の上限について法的な規定はありませんでしたが、現在は働き方改革によって上限規制が設けられました。当記事を参考に、36協定に定められた上限時間等を把握し、法令違反をしないようにしっかりと労働時間を管理しましょう。
よくある質問
残業時間の定義について教えてください
残業時間とは、労働基準法で定められた法定労働時間を超える時間外労働です。詳しくはこちらをご覧ください。
働き方改革での残業時間の上限変更点についてポイントを教えてください
残業時間の上限規制が設けられました。原則、月45時間・年360時間が上限となります。特別条項付36協定を締結することで、それを超える残業を課すことも可能ですが、こちらにも別途上限が設けられています。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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